2017/07/16 のログ
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
■ヴィルヘルム > 月灯りに照らされて,青年は今宵も狼へとその姿を変える。
いつもと何も変わらぬ夜。いつも通りに部屋の隅に丸くなり,2mはあろうかという巨大な狼が,静かに寝息をたてている。
「………………。」
様子を見る限り,やや深い眠りに落ちているようだ。
ご案内:「廃屋の一室」にクローデットさんが現れました。
■クローデット > 眠りに沈んでいる青年には、入り口付近に湧くように現れた気配は、あまりにもささやかだったかも知れない。
優しく甘い香りは狼の嗅覚には訴えるかも知れないが、眠っている中でどれだけ反応を起せるか。
ルームシューズの底が、床を擦る音をわずかに立てた。
「………シュピリシルド様、よろしいですか?」
入り口から、部屋の中を覗き込むように傾けられた顔。
こちらは、深い眠りはまだ遠いのだろう。その肌の瑞々しさは影をひそめたままで、肩より少し長い髪が、その顔に更に陰を付けている。
…もっとも、今の彼の目では、クローデットの不健康な姿がどれほどしっかり捉えられるかは分からないが。
■ヴィルヘルム > 嗅覚と聴覚が大幅に強化されているとはいえ,
狼のような,生まれ持っての鋭敏な感覚を持ち合わせてはいない。
「…………。」
貴女がそこに現れたことに,青年はまだ気づいていなかった。
しかし貴女の声がその耳にとどけば,耳がピクリと起きて,声のした方へ向けられる。
そして静かに,2mを超える身体が起き上がり……
「………く……あぁぁぁ……。」
あくびをしながら前脚をぐっと前に出して,身体を伸ばした。
声に反応して目を覚ましたが,どうやらまだ若干寝ぼけているようだ。
鼻がスンスンと鳴らされて……そこでやっと,気付く。
「……あっ………!」
慌てて視線もそちらへ向けて,貴女をまっすぐに見る。
静体視力が良くないため,すぐ近くまで近付いて……
「……元気そう,とは,言えない感じだね。大丈夫?」
■クローデット > あくびをしながら伸びをする様など、随分と「獣」が板についている。
その「可愛らしさ」に、つい、くすりとわずかな笑みを零してしまった。
…「獣」を板に「つかせた」のが「何者」かを考えると、良心の呵責を覚えもするのだが。
「…ええ…少しずつ、考えや、感情は…整理出来ているように思いますので」
近づいてきて、心配する言葉をかけてくれる相手に、憂いを帯びながらも柔らかい笑みを作って答える。
「…それで…今夜は、お話など出来ればと思って参ったのですが…
………お休みの、邪魔をしてしまいましたわね。申し訳ありません」
そう言って、視線を落とす。視線だけの礼、という感じだろうか。
■ヴィルヘルム > 青年の側としては,恥ずかしいところを見られたと,ややばつが悪い。
けれど,貴女がこうしてここに来てくれることは,何より嬉しかった。
「…それなら,良かった。酷く魘されていたから…心配したよ。」
狼の身体ではさすがに表情までは作れなかった。
柔らかく笑うかわりに,小さく頷いて見せて…
「あぁ,大丈夫大丈夫。
今日来てくれるって分かってたら,昼間のうちに何か用意しておいたんだけど…。」
飲み物も,食べ物も,今日は本当に何もない。少しだけ申し訳なさそうに,貴女を先導する。
寝るわけでないのなら,ソファに座ってもらうのが一番だろう,と。
■クローデット > 「…心配させてしまって、申し訳ありませんでした」
改めて、軽く頭を下げる。
もてなしの用意がないことの申し訳なさを、獣らしい部分で表現しながら、先導してくれる青年に…
「わたしの都合ですから、お気になさらないで下さい。
…でも、そうですわね…今度は、お伺いする前に何らかの形で連絡致しましょう」
「連絡先は、ソファの上でよろしいですか?」と確認しながら、案内されるままについていく。
