2017/08/01 のログ
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
ヴィルヘルム > 月明りが落第街を照らし,青年の身体を狼へと転じさせる。
彼は月が出ていることを喜び,同時に少しだけ残念に思った。

「……そろそろ,かな。」

何故なら,今夜はクローデットがやってくる夜だからだ。
魔術の準備のために訪れると,連絡があった。

ご案内:「廃屋の一室」にクローデットさんが現れました。
クローデット > 青年が待つ態勢の落ち着きを少しなくした頃、クローデットは姿を見せた。
転移魔術を使って、彼が「怪物」として夜を過ごす、風通しの良い部屋の入口の手前なのも今までと同じだ。

「…失礼致します」

入口を通る前、クローデットはそう言って姿勢の良いお辞儀をした。
丁重な、相手を尊重する姿勢を見せるジェスチャー。

ヴィルヘルム > 青年は普段通りの場所に,狼らしく丸まって座っていた。
貴方の転移魔術に気付けば,静かに立ち上がって…

「…いらっしゃい,わざわざありがとう。」

…その巨体に似合わぬ言葉と共に,頭を下げて見せた。
狼の姿でそれをやるとすこしだけ滑稽でもあったが。

クローデット > 「いえ…出来る原状回復は、しなければならないでしょう?」

「それだけのことです」と柔らかく微笑んで、「怪物」の姿をした青年に歩み寄る。
彼の正体を、性格を知らない者にとってはどうか分からないが、クローデットにとっては、目の前の相手が「「怪物」としては」怖くないことはもはや自明であった。

「…それでは…早速、清めさせて頂いても?」

クローデットは、腰のポシェットから、ポシェットに入っていたにしては明らかに大きい、液体の入った透明な瓶を取り出す。
中身は、水のように見えるが…クローデットが纏う白魔術のような空気が、その瓶の中に濃厚に詰まっているのが、青年には感じられるだろうか。

ヴィルヘルム > 自分のために足を運んでくれる。それだけでもこの青年にとっては,大きなことだった。
けれど貴女は事も無げに告げて,微笑んでくれる。
尤もそれは,貴女の加害者意識にも起因しているのかもしれないが…

「…凄いね,それ。何だろう…とっても……優しい感じがする。」

くんくんと瓶の匂いを嗅ぐ姿は正しく狼か犬のそれだったが,優れた嗅覚と感覚はその中身を確かに感じ取っていた。
それから,再び隅に移動して,

「ここにいても,邪魔にならないかな?」

クローデット > 「優しい感じ」という青年の評価に、クローデットはくすりと笑みを零した。

「…そうですか…それでしたら良かったです」

魔を退ける種類の術式を大量に纏って、「魔女」は笑う。
…が、隅に移動して「邪魔にならないか」と尋ねられれば、考えるように口元に指を当て。

「…そうですわね…出来れば、部屋全体を清めておきたいのですが…。
………それでは、先にその場所だけ清めましょう。少しだけ、丁寧に」

「一度だけ、ご移動願えますか?」と、首を傾げて青年の表情を伺うように問うた。

ヴィルヘルム > 「あ…っ…と……。」

貴女の素振りや様子を見る限り,実際にはここに居ない方が良いのだろう。
けれど,居ても大丈夫なように配慮してくれている。
すぐに青年はその巨体を持ち上げて,貴女の横へと移動した。

「……これで,大丈夫かな?」

部屋を出ることもできたが,青年はどうやら,貴女の厚意に甘えるようだ。

クローデット > 青年の移動を受けて、クローデットは

「ええ…すぐに終わりますので」

と横に来た青年に笑みかけてから、先ほどまで青年が立っていた部屋の隅に移動する。
そこで、クローデットは、瓶の蓋を外した。青年が「優しい感じ」と評したその気配が、瓶の口から部屋の空気に少し零れたような匂いがする。
…もっとも、人間並みの嗅覚であれば、それを「匂い」と感じるのは難しい。魔力への感受性に優れる者が感じ取るくらいだろう。

