2015/11/18 のログ
日下部 理沙 > そんなこんなで連日、常世島中を東奔西走させられる羽目になっている理沙は、今日も今日とて査定を終えて、家路についている最中である。
数が多いとはいえ、それほど疲労はない。
理沙の異能は良くも悪くも背中に翼が生えるだけの異能なので、だいたいは来て見て触ってお疲れ様で終わりなのである。
後はせいぜい簡単な質疑応答の後、可動域検査の為に少しばかり動かして見せるだけだ。
今回も例に漏れずそれだけの検査であり、検査時間数分に対して移動時間と待ち時間でその十倍以上の時間をかけるという全くいつも通りのコースを踏襲している。
時たま辟易することはあるが、それだって慣れてしまえば何という事は無い。

日下部 理沙 > 量が多い割にはどの検査結果もいつも通りのことで、良くも悪くも異常無し、特筆無しの現状維持である。
前の理沙なら、それに対して少しばかりは溜息でもつくところであったが、今の理沙は違った。
溜息どころか、むしろ僅かばかり鼻歌を漏らほどである。
検査結果に変わりがないということは、つまりは今後の理沙の扱いにも変化はないということで。
それは即ち、これから何か新しい事を始めても、始める前から文句を言われる心配はないということであった。
そう、理沙は、心機一転、部活か何かでも始めようかと思っていた。

ご案内:「列車内」に真乃 真さんが現れました。
真乃 真 > 空いてる車内にもかかわらずつり革に掴まって立っている男がいる。
男は眠っているようでつり革に掴まるというよりもつり革に捕まって吊られているという様子だった。
いくつ駅を超えただろう電車にブラブラと吊り下がる男。幸せそうな寝顔だ。
しかし、電車の揺れは男の幸せな眠りを許さない。
いくつかのカーブで腕はつり革を離れ男を地面に落としいくつかのブレーキは男の体をずり動かす。
寝ている男が電車の床を滑り続けるその光景は異常が日常な常世島においても滅多にみられるものではないかもしれない。
滑り滑って電車内の床がいくらか綺麗になる。そして丁度羽の少年の座っている前あたりに男は流れてきた。
寝たままで。

日下部 理沙 > 「……?」

何やら、物音がしたのに気付き、誰か隣に座るのかと席を詰ながら、車窓から車内へと視線を戻したところ。

「?!」
 
そこにいたのは、ぐったりと床に寝そべっている少年の姿。
しかも、それは、以前、学内のロビーで知り合った……。
 
「真乃先輩……!」
 
正義感、真乃真の、変わり果てた姿であった。
いや、実際は寝ているだけなのだが、傍目から見た理沙には行き倒れているようにしか見えないのである。
すわ急病か何かで昏倒でもしたのかと心配した理沙は、羽根をバサバサと取り落としながら傍まで駆け寄る。
そして、そのまま肩をひっつかんで、ガタガタと揺り起こした。
 
「先輩! 大丈夫ですか、真乃先輩……!」

真乃 真 > 「うーんあと、五ふ…ってここどこだ!天国?僕死んだの!?」

お約束な文句を呟くがすぐに意識がはっきりしてくる。
天使かと思ったら日下部君だった。
一瞬自分が死んだのかと思ったがどうやら違うようだ。

「君は日下部君?どうして僕はこんなところに?くっ思い出そうとすると頭が痛い!!」

何故かここにいるのか思い出そうとすると頭が(ついでに体も)痛い。服もかなり汚れている。
全て電車の中でぶつけたものであり未知の異能者との闘いや悪の魔術師と戦闘のせいではない。

日下部 理沙 > 「あ、先輩案外、元気そうですね……よかったです」
 
少なくとも急病の類ではなさそうである。一安心。
しかし、頭痛がするようなので、とりあえず肩を貸して隣の座席に座らせる。
汚れ放題汚れているが、さっきまで倒れていた人なのだ。
座席の都合は後回しである。
 
「私は定期検査の帰りですけど……真乃先輩は?」
 
まさか悪の組織や未知の機関と戦っていたわけでもあるまい。

真乃 真 > 「日下部君もなんか前会ったときよりも元気そうだね!」

肩を借りて立ち上がりながら自分の頭に触れると少し痛いここをぶつけたのだろう。

「僕は確か…トレーニングの帰りだよ。」

少しずつ記憶がはっきりしてくる。
昨日延々走り続けて(あれこれって常世島一周走れるんじゃない?)って思って。
調子のって走ってたら迷って学校に間に合わないことに気が付いて電車で帰ろうとしたんだった。
結局一周走り切れなかったけど今度は頑張ろうと思いました。学校の心配がない長い休みに!!

「日下部君は会うたびに定期検査してるね。常に異能が発動してるからかな?」

自分は異能の検査なんて半年に一回くらいなのに。
一年の時はもっと回数多かったかもしれないけれども覚えてない!