■ヴィルヘルム > 「ううん,君が元気なら……それで良いんだ。」
ソファは三人掛けの大きなもので,確かに横になれば十分眠れそうだった。
けれど骨董品というよりかは廃品といった趣で,綺麗に掃除されてはいるが,痛みの箇所は隠しきれない。
そして表面の革も所々劣化し剥がれていて,中のクッションも硬化している。
…青年が貴女をここに寝かせたがらなかった理由が,すぐに分かることだろう。
「右側の方が柔らかいから,そっちに座るといいよ。」
そう促してから,連絡の件には耳と尻尾がぴんと立つ。嬉しいのだろうか,とても分かりやすい。
「連絡…って言っても,ここには電話も何も無い,けれど…。」
■クローデット > 「………ありがとうございます」
「君が元気ならそれで良い」。青年の言葉にクローデットが礼を返すまでには、妙な間があった。その口元には、感情の伺えぬ笑み。
案内された先には…「クローデット」としては初めて見るけれども、仮眠をとった覚えのあるソファ。
「…ありがとうございます」
そう言って、促されるまま、右側に腰掛ける。
連絡するという自身の言葉に、素直過ぎる反応を返してくる青年の様子に…くすりと笑みを零して、
「わたしは「魔女」ですし…最近は講義に出る時以外は私宅におりますので、やりようはいくらでもございますのよ?
…今度こちらに伺う際には…陽が沈む前に、このソファの上に連絡をお送り致しますわね」
そう、柔らかく笑んで頷いた。
■ヴィルヘルム > 「……………。」
その間が示す意味には,思い至るものがなかった。
敢えて追及しなかったのは,そうすべきではないと感じたからだが…それは正しかったのかどうか。
それから,青年は貴女の真正面に,お座り,の状態で座り込む。
「………こうやって正面に座るのも何だか変だね。」
何というか,滑稽だ。とっても。少し考えてから,青年はひょいとソファに飛び乗った。
貴女の横,空いた2人分のスペースに,くるりと身体を丸めて収まった。
貴女に寄り添うような形になっている。
「これで……どうかな?」
この時ヴィルヘルムはさり気なく,一つ冒険をしてみた。自分から貴女に身を寄せたのだ。
自然な動作だったはずだから貴女は気づかないかもしれないが。
■クローデット > 「加害者」と「被害者」の関係を、清算出来ていないと考えているクローデットにとって、青年の心遣いは少々「重い」ものであった。
追求されなかったことに、安堵の思いを抱いていたところで…青年は、「この二人の間柄という基準では」思い切った行動に出る。
「………どちらでも、シュピリシルド様にとって楽なようで構いませんのよ」
くすりと、優しい笑みを零して…クローデットは「優しい怪物」と身を寄せ合うようにすると、彼の頭の後ろに手を伸ばして、撫でにかかろうとする。
明らかに、その扱いは「動物」に対するそれだが、撫でる手つきも、向ける視線も、優しいものには違いなかった。
■ヴィルヘルム > 青年には被害者としての意識が希薄であり,それは貴女の認識と乖離している。
それこそがこの違和感の元凶だと,青年が自ら気付くことは無いだろう。
青年にとっての貴女は……加害者などという言葉とはかけ離れた位置にいる存在なのだから。
「………それじゃ,ここでいいかな。」
撫でられることは,もちろん悪い気はしなかった。その証拠に,尻尾がむずむずと動いている。
一方で,こんなことができるのはこの姿だからこそだろうとも,思う。
それは青年にとってジレンマではあったが,少なくとも今は,この姿に貴女が気を許してくれることを,感謝するほか無かった。
それで,貴女の気がすこしでも楽になり,話しやすくなるなら,それが一番だ。
■クローデット > クローデットはそれなりに高等な教育を受け、現代社会において公の場に出るに恥ずかしくない倫理観を「概ね」取得している。
