2017/07/12 のログ
クローデット > 「………あまり…頭が、働いていなかったものですから…申し訳ありません」

顔を背けて…その上、横から見るに、目も閉じている様子の「怪物」に…躊躇いがちに、謝罪の言葉を。

「…見苦しいですから、あまり見せるものでもないかと思ったのですけれど…
………姿を見せることすら拒絶するのも、悪いかと思ってしまいまして…」

薄手のネグリジェ。裸足。…おまけに、やつれて瑞々しさの翳った顔。
そんな風に弁明しながら、クローデットも視線を落とす。

ヴィルヘルム > 貴女のやつれた顔を認識せずに済んだのは,都合が良かったかもしれない。
もしそれをまっすぐに見ていたら,それこそ,貴女を病院へ連れていくとでも言い出しかねなかっただろうから。

「……疲れ過ぎだって…もう……。」

すぐに貴女を寝かしつけてやりたいところだが,問題があった。
普段通りの服を着ているのなら,ともかくとして…

「……色々落ちてて裸足じゃ危ないし…そんな薄着であのソファに寝たら,痛いよ。」

…ここは打ち捨てられた廃屋なのだ。
裸足で歩けば釘や木の切れ端を踏むだろうし,寝心地の良い柔らかなソファなどあろうはずもない。
けれど,帰れというわけにもいかないし,どにかして,クローデットの役に立ちたかった。

……少し考えた後で,ヴィルヘルムは,横を向いたまま貴女に身体を寄せる。
瞳は閉じたまま……決して開かないと誓って,ヴィルヘルムは,ひとつ,思い付いた大胆なことを行動に移す。

「……もう少し柔らかいソファがあるから……乗るか,背中につかまって。」

クローデット > 「…学園の講義に出なければ卒業は出来ませんし………卒業研究の準備も、ございますので…」

魔術の探究やら学業やらについては、妙に真面目であった。
まあ、どこまで集中して取り組めているかはお察しというものである。

「…ああ、お気になさらないで下さい。
最低限の防御術式は、常備しておりますので…、………?」

身体を寄せてくるヴィルヘルムと、彼の提案。
あまり心配をかけるわけにもいかないと思い…身体の重心を、巨大な狼の背中に預け、腕をかける。

ヴィルヘルム > ヴィルヘルムは“表”の世界に馴染めていない。
だからこそ,学園や卒業研究にそれほどの価値を見出してはいなかった。
だが一方で,貴女は自分とは違い,表を生きることができる人間だと,そう信じていた。

「…無理は駄目。
 でも………流石だね,そんなに疲れてても,君は,頑張ることをやめないんだから。」

背に貴女の重さを感じれば,ゆっくりと身体を持ち上げる。
もちろん,貴女の温かさや柔らかさも伝わってくるのだが……。

「そっか………。」

防御術式は流石に予想外だった。つまり,自分は何ら必要もない行動を起こしてしまったことになる。
だが,もう後戻りはできないし,貴女をあの硬いソファに転がすわけにはいかなかった。

「……ちょっと,つかまっててね。」

ソファのある部屋には向かわず,いつも寝ている風通しの良い部屋へ歩む。
そして,普段通りの場所で,狼は静かに姿勢を下げ…丸くなった。

……それだけで,2mを超える巨大な狼は,貴女の身体を乗せるに十分な広さがある,ソファになるだろう。
美しいプラチナの毛並みは柔らかく,温かい。

クローデット > 「…「自由」になるために…必要なことですから」

クローデットが口にする「自由」の意味を、一般的な範囲に留まらない意味を含んでいることを、青年は感じ取ることが出来るだろうか。

「………ぁっ」

預けた身体がそのまま持ち上がると、慌てて狼の胴体を抱え込むように腕を回す。
そして、向かった先で青年がとった行動には…

「………あの………」

そう、躊躇いがちに発して身体を起こす。…降りようとしているのかもしれない。

ヴィルヘルム > 自由。ヴィルヘルムにとってそれは,複雑な意味をもつ言葉だった。
束縛されることで“居場所”を得てきた時間の方が,ずっと長かったのだから。

「…頼りにはならないかもしれないけれど,僕にできることなら,何でもするよ。」

そうとだけ貴女に告げて,しかし身体を起こす貴女には……しっぽでぺしっ、と一撃を加えた。
寝てろ。ということらしい。

「あのボロボロのソファよりは,寝心地いいよ。
 …曇りの日に寝てる僕が言うんだから,間違いないさ。」

しっぽを器用に動かして,貴女をぽむぽむ,と撫でる。

クローデット > 「っ………上に大人を1人乗せて…苦しく、ありませんか?」

しっぽでぺしっとされつつも、心配するのは相手のこと。
…ただ、その毛並みの感触には、「何故か」覚えがあって…

「………そう、言って下さるのは、嬉しいやら、申し訳ないやら、ですが…」

そっと…出来るだけ優しく、再び狼の巨体に身体を預ける。

「………何故でしょう…この感触、覚えがある気がして………」

そんなことを、ぽつりと呟く。

ヴィルヘルム > 「大丈夫。全然苦しくないよ。」

さらりと言ってのけた。
実際,狼の巨体に対して,クローデットの体重は無視できる程度には軽いだろう。

「…今は,何も考えないで。
 ゆっくり寝て,起きてから考えればいいよ。
 ……悪い夢を見た時も,僕が,ここに居るから,大丈夫。」

貴女の疲労が極限にあることを知っているからこそ,青年は貴女の思考を遮った。
今は少しでも長く,貴女に休養をとってもらいたかったから。

クローデット > 「…そう、ですか…」

さらりと返されれば、躊躇いがちに頷きながらも、狼の巨体の上で身体を丸める。
手を、自らの肩のあたりに伸ばして…

「『解除(ルヴェ)』」

彼女が身につけたものに付けている術式の1つを、切った。
…腕で、自らの身体を抱くようにして…

「………万が一、痛い思いをさせてしまったら………ごめんなさい………」

そんな言葉を残して、クローデットはゆらゆらと、眠りの中に落ちていく。意識が途切れても、今夜のクローデットは「優しい怪物」の傍から消えたりはしなかった。

苦しそうに呻いたり、二の腕を筆頭に、自分の身体のあちこちに爪を立てたり、たまに飛び起きたりして、彼をひどく心配させてしまうのだろうけれど。

ヴィルヘルム > 狼はずっと,瞳を閉じたままでいた。それは青年の素直さを示してもいたし,愚直さを示してもいただろう。
背中に感じる貴女の重さと柔らかさ…そして自分のものでない香りが,貴女の存在を伝えていた。

「……大丈夫だから,安心して…おやすみ。」

……それから朝までの時間,青年は殆ど一睡もできなかった。
起きていようとしたわけではない。だが,クローデットの魘され方は,尋常ではなかった。
貴女が呻くたびに,飛び起きるたびに,青年は優しく声をかけた。それが届いていようと,いまいと,関係なく。

「…大丈夫…大丈夫だから,安心して,クローデット。」


眠れない夜,心の休まらない夜だったが……その夜は,決して不幸な夜ではなかった。

ご案内:「廃屋の一室」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「廃屋の一室」からヴィルヘルムさんが去りました。