2016/08/24 のログ
ご案内:「地区ごとの駅」に糸車 歩さんが現れました。
■糸車 歩 > 待合室にある椅子に、一人の少女が座っていた。
その手には携帯端末、細い指を画面の上で動かしている。
時折、思い出したように顔を上げて、電光掲示板をチラリと見るが、まだ帰る為の便は来ていないようだ。再び視線は端末の画面に戻る。
「んー、やっぱりまだ閑散としてる。みんな糸を……じゃない、羽を伸ばしてるのかな」
シャーベット入りのチューブをちゅるるー、と吸い上げ、涼しそうな顔をすると、頬に手をあて、考える。
傍らには手提げバッグ、ファスナーの隙間から美術書のような、色鮮やかな冊子が見える。
■糸車 歩 > 見ている画面には、『取引仲介掲示板』と説明がある。
──それは常世SNS内に存在する、完全会員制の板。
主に異能や魔術を駆使して生産・加工した品物の取引場所として使われている。
とくに異能作成物は一品物も少なくないため、その界隈には定評があるらしい。
参加資格は常世島の住民であれば誰でも。ただし、登録するには学生証や教員証などの身分を証明するものが必要であるが。
「……あちゃー、オリハルコンがまた暴騰してる。
誰が買うのよ、あんな金持ち御用達金属。はぁ、伝説級の素材はこれだから」
それに対し、《大変容》以降はそこまで珍しいものでもなくなった、アラクネ糸。
彼女も毎月一定数量を納品しており、安定供給に貢献している。
まあ、利益は微々たるものだが。まるで他人事のようにつぶやく。よしよし、製糸関係はまだ平穏のようだ。
■糸車 歩 > 「さてっと、冷やかしはこれくらいにして。今週のおススメは……」
出品されている項目から、5種6種、めぼしいものを選んで申し込んでいく。
この間浩一君と一緒に行った、遺跡でのバイトでそれなりに潤ったので、資金はある。
上手く買えれば、メールが来るはずなので、会員登録と同時に開設される簡易口座を経由して振り込む。
発送業者はここの運営者の専属で、下手に個人情報を探られる心配もない。この間納品物の受け取りに来た業者は人間どころか妖精族だったが、そんなこともあるだろう。
ちなみに大型取引が多いヘビーユーザー限定で商品の転送装置がレンタルされているが、置き場所に困る上、点検のために人が出入りするので、工房でも持っていない限り、けっこう個人には手が出しにくかったりする。
■糸車 歩 > なんでも噂によれば、運営管理者は学生らしいが、彼女はもとより、誰も特定できてはいない。
これだけのことができるのだから、さぞかし実力者なんだろう。
なお個人の特定はタブーだが、無認可素材の取引、非人道的な方法によって得た物の取引は風紀や公安に通報される。
その迅速すぎる対応たるや、最初から張り込んでたんじゃないかって程だ。
「そういえば、ルインワームの幼虫から作れた、魔素含有率の高い糸って、誰か出してるかな。
……あれ、いない? もしかしてチャンスかも」
ふと思いついて検索してみるが、ルインワームを原料にした品物が出品されている様子はない。過去の取引を検索してみても同様であった。
これは売れるかもしれない、そう思った少女は、製糸関係のスレッドを開き、出品予定に記入する。
あとは管理者宛に査定願を出そう。もし前例がなければいい値段がつくかもしれない。
■糸車 歩 > 「別にとっといてもいいんだけど、今のところ使い道なさそーだし」
困ったようにため息をつく。
生成時に少し考えてみたのだが、魔術を補佐するリボンとかスカーフくらいにしかならなさそうだった。
おまけに調整を間違えると、術の発動時に解れて消えてしまう。いわば半消費型。
と、つまりはそういうわけである。
「うっかり普通の服に使っちゃって、魔法使ったとたんに脱衣したらかわいそうだもんね」
それは自分だって嫌だ。光景を思い浮かべ、苦笑しながらしばらく待つと、査定日時のメールが返ってきた。
「うっそお、今夜?……早く帰らなきゃ、ところでまだ来ないの?」
端末を持って立ち上がると、ちょうどお目当ての便がホームに入ってくるところであった。
バッグを拾い、待ちかねたようにドアの向こうへ消える。
ご案内:「地区ごとの駅」から糸車 歩さんが去りました。