2017/03/15 のログ
ステーシー >  
ガリガリガリガリ。
ギャリリリリッ。

ははは、私、口の中にドリル突っ込まれてる。
変な笑いが出そうになった。感情がバカになってる。
耳も丸出し、口全開、おまけに歯を削られてる。
涙が頬を伝った。

「痛かったら手を上げてくださいね」

手を上げれば……この地獄から開放されるの…?
薄ぼんやりとした意識の中で、根管治療前の下処理段階のステーシーは思った。

お師匠様。
孤児同然だった私を慈しみ、厳しく鍛えてくれたリルカさん。
四季を共にすごした、親代わり姉代わりの、優しいヒト。
ごめんなさい、刀を盗んで家を飛び出して。
今なら素直に謝がががががが

センチメンタルな妄想などすぐに吹き飛んでしまう。
それほどまでの暴治(暴力的治療の意)。

ステーシー >  
恐怖心。私の心に、恐怖心。
もう頑張った、だからもういいよね。
私はそっと右手を上げた。

『もうちょっと我慢してくださいね』

おいコラァ!!
痛かったら右手を上げてくださいって言うたやんけぇ!!
何……え、何?
どういうことなの!? やっぱり殺されるの!?

右手を歯科助手に下ろされて獄治(地獄の治療の意)は続く。

そして、時は流れた。
一時間くらい。

『お疲れ様でした、ステーシーさんよく我慢しましたね』

歯医者が労わりの言葉をかける。
魂が抜けた私は、言われるがままに頷く。
目が死んでる。絶対今の私、目が死んでる。

でもこれで治療は終わった……
明日から自分だけは自分を信じて生きていける。
だって、もう苦しみの刻は終わったのだから。

診察代を支払い、青空を見るために外に一歩を踏み出そうとした。

『あの、ステーシーさん。次回の治療の予約がまだですよ?』

 

ネバーエンディングヘル。
地獄はまだ、終わらない。

ご案内:「歯医者『板井歯科』」からステーシーさんが去りました。