…「大切な人」のため、「ごく一部」の部分で、それらに蓋をして…クローデットは、「炎の魔女」であり続けたのだ。
かつての青年に対する扱いには、「炎の魔女」としての悪意がふんだんに織り込まれていた。
その蓋が外れた時に訪れるのは…その前で思わず立ちすくんでしまいそうなほどの、罪の意識。
青年は、数少ない「生き残った被害者」なのである。
「この姿」の青年にクローデットがことさら心を、近い距離を許してみせるのは、「人間の」「男」ではないから心を許しやすい、という面もあるが…
それ以上に、「人間の」「男」として振る舞うことに慣れていないだろう青年が、本来の姿の時に距離を詰めても困ってしまうだろうことを考えてのことでもあった。
…これ以上、惑わせるわけにはいかない。
「…シュピリシルド様が、構わないのでしたら」
優しい笑みを湛えたまま、そう伝える。
無論、中身が「ヒト」であることは重々承知している。
だから、この姿の青年に対して馴れ馴れしくするのに抗うようであれば、そこで適切な距離を取り直すつもりではいるのだ。
…相手の方から距離を詰めてきたので、杞憂だろうとは思っているが。
「………幼い頃…母が仕事で手が離せないときは、よくひいおばあ様に面倒を見てもらっていたんです。
その頃は…一線は引いていらっしゃいましたけれど、まだまだお元気でいらっしゃいましたから」
「巨大な忠犬」の頭から首筋を優しく撫でながら、そんな風に、ぽつりぽつりと語り出す。
■ヴィルヘルム > ヴィルヘルムは,無論教育らしい教育を受けられる環境には居なかった。
彼が表の世界で社会生活を営むことを苦手としているのもそこに起因している。
無論,彼の順応力は数週間のうちにそれを可能とするだろうが,その点では,彼に欠けているのは“勇気”だった。
「人間の」「男」として振舞うことに慣れて居ようはずがない。だが,いずれ順応するだろう。
この「狼」の姿や,それに対する貴女の反応が,彼の勇気を後押しした。だからこそ,この姿であれば少しは大胆な行動にも出られる。
「……ありがとう。」
貴女の思考とは裏腹に,ヴィルヘルムは「人間」の「男」として,貴女の隣に座る日を,夢見ていた。
だがそれを,貴女は望まないのではないかと,不安だけが増大しているのも事実だった。
彼に足りないのは,やはり“勇気”だったのだ。
「それじゃ,小さい頃からよく一緒に居たんだ……。」
そう言えば,ひいおばあさんの名前も,まだ知らない。
気持ちよさそうに目を閉じながら,貴女の話に耳を傾ける。
■クローデット > 「…ふふふ」
気持ち良さそうに目を閉じて、まんざらでもない様子の青年の様子に、若い娘らしい無邪気な笑い声を唇から零す。
その手つきは相変わらず優しいけれど、時折その毛並みを堪能するような動きをすることもあった。
「ええ…魔術の初歩…特に白魔術は、ひいおばあ様から教わったんです。
…他にも、昔の混乱の中でお亡くなりになった、娘さん…わたしからすれば大伯母様ですけれど…その方のお話とか…
ひいおじい様が亡くなってから、ずっと、寂しい思いをしていらしたお話とか…」
そんな風に話しながら…「巨大な忠犬」を撫でながら、視線を落とす。
「大切な人」が抱える孤独との向き合い方を間違えたという想い。…それも、クローデットにとっては苦みと痛みを胸にもたらすものだった。
■ヴィルヘルム > 「………。」
貴女の無邪気な笑い声。その響きが,ヴィルへルムには心地よかった。
その手つきに合わせるように額を掌に押し付けたり,貴女に頬を寄せてぴったりとくっついたり…
…その動作は「動物」そのものだったが,少なくとも幸福そうであることは確かだった。
けれど,貴女が亡くなったひいおばあさんの娘さんの話を出せば,瞳を開いて…。
「……ベルナデットさん。」
その名を,小さく呟いた。ひいおばあさんの悲しみ,孤独は,痛いほど分かっている。
伏せの姿勢のまま貴女を見上げる視線と,貴女の落とした視線が合った。
