2015/07/03 のログ
■犬飼 命 > 首輪に触れる。
ようやくこの首輪の意味もわかってきた気がする。
きっとこれは縛り付けるものではなく守るためのものなのだと。
(悪いな兄貴……)
守られているのは、飼いならされているのはごめんだと。
この先に行かなければ死んでいるのと同じだと。
「……それぐらいわかってる」
ヴィクトリアの作業を見つめる。
その様子から細心の注意を払わなければすべてが崩れてしまうことが解る。
表示される情報はとてつもなく暗い闇。
犬飼の兄、犬飼健に一体何があったのか……極秘任務。
それが意味することは一つ。
『いってくれ』
「思うも何も、これからはずっと一緒だ。
ずっと離れるんじゃねぇぞ……」
そして表示される情報。
犬飼健に与えられた任務、ロストサインへの侵入。
公安委員会としての二重スパイ。
無事に任務を終えたこと。
……そして、任務完了と共に処分されたという情報が示された。
■ヴィクトリア > 【「読んでる暇ねーぞ、戻るぞ」
アクセスは一瞬だし余裕なんかない
データだけ拾うと、即脱出する
必要な情報かどうかじゃない、これ以上まともに触れたら殺されるのがわかる
ヴィクトリアはAIとして、自覚はしていなくてもそれが理解できた
だから即座に、逃げた】
わかってるってゆーけどな?
ほんとに分かってんのかよお前
【ヤバイことに関わってる、というより
……正直、マズいな、と思う
思うが、犬飼のためにやめらんない
だってそれが自分のためだからだ】
ずっと、一緒……。
【今まで、誰かに言って欲しかった言葉だ
そして実行して欲しかったこと
ついこの間まで、それはアイツだったけど、それは繋がらなかったし、そういう運命じゃなかったんだろう
胸が締め付けられる想いだ
……ばかやろう、ボクはお前の道具でいーんだよ】
……ま、それでボクのことを満たしてくれるってなら、考えてやらなくもないよ
【実際は泣くほど嬉しかったのだが、今はまだそれを出せない
……逃げると言っても、派手なことは出来ない
地道にそっと逃げるだけ、だ
将棋崩しや砂山崩しなんかに似ている
できることは丁寧に削っていくだけだ
息を殺すように伏せながら逃げる
もっとも、ヴィクトリアには人間のようなブレは削ることが出来る
そういった意味では人間らしさと機械の良さを同時に使用が可能だし、そういった意味では優秀だ
……何はともあれ、必要な情報は、得た】
■犬飼 命 > 次々と画面が閉じられていく。
情報を確かめるのはまた後日だ。
これで無事切り抜けられれば本当に何事も無く平穏が訪れるというのだ。
「わかってるっての、てめぇ何度言わせりゃ解るんだよ」
最初は捨てられた猫を拾ってきた感覚であった。
わがままで情緒が不安定で面倒くさい。
捨ててしまえばよかったのにそんな気にもなれなかった。
ただ、ヴィクトリアとならどうなってもいいと思ってしまった。
「そうだ、ずっと一緒だ……」
本当は寂しかったのかもしれない。
それを誤魔化しながら、八つ当たりを繰り返して。
殴りもしたし蹴りもした。
それでもそばに居なければ落ち着かなかった。
「あとでいくらでも満たしてやるよ」
すべての画面が閉じられる。
無事脱出できたと言えるだろう。
安堵が押し寄せてきて息を吐く。
「……ヴィク」
顔を向かせるとそのままくちづけをした。
■ヴィクトリア > だぁってさぁ……
【犬飼とはもういつもこれだ、お互い何度も言い合う、言い合わないとわかってても怖いからだ
そして……少なくとも、抜けることは抜けられた
生きた心地はしないが
タブレット機は容赦なく物理破壊したいところなので、水をかける、一瞬で火花が散って焼ける
データはボクん中と予備のストレージだ
一度使ったものはどうでもいい】
……あ。
【……くちづけ
「アレ」以来だ
ボクを雌だと強烈に意識させ、その上でどうしようもないクズだと知ってしまったあの日以来だ
だというのに……ダメだ、やっぱりボクは抗えない
奪われれば頼ってしまう、求められれば応じてしまう
ボクは一瞬で全部奪われた気になるぐらいその唇だけで溺れさせられてしまった】
■犬飼 命 > 体格差が激しい。
抱きかかえるようにしてくちづけを交わした。
「ようやくわかったか?
