2015/10/21 のログ
三千歳 泪 > 《 Sir, yes sir. モーニングコールと称するには少々遅いかもしれませんが 》

頭上には遮るもののない完全なる天空。
そして眼前には今世紀初頭にはすでに実戦投入されていたと噂される軍用義体が二個小隊程度。
俗界から遠くはなれた天上楽土には強力無比なサイバネティクスの見本市が広がっていた。

はじめに奇妙な動きを見せたのは警護隊長の男だった。
豊富な実戦経験に裏打ちされた実力、そしてささやかな過信がいつしかバックドアに変わっていたのだ。
戦術連携システムの汚染は瞬く間に広がり、黒服の男たちが次々と自分自身のこめかみに銃口を突きつける。
《人形遣い》の存在を感じながら声を上げることさえできず、一人また一人と静かに姿を消していく。

桜井雄二の行く手を小柄な影が遮る。

《 Sir, 近接支援はいかがです? 》

全身義体の女性警護官が血の気の失せた顔で笑い、軽く敬礼してツーマンセルのカバーに入る。
残る兵隊は完全なスタンドアロンに置かれていた雇われの外様組だけだ。

《 目標を目視。ドゥンヤザードの腕の中に 》
《 足を止めるのはお手のものでしょう, sir. 警護人員は残り六名。プールサイドからは遮蔽物もありませんが――― 》

自律(中略)夢のAIは皮肉も介するのだ。

桜井雄二 > 現れた義体の女性に身構える。
が、彼女は敬礼をしてこちらのカバーに入った。
「まさか……ゲレルトか? 助かる」
ここまで完璧に仕事をされると、成功させるしかなくなる。

『おい、予約取れてねーってどういうことだオラァ!』
『ここで友達と待ち合わせしているんです、待たせてもらっていいですか?』
『……わ、私もこのホテルの予約をしたのだけれど』

フロントでも騒ぎが起きているようだ。
頼もしい友人たちに感謝をしながら、駆け出していく。

「足止め一筋十年だからな、任せろ」

あまりセンスのない返しをして、左の冷気を全開にする。
プールサイドである。
つまり、水が大量にある。
水を拝借して、氷の槍を作り出す。
氷雪系の最強攻撃、アイススピア。

「右手側の二体を任せたぞ!!」

走りながら左手側の兵隊に向かって極低温の氷槍を放つ。

三千歳 泪 > 小柄な警護官が無言でうなずき、一時的に機体のリミットを外して地を駆ける。
その残像を射線に捕えた銃器の認証にロックをかけ、三倍速の近接格闘で二人の巨漢をプールサイドに沈める。

サプレッサー付きのハンドガンで牽制射撃を送りつつ、さらに一体、狙撃手らしい兵隊のホールドアップをやってのけた。

《 ………Sir, 目標の確保を! 》

想像をあっさりと越える事態に、褐色の少女がランプを抱いたままビーチチェアから転がり落ちる。

『お前……どこから…? く、来るなっ! こいつを奪いにきたのか!?』

その物音にさえ誰ひとりとして反応せず、ようやく周囲の事態を思い知ったらしい。

『おいっ!!……お前たち、まさか全員こっ――――こ……こ…!』

殺したのか、と言いたかったらしい。
恐怖に竦みあがったまま舌がもつれて、ランプを抱きしめた拍子にその表面がすこしこすれた。


「…………おっはーーーーーーーーー!!! 二代目! ランプの魔人です!!」

アラビア~ンで露出過多な衣装の魔神(新人)がほっそい先端からどろりと現れる。私だ。
胸は斜めに横切っただけ、お尻も半分以上こぼれてるデザインがちょっと攻めすぎてる気がしないでもなく。