クローデットは、その瓶から、中の液体を部屋に向けて振り撒き始めた。
何度か振り撒いたその液体は、瓶の外に出ると柔らかい光を放ち…そして霧散する。
部屋の隅の空間に、「優しい感じ」が…白魔術の術式を、よく伝える空気が満ちる。

「…戻って頂いて、大丈夫ですわ」

部屋の隅の空気が変わったのを確認して、クローデットが隅から引く。
そして、青年にそう声をかけた。

ヴィルヘルム > 狼の姿をした青年は,霧散した光を追うように耳を動かす。
それからくんくんと辺りの匂いを嗅いで…その場所に伏せの姿勢で座り込んだ。
丸まって座るのは休む姿勢なので,失礼だと思ったのだろう。

「……ありがとう。」

表情を読み取ることはできないが,ピンと立った耳は貴女の方へ向けられていて…
…尻尾は僅かだがぱたぱたと動いてしまっている。
清められたその場所は,まるで包み込まれているように温かく,居心地が良かった。

クローデット > 「…楽にして下さって構いませんのに」

あえて伏せの姿勢を取り、そして、クローデットへの関心を耳と尻尾で示す青年の様子に、くすりと楽しげな笑みを零す。
…が、すぐに表情を鎮めて、部屋の他の部分を清める作業に戻っていく。
部屋の他の隅、そして中央部に、同様に液体を振り撒く。…回数は、青年が座り込んでいる位置より少し少ないかも知れない。

部屋全体が、澄んだ空気に満ちるのに、そこまでの時間はかからないだろう。

ヴィルヘルム > 「…それだと,失礼だと思って……。」

素直に思ったことを告げながら,青年は貴方をじっと見ていた。
というよりも,見てしまっていた,というのが実際のところだろう。
“あの日”以来,貴女の姿が頭から離れなかったのだから。

自分の周囲と同じ空気が部屋に満ち,傷跡などは何も変わっていないのに,
その部屋がどこか暖かく安らぎに満ちているように感じられる。

クローデット > 「これは「あたくし達」が主な要因の問題ですから…シュピリシルド様が、お気になさることなどございませんのに」

部屋を「清める」のが終わって、クローデットは液体の入った瓶…残りはわずかだ…の蓋を閉めて、ポシェットに当たり前のように収めた。
…明らかに瓶の方が大きいのに、ポシェットの形が歪む様子はまるでない。

「…準備としては、以上になります。
あとは、満月の夜に解呪を行えば…シュピリシルド様は、晴れて「怪物」から解き放たれることとなります」

「シュピリシルド様が表に出られる準備の、第一歩ですわね」と、青年の視線に応えて、にっこりと、優しく笑みを深めた。

ヴィルヘルム > 「そうなんだけど……。」

そのお陰で貴女とこうして一緒に過ごす時間ができたことに,むしろ感謝している。
そんなことは,流石に言えなかった。

「…満月の夜,か。」

立ち上がって,貴女の近くへ寄る。
甘えるように鼻先を近づけて…撫でてほしいとアピール。

「ありがとう……表に出られるのは,不安だけれど……これからのことを考えると,嬉しいんだ。」

貴女の隣に,今度は丸まって座り込む。

「でも,こうやって甘えられなくなっちゃうのはちょっと寂しいね。」

甘えている自覚はある。そして,貴女がそれを受け入れてくれていることも知っている。
だからこそ青年は,思い切って気持ちを告げてみた。
あまり深刻にならないように,冗談半分と言った風を装って。

クローデット > 「………。」

青年が言い淀んだ先は、ある程度は予想が出来た。
だからこそ、クローデットの笑みに、若干の苦みが混じる。
それでも、相手の方から近づいてきて、撫でて欲しいと言わんばかりに鼻先を近づけてくれば…

「………随分と、「犬」が板についてしまいましたわね?」

と、困ったように笑って、それでも、巨大な忠犬の鼻先に優しく手を添えて、軽く撫でる。

「………これからのこと、ですか………」

そう零すクローデットの、巨大な忠犬を撫でる手が止まる。
どうしても悲観的な見通しから抜け出せない、自身のことが頭をよぎった。
…が、青年が冗談半分という風で「ちょっと寂しい」と言うと、

