2015/08/20 のログ
■惨月白露 > 『場所は落第街―――』
取り出された書類、そして、それを読み上げる五代の声を、
手を握りしめて聞きながら、彼はただ立ち尽くす。
彼に、その時の記憶は一切ない。
書類審査を通らなかった時にも、ここまで詳細には聞かなかった。
だから、彼は朝食に食べたものを吐きそうになりながら、ただ、小さく震えた。
「―――そう、か。」
ゆっくりと、男が作ったスペースの前へと歩み寄って行く。
そのスペースに手をつく。まるで、死んだ体に添えるように。
「ごめん。」
ただ、そう小さく謝り、歯を噛みしめるとそのスペースに手にした花を置く。
置くと、罪の重さに耐えかねるように、その場に膝を折った。
「ごめんな。」
謝って許される事ではないという事は理解しつつも、彼はそう繰り返し謝る。
握りしめた手にはめられた数珠が、ちゃりと、小さく音を立てた。
■五代 基一郎 > 「落第街の人間は、社会制度で言えば不法入島者だ。」
それらは。
先の言葉から続く……法の番人としての言葉。
罪人に対して罪を教える者の言葉。
「我が物顔で島に居座り、公的な場所を占拠し
税も納めずのさばる連中だ。
法の外の存在達。法を尊寿する義務を放棄した……しないが故に
法の恩恵を受ける権利を持たない者達。
そこにいるが、いないとされる健全な社会を造り上げ、維持するためにも邪魔な存在だ。」
わかっているだろうが。
敢えてその言葉を続け、何が罪であるかを説くように続け
「白露。例えそうである存在だとしても。そうある人間だとしても。
俺達人間がその命を奪っていい理由にはならない、
人はいつ死ぬかわからない、と斜に構えた者は言うだろう。
実際そうだけどさ。人は案外に弱いしな。
だがその”いつ”を他の誰かが決めていいことはない。
誰かの勝手な都合で人の命を奪うことは許されない。」
これが学園の人間だったら。
彼が学園の方に転移し、そこで暴れていたら
より大事に……取り返しのつかない事態になっていただろう。
だからと言って”殺されたのが落第街の人間だったから良かった”
ということではないのだ。
落第街の人間だから殺されてもいい。
悪人だから殺してもいい、などと身勝手な事を考えて実行するものは、残念ながら少なからずいる。
だが相手が誰であれ”自分の判断で”殺すべきだと、殺すのだと決めることは
殺人者と何ら変わりないのだ。
「ここはな、白露。
誰かの勝手な都合で殺された人達が眠っている場所なんだよ。
記憶がなくともお前は彼らの未来を奪い、殺してしまった。
それがお前の……この世界で犯した最初の罪だ。」
■惨月白露 > 「―――そんな事、分かってるさ。」
続く言葉を聞きながら、ぎりっと歯を噛む。
何故なら、自分がそうであったから。
彼らは彼らの事情があってそこにいて、そこに生きている。
だから、あえて、『分かっている』と返事をする。
彼が『身勝手』に殺してしまった。
確かにそれは『血』の暴走だったかもしれない。
その時の記憶も、無いかもしれない。
それらは、落第街に住む不法入島者かもしれない。
それでも、彼が殺したという事実は変わらない。
「そんな事、分かってる。」
自分に言い聞かせるようにもう一度呟いて立ち上がると、男のほうに向きなおる。
「ありがとうな、兄様。
過去は取り戻せない、まして、命なんてのはそれぞれに1個だけだ。
だから、俺はこいつらに何一つできねぇ。できねぇ、けど。
でも、兄様のおかげで、ここに来て謝れた。
兄様のおかげで、こいつ等に報いる生き方が出来る。
―――だから、ありがとう。兄様。」
■五代 基一郎 > 「ハッキリいえば、それは終わりなき旅だ。」
こちらに向き直り、言葉を。
告げるように、感謝か。
語る彼に頷き……自分も手を合わせ黙祷する。
「許されることはない。彼らから言葉を聞くこともない。
言葉があるならば、怨嗟だろう。
起きてしまったことは覆らない。
だからこそ、罪というのは重い。
それは死んでも消えることはないだろう。
償うことではなく、償い続ける……報い続けることになる。
お前はそれを理解した。
……俺の人選は間違っていなかったよ。
凛とも会ってか、人間の人格形成には環境が一番影響を与えると感じている。
