2016/03/26 のログ
ご案内:「廃工場」に桜井 雄二さんが現れました。
ご案内:「廃工場」に三千歳 泪さんが現れました。
桜井 雄二 > 廃工場の奥。饐えたような臭いが立ち込める、薄暗い部屋。
その中で。

『おい、起きろ桜井雄二』

細身に眼鏡の男が、鎖に繋がれ手錠で拘束された不燃不凍のスーツの男を蹴り起こす。

「う………」
『そうかそうか、居眠りをするほど居心地がいいか?』
「……悪くない、次はモーニングセットを頼む」

囚われの男――――桜井雄二の腹部に蹴りが叩き込まれる。

「ぐはっ……」
『我々の組織で作り出した最新式の異能封印装置、黒の封縛(ブラック・ギアス)はどうだ? 火の粉一つ作れないとは無様だな』

桜井の首には黒いチョーカーが嵌められている。
機械のようでもあり、赤い何かが点滅している。

『そろそろ話す気になったか?』
「お前もしつこいな、深海辰巳。楽しむのも大概にしておけ、手錠に鎖なんてベタなもの用意してノリノリすぎて笑えてくるぞ」

桜井雄二の挑発に、再び深海と呼ばれた男は囚われの男を蹴り続ける。

 

桜井雄二が行方不明になって四日になった。
既に捜索願が出されていて、風紀が動いている。
彼の友人である川添孝一がメインになって彼の知り合いも桜井を探していた。

そして。
様々な線を当たっていた三千歳泪に友人伝いに情報が入る。
廃工場に四日前から謎の男達が出入りしている、という不確かな情報が。

三千歳 泪 > 桜井くんがいなくなって四日目。

『さて、ここで番組からリスナーの皆さんにお願いです。とっても大事なお話なので、ちゃんと聞いてて下さいね―――』
『――――身長は178cm。アシンメトリー…ってわかります? 左右非対称な水色の髪が特徴で―――』
『―――お心当たりのある方は、風紀の特設ホットラインまでお電話を!!』

島中のラジオから同時に呼びかけられる声。
AMラジオ同好会が放送の合間に桜井くんの目撃情報を集めてくれていた。
持つべきものは何とやらだね。

「―――うんうん、わかってるってば!! ありがと。無理はしないよ。じゃーね!」

ここは高度300メートル。
航空力学研究会が誇る硬式飛行船《ユリシーズ》号の上。飛行甲板のひとつ。
猛烈な風圧にも負けないような大声で通信回線の向こう、地上の友達に別れを告げる。

「……えっとね、居場所がわかったかも!! そっちに座標送るから、UAVも飛ばしてくれる?」

ブリッジに飛び込んで地図上の一点を指し示す。
すぐに号令が飛んで、揃いの制服に身を包んだ研究会メンバーが動きだす。
学園島でも最大級の飛行船が回頭をはじめる。大きなカモメにも似た純白の無人偵察機が数機飛び立っていく。

桜井くん、今ごろどうしてるかな。酷いことされてないといいんだけど。
私が君を追いかける側になるなんて。
手がかりは全然なくて、熱に浮かされてるみたいに胸はドキドキしっぱなしで。
けれど私は一人じゃない。足をとめずにいる限り、探しつづけている限り、助けてくれる人たちがいる。

飛行甲板の方から名前を呼ぶ声がする。大きく手を振り、冷たい風の中へと駆け出していく。
―――桜井くんはいまも私を待っているから。

桜井 雄二 > 深海と呼ばれた男が人差し指を桜井に向ける。

『さて、今日も同じ質問だ。お前ら怪異対策室三課は貴種龍対策に何を用意した?』
「知らんな」

深海の人差し指に水の刃が生成される。
それを桜井の顔にほんの少し突き刺すと、血の雫が風船のように頬に膨らむ。

『言え、我らの悲願である貴種龍を貴様らガキがどうにかできるとは思わん…が』

男達の視線が交錯する。
一方は反抗を、一方は狂信を瞳に込めて。

『あのステーシーとかいう亜人か? いや、違うな……確かに広範囲攻撃型異能を持っているようだが、あの程度で貴種龍は止められん』
「……さてな」
『……言えぇ!!』

激昂した深海が人差し指を振ると、水の刃が振るわれ桜井の頬が切り裂かれる。

「……い…言うぞ…」
『ほう、ようやく素直になる気になったか』

周囲に散った血飛沫を気にも留めずに深海が桜井を前に腕組みをする。

「お前ら……常世財団の下部組織だろ…?」
『……それがどうした?』
「どうにも常世財団から切り捨てられたと見えるな」
『!!』

深海の顔色が変わる。

「もう年度末だもんな……いつまで経っても成果は出ず、焦って去年に呼び出したグリーンドラゴンは暴走して街に被害を出した」
『き、貴様………』
「貴種龍を人の手で支配・操作する実験は失敗した、そうだろう?」