貴女の表情に、陰りを見たのか…青年は,しばしの沈黙ののちに口を開く。
「君は…そんなひいおばあさんが,“好き”だったのかい?」
■クローデット > 「…ふふふ、可愛らしい」
「動物」そのもののしぐさで近づいてくる相手を、クローデットは拒まなかった。
寧ろ、すり寄ってくる「獣」の額に撫でて応えたり、寄せてくる頬に、こちらも頬ずりを返したりして、無邪気に笑う。
「動物」を相手にするコミュニケーションに、「可愛らしい」という言葉。青年の「夢」は、順調に遠のいて感じられるかもしれない。
…が、青年の口からその名前が出ると…クローデットは、寄せていた身体を、少しだけ離した。
「………ご存知でしたか…そうです、ベルナデット大伯母様です。
…今わたしと同じくらいのお歳で、亡くなられたと伺っています」
曾祖母の娘、祖父の妹。若い時に亡くなっているから、クローデットは直接の面識は当然ない。
…彼女の人となりを記憶する人は、どんどんこの世から去ろうとしている。
「…ええ…わたしに対しては、ずっと優しかったんです。
魔術を覚えれば褒めてくれて…わたしが少し無茶をした時にも、味方でいてくれて…。
だから…わたしも、ひいおばあ様の力になるのが、当然だと…ずっと、思っていたんです。
…どんな風に力になるのが正しいのか、考えたこともありませんでした」
口元の笑みは残ったままながらも、視線を落としたその瞳には、鮮烈な痛みが浮かぶ。
■ヴィルヘルム > ちょっとあざとすぎるかもしれない。そうは思ったが,今はそれで良いのだ。
「夢」はまだ「夢」であって,今はそれを求める時ではない。
それ以上に,貴女がこうして無邪気に笑って,楽しそうに一緒に居てくれるのが,嬉しかった。
頬と頬が触れた時は,ドキリとして一瞬動きを止めてしまったりしたが…。
「…ひいおばあさんを,庇った…みたい。詳しくは,分からないけど。」
貴女の様子を見て,青年も切り替えた。
一瞬前までの可愛らしい大きな犬ではなく,今は狼の中に居る青年の紅色の瞳が,真っ直ぐに貴女を見る。
「……ちょっと怖い人だったけれど,優しい人だっていうのも分かるよ。
それに,すごく寂しがり屋で……君やベルナデットさんのことを,大切に思ってる。」
お前に何が分かる。そう言われてしまうかもしれない。
けれど,実際に話したからこそ,彼女らの人となりについては,一部確信めいたものがあった。
「君は,自分で考えて…ひいおばあさんのために,頑張ったんでしょう?
それが……間違いだったと思うの?」
■クローデット > 「優しい怪物」との、無邪気な戯れは唐突に終わる。
獣の姿の青年の頭に置かれた手は動きを止め、クローデットは、痛みと優しさの入り交じった瞳で、真っすぐに青年の瞳を見つめていた。
「…ひいおばあ樣方が最初に身を投じた戦いは…異能や魔術の存在がこの世界で明るみに出て、異邦人が姿を現し始めた混乱の中で…とある政治勢力に要請されてのことだったと伺っております。
ベルナデット大伯母様が亡くなられた後、世界の「建前」がその勢力の望まなかった方向に流れていくのを…ひいおばあ様は認められなかったのだと。
そのために…ひいおばあ様は異能者を実力で排斥する組織の支部作りにまで、加わったんです」
視線を一度落として、再度相手の瞳を見る。
…「大切な人」と、同じ色をしている瞳を。
「…ひいおばあ様にとっては、家族や…同胞たる魔術師が、とても大切な存在なんです。
その分…強い印象を残した「別れ」が、ずっと心に残り続けて…」
青年の問いに、苦みの強い表情で、言葉を切って…。
「………ひいおばあ様のために努力したことは、後悔しておりません。
ですが………努力で得たものの使い方を…ひいおばあ様の孤独への、向き合い方を、間違えてしまったと…。
………ひいおばあ様は、シュピリシルド様にお礼を仰ったのでしょう?」
そう尋ねて、クローデットは悲しげに笑んだ。