2015/12/04 のログ
ご案内:「地区ごとの駅」に秋月文海さんが現れました。
■秋月文海 > 今日の居残り学習にも目処がついたかな、と思えばもうこんな時間だった。
急いで駅まで駆けてきたのだが、しばらくは寒空の下で電車が来るのを待つ事になりそうだった。
いや、むしろこの島だからこそ幸運にも帰る手段が掴まえられそうだ、と言うべきか。
待ち長い時間を憂うように、かすかに吐きだした息が白む。
それが夜闇に消えていくのを見るだけでも寒さが酷く感じられそうで、マフラーの中に口元まで隠してしまう事にした。
■秋月文海 > こんな寒い日の夜中に電車を待っている人間なんて、自分くらいのものだろう。
自分だってこうも冷え込むと知っていれば、早々に学園での研究を切り上げて自室で課題に取り組んでいた。
膝の上に載せた紙製のカップはまだほんの少しだけ暖かい。好物である極端に甘いコーヒーは先程もう飲み終えてしまって、あとは家までお預けだ。
様々な意味で見通しがよろしくなかった事を悔やみつつカップを握れば、それは微かな音を立てて潰れてしまう。
何故だろう、こんな日だからだろうか、その音さえも物寂しさを増すようだった。
誰もいない駅の中に、私だけがいた。
■秋月文海 > 世界から忘れられたようだ、と。
ふとそんなことを考えた。
■秋月文海 > くすり、自分の考えた事がおかしくて、マフラーに隠した口元を緩める。
それに呼応するようにして、私の髪が一度だけほのかに光った。
こんな暗い夜に、こうして光を湛えているのに、誰が見失う事があるだろうか。
■秋月文海 > ――冬は夜が早く訪れ、身体は冷え込み、心まで凍えそうになる。
私はそんな冬と、それから真っ暗な夜が、時折怖いと感じることがある。
このまま闇の中に私と私の纏う光を閉じ込めて、永遠に押し潰ししてしまえと、そんな意志を感じるようで。
真っ白な雪の下に全てを埋められて、何もかも無かった事にされるのではないだろうかと、そう思って。
けれど本当は、そんな事はない。
■秋月文海 > 冬は私や、私の光や、それから回りの皆を閉じ込めてしまう事はない。
だから、冬が連れてくる夜だって、自分が思っているほど怖くはない。
その事に気がついたのは、思ったよりも最近の事だったような気がする。
深い闇の中で、私の光る髪はことさら目立つ。
それを晒し上げられていると感じたり、恥ずかしく思う事をやめたのも、気がついたからだ。
恐れも、寂しさも、全ては自分の中にしか無いものなのだ、と。
■秋月文海 > 怖がってしまうのも、目を塞いでしまうのも、あるいは色眼鏡を掛けてしまうのも。
きっと誰しもがそうであって、だからこそ自分は弱くないのだと思えるようになった。
その度に私は、自分の心の内に生まれたその感情に、意識を向ける事にしていた。
恐怖に負けないためではなく、打ち勝つためでもなく、ただ、それを味わうために。
甘いものと苦いものを混ぜたミルクコーヒーが美味しいのを知っている私は、怖いことや苦しいことを飲み込むのを恐れないでいようと。
■秋月文海 > 瞳を閉じる。
髪が纏っていたほのかな魔力の輝きが、呼吸とともに明滅する。
自分はそれを目で見ていなくても、はっきりと理解できる。
心が静かになると、私は私の在り様を感じ取ることができた。
ただ自分を見つめて、自分の中にあるものを信じて、自分をこの世界で見つけようとする。
私はそれを、祈りではないだろうかと思っていた。
■秋月文海 > 今日は電車が来るまではこうしていよう。
世界から忘れ去られてしまった夜闇の中で、私だけがここに在って、私はそれを知っている。
そう思えただけで、こんな寒い日に駅で電車を待っていた甲斐があったじゃないか。
ご案内:「地区ごとの駅」から秋月文海さんが去りました。