深海が手袋をつけたまま桜井を殴りつける。
だが桜井は喋るのを止めない。

「人間が用意できるのは人が異能を使った後に放出されるエネルギー…貴種龍の餌だけだ。元より完全生命体のコントロールなんて夢物語だったん…」
『黙れえええええええええええええええぇぇ!!!』

逆上した深海は殴打と蹴りを繰り返す。
桜井がぐったりするまで、執拗に。

『はぁ……はぁ……助けが来るなんて思わないことだな!』
「………」
『ここにはライドギア……二足歩行搭乗式機械が複数、建物内を警護している』

狂ったように笑い出す深海。

『川添孝一も三枝あかりもステーシー・バントラインも見当違いな場所を捜索している! 絶望しろぉ!!』

それでも桜井の瞳から光は失われない。

三千歳 泪 > 硬式飛行船《ユリシーズ》号の飛行甲板から双発のVTOL機が飛び立つ。
操縦席のすぐ後ろから、ヘッドセットを耳に押し当て電子の海を漂う意志に呼びかける。

「ゲレゲレ!! なんかいそう?」

声に応えて、無人偵察機の機首に備え付けられた機械の瞳が地上を睥睨する。

《 Yes, mom. 施設内に特殊な熱源の所在を確認しました 》
《 パワードスーツに類する装備と推察。明らかに民生品の出力ではありません 》

「へー。じゃあさ、ちょっとつついてみてくれる?」

《 つつく、とは―――はい、いいえ、はい。お任せを! 》

困惑から諦観、そして決断へ。夢の軍用AIはわりといい加減なお願いでも聞いてくれるのだ。
四機のUAVからかわるがわる発煙弾が撃ちこまれる。
廃墟の屋根や割れ窓から転がりこみ、不審な熱源たちを濃い白煙に飲み込んでいく。

「あと、あっちの準備もお願いね! 私もすぐに行くからさ」

《 Yes, mom. くれぐれもお気をつけて。Godspeed(幸運を)! 》

桜井 雄二 > 騒ぎが起こり、そして桜井と深海がいる部屋に黒服の男が駆け込んでくる。

『深海さん、スモークディスチャージャーが撃ちこまれたようです、場所を移しますか?』
『なんだと……適当にあしらえ、すぐに桜井を連れてここを去るぞ』

その二人の会話を聞いて、桜井は笑みを浮かべた。

 

ライドギア、それは近代になって設計思想が全面的に公開された二足歩行ウォーカーマシン。
人が乗り込むことでその高い走破性を生かし、敵地に切り込むことを目的とした軍用機だ。
マシンガンなどで武装されていることが多い。

『こちらサルファリック・ワン、周囲を警戒する』
『サルファリック・ツー了解』

連絡を取り合いながら警戒を強める深海の私兵たち。
ライドギアに乗っている者も、そうでない者も視界が悪くなったことに困惑している。

三千歳 泪 > 「びっくりしたかな! で、動きはあった?」

《 指揮中枢の所在を確認。お手元の端末にマッピングします 》

騒ぎがあったら当然一番エラい人のところに行くはず。
そこには桜井くんがいるんじゃないかな。

降下の準備を進めながら、黒っぽい染みのついた書物を引っ張りだす。
それは図書館員同盟の秘密図書館《パンディモニアム》が貸してくれた秘蔵の大冊。
けっこう前に私が修復した、この世から失われたはずの書物のひとつ。

魔導書部門の司書さんの直筆メモに目を通し、彼らを呼ぶための章句を読み上げる。

薄明の地ドリームランドに住まう無貌の種族。筋肉ムキムキで蝙蝠の羽根と長い尻尾が生えた漆黒の夜鬼。
暮れなずむ闇の向こうから現れて、その手にかけたエモノを深淵の奥底へと誘ってしまう者たち。

白い闇の中から顔のない怪物の群れがぶくぶくと湧き出し、重装の機兵たちに群がり襲い掛かっていく。

「―――やっちゃえナイトゴーント!!」

あの生物は人を傷つけないし、殺したりもしない。ただ死ぬほどくすぐり倒すだけ。
でもうっかり降参したら彼らの領域に連れてかれちゃうから、それだけはお気をつけて。
………って司書さんが言ってた! コワイ!!


