2015/07/14 のログ
ご案内:「Cafe E.Gorey」にヘルベチカさんが現れました。
■ヘルベチカ > 梅雨の晴れ間の一日を、せめて楽しく浮かれて過ごす。
テストが終われど泣き濡らす空に遠慮して、
十分に自由な時間を過ごすことのできなかった学生たちの、
ほんの一時の息抜きの時間。
また、数日もすれば、雨が降る。
だから、晴れた日は、ぱぁっ、と楽しむのだ。
ただしこの島では。
学生たちのためにそれを準備するのも、迎えるのも、
同じ学生なのではあるが。
■ヘルベチカ > 「ぅぁっっっついいぃぃぃ」
本日は晴天なり。じりじりと肌を焼く日の光。
テラス席、パラソルの影の下に座って冷たいコーヒーを楽しむ学生。
そして、それを眺めながら、動き回る店員。
前者は天国、後者は地獄。そして少年は罪人だった。
「ぃぃいらっしゃいませー」
■ヘルベチカ > まくりあげた長袖のワイシャツ。
服の内側は涼しくなるようにと魔術的な細工がされているが、
それでも日光が直撃する肌は、じりじりと炙られる。
額の汗をハンドタオルで拭ってから、
客の去った後の卓の上を片付ける。
グラスをまとめて、卓上を拭いて。
椅子を綺麗に揃えれば、一息吐いた。
唇に触れる息が熱い。
■ヘルベチカ > 洗い場へと、盆に載せた空きグラスを運ぶ。
建物の中へと入った瞬間、極楽の気分だ。
もう暫く。
梅雨があければ、屋外席を使う人間も減るだろう。
けれど今は、ぎりぎり屋外の日陰が気持ち良いと感じる人間も居る時期。
つまり、動きまわる店員にとっては、随分と辛い時期。
洗い場の担当に空きグラスを預けて。
キッチンの端、コップに入れておいた麦茶を一口、二口、三口。
深く息を吐きだせば、じわり浮かんだ汗を拭って。
今度は誰も居ないレジに回る。
■ヘルベチカ > 客が多い。店員がくるくると踊るように働いても、
テスト明けの学生という人種を十分に捌ききれていない。
もうしばらくすれば、夕方になる。
夕食の客が来るまでの、一段落の時間帯が訪れる。
それを希望にしながら、少年は働いている。
■ヘルベチカ > レジから離れようとしたところで、視界の端。
見えたカップルが、立ち上がった。
いや。瞬きを二つ。違う。
歩く二人、きっと。
二人はこちらへと歩いてくるまでに、親しげに会話を交わしている。
そして、最終的にこちらへ来たのは、男性だけ。
女性は一足先に店を出て、軒先、影の下。
男を待っている。
ご案内:「Cafe E.Gorey」に椚さんが現れました。
■ヘルベチカ > ありがとうございました。
少年は男へ向けて口にして、本日のお代を告げる。
カウンターへ置かれた千円札が一枚。
それに対してレシートとともに、釣りを帰した。
レシートをレシート入れへと突っ込んで。
男は、影の中から今。
日差しの下へと足を踏み出した女の方へ、歩いて行った。
彼らはきっと。
昔、近くて。
今は遠い。
誰かの愛を受けても消えないものだけが、そこにあった。
目を閉じて、開く。
二人の姿はもう、視界の中には存在しない。
■椚 > その軒先の影の下、小さな影が通りかかる。
暑さでくたりと視線を塞ぎがちに。
店から男性が出てくる。
同時に動きだした女性。
邪魔をしないように足を止め、こんなところに喫茶店かと視線を上げた。
その視界に、ふ、と。
目を瞬く。何度か。
あの時の青年が。
足は立ち止まったまま。
中の様子を見るように、視線は恐る恐る。
■ヘルベチカ > 代わりに。目に入ったのは、見覚えのある姿。
少年は数度、早い瞬き。
口が開きかけて、閉じて。店内へと目をやった。
