2017/07/22 のログ
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
ヴィルヘルム > 『次の新月の夜、相談のためにお伺い致します』

そんなメッセージが届いたのは1週間ほど前だった。
時間的余裕があったから,青年はローテーブルを用意し,クッションを用意し,そして紅茶とクッキーを手に入れた。
…と言っても,紅茶はペットボトルであるし,ローテーブルは傷だらけ。
唯一,クッションだけはとても手触りの良いものを選んで購入してある。

「……………。」

青年は落ち着かない様子だった。
“狼”の姿で話すことは幾度もあり,距離感も縮まったと感じるが,
“人”の姿で同じように話ができるかどうかは分からない。

不安や期待,ある種の覚悟を胸に抱えて,青年は,貴女を待っていた。

ご案内:「廃屋の一室」にクローデットさんが現れました。
クローデット > 夕陽が完全に姿を消してから、2時間ほどだっただろうか。
そんな時間に、「彼女」はその廃屋に現れた。

「失礼致します。
…ソファのあるお部屋で、よろしいですか?」

"狼"の姿で彼が過ごすだろう部屋と、ソファのある部屋。
その中間地点だろう位置から、柔らかい、女性らしい声がした。

ヴィルヘルム > 普段に比べて,音や匂いには,ひどく鈍感になっているように感じる。
一方で静体視力は狼の姿である瞬間より優れている。
もっとも,生来のアルビノである彼はもとより,さほど視力が良いわけではなかったが。
彼は,貴女の声が聞こえるまで,到着には気づかないだろう。
その声が聞こえて初めて,青年はぴくりと身体を揺らして…

「そうだね……今日はちゃんと準備も,しておいたから。」

…いらっしゃい。と貴女を出迎えるだろう。
その時初めて貴女のやつれた顔を直視することになった青年は固まって,貴女を,まっすぐに見た。

クローデット > 「お気遣い頂かなくてもよろしかったですのに…」

「準備をしておいた」という青年の言葉にか、その口調に苦笑いを偲ばせつつ、「彼女」は部屋の入り口に姿を見せた。
純白をベースにした彼女の装いも普段のそれとは異なるものだっただろうが…青年にとっては、あまり健康的には見えない彼女の顔色の方が、印象に残ったかも知れない。
表情こそ、穏やかな微笑そのものに見えるのだが。

「…失礼致します」

入り口の傍で軽く頭を下げた彼女は、それでも整然とした足取りで、ソファとローテーブルの傍まで歩いてきた。

ヴィルヘルム > 貴女が穏やかな表情をしていなかったら,すぐに言及してしまっていただろう。
けれど青年はその原因にもすぐに思い当たるものがあるし,少なくとも貴女は辛そうな顔をしていない。
だから,敢えてそれに触れることは無かった。

「どっちかって言うと,自分のために用意したのかも。
 …誰かと一緒に食べたり飲んだりなんて,ずっとしてないからさ。」

正確に言えば,青年は単純に貴女と一緒に紅茶を飲みたかったのだが,こういう表現でしか気持ちを表に出せなかった。

「どうぞ。」

柔らかいクッションが置いてあるソファに座るよう,促す。

クローデット > 「そうですか…ご準備は、大変ではありませんでしたか?」

「自分のために用意した」との言葉に、クローデットは寧ろ安心したように見えた。小綺麗にした、かつての「男装」とは傾向の違う服だって、この界隈でそうそう容易く手に入るようには思えない。
くすくすと邪気なく笑いながら、そんな質問を青年に投げかけた。

「…それでは…失礼致します」

無駄に遠慮しても話を始めるのが面倒だろう。クローデットは楚々としたしぐさで改めてお辞儀をすると、ソファの、クッションが置いてある位置に腰掛けた。

ヴィルヘルム > 「これでも,昼間はフツーの人だからね。」

青年はそうとだけ答える。
少なくともこの落第街では,ヴィルヘルムの素性を知る者も居なければ,それを気にする者もいない。
そしてこの青年は,表社会での生き方よりも,こういった裏社会での生き方に精通しているのだった。

