2016/05/04 のログ
ご案内:「女子寮・三枝あかりの部屋」に三枝あかりさんが現れました。
ご案内:「女子寮・三枝あかりの部屋」に梧桐律さんが現れました。
三枝あかり > 「……………」
天井が歪んで見える。
熱だ。咳だ。とにかく風邪だ。

「フフフ………この私の異能、虚空の神々(インフラブラック)にかかれば…!」

パジャマ姿のまま手を棚に向ける。
重力と斥力を自在に操るその手は、体温計を棚から浮遊させ、掌にぴしっと収めた。

「…………」

熱を測る。外角高めだった。

「もうだめ……」

視界が歪んでいるため、携帯が弄れない。
昨日シャワーは浴びたものの、もう汗をかいている。
地獄であった。

梧桐律 > この情報化社会にあって、完全なる音信普通というのはなかなか考えづらい事態だ。
思いつく限りの手段を試してみて、尚も万策尽きたということは何やら不穏な示唆を含んでいる気がする。

思えば、生活委員会はその名の穏当さからは想像もつかないほど敵が多い。
その是非を論じる気はない。気がかりは、三枝あかり個人のことだ。
何か良くない状況に巻き込まれているんじゃないか。だとすれば、逡巡を捨てて行動すべきだ。
あれははこの寄る辺なき死霊が現世にとどまるための楔のようなもの。唯一無二の存在なのだから。

女子寮の前。かつて住み慣れたこの地にたどり着いてふと気づく。

「………中には…入れないよな……」

残念ながら、奇神萱は使えない。学園都市を去ってしまった。

―――仕方ない。他のを使おう。

三枝あかり > 女子寮の前には見回りの女性異能者がいる。
結構な割合で近距離パワー型の異能を持つ彼女達は、女子寮の番人である。
卒業生になるまで風紀で鍛えた彼女たちは女子寮の警備を任されるという形で今もこの島にいる。

現在、正門前に二人。裏口に一人。

梧桐律 > 首が痛い。ロビーで大口を開けて眠りこけてた所為だ。
名も知れぬ女子生徒の、筋肉痛気味の手足をぐっと伸ばしてガラスのテーブルを覗き込む。
栗色の長髪。見るからに健康体で、活発そうな運動部風の上級生。
それが今の俺の姿だ。

風邪を引きかけているのか、むずむずする鼻の頭をこすって辺りを見回す。
人影はまばらだが、かといってセキュリティがおそろかになっている訳ではない。
建物の正面に鉄の守りを誇る門番が二人。裏手にも人員が配置されているとみて間違いない。
ここの住人だった頃は気にも留めなかったが、下手を打てばただでは済まない気がしてならない。

今は、ひとまず。

「様子を見に行くのが先だな…」

うろ覚えの部屋番号を探して呼び鈴を鳴らす。ドアを叩く。

三枝あかり > 『あ、サトコ先輩じゃないっすか、どしたんすか』
『今日の朝練マジきつかったっすねー』

部屋の中でダベってた体育会系女子たちが手を上げて挨拶してくる。
この世界でも運動部の上下関係はしっかりしている(のか?)。

『そういえばー、1年のミッチーが2年のあの、誰だっけ…とにかくコクられたらしいっすよ!』

IQ低めのガールズトークが始まる。

梧桐律 > ………ハズレだ!!

今はやめろ。具合が悪い。一刻を争う事態かもしれないというのに。

「お、おーお前ら! どーしてるかと思ってなー…」
「へぇ、ミッチー…あの子がね」
「そっかーなるほどなぁ…そーいうお前らはまだなん? どーなのさー言ってみ言ってみ?」