レジから離れる。歩く途中、居た店員の少年の腰を叩いて、レジを指した。
少年の来た道、レジへ向けて歩いて行くもう一人の店員。
そして猫耳の黒髪は、入り口まで歩いてきて。
「倒れるぞ。寄ってきなよ」
あの時と同じように。店の中を指差しながら、声をかけた。
■椚 > 鼻の怪我は良くなっただろうか。
それだけが気になって、人の邪魔にならないだろう場所にいたのだが。
もしかして気づいたのだろうか。
こちらを見ているような気がして、一歩後ずさる。
しかし、その一歩が遅かったようだ。
「ふゃ……っ」
声をかけられ驚いて。変な声が出た。
あわてて口元を押さえたが。
指された店内に視線を向ける。
「……は、い」
■ヘルベチカ > 当たり前だけれど。鼻の頭に、絆創膏の姿はもうなかった。
日に焼けているのか、肌がほんのりと赤く染まっているだけ。
少女の上げた、己より余程猫染みた声。
猫耳がぴくぴくと震えて、少年は少し笑った。
「はい。一名様ご案内」
こっち、と少女に背を向けて。少年は店の中へと入っていく。
店の中は、少しアンティーク調。
窓際の小物が、暖色の室内灯よりも強い、
ブラインドの合間から差し込む陽の光に照らされている。
少年は、店の奥の奥へは導かず、入口近く。
けれど、日の差し込まない二人がけの席の前で足を止めて。
「こちらで。水とメニュー持ってくるから、座ってて」
指さして示した。
■椚 > 向けられた背中。
ほんの少し戸惑って。辺りを見回す。
思わず、うなずいてしまったけれど……
だって、一人でお店に入るなんて初めてで。
戸惑っている間に、青年の姿が先に行ってしまいそうで。
最初だけ、小走りに追いかける。
その間、小さくなりながら必死に。
ほんのすぐそこの席なのに、なんでこんなに必死なんだろうと情けなくなって。
立ち止まったことを、見過ごすところだった。
指された席を見て、青年を見て。
了承したとばかりにこくりとうなずいた。
また戻っていった青年の姿を見送り、そろり、といすに座る。
落ち着いた雰囲気の店内に、少しだけ、ほっと息をつく。
■ヘルベチカ > もしかすれば、入り口から入ってこないかもしれない。
そんなことを考えないようにして、引き入れた店の中。
頷いた少女へと、少年も微笑んで頷いて、背を向ける。
後ろ、椅子を引く音が聞こえれば、誰にともなく数度、再び、頷いて。
キッチンの中へと入って、暫しして、出てくる。
手に持った盆の上には水の入ったグラス。
それと、薄いボードに貼り付けられた紙の上、手描きのメニュー。
少女の座る席へと戻ってくれば、グラスを一つ、前において。
メニューをグラスの横へと並べながら。
「寄り道。できるようになったか?」
メニューの中には、ドリンク、ケーキなど、文字で書かれて。
横には、小さなイラスト。パステル調に、ケーキやカップが描かれている。
■椚 > 緊張を若干緩めながら、店内の様子を見回す完璧なおのぼりさん。
途中で落ち着きがないかとはたと気づき、背負ったままのかばんを足元に置く。
先ほどの男女の去った道をぼんやりと見つめていれば、ことりと置かれたグラスと心地よい氷の響き。
顔を上げ、ありがとうございますとぺこりとお辞儀。
次に告げられた言葉に、顔を赤くしてうつむいてしまった。
「……喫茶店、は……初めてです……」
行儀よくそろえた両膝の上に両手を置いて、もごもごと。
■ヘルベチカ > 店の中、客は多いが、決して耳障りなほどに騒がしくはない。
会話する声が幾重にも、椚の廻りを取り巻いて。
けれど、圧迫するような質には感じられない。