まだ満たされねぇならまだ続けるがよ……。
その……あんがとな」
一緒に危ない橋を渡ってくれたのだ。
例の言葉は口にしておきたかった。
「てめぇは俺のもんだ。
これからもずっとな……」
覆いかぶさるようにしてヴィクトリアを押し倒した。
■ヴィクトリア > ……ぅ、あ…………
【声にならない
涙が溢れて止まらない
必死にしがみついてすがりつく
ずっと誰かのものにされたかったし頼りたかったし頼られたかった
ボクは……一人じゃないって知りたかった
誰かに示して欲しかったから
緊張と感動と歓喜と安心で、おかしくなりそうだった】
犬飼……いぬかいぃ………………ボク、ボクは………………お前の
お前のものだ…………ぜんぶ
【それは、彼女が初めて、すべてを安心して他人に預けた瞬間だった】
■犬飼 命 > 無事切り抜けたという安堵で二人は気が付かなかったが。
破壊した端末に一瞬だけポップアップでメッセージが表示されていた。
すぐに破壊されてしまったため気がつくことがなかったのだ。
そこにはこう書かれていた。
『―――レーテー川への忘却の旅路を』
その言葉の意味するものとは一体……。
ご案内:「犬飼自宅」からヴィクトリアさんが去りました。
ご案内:「犬飼自宅」から犬飼 命さんが去りました。
ご案内:「リフトFree(一日券)」に秋尾 鬨堂さんが現れました。
■秋尾 鬨堂 > ――常世島最大を誇る屋内スキー場、『諏訪煤』。
ご案内:「リフトFree(一日券)」にチェシャさんが現れました。
■秋尾 鬨堂 > 科学のチカラ人工降雪装置はもちろんのこと。
氷雪系異能者、異邦人、魔法使いその他諸々により維持される
永遠の雪原。
外が夏であろうとも全く問題なくゲレンデスキーを楽しめる…
白い幻想、輝かしきレジャー施設。
その中腹で、今ジャンプ台から大きく飛び、空中一回転を決めたのは!
「ドゥーイッ」
オレンジ色の派手すぎるスキーウェアに身を包んだ男!
■チェシャ > 科学、氷雪系異能、魔術……
方向性は違う物の、太陽が最も暑く燃え盛り、熱を帯びる季節にも関わらず
広がる白銀の世界は――……
夏場だと言うのに、そこだけ雪で覆われているのもあり
まるでスノー・ドームの世界の様
その中で、ジャンプ台から今正に空中回転を決める
冬の果実――……オレンジのカラーリングの似合う男性の横へと
ふわふわの可愛らしいペルシャ猫を、豪奢なそりに引かせ
全身をローブで覆った人影が姿を現した
ローブで覆っているせいで外見はよく分からないが
覆いきれていない口元には紅がさされ
ちらりと見える豊かな胸元からは、明るい陽だまりの結晶の様に
美しく輝く蜜の色をした琥珀のネックレスが飾られてきた
恐らく、スキーをしている彼にそんな暇は無いであろうが――……
けっして、この人物を視過ぎてはいけない
それは、彼女が――…………であるからだ
まるで、挑戦状を叩きつけるかのように
或いは、戯れを誘う様にして
微笑みながらそりを走らせるのであった
■秋尾 鬨堂 > ぐるりと着地。だがその横!
ジャンプ程度、この猫ソリにだって出来る、
と言わんばかりの横付け。
事実、速度、高度をよほどうまく合わせなければ、この領域にはたどり着けない。
「いいネ…やるのかい、ロー・ライダー!」
ちらりと横目で、季節外れのサンタクロースを確認。
悪い冗談のような光景だ。
だが、夏のスノーゲレンデという景色には、不思議とマッチする。
「『踏め』る時は、いつ来るかわからないから…!」
広大な全天候型スキー場である。
ここは連続ジャンプエリア。平坦なスラローム、加速のためのコースを、小さなジャンプ台でサンドする。
大きく弧を描いて加速、小ジャンプ台で次々とトリックを決める。
このエリアでは、滑降の速さに加え、飛行の美しさが問われる!
■チェシャ > 「ジャンプが鮮やかで綺麗なん……!そして身のこなしもカッコイイわ
でもねー、ふわふわもねージャンプは得意で負けないんねー!」
ふふん!と、何処か偉そうで得意げな表情をしながらそりを引いて
雪と同化しそうなほどに真っ白でふんわりとした毛並みを風に靡かせながら
そのペルシャ猫は喋り、猫とは思えないスピードで走るのであった
「お前が噂の<<悪魔のL>>か!
凄いって噂とその偉業をふわふわはちょっとだけ聞いたよ!
そしてねぇ ふわふわも勝負してみたいと思ったん!!」
季節外れの女性版サンタを思わせるかのようなそれは、極自然に
ほんの少し空中を走りながらも現れれば
トナカイの代りに猫を走らせ、喋らせながら走るのであった
広大なスキー場の中で、ジャンプエリアやスラローム、加速コース等を
意気軒昂な様子の猫が彼と共に挑戦する!