だから今”真っ当な”考えを出来るお前を見て
お前を育てた人は”真っ当な”人だったんだろうと思うよ。
善良な人だったんだおろうともさ。
その人らに感謝してるぐらいだ。」
白露は罪を罪とも思わぬ、人を人とも思わぬ……
己の身勝手な理由で命を奪わぬ者ではない。
きちんと善良な心が、それが根付いている。
だからこそ苦しんでいるのだと。
「白露。すまないがここに来た理由は目的はもう一つある。」
これは白露にとって大事なことで、やらなければならないことだった。
だがもう一つ。白露にとって大事な事があった。
外なんだけどさ、と。
その『陶棺』に一礼して背を向ければ、堂の外へ出てば
黙って先導するように歩いていく。
それは、墓苑の主たる場所ではなく。
奥へ、奥へと続く砂利道。舗装もされていない砂利道を踏みしめながら
歩いていく。
そして行き着く先には……慰霊碑と慰霊塔の数々が置かれた場所。
そこは、明らかに何かおかしかった。
明らかに、それは隔離されていた。誰かに追悼されるわけでもなく。
死を悲しむために置かれたわけでもなく。
「死ねば誰もかも死体であり、というのもあるが
ここは罪を犯した者……犯罪者の墓標群ってところだな。
大なり小なりと思うかもしれないが、まぁそれなりに区別はされてるわけでさ。」
そうしてそこの一番後ろ……奥の方だろうか。
そこには、そこに書かれている名前達は、少し時事を耳にしていればわかる名前が刻まれている。
ロストサイン、フェニーチェ、etc……過去にもあった凶悪な犯罪組織の縁者、凶悪犯の名前が置かれていた。
それらはその前にあった者達とはまた別の雰囲気を浮かべていた。
ただの犯罪者の墓標でも、戒めの石版でもなく。
「白露、ここに刻まれた連中はどいつも”己の身勝手で人を踏みにじり、殺める者達”であり
我々”特殊警備一課”が相手をするような奴らだ。」
風紀にはいくつか部署がある。
現場実働の役割もある。刑事は刑事事件の捜査、または逮捕。
警備は文字通り警備活動。災害救助や機動隊などがここにあたり
交通課は交通関係の違反者や事故処理等。
生徒指導課は委員会内部の研修や、事務方であり防犯指導であり。
また部署に所属しない人間もいるがそれぞれ役割は決まっている。
その中で特殊警備一課は何をするかといえば組織的な凶悪犯の対策。
組織的な異能、魔術犯罪に対する特殊部隊である。
社会の法を法とも思わず徒党を組む凶悪犯罪者と戦うのがこの部隊。
故に、出動する機会は少ない。第二小隊となれば現状そうなのだが。
それは何もいないものらに備えているわけではない。
そうそう起きない事態に対して備え、必ず勝つためにあるのがこの部隊である。
かといってそうそう起きようもない事態を感じさせるのは不可能だ。
だからこそ、目に見える形で何を相手にするかを伝えなければならなかった。
「お前がいずれ相対するだろう者達は、こいつらのような連中なのさ。」
■惨月白露 > 「そうかもしれないけど、隣には兄様が居てくれるんだろ?」
そう言って笑みを、作る。
罪悪感に彩られた笑み、それを向ける。
男が黙祷すれば、その隣で彼も黙祷した。
「……バカ正直な人だったよ。
自分が死んでも人を殺すな。
自分が盗まれても人から盗むな。
自分が穢されても人も穢すな。
人間としての誇りを持って生きろ、ってな。
今どうしてんのかは知らねぇけど、いつか里帰りした時にゃ、
もう少し胸張って会えるようにしてぇな。
どんな形で再会する事になんのかは、わかんねぇけどな。」
男が歩けば、それに合わせて彼も歩く。
目の前に広がる墓所、異様な雰囲気を放つ墓所に目を細める。
もし自分の横に居るこの男、五代基一郎が自分を『この場所』に連れて来なければ、
自分も、ここに名前を連ねていたのかもしれない。
「”己の身勝手で人を踏みにじり、殺める者達”ね……俺は『許せない』とは言わねぇよ。
俺は正義の味方じゃねぇし、
こいつらの事をただ明確に『悪』だって言って罵る権利はねぇと思うしな。」
男が語る自分の所属する居場所の意味を、
対するべき『敵』の話を聞きながら、彼は語る。
「そいつらも、俺や凛みたいに気が付いて、
そんで、ちゃんと元の道に戻ってくれたらって思う。
いや、戻れるって信じてやりたい。他の奴らがなんて言ってもな。