天井から垂れた照明や、店内の植物の配置が、音のぶつかりを遮っているのかもしれない。
こちらに向けられた視線。お辞儀。そして、伏せられた顔。
それを見れば、少年は一度目を伏せてから。
「喫茶店は、ってことは、他はいけたのか。よかったな。
でも、ここは初めてだから、座ってて、落ち着かない?」
■椚 > 落ち着かないかと問われれば、ぷるぷると首を振る。
それでも、と。
「……初めての場所は、緊張して……」
小さく苦笑する。
「他は……」
あ、と。小さく口の中で呟く。
「その節は、ありがとうございました。
色々、アドバイスしてくれて……
ひとりで行くことは、できなかったけど……ちゃんと相手にお礼、できました」
今度は相手を正面から見つめて、微笑む。
微笑んでから、渡されたメニューを角を指先でもじもじと滑らす。
「なので。
ひとりで行けたのは……行けるのは、雑貨屋さん…………くらいだけなんです、けど」
■ヘルベチカ > からからと少年は笑って。
「ま、そりゃそうだ。俺だって初めての場所は、少し緊張する」
うむうむ、と尤もらしく頷く。
相手から告げられた礼の言葉。
少し驚いたように、眉を上げる。
視線が右に動いて、左上に動いて、相手の顔へ戻って。
あー、と。なんとも言えない声をだしてから。
「いや。お礼できたなら良かったけど、俺は何もできなかったし。
というか、あの時は悪かった」
椚へ向けて、頭を下げた。
顔を上げれば、申し訳無さそうに、眉が少しハの字。
頭の上、猫の耳が少し力ない。
「よくわからないけど、なんか俺がしちゃったんだろ。泣いてたし。
だから、悪かった」
もう一度謝ってから、相手の指先、視線を落として、少し笑って。
「いいじゃん。雑貨屋。とりあえず行きたかったんだろ。
興味ないし行きたくないところに、絶対に行かなきゃいけないわけじゃないし。
後今のおすすめは、梅のソーダか水出しのアイスコーヒーな」
■椚 > 急に頭を下げられて。
思考回路がついていけず、次につながったときにはがたんっと勢いよく立ち上がっていた。
わたわたと、頭を上げてほしいと、肩や頭の部位に両手を舞わせて。
「ち、ちがうんです、ごめんなさい、私のほうがごめんなさいっ!
どうしたらいいかわらかなくて、何からはじめたらいいかわからなくて、どうやって話したら良いのかわからなくて……!
頭がいっぱいになって、だから……!」
相手の力ない耳と比例するように、首を横に振るスピードは速く、ぎゅっとスカートを握る。
笑いかけられれば、振る首を止めた。
ああ、そうだ。注文。
ほんの少し、切らせていた息を整えて。
「……えと、じゃあ……梅のソーダ、お願いします」
注文すら、緊張感を漂わす。
■ヘルベチカ > 腰掛けた時とは逆に、大きな音を立てて立ち上がった相手に、
少年は驚いた表情。
ひょいひょいと舞う相手の腕に、お、お、お、と翻弄されてから。
「あぁいや待て待て落ち着け。
水飲んで水。座って飲んで。とりあえず廻りは見なくていいから水だけ見て飲んで」
視線を左右に振れば、『何事だろうか』と、店の中の視線が椚と少年に突き刺さっている。
「相手のペースを気に出来なかった俺が、っていうとまたあれだから、えぇと……」
言葉に少し悩んでから。
「とりあえず、怒ってなかったなら、よかった。ありがとう」
そう言って、少年は笑った。
「はい。梅のソーダね。少々お待ちを」
そう言ってから、少年は、こちらの様子を伺っていた他の客のほうを見て、にこっと笑顔を作る。
すれば、特になんでもなさそうだと考えたか、各々の会話へと戻っていく客達。
それから椚に背を向けて、キッチンの方へと歩いて行く。