また眠りこけてるやつを探しにいくところからやり直しなんて御免こうむる。
この場は何とか切り抜けるしかない。

「ん、ところでさ。この辺に三枝…なんてったっけ?」
「そだ、あかりだ。部屋、あるだろ? 誰か知らない? 部屋番とかさ」

口調が間違ってたらすまない。

三枝あかり > 『先輩その喋り方……』
『うん……』

女子達が一斉に顔を向き合わせる。

『尾賀先輩の真似っすね!!』
『やっべ、超似てますよぉ!!』

どっと笑いが起きる。誰だ尾賀。

『ええと、三枝あかり? 荒事でもあるんすか?』
『そうそう、あの子たしか超強い異能に目覚めたらしいっすからねー』

異能の印象が先立つ、イマイチ影の薄いあかりだった。

『三枝あかりなら211号室っすよ、なんか風邪ひいてるらしくて連絡網回したんで覚えてますっす』
『風邪かー、今の季節のキッツいっすからねぇ』

梧桐律 > 「だっろー? あっはっはっはっは」

笑うしかない。引きつった笑みになっていないといいんだが。

「あ、風邪ね。そういうことだったか…こっちも連絡つかなくってさー」
「ちょっと様子見てくるわー。あ、あと今のさ、尾賀ちゃんには黙っといてくれる?」

口の前に人差し指を立てて、こほんと咳払い。

「明日も早いぞ。早く寝よろなー!」

ばたん。
201号室のドアの前で深々と溜息をつく。ほんの数分でどっと疲れた気がする。

薬局に寄っていこう。おでこの冷えるやつとか、普通は常備してないからな。
あと軽食と甘い飲み物なんかも。
パッと見死体にしか見えない俺の身体から財布を抜いて往復。その間だいたい15分くらい。

気を取り直して、211号室の呼び鈴を鳴らす。

三枝あかり > 『ういーっす、おやすみなさい!』
『内緒っすねー、わかりました、今日のサトコ先輩マジパネーション』

ドアが閉じられ、伏魔の部屋は隔絶された。

 

そして。
「……はい」
死人のような顔をした三枝あかりが呼び鈴を受けて出る。

「あっ……サッカー部の竹林先輩、でしたっけ」

あまり馴染みのない訪問者、一体自分に何の用事なのだろう。

梧桐律 > 竹林キナコ。サトミ。違う。……サト…?
とにかくフルネームが揃った。サッカー部の。なるほど。

「やほーあっかりーんおひさー!! ウチの部の子たちが風邪ひいたって言っててさー」

買い物袋をみせる。

「わ、顔真っ赤じゃん! 平気? 熱何度あるの?? ダメだよー寝てないと!」
「てか、あたしが呼んだんだっけ。えへへへ…まあまあまあ、とにかく入れてくれる?」

廊下にはまだ、人の目がある。
肩を押して、部屋の中へと。

三枝あかり > 「え、あ、その……お久しぶりです…」

いきなりパーソナルスペース内に踏み込まれると眼が死ぬ。
そんな生き物である。三枝あかりは。

「ああああああ……今部屋が散らかってて………!」

完全に心が死んだ状態で部屋の中まで押し込まれる。
重力と時間を操る異能者は、押しに弱い。

梧桐律 > 後ろ手に鍵を閉めて、外界から切り離される。
やっと真相にたどりついた。深く深くため息をつく。

「もっと酷いのも見たことあるぞ。汚部屋って程じゃない」
「生ゴミが散らかってないだけまだマシだ。それに」

さっそくお店を広げ、荒れた喉にきく柑橘系の温かい飲料のミニボトルを投げる。

「ここに来るのは初めてじゃない。まだこっちにいた頃に何度か」
「空気が澱んでるな。換気しても?」

返事を待たずに窓を開ける。栗色の髪が夜風にそよいだ。

三枝あかり > 鍵を閉められるとああもうダメ絞められると感情が氷点下に。
なんだって私はサッカー部の先輩にここまで恨まれたのだろう。
さようなら梧桐先輩。私はここまでのようです。

その時、聞こえてきた言葉は。

「え、あ、あれ……梧桐、先輩…?」

投げられたミニボトルを異能で速度を緩やかにして両手でキャッチ。

「あ、う、ああ…!」

真っ赤になって後ろを向く。

「梧桐先輩じゃないですか……今すっぴんだから見ないでくださいよ…」

熱があがった! …それどころじゃないだろうに。