2016/06/01 のログ
ご案内:「クローデットのおもいで」にクローデットさんが現れました。
■クローデット > 後期中等教育を終える頃のことです。
限りなく失敗に近いとはいえ、何とか賢者の石を作ることにも成功し。
私は、来年度からおじい様が立ち上げに参加した研究機関の研究生となることになっていました。
おじい様も、おばあ様も、お母様も…もちろん、ひいおばあ様も、私を優秀だと褒めて下さいました。
しかし、私の中では、父への対抗心がおさえられなくなっていました。
白魔術と錬金術を除くあらゆる分野で当たり前のように私の先を行き…それでいながら、ひいおばあ様を裏切り続けている男への、対抗心。
私は、「裏切り者」よりも上を行ったことを出来るだけ早く知らしめて、ひいおばあ様を喜ばせて差し上げたかったのです。
それで、実験を試みることにしたのです。
…属性魔術の禁術の、発動実験を。
■クローデット > 無論、危険な実験です。
ひいおばあ様にお願いして、いざという時に抑えることの出来る者を何人かつけて頂くことにしました。
ひいおばあ様に忠実で、属性魔術に長けた者達です。
『頑張ってね、クローデット』
ひいおばあ様は、以前より細くなられたお声で、私を激励して下さいました。
無論、街中で実験を行うわけには行きませんから、強固な防護措置がなされた実験施設を使います。
そうして、準備を整えていきました。
■クローデット > 準備が整って、いよいよ術式の構成開始です。
呪文の詠唱を始めます。
「天より降りたる原初の火、
その真の姿は世界を引き裂く…」
禁術ですから、詠唱は五行ほど重ねなければなりません。
二行目までは滞りなく魔力が循環したのですが…そのせいで、気が抜けてしまったのでしょうか。
「人の手のために嵌められしその楔…」
属性の顕現の制限を外すための詠唱の段階で、魔力の均衡が崩れたのです。
■クローデット > しかし、私はそこでやめませんでした。
実験の動機は、父への対抗心です。そう簡単に諦めたくありませんでした。
「今我が手により解き放たん…」
しかし、平静を欠いた心を表すかのように、詠唱を進めるほどに魔力はどんどん歪なふくれあがり方をしていきます。
傍につけていた者達は優秀でしたが、魔力容量では私に劣るため、事故の抑制は間に合いそうにありませんでした。
もはや、発動を途中で取りやめても、被害が出ることは不可避のように思われました…
その、時でした。
『レプレッシオン・ドゥ・マジック(魔力封印)!』
忌々しい声が、魔力による魔術を封印する領域術式を唱えたのです。
魔力は落ち着き、全てが、静寂に帰りました。
■クローデット > 魔力を封印した男…私の父が、まっすぐ私の方にやってきます。
『…何で、こんな無茶をしたんだ?
おじい様だって、属性魔術の試験に禁術までは課していないはずだろう』
父は怒鳴ったり…ましてや殴ったりなどはしませんでしたが、それでも、その穏やかな口調の中に、感情のうねりが表れていました。
父が私の愚行に怒りを覚えている。
父が、私の身の安全を心配している。
………
感情の整理がつかなかった私は、その場から逃げ出してしまいました。
■クローデット > その後、父から報告がなされ、私は、おじい様にも、おばあ様にも、お母様にもひどく叱責されました。
反省文を書かなければ研究機関への所属をなかったことにするとまでおじい様に言われてしまい…何とか書きあげましたが、私は悔しくてたまりませんでした。
私は、反省文を提出したその足で、ひいおばあ様のところに駆け込みます。
■クローデット > 「…おじい様も、おばあ様も…お母様も、父の肩を持ちました…
………おまけに…父に、危機を救われるという屈辱を…」
そうひいおばあ様に泣きつきながら…悔しくて、涙が滲みます。
…その私の頭に、枯れた手が、優しく乗せられました。
『…あなたが無事なのが一番よ…
…でも、悔しい気持ちは大切にしなさい。
あなたが、もっと立派な魔術師になるための、糧になるから。
あなたが、アルベールを超えようと頑張ってくれたこと…嬉しく思うわ』
「………ありがとうございます、ひいおばあ様。
「あたくし」は…悔しいですがまだ未熟です。
ですが………いずれは、「あの男」を超えてみせます」
あたくしは、ひいおばあ様のもう一方の手を取って、両手で包むように握ります。
ひいおばあ様は、弱々しいながらも、あたくしの手を握り返して下さいました。
■クローデット > ひいおばあ様は、ご高齢です。
もう、何年も生きられないでしょう。
あたくしが作った賢者の石の欠片は、ひいおばあ様の命を延ばすのに使いました。
それでも、恐らく1年も足しにはなっていないでしょう。
だから、あたくしは見せねばならないのです。
あの男…忌々しい父を、魔術師として超える姿を。
そして…ひいおばあ様の悲しみが、救われる場面を。
ご案内:「クローデットのおもいで」からクローデットさんが去りました。