「……隣,座ってもいいかな?」

貴女が思った通りにクッションの置いてある方へ座ってくれれば,青年もそう尋ねる。

クローデット > 「それは存じておりますけれど…表と裏では、物流の話が大分変わって参りますでしょう?」

おそらく、通貨の入手難度も物資の入手難易度も話が違うだろうと、青年を気遣わしげに見やる。
…そして、青年が隣に座ることを望めば…

「………シュピリシルド様が、お望みでしたら。少なくとも、わたしから拒む理由もございませんので」

粛々と、そう答えた。

ヴィルヘルム > 「…まぁ,確かにそうなんだろうけど。
 ここもちゃんと“街”になってるから,何とかなるものさ。」

落第街は歓楽街とも近しい位置にある。
単純に治安の都合上商売が難しいというだけであって,商品はいくらでもあるものだ。

「ありがとう。」

青年は笑ってそう答え,貴女の隣に腰を下ろす。
はい,とペットボトルの紅茶を渡す。“ホントは温かいのがよかったんだけれど。”と苦笑した。

「……それで,その…“相談”…っていうのは?」

クローデット > 「そうですか………。
シュピリシルド様が、無理をなさっていなければ、よろしいのですが」

そんな風に言って、物思わしげに視線を落とす。
…が、改めてペットボトルの紅茶を差し出されれば…

「時間までは指定致しませんでしたから、そんな無理が通らないことくらいは理解出来ます。
…ありがとうございます」

下手な紅茶が出されるくらいならば、いっそ水の方が気が楽なのだけれども。
そんなことは表に出さずに、ペットボトルを受け取った。
…そして、"相談"の話になれば…。

「………ひいおばあ様がシュピリシルド様にかけられた、「呪い」についてです。
シュピリシルド様は…わたしの今の装いに、何か感じるところはございませんか?」

そんな風に話し出す。
白を基調にしたこの装いは、防御術式の他に退魔のための補助術式も施してあるのだ。それは当然、呪いに対しても効果的なものである。
防御術式を感覚でつかみ取った目の前の相手ならば、何か特殊な気配を感じ取ると期待して、少々思わせぶりな問いかけをする。

顔には、穏やかな微笑を貼り付けたまま。

ヴィルヘルム > 「ここでじっとしている方が,退屈で仕方ないかも…。」

実際,この部屋を出て目的のために行動する時間は良い気晴らしになった。
その目的というのが貴女のためなのだから,尚更である。

「あ,ううん……最初から温かくなかったから。」

日本語でホット専用と書いてあるペットボトルは,午後のなんチャラとかそういう感じのアレだ。
ホット専用が常温で売られているあたりが,落第街らしいといえば落第街らしい。

「……感じるところ…?」

普段の黒い衣装もクローデットには似合っていたと思う。
髪の色との対比が美しいという感想は,きっと一般的なものだろう。
けれど今は白が基調となった服……クローデットにしては珍しい。

「…似合っています。優しい感じで…その,とっても綺麗です。」

青年が最初に述べたのはそんな素直な感想だった。
それを言うまでにもやや時間が空いたところに,彼がある種の勇気を振り絞ったのだろうという想像の余地がある。

「でも,その……多分,なのですが…………。
 ちょっと,近寄りがたいというか……触れられない,感じがします。」

……分かりづらいが,青年は外見的な特徴に言及したわけではない。
退魔の補助術式が彼の中の呪いに反応してか,それとも狼として過ごした鋭敏な感覚が働いてか,
少なくとも彼は,今の“呪われた”自身とその服に施された術式の反発力を,読み取っていた。

クローデット > 「………それも、その通りですわね。
シュピリシルド様には、本当にご迷惑ばかりで…」

青年の気遣いを、クローデットは違った形に受け取ってしまったようで…目を伏せる。

…実際、社会的に見ればクローデットが正しいのだ。
社会との交流に齟齬を来す状態に追い込んだのも…物流が万全でない場所に、青年を追い込んだのも、「彼女達」なのだから。

しかし、話の本題となれば、彼の顔から目を背けるわけにはいかない。
クローデットは目を開くと、青年の顔に視線を向けて…

「………これは、退魔や解呪の術式を補佐する「武装」を施したワンピースなんです。
呪われているシュピリシルド様が、近寄り難い感覚を覚えておられるのも無理はないかと存じます…重ね重ね、シュピリシルド様にはご迷惑をおかけしているのですが」

そんな風に答えてから…

「………こちらの商品、元は温めて味わうもののようですわね。温めてもよろしいですか?お望みでしたら、シュピリシルド様の分にもそのように致しますし」

そんな風に言って、青年に柔らかく笑みかけた。

ヴィルヘルム > 「……あ,いや,そういう意味で言ったわけじゃないんだけれど。迷惑だとも思ってないし…。」

貴女が目を伏せてしまえば,青年はすこし焦った様子で首を横に振った。
被害者意識の欠落がこういったすれ違いを起こしてしまい,青年はそれをどうフォローしていいか分からなかった。
少し考えた後で,ただ,にっこりと笑って…

「…僕はただ,君に喜んでもらいたかっただけさ。」

そうとだけ告げて,貴女の“武装”についての話を聞く。
自分が感じていた違和感のようなものの理由が語られれば,何度か頷いて…“だから迷惑じゃないって。”と笑った。

「やっぱりそうだよね…でも,ここで火を起こしたら火事になりそうで。
 お願いしてもいいかな?」