2017/06/22 のログ
ご案内:「学生街住宅地・クローデット私宅前」にヴィルヘルムさんが現れました。
ヴィルヘルム > この夜を選んだのは偶然ではなかった。
月の光がこの身体を怪物へと変じさせるのだと,正確に把握していたのだ。
曇りの夜では万が一のことがあり,かといって昼間では人目に付く。

「…………………。」

果たすべき目的は実に単純で,そのために必要な時間はほんの一瞬でよかった。
周囲に気を配りながらも,青年は玄関前にまで足を進めて,そこに“お皿”を置く。

手紙を添えることもなく,戸を叩くこともなく。
ただ,家に向かって静かに静かにお辞儀をして,青年はくるりと背を向けた。

ご案内:「学生街住宅地・クローデット私宅前」にクローデットさんが現れました。
クローデット > 卒業発表の主役である装置の組み立てが興に乗って、すっかり帰宅が遅くなってしまった。
…もっとも、クローデットにとって夜の闇も、そこに潜む何ものかも、大抵は対応出来るものである。クローデットは転移も活用しながら、それでもマイペースに帰途につき…

「………。」

自分の家の門から出てくる青年の姿を、目撃してしまった。

「………どうして………。」

クローデットの顔には、いつもの笑みはない。
それどころか、まるで死人でも目撃したかのような、驚愕の表情を浮かべていた。

ヴィルヘルム > まさかこの時間に帰ってこようとは思いもよらなかった。
出来ることなら顔を合わせたくなかったというのが本音である。
だがそれは,貴女に比べれば取るに足らないような理由からだった。
貴女の置かれた立場を十分には理解していない青年は,単に貴女にどう声をかけていいか分からなかったのだ。

「……………?」

だからこそ,貴女の様子がおかしいということに,青年はすぐに気付いた。
あの時の少女の言葉が、ふと脳裏をよぎる。
忘れなければならない,蓋をしなければならない。

「………ごめん。」

ここに居てはいけない。そう直感した青年はそうとだけつぶやいて,貴女の横を通り抜けようとする。

クローデット > 「………っ」

苦しげに頭に右手を当てたクローデットは、そのまま座り込む中…左手で、強引にヴィルヘルムの腕を掴もうとする。

「………あなた…どうして、生きて………!」

苦しげな声が、吐き出すように、絞り出すように発せられる。
クローデットの「記憶の蓋」がどのように作用しているのかが、伺えるかも知れない。

ヴィルヘルム > 「…………!」

走り抜けようとしていたわけでもない,腕を掴まれればその足は止まった。
だが貴女の表情は,事態が尋常のものでないことを告げていた。

「…あの時は…………。」

助けてくれたんじゃないか。そう言いかけて,青年は言葉を飲み込んだ。
いけない。あまりにも迂闊だった。
ここで出会ったことを,それどころか,ここへ来たことも皿を返そうとしたことも,
青年は全てを後悔したが,既に遅かった。

「……僕は,死んだ狼の幽霊さ。」

青年は貴女から視線をそらし,腕を振りほどいて,逃げようとするだろう。

クローデット > 「………あの、とき………、っ」

青年が零した言葉を呟いて、それから苦鳴を零してうつ伏せに倒れ込む。
青年の腕を掴む左手に力を込めるが…青年が本気になれば、振りほどくのは容易だっただろう。

「…思い出せない…思い出してはいけない…」

うつ伏せになったまま、かすれた声が泣きそうに聞こえる。
それでも、その声はまだ若い女性のそれとわかるものだったが。

ヴィルヘルム > 腕を振りほどいだ青年の身体は自由になった。
だが,彼はそのまま闇に消えてゆくことはできなかった。

「……………………。」

それもまた,迂闊な行動だっただろう。
しかし青年は,貴女をそのまま残して消え去ることが,どうしてもできなかったのだ。
やがて足を止め,青年は振り返った。

クローデット > 「………ごめんなさい…ごめんなさい………」

消え入りそうな涙声が、謝罪の言葉を連ねている。
クローデットの様々な側面を目にしただろう青年にとっても、その様は異様に映るだろう。

「………。」

やがて、沈黙したクローデットは、座り込んだままゆっくりと上体を起こす。

ヴィルヘルム > その言葉が自分に向けられたものでないことは,直感的に理解できた。
あの時,自分を助けたのは紛れもなくクローデットだが,
それはクローデットが“たいせつなひと”に歯向かったことを意味している。

「……………っ…。」

どうしていいのか,分からなかった。
声をかけようとして,言葉に詰まり,青年はただ見つめていることしかできなかった。
貴女の名前を呼びかけて,しかし,口を噤んだのは…過去にそれを咎められた故だろうか。

クローデット > 「………。」

もう、無理だ。何もかも終わりだ。
充実した研究生活も、大義名分の元に「あいつら」を甚振る日々も。

「…時を超越する翼よ、我らを行くべき場所へ導きたまえ…」

と、クローデットを中心に、青年が立つ位置まで、魔力が展開され始める。
詠唱するその声は、間違いなくクローデットのものだが…。

ヴィルヘルム > …青年は逃げようとしなかった。
実際,逃げられたのかどうかも分からない。
そんなことは思いもよらなかった。

「…………。」

貴女が何をしようとしているのか,青年には分からない。
だがそれでも,足を止めて振り向いた瞬間から,逃げ出すという選択肢はなくなっていた。

クローデット > クローデットが展開していたのは、自分以外の存在も一緒に「連れて行く」、転移魔術。

「………転移(トラスファー)」

静かな声が、術式の完成を告げる。
目指すのは、「狼」が「塒」としていた、あの場所だ。

ヴィルヘルム > 青年は静かに瞳を閉じた。この身など最初からどうでもいいのだ。
生き永らえようと決めたのも,クローデットを待つため。
……ならば,ここで逃げ出す理由はどこにもなかった。

「…………。」

青年は思う。何が起こるにせよ,この身が滅ぶにせよ,
せめて,クローデットだけは救おうと。

クローデット > 異変を察知してか、クローデットと青年が転移する間際、家の扉が開いた。

『お嬢様…!』

ハウスキーパーのそんな声は、二人に届いただろうか。

転移の最中、空間の狭間の一瞬。

(…ひいおばあ様、ごめんなさい…)

泣いているかのようなクローデットの呟きを、青年は聞いた気がしたかもしれない。

ご案内:「学生街住宅地・クローデット私宅前」からヴィルヘルムさんが去りました。
ご案内:「学生街住宅地・クローデット私宅前」からクローデットさんが去りました。