「で、なにごとかなご主人ちゃん。どうかしたの?」

『……た………っ…………助け……てっ…!!』

震える指の先には天上楽土を屍々累々の地獄絵図に変えた悪鬼が二人。

桜井雄二 > 「……全員殺したと言ったらどうするんだ?」
「お前も俺を殺すのか?」

威圧する。こいつが泪を。
こいつが……俺の大切な人を。
激情にかられないよう必死に心臓を押さえつける。

次の瞬間、ランプから煙が。そして出てきたのは。

「る、泪!?」

なんて刺激的な格好を。って、そんなことを言っている場合ではない。
「三千歳泪…………さん?」
なんかテンション高い。明らかに寂しさなんて感じてそうもない。

「……それで、どうするんだ? 俺としては泪が帰ってくればどうでもいいが」
「その女は助けて、と言っているぞ」

右手の人差し指に閃熱を集中させる。

三千歳 泪 > 「――――桜井くん!!」

お留守番をしてたわんこみたいな勢いで桜井くんに飛びついてぐるんぐるん回る回る回る。

「桜井くんと話すのすんっっっごい久しぶりな気がするよ!!! わー生桜井くんだ!」

桜井くんの胸に飛び込んだまま頭をぐりぐりして。ふとお願いごとを思い出す。

「あ。お願いごとね。魔神的にはさー叶えてあげないとっていうさー。わかるかな桜井くん」
「そういうわけで。そっちの人は桜井くんのお知り合い?」

《 ―――…は、いえ。Negative. あの…… 》

おおむね問題なし。ご主人ちゃんの方を振り向いてサムズアップする。

「ん。安心していいよ。君をどうにかしにきたわけじゃないから」
「……そんなに悪い子じゃないから平気平気。これで三つ目のお願い叶っちゃったかな」

つま先から先が煙みたいになっていたのが急に元どおりになって、その分の体重が桜井くんに乗っかっていく。

「あれ。衣装……戻って…ない……?」

『………なっ……やだ、嫌だ!! まだ…私は……っ! 助けて!! たすけ―――――』

先代ランプの魔神が古ぼけたランプに吸い込まれていく。泣き顔をくしゃくしゃにして。
水と氷と黒服たちの空中庭園はまた水を打ったような静けさに包まれてしまう。

「………んっと。桜井くん。最後にひとつだけお願いごとしときたいんだけど、いい?」

桜井雄二 > 「あ、ああ………」

戸惑いながらも彼女を優しく抱きしめた。
ここまで来た苦労も吹き飛ぶ。
自分にとって、泪の笑顔以上に優先されるものなんてない。

「三つ目の願い事……? もう、二つの願いを叶えてあったのか」

急に重さを感じる。泪はもうランプの魔神じゃなくなった……?
「……その衣装、ちょっと刺激が強いな……」
正直者の桜井くん。

ランプの魔神がランプに吸い込まれていく姿を見る。
彼女も自由になりたかっただけなのかも知れない。
それも泪を巻き込んだ、それだけの点で分かり合えないが。

「……なんだ? お前の願い事なら聞くよ、なんでもな」

三千歳 泪 > ランプをこすれば魔神が出てくる。ここまではおとぎ話と変わらない。

『………ぅ……ッう…仕返しの……つもりか…?』

「最後のお願いはひとつだけ。君を自由にしたいんだ」

『……ぇ―――――――うわっ…わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

元ご主人ちゃんことドゥンちゃんさんがさっきの私みたいに重力に引かれて落ちる。
お尻から落ちたせいで涙眼で悶えてたりして。

「これでやっと普通のランプになったんだ。インテリアに使えるね桜井くん!!」

《 我が主、ひとつだけ疑問が。最初の願いというのは何だったのです? 》

「……んっんー、ちゃんと叶ってるから大丈夫。魔神のパゥワーは本物だったってことでさ」
「ヘンなのじゃないよ。全然ふつーだから!! ところで君は誰だい…?」

最初の願いは―――桜井くんの前で言うのも変だしここは。




言っとく?

「桜井くんとずーーーーーーーーーーーーーーっと一緒にいられますようにってお願いしただけだよ」
「ん。えへへへ。それはそれとしてグッジョブ! 今日もキレッキレだったね桜井くん!……とゲレゲレっぽい人!!」

眼下の学園都市がざわざわと沸き立って、お祭り好きの三千歳の血が騒ぎはじめる。
祝祭の開幕を告げる鐘の音が、天高くはるかに鳴り響いて――――。

ご案内:「祝祭の日の常世島」から桜井雄二さんが去りました。
ご案内:「祝祭の日の常世島」から三千歳 泪さんが去りました。