大きい孤を描きながら加速し、小ジャンプを様々に決める彼は
正しくエンターティナーに相応しく
「お見事……!けど負けないん!!」
と、ふわふわも彼の美しい技の披露に感動しつつも
そりを引き、歩いて行く足元には その軌道を示すかのように金粉の道を後ろに作り
舞う様に走っていきながら、ジャンプ台に足を踏み入れれば
実に優雅に、更に空中へとその身を投じるかのように
可憐かつ、猫が軽々と塀を飛び越えるかのような大ジャンプを披露して
小ジャンプ台の数々にも、軽快にステップを踏むかのような足取りで
ショーの様に、可愛いジャンプを披露していくのだった
ちまちまとした足取りながらも、加速を加えた彼の後ろを追い
今にも並ぶ勢いで、少し遅れながらも懸命にその小さい足で追いかける!
■秋尾 鬨堂 > 「猫が喋った…!」猫が喋った。
■チェシャ > 「うんーあのねーふわふわは喋る猫なんー
『チェシャ』っていうよー」
話しかけられれば、鈴の鳴るかの様な可愛らしい声で
ちょっとご機嫌気味に返事をする
どうやら、このレースがとても楽しいらしい
■秋尾 鬨堂 > 危うく崩れかかる姿勢。だが、有り得ることだ。
この銀世界のなか、そりを引いて走る猫が、普通であるはずはない。
ぎりぎりのところで着地、立て直しにかかずらってる間に、並ばれたか…?
いや、少し遅れつつも言う!
「嬉しいネ…相棒の悪魔は駐車場だが、ボク、秋尾がお相手しよう」
華麗なステップで、滑降、跳躍、そして雪原に残した足跡を消していくソリの轍。
まるで空中を歩くようなねことそり。
一進一退、空中戦。そうしているうちに、斜面は次の表情を見せる。
「オーケイチェシャ、次はモーグルコース!後ろの人を、振り落とさないように」
急に角度のついた斜面!そして、こぶだらけのテクニカルコース。
先を行くスキー客たちは、膝のバネで凹凸を吸収したりしきれず転んだり。
そこを果敢に攻める!
サスペンションをきかせ尺取り虫のように路面を『踏む』。
■チェシャ > そりを引く、非現実な猫は語り、挑戦を挑み
華奢そうなその身からは信じられない力で、そりと乗った女性を引きながら
野生的な身のこなしで颯爽と銀世界の雪の上を
空中に金粉の様な猫の足跡を付けながらも走っていく
並ばれたかと此方を見れば、秋尾よりも少し遅れた後ろの位置で
その猫はステップを踏むかのように走っている
立て直しのほんの僅かな時間分、少しだけ追いつき
その差もほんの少しになる
「悪魔は……居なかったん?違ったみたいねー
うん、わかったよー 秋尾っていう名前なのね?
ふわふわは覚えたん!」
そう返しながら、走り去っていく後はティンカーベルの様に
金色に輝く道を作ってゆく
「モーグルコース? おっけー!
心配ありがとう。大丈夫、ふわふわは常に後ろの人を大事にした安全運転なの!」
そういいながら、深い角度の付いた斜面に出れば――……
大ジャンプをして、空中の上でくるんくるんと回転をしていきながら
柔らかな身体のこなしで着地する!
空中を走り、そりを引く猫に驚くスキー客達の横を縫う様に避けながら
テクニカルコースに足を踏み入れれば、其れを楽しむように
或いはキャット・ショーの様に
ステップや小ジャンプ等を繰り返しながら、時には空中でくるんと1回転し
上手く着地しながらも進んで行く!
果敢に攻める様に踏む秋尾に
「悪魔が居なくても流石ね……!」
と、言いながらダッシュして並び、今正に追い越そうとした矢先で――……
「……ふわふわ、ちょっと疲れちゃったよー……」
ふにゃーん、としながらお耳がてろん、と垂れる
その間に秋尾と白猫の距離が徐々に広がるが――……
後ろの女性が釣竿の先に、猫の好物の薄いローストビーフをぶら下げて
「!!! ごあん!!!」
お耳がぴん!と立った猫は、今正に餌を求めんばかりに
開いた距離をぐぐぐぐっ!と縮めながら、ご飯までねこまっしぐら!!
こうして、一進一退をしながらも後ろから追い上げ、並んでいく!
■秋尾 鬨堂 > 路面を掴むように、跳ねないように『踏んで』いく自分のスタイルとは対称的に、
跳ねること、予想外に転がることを楽しむように『踏んで』いく猫。
「…面白い!」
このモーグルコースでの方向転換は、コブの頂点で一瞬のうちに滑り降りる先を決め、安全に、かつ速く進行できるルートへ自分を動かす生命線。
それをこともなげに、時にはショートカットしながら飛ぶ。
そういうやり方もあるのか。
またもやデッドヒート。
ゲレンデを交差する金色の足跡とスキーの轍。
後ろのソリとも、交錯しては離れる。
そう、猫が喋っているとはいえ、人が乗っているのだ。
それが、単なる飾りであるはずはない。
警戒が必要―と、視線を向けると。
取り出される…古典的な…釣り竿だぁーッ!!
