2017/06/19 のログ
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
■ヴィルヘルム > 怪物と化した青年が棲みついて何日が経っただろうか。
日増しに増えていった傷跡も,ある日を境にぱったりと増えることはなくなった。
そればかりか,廃屋の一室はまるで人が住んでいるかのように整えられてさえいた。
唯一,入り口だけは徹底的に破壊されており,不意の来訪者を拒んでいる。
それはもはや,怪物と化した青年が,外の世界に助けを求めていない証拠であった。
■ヴィルヘルム > 「………………。」
そして彼は,己の身体に施された魔術をほぼ正確に読み取りつつあった。
昼間はもとより,雲に覆われた夜空の下でも,新月の下でも,怪物と化することはない。
満月の夜に狼へ転じる狼男の物語を知っていたのも,何かの役に立ったかもしれない。
いずれにせよ,彼は昼間の間,そして月の陰った夜,一人の青年として行動することができた。
■ヴィルヘルム > とは言え,別段何をするでもない。
落第街の裏路地を転々とし,日々の糧を得て,飢えと渇きをしのぐ。
青年がしていたのは,ただそれだけのことだった。
そして夜になれば廃屋に籠り,怪物と化してひたすら息を潜める。
「…………………。」
深い思案があったわけではない。
ただ,明らかに変化している点があるとするのなら,彼は確かに生きようとしていた。
■ヴィルヘルム > 彼は,どこまでも単純だった。
必要とされれば,己の全てをかけてでもそれに応える。
それはあまりにも救われ難い彼の性質であり,紅色の瞳を持って生まれた彼の宿命だったのかもしれない。
「…………………。」
力も知識も無い自分には,何もできはしない。
けれど,いつか,この身が役に立つ日が来るだろう。
■ヴィルヘルム > この牙も,爪も,鼻も目も,忌々しい全てが,何かの役に立つだろう。
そう思えばこの姿も,案外悪いものでもないように感じられた。
…あの時“少女”がこの姿を見て,恐れることもなく接してくれたからこそ,そう思えるのかも知れない。
「…………………。」
同じことの繰り返しだと,自分でも自分を愚かだと思う。
信じるべきではない相手だと,自分の中でもう一人の自分が警鐘を鳴らす。
■ヴィルヘルム > 自分を殺そうとしたのはクローデットの言う【たいせつなひと】だろう。
そしてクローデットは,この命を助けてくれたのだ。
これを信じずして何を信じるのだろうか。
■ヴィルヘルム > だが,この身がこれほどの苦痛を味わっているのも,元はと言えばクローデットの所為ではないか。
彼女に関わったが故に,その【たいせつなひと】に狙われることとなったのだ。
…………いっそ,クローデット共々,嚙み殺してやればいい。
■ヴィルヘルム > 彼女が,【たいせつなひと】の方だろうと,クローデットの方だろうと,
次に現れた時には……。
その時には,きっと心を決めなければならないのだろう。
■ヴィルヘルム > “優しい怪物”として生きるか。
それとも,ヴィルヘルム=フォン=シュピリシルドとして死ぬか。
ご案内:「廃屋の一室」からヴィルヘルムさんが去りました。