2017/05/24 のログ
■黒髪の少女 > 「この街じゃ、大体のことは「自己責任」にされちゃうことくらいは知ってる。
…一応、「自衛」くらいは出来るようにしてるけど。趣味楽しむのも楽じゃないよね」
あどけない少女の声が、洗練されない口調で答える。
もし「彼」が「少女」の正体に気付いていたら、並べられる嘘八百に平静ではいられないだろう。
「好きでここにいるわけじゃない」と聞けば、目をぱちくりと大きく瞬いて…
「………じゃあ、ここで野宿ってこと?
邪魔しちゃってごめんなさい…まさか、ここまで状態の悪い廃墟で野宿しようとする人がいるなんて思わなくて」
…お互い姿が見えているわけでもないのに、わざわざ謝罪のために頭まで下げてみせる。
…その一方でこの「少女」は、巨体が足を踏み鳴らすことで発生している音に、萎縮する様子を見せなかった。
「…流石に趣味で他の人の眠りを妨げちゃまずいし、今日は帰るね。
そのうち、もっといい寝場所見つかるといいね、お兄さん」
唸り声を意に介する様子もなく、会話の相手を「お兄さん」呼ばわりして。
「少女」は、歩みの進路を変えた。「彼」のいる方からは、ちょうど背中を向ける形だ。
■ヴィルヘルム > 貴女が背を向ければ,巨体は静かに頭を下ろし,再び丸まった。
聞き覚えのある声が神経を逆撫でしてくる…一瞬でも早く消えてほしかった。
貴女が何者だとしても,怖がらせたいわけではないし,彼自身,この姿を見られたくはなかった。
「もうここには来るな…
…君が邪魔をしないなら,僕の場所は,ここでいい。」
その声に込められたのは僅かな怒りと,そして大きな悲しみ。
彼は,貴女の正体を暴こうなどと考えてはいなかった。
「……さようなら。」
別れの言葉が,あまりに寂しげに響く。
■黒髪の少女 > 「………好きでいるわけじゃないのに、ここでいいんだ?」
あどけない少女の声が、暴力的なほど無邪気に「彼」の悲しみへの無理解を示す。
唸り声は確かに聞いているはずなのに、なかったことにしているのか、大したことではないと認識しているのか。
実際、「少女」は「予想通り」大人しかった「彼」が、こうまで神経質になっていることを軽く見ていた。
こうまで神経質になるくらいなら、鍵が機能しないような野宿場所を選ぶのは愚策なはずだし。
「少女」は、悪い意味で無邪気に言葉を紡いで、マイペースに廃屋を歩いている。
■ヴィルヘルム > 悲しみを理解してほしいなどとは,思っても居なかった。
自分が何に対して怒り,何に対して悲しんでいるのかさえ,理解していないのかもしれない。
ただ,単純に,ただでさえ神経を逆撫でする貴女の言葉は,抑え込もうとした怒りを解放するに十分だった。
「帰れと言っている!!!」
無造作に振り上げた前腕が壁を突き破り,振動と破砕音と土煙を貴女にまで届ける。
続けざまに,獣のような雄叫びが響き……そして消えていった。
巨大な狼は己の姿や凶暴性に絶望して自らをこの場所に封印したが,
一方で外界との繋がりを完全に断ち切るだけの勇気をもたなかった。
誰かが助けてくれる。気付いてくれる。そんな希望を捨て切れずにいたのである。
「………ごめん。…お願いだから,帰って。」
溢れ出してしまった怒り,抑えきれなかった衝動,それは彼が最も恐れていたものだった。
絶望を深めた声は。まるで消え入るように。
■黒髪の少女 > 「………。」
いきなり変わった口調。大きな破砕音、振動。挙句、後ろから漂ってきた土煙。
「少女」は驚愕…恐怖ではなく…に目を大きく見開いて、思わず後ろを振り返った。
続けざまに、獣の雄叫びが響く。
(…なるほど、人を寄せたくないのは抑制のためですか)
自分が想像していたより、「彼」には人狼化の影響が出ているようだった。
…いや、だからこそ鍵は必要ではないかと「少女」は思ったが。
「………私の方こそ、軽く考えてた。ごめん。
今の音と声、噂にならないといいね」
「彼」の謝罪と懇願にその口調はあどけなさをひそめ、悪い意味での無邪気さは消え失せる。存外、真摯だった。
「少女」はそうまで言ってから再度「彼」のいる方角に背を向けて…マイペースな足取りのまま、それでもまっすぐ廃屋を出て行くのだった。
ご案内:「廃屋の一室」から黒髪の少女さんが去りました。
■ヴィルヘルム > 獣と化した青年は,貴女の言葉にもはや応えさえしなかった。
貴女への怒りよりも,己自身への怒り,この凶暴性への憎悪と絶望が心を支配していた。
こうして,元より存在しない居場所を,一層失っていくのだと。
そして,それは正しく,魔術を仕掛けた相手の思う壺だったのだろう。
誰かに助けを求めることもなく,彼はただそこに在ることしかできなかった。
「………。」
貴女が去ったあと,彼はその大きな体を丸めて,まるで全てから隠れるように,眼を閉じた。
昂った感情を抑えるだけでも一苦労なのだ,すぐに眠れるわけもない。
月が沈み,朝日が昇るまで,彼の長い長い夜は,今日も終わらない。
ご案内:「廃屋の一室」からヴィルヘルムさんが去りました。