「参ったネ!」
ジョッキーと、マシーンと、エンジン。
3つ揃って、初めて繰り出される―
その加速は、完全なる野生。
モーグルコースもちょうど途切れ、再び平坦な高速エリアへと切り替わった路面。
ぐいぐいと、まるで4つの足が車輪になったかのように爆走するチェシャは、一気に秋尾を抜き去っていく…。
■チェシャ > 跳ねないように、地面を掴むように進み、雪の上にスキー板の後を残す彼と
跳ねるながら、宙を舞う様に進み、空中に金粉を残しながら進む白猫
相反するスタイルで銀世界を『踏んで』いく
「ふわふわもねぇー!とってもたのちぃん!!」
きっと、猫がほんのりと宙を舞うのと、人がスキー板でテクニカルに地面を進む差もあるのだろう
野生の勘で、何処をジャンプして飛んでいくかを見極めながら
時にはそのコブをショートカットしながら、飛ぶように進んで行く
こうして、また二人が並びながら
大きく差を付け、秋尾の勝ちかと思えば――……
野生の本能に火が付いたのか、その猫は御馳走を見れば、今までにないスピードで
ぐんぐんぐんぐん追い上げて行く!
古典的だが、実に効果的だ
馬にニンジンをぶら下げ、馬力を挙げるかのように
ふわふわこにゃにゃのギアエンジンは上がっていく――……!
モーグルコースも運のいい事に途切れ、平坦な加速エリアへと入れば――……
雪だるまの勢いが転がるかのように、どんどんスピードが加速して、一気に秋尾を抜き去っていく!
「勝った!?」
ちらりと、横目で彼を確認する
秋尾から、丁度猫の身体一つ分 抜きんでて
このまま、走り切って行けば勝ちも目の前!
――……そう、一人と一匹が思った時だった
「!! いけないっ!!」
突如、猫が叫び出す
……何があったのだろうか……?
それはまるで、魔法が解けて行くかのように
徐々にふわふわの勢いは雪に溶けるかのように消えて行き
また次第に、秋尾がチェシャを追い越していく
……不思議な事に、金粉の後は消えていた
『金曜日』に『金星の象徴』である『猫』が
美しい琥珀の宝石を胸元に飾った『金曜日の女性』を載せていたのだ
そして、金曜日は7惑星の中で『金星』が担当する――……
そして、時刻にも『各惑星』の時刻というものは存在するのだ
各惑星の支配する『金曜日』の『金星の時刻』は、日の出後から1時間、そしてそれから8時間後の1時間
丁度お昼であったその時刻は……
見えないタイムリミットを、迎えていたのであった
金曜日の魔法が解ければ、その猫は只の猫となって
秋尾が颯爽と通り過ぎる横を眺めながら
「……流石なんね、悪魔がついてなくても、速いん!」
うっとりと、見とれるかのように彼を見れば
「負けちゃって悲しいけれど、とっても楽しかったし。それに――……
こうして、後ろから秋尾の綺麗なスキーの滑りが見れたわ」
真夏の太陽の輝きに照らされながら、銀世界を『踏む』かれの姿は力強くも美しい
■秋尾 鬨堂 > 『踏む』。正確には、路面を蹴るような荷重移動!
滑りながらの加速、チギられたままでは終われない―が。
猛追の幕切れは、チェシャの失速で終わる。
あっという間にその横をパスしていく秋尾。
「…だが降りたわけじゃあ、無さそうだネ」
ゲレンデの後方。そりと猫が遠くなる。
その呟きは、果たして届くか。
突然の失速。マシントラブルではない。
あのそりとねこがこの領域に来るために、かけられていた魔法が解けた。
そう考えるのが妥当だろう。
決して、踏めなかったわけではない。
その意志が、背中に伝わってくる。
それは今この時だけ、光り輝くよう磨き上げられた宝石。
夏の雪原。
100年前に存在したそれは、やはり一瞬の輝きを放ち、消えたという。
だが、この現代に全天候型スキー場は様々な要因をもって蘇った。
一瞬の輝きは二度と訪れないわけではない。
「待っているヨ…チェシャ、きっとキミなら。」
「そして、キミのマシンと、ジョッキーならば」
「また、『踏める』」
中天に太陽。
その真中にトリックジャンプ、男のシルエットは踊る。
きっとどこかでまた会うことになる。
そんな予感がした。