日下部 理沙 > 「はい、そんなところです。
あと、私は異能の観察や検査を定期的に受けることで奨学金を頂いている特待生なので、検査は上に言われたら必ず受けなきゃなんです。
だから、普通の人達は受けなくてもいいような些細な検査まで、受けなきゃいけないんですよね」
 
以前、真とあったときに受けていたような数日掛かりのものも日常茶飯事である。
それだって一回あたりはそれほど長くないことが大半だ。
細かく何度もあるのでまとめて時間をとられるよりも面倒といえば面倒ではあるが、まぁ慣れる。
 
「元気なのは多分……ここのところ、良く寝てるからですかね?
ところで、先輩トレーニングってことは、何か部活でもやってらっしゃるんですか?」
 
以前、翼をみて「目立って羨ましい」といったニュアンスの事を言っていたし、演劇部か何かだろうか。
真なら十二分にありえるというか、ある意味ハマり役だと理沙は思った。
舞台で物怖じしなさそうだ。

真乃 真 > 「検査って面倒だよね。特に採血とか面倒だよね!うん、面倒!
ほら、採血した後ってあまり運動とかできないじゃないか!」

別に注射が怖い訳ではない。そう面倒なんだ。面倒なんだ!と力強く伝える。

「いや?今はもうどこにも入ってないよ。委員会も部活も。勝手に体を鍛えてるだけさ!!」

腕の筋肉を強調するポーズを取りながらそう答える。
人を助けるのに体を鍛えて困ることはない。自分みたいに便利な異能を持ってない者にとっては
なおさらそうだ、最後は自分の肉体がものを言う!

「ところで日下部君は何か部活とかやってるの?文科系?運動系?美術部?馬術部?」

筋肉を強調するポーズを保ちつつ尋ねる。

日下部 理沙 > 注射苦手なのかな……と、胸中で察しつつ「面倒ですよね」と相槌をうつ理沙。
実際理沙は採血とか注射があんまり得意ではないので、よくわかる話ではあった。
いくつになっても苦手なものはある。
 
「あ、そうだったんですか。でも、身体を鍛えるのはいいことですよね。
健全な精神は健全な肉体に宿るとかなんとかいいますし」
 
本当のところどうなのかは知らないが、まぁ、少なくとも健康の為にいいことは確かであろう。
心身共に健やかでいれば医者いらずだろうし。
 
「いえ、私もとくには……でも、何かそろそろ、始めてみようかなとは思っていまして。
こっちに来てから結構経ちましたから……部活も、いいかなって」
 
そう、少し上機嫌な様子で語る。
理沙自身は気付いていないのだが、いつもよりも軽い声色である。

真乃 真 > 「体を鍛えるのはいいよ!日下部君も鍛えればいいんじゃないかな。」

筋肉もそうだが何より自分に自信が付く。
心理的な効果も期待できたりする。

「それはいいね!何であれ新しいことを始めるのは良いと思うぜ!」

笑顔でその前向きさを歓迎する。
以前、話したときはどことなく自信なさげな感じだったけど
今の彼はは前より前向きになっている。何か良いことでもあったのだろうか?

「何か候補とかあるのかい?色々と見学させてもらうのもありだと思うよ!」

日下部 理沙 > 「ちょ、ちょっと、それも考えてみたいとは思います」
 
体を鍛えるのは実際とてもいい事だと思うが、見るからに健康優良児である真と同じペースで行うのはちょっと無理だ。
安易に返事をして「じゃあ毎日一緒にランニングしよう!」などと言われたら流石に断る他ないので、玉虫色の返事をしておく。
理沙はまだまだもやしっ子なのである。
 
「まだ、特には考えてないのですが……この翼を生かせるようなことが、何かできたらいいなって。
以前、先輩も褒めてくれましたしね」
 
そういって、少し気恥ずかしげに頭をかく。
そういう意味でも、演劇にはちょっと興味があるのだった。
雄のように色々着飾ってみるのも面白いかもしれない。

真乃 真 > 「どんな部活でも体が資本だからね!体力はつけといた方がいいよ!
 朝、走って学校までいくとか!」

普段、真はそうしているのでこうして電車に乗っているのもイレギュラーな事態だった。

「その翼があればどこででも君が中心になれると思うけど
それこそ前言ってた芸能系の部活が一番いいかな?歌唱部とか演劇部とか!」

本当に前あった時とは別人みたいだ。
前は羽を褒めても自分では認められていないように見えたのに。
アナウンスが駅の名前を告げ扉が開く。

「おっともう下りないと!」

席を立ち体に付いた埃を払い。
理沙の前で

「日下部君、前よりも今のがずっとカッコいいとおもうよ!君もその羽も!それじゃあ!」

その一言を告げると入ってくる人を避けながら電車を駆け下りていった。

ご案内:「列車内」から真乃 真さんが去りました。
日下部 理沙 > 「え、あ……は、はい、先輩、それじゃあ」
 
矢継ぎ早にそういって駆け去っていく真を見送りながら、目を丸くする。
今の自分は、そうまで以前と違うのだろうか。
理沙には、わからない。
理沙からすれば、以前も、今も、何か差があるようには感じていない。
それでも、第三者が言うのならたぶん変化したのだろう。
それも、到底嘘もお世辞も言いそうにない真がいうのだ。
限りなく真実に近いと言える。
それでも、理沙からすれば、まだまだ実感は薄い。
どこか、他人事のような気がするのは否めない。
だが……悪い気はしない。
 
「歌唱かぁ……それも、いいかもしれないな」
 
そう、独り言を言いながら、また車窓から空を眺める。
答えはまだ得ていない。
まだ、それでいいのかはわからない。
 
でも、だからこそ挑むのだろう。
だからこそ、悩むのだろう。
 
それはきっと、異能とは関係なく、人間なら誰でもすることであり。
多分、理沙がなんだかんだで逃げてきた、何かだったのだろう。
今は、そう思える。
 
「……それが……そう思えることが、変化なのかな」
 
まだ、わからない。
それでも、やはり……悪い気は、しなかった。

ご案内:「列車内」から日下部 理沙さんが去りました。