『因果応報』とは言うけど、罪に対する償いってのは、きっと死だけじゃねぇから。
だから、俺は、その為にそいつらと戦うよ。
話聞いてもらう為には、まず捕まえないといけないしな。
俺は、手を伸ばしてやりたい、汚ねぇ手で悪いけどな。」
■五代 基一郎 > 「それを忘れないでくれよ。」
ふぅ、と一つ溜め息をつきながら
肯定の言葉を省き黙祷する。
罪を罪を感じ、思うのならば。であるならば。
だからこそいるのだと。
「高潔な人だな。それをやるのは、難しい。
人だからな。だがだからといって最初からやらないのではなく。
そうあれとする。
本当にいい人だったんだろう。
なら誇ればいい。その人から教わったことも
その言葉から今後教わることも多いだろうさ。
”いつか”に備えるのもうちらの仕事だから、まぁ備えよってところか」
ならがんばれよ、なんて言えんけどさ。
と〆れば砂利道を歩来始めて無音になっていっただろうか。
その、誰にも見放されたような誰からも省みられることもないかもしれない
その墓碑の群れの静けさと重なるように。
「一課としては。己のエゴで他人を踏みにじる……殺す、殺人者を
許すわけにはいかないし許すつもりもない。
悪とし法の裁きを受けさせるのが務めだ。
戻れない、狂い、人の話を聞かずに笑い己の世界に没したまま
他人を踏みにじる存在であるならば手遅れであり、実力で排除せねばならない。
迷えばそれは死につながり、仲間をも死なせ、法をとする我々の死にも繋がる。
第一小隊がそうだ。一課といえば彼らだからさ。」
だが。そうでない場合もある。
故に。
「そうだ、それでいい。
それはより困難であり、その思いが重くお前に圧し掛かり
膝を屈することもあるだろう。
だが、それでいい。
死ねば終わるものもあり、終わらぬものもある。
死か、生かだけではない。
”救えないヤツ”もいる。
”救える者”もいる。
だからこそ、だ。
それはお前が考えた、お前にしかできないこと。
白露や凛にしかできないことだ。
俺は良い、と思う。
まぁ綺麗とか汚いはそうだな。
相手も綺麗なのだと気おくれするから丁度いいんじゃないの」
俺個人で言えばそういうの、なんとも思わないけどとも括りつつ。
死ねば正しくそうであるから死者に手を合わせて思う。
どうにか出来たんじゃないかと思うことはある。
どうにもならなかったこともある。後悔ばかりだと。
何がいけなかったのかと、何故こうなってしまったのかと。
何故こんなことができるのかと。
元から狂っていた者、最初からズレていたもの。
徐々にずれていたもの。もう戻れなく、終わっていたもの。
どうすればよかったのか。
答えなど、出た事はない。
だが考えることは無駄ではない。
考え続けなければならない。
苦しいことであるが白露もそれが出来る者だ。
何故考え続けなければならないか。
簡単な話だ。それが人であるからに他ならない。
考えることを放棄したものこそ、人ではなくなる。
人であるならば、ありたいと思うなら考え続けなければならないのだ。
それが特別な力であれ権力であれ、何かを持つものであれば尚更。
「……さて、墓参りも終わったしどこか寄ってくか。
私は冷たいものが食べたい。白露、君に場所を選ぶ権利を授けよう。
好きに選んでいいよ。」
■惨月白露 > 「そうだな、俺も冷たいやつがいいから―――。」
墓苑を背に、その焼けるような暑さの中をうんざりしたような、
それでも、何処かすっきりしたような顔で歩く。
暑い夏は、まだ続く。
いつか過ごしやすい秋が来るのだろうが、それはまだもう少し先の話だ。
故に、暑い夏を一時だけ忘れさせる『冷たい甘味』を売っている店は、幸いにして沢山ある。
その一つを目指して、彼は男の手を引きずるように歩き出した。
■五代 基一郎 > 頼んだ、と。
やる気ない顔でそのまま引きずられる形で墓苑を後にした。
手を引いた者が、形はどうあれ今誰かの手を引いている。
いつか、彼が誰かの手を引ければと
引いてくれるだろうと望み、確かに、思いながら引きずられて行った……
ご案内:「常世学園没者墓苑」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「常世学園没者墓苑」から惨月白露さんが去りました。