2016/10/12 のログ
ご案内:「訓練施設」にユウさんが現れました。
■ユウ > 如何に有用な代物であろうとも使い道が判然としないのならば役に立たない。
それは何時如何なる時代にあって変わる事の無い物事であり、何時如何なる世界にあっても変わらない。
無機質に整えられ、設えられ、誂えられた訓練施設の中にあってニュー=ユード・バイパーは最先端の訓練機器の全てを使わずに
懸垂棒を用いた地味なトレーニングを行っていた。
彼女は決して浅学菲才では無かったが気が向かなければ向かない全てが頭に入らない性質の、少々厄介な精神性を持っていたのだから
どうして訓練機器を使わないのか?と時折誰かが尋ねても「何となくですかねえ」と緩やかに笑うのみだ。
「ま、こんな事をしても此方じゃあ私が戦うような事は無いんでしょうが……」
両腕に彫り込まれた不可解な紋様の刺青も露なトレーニング・ウェアを汗で濡らしながら呟き、そう大きくは無い肢体が躍る。
まるでサーカスの曲芸師のように身体を翻したかと思えば懸垂棒に膝を引っ掛けるような逆しまの姿勢となっての腹筋運動である。
「……いざってえ時に鈍っているのも格好悪いですねえ。」
暫くそういった運動が続くがやがて大きく嘆息を吐き、両腕をだらりと伸ばして宛ら吊るされたかのような有様で笑った。
それは酷く滑稽で視る者の笑いをきっと誘ったのだろうが、生憎と今は室内に居るのは彼女独りで、呟きの他には緩やかな環境音楽が流れているだけだった。
勿論、環境音楽が呟きに応える事は無かった。
■ユウ > 「ただ"いざ"があるんですかねえ~……。」
逆しまのまま腕を組み、緩慢と身体を揺すり、そして誰が見ている訳も無く判り易い渋面を象った。
仮のユウの言う事があったとしても、そこに思想が絡む事を彼女は嫌った。
戦争や戦いの理由なんてものは単に生活を豊かにする為だけでいいだろうと考えるのだ。
そこに余計な思想が混じってしまうと(それは私には関係ないだろう)そう思ってしまうのだ。
「あちらさんはどう考えているものやらですが~……案外何も考えてなかったりして。」
あちらさん。とは同郷の豪放磊落な猛剣士の事だ。
同居して数日が経つが、やれ洗濯物は出しっ放しだわ裸に近い格好で室内でいるわ、と
同居する事によるメリットとの引き換えにユウの精神はそれなりに磨耗している。
何処か育児疲れの母親みたいだとは思っても思わない事にしていた。
■ユウ > 「……おっと、考え過ぎないように身体を動かしに来たのに私とした事が。
厭ですねえ独り言なんかも零しちゃって。あれですかね、やっぱり不安なんですかねえ。」
懸垂棒から膝を落とし、綺麗に倒立するように着地をしてから身を起し、傍らにかけておいたタオルで顔を拭う。
此処は食事も美味いし水も綺麗だ。空気も不快では無い。勿論それらに該当しない地域もあるにしても
大別すれば綺麗で安全な場所と言っても良かった。その事事態に不満はありよう筈も無い。
「いけませんねえ。こんなの、顔見知りに聴かれでもしたら笑われてしまいますよ。」
転戦を主とする部隊の長が何を、と自嘲気味に口端を緩めて彼女の足は自動販売機の前に向かった。
硬貨を入れてボタンを押せば飲み物が出る。こういった機械の類は勿論彼女の世界には無いものだが
二言三言の説明で理解し得る物なら、そこに彼女の気の向きは然して介在しない。
見慣れない飲み物を買うような事も無い。
■ユウ > ――ただ、炭酸紅茶は見慣れて見慣れぬ代物であったのか。
缶を開けて一口呷った後には随分と突拍子も無い声が上がった。
ご案内:「訓練施設」からユウさんが去りました。