さてさて、ここまで近づけば当然気づかれるはず。撃たれる前に動かないとだね。
VTOL機の羽音が地上を圧する中、ものすごい風圧に晒されながら廃工場の屋上に降り立った。

「おーーーーーーーーーーい!! 桜井くーーーーーん!!!!」
「いるなら返事してーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

書物を仕舞い、白煙たちこめ夜のマモノたちがひしめく廃墟の中を突き進んでいく。

桜井 雄二 > 『なんだ!? こちらサルファリック・フォー! 正体不明の…怪物!?』
『サルファリック・フォー応答せよ! 応答……うわぁ!?』
『撃て、撃て! 撃ちまくれ!!

廃墟に悲鳴と……そして叫ぶような笑い声が聞こえてくる。

『どうなっている!? 全員、対異能者装備のはずだぞ!!』

その時、聞こえてきた声は。
桜井にとって、ずっと一緒にいたヒトの声。

『女!?』

狼狽する深海を前に桜井が声を張り上げる。

「ここだーーーーーーーーーーー!!!」

あれだけ痛めつけたはずの男が、どこからこんな声を出すのか。
深海がまた強く桜井の腹部を蹴る。

「ぐっ……ここにいるぞーーーーーーーーーー!!!」
『こいつ……!』

奥から確かに響く叫び。呼び合うための、声。

三千歳 泪 > 銃声と激しく争う物音がそこかしこから聞こえてくる。
先に銃声のほうが止んで、すすり泣くような裏声の常軌を逸した悲鳴に変わっていく。
事情を知っててもこれは怖い。怖すぎるよ。早く何とかしないと。

桜井くんのちょっと枯れた声が聞こえる。
意外と元気。でもそろそろ限界かもしれない。

朽ちかけた扉をモンキーレンチの唐竹割りで吹き飛ばして、声の元へと転がりこむ。

「みつけた!! 桜井くん! 今までどこいってたのさー!!!」

廃墟に微震が走り、木のくずと粉状に積もった埃が降りそそいで舞い上がる。
ゴゴゴゴ、と地鳴りが聞こえて地の底から唸るような声がする。揺れは大きくなるばかり。

「どこのだれだか知らないけれど、一度しか言わないよ――――桜井くんを返して!!」

揺れは立っていられない程になって、どこか近くで天井が崩落する。廃材が散乱する。

桜井 雄二 > 対異能では対異形の対策にはならない。
怪物にひたすらくすぐられてなお、耐えている深海の私兵たち。

そして扉を破壊して現れる少女に、桜井が顔を上げる。

「……泪………」
『き、貴様………!』

建物全体が揺れる中、深海が右手に水球を作り出す。

『フン、この男から情報を聞き出すのが私の仕事』
『私の停滞と水を司る異能、海底に降る雪(マリン・スノー)で一息に葬ってやる!!』

桜井雄二が口の中に含んでいた氷でできた針を深海の太股に吹く。
突き刺さる氷針。

『つ……こ、こいつ!? ブラック・ギアスがついているのに異能を!?』
「泪に……手を出すなっ!」

三千歳 泪 > 「大丈夫だよ桜井くん。今日は私が助ける番だから、任しといて!!」

全部言いきる前に巨人の右手が床を突き破り、異能使いの全身を握りこむ。

今はなき軍事国家で生まれ、人工知能研究会の秘密研究所に眠っていた鋼鉄の巨人。
完全なる自律活動、自己増殖、自己進化の実現に限りなく近づいたと言われる傑作ウォーマシン。
あらゆる経験を取り込んで進化する夢の軍用AI。闇から闇へと葬られた禁忌の蛭子。

その名は《ゲレルト》。またの名をゲレゲレ。
生まれもった本来の機体は完全にレストアされて、新品同様のピカピカになっている。
壊れたものを直すのが私の仕事だからね!

「ナイスタイミング!! ブラックなんとかってこれ…?」
「黒いし…壊しちゃって大丈夫かなー…付いてると異能が使えなくなるんだ?」

錠前破りはお手のもの。桜井くんに抱きついて、曲げたヘアピンと手先の感触だけで手錠を解く。
過剰包装気味の鎖も外して、黒いのはペンチではさんでぐにゃっと。

「うーん…洗ってない桜井くんの匂いがする! 帰ったらお風呂場直行だね!!」