「…いつまでも「犬」でいたいわけではないのでしょう?受け入れませんと」

「いつまでも「子ども」でいられないのと、同じです」と、優しく笑った。

ヴィルヘルム > これからのこと,その言葉に貴女の表情が僅かに沈んだことを,狼の瞳では感じ取れないだろう。
けれど,その敏感な耳が,貴女の声に,それを感じ取る。
……一瞬だけ耳が垂れて,けれどすぐにこの大きな狼は,貴女にすり寄るように身を寄せる。

「それは分かってるんだけれどさ,これ,クローデットだって結構気に入ってるでしょう?
 今は夏だけれど,冬場はきっと暖かいよー。」

青年は尻尾を隠すことなくぱたぱたと揺らして見せた。
貴女を元気づけたいのだと,そう気づけるかどうかは分からないが…

「…いろいろ考えたんだけれど,きっと僕は,学校に馴染むのにも時間がかかると思うんだ。
 でも,一つだけ,やってみたいって思うことがあって……。」

これからのこと,そこに貴女の不安があるのならと,青年はこれからのことを話しだす。

「…魔法,僕にも,教えてほしいんだ。できれば…誰かを助けるような,白魔法…。
 その…クローデットが先生になってくれたら,頑張れると思うから…。」

クローデット > 「…わたしが気に入っているかどうかは、この際どうでも良いんです。
シュピリシルド様がどうありたいか、全てがそれに優先致します」

顔は優しく笑んだままだが、その言葉と語調は、きっぱりとした断定調だった。
撫でるのをやめて、身体も引く。
「青年の自立を促すため」という建前ではあるが…どちらかといえば、クローデットは自分に対してより強く戒めていた。

「………白魔術、ですか。
シュピリシルド様なら…きっと、平均以上の使い手になられるでしょうね」

距離を保ったまま、青年の瞳を真っすぐに見る。
「優れた」とまではつけなかったのは、クローデットが青年に、曾祖母と同じ種類の危うさを感じていたからだ。
きっと、優れた術師になれる。…けれど、覚悟もなしにその資質だけを伸ばしてしまえば、その分の苦しみも、絶望も、背負うことになる。

「…壊すのは簡単ですけれど、助けるのは難しいですものね。
わたしで良ければ…ある程度のところまでは、お教え出来るかと思います」

…いや、それ以上に大事なのは…青年に「秘義」を教えないことだろう。
頭の中で懸念をリストアップしながらも…「どこまで極めるかは、あらゆる意味でシュピリシルド様次第ですけれど」とほのめかすに留めて、クローデットは優しい笑みを深めた。

ヴィルヘルム > 「…あんまり,どうでも良くないんだけれどなぁ。」

苦笑交じり,といった風を装った言葉だった。
人の身体だったら,まだ上手く誤魔化せたかもしれない。
しかし,貴女が身体を離してしまえば,青年の耳はぱたりと垂れて,尻尾も静かになった。

「ありがとう……そう言って貰えると嬉しいけれど…そんなに凄い人になりたいわけじゃないんだ。
 ただ,その……傷を治してもらった時も,今日もそうだけれど,白魔法のあったかさが,一番好きだから。」

そこにあったのは打算でも覚悟でもなく,単純な“好き”という感情。
貴女の内心の懸念や,その不安には気づいていないだろうが,青年は無邪気に,単純に喜んでいた。

距離が離れたままの貴方を見て…どうしようかと,少し考え…

「…僕がどうありたいか,って言ったよね?」

…立ち上がって,青年は貴女の傍に歩み寄る。

「…僕は,誰かを笑顔にできるような人になりたいんだ。
 だから怖がられないように元に戻って,白魔法を覚えたい。」

そんな自分を,クローデットが好きになってくれたら,一緒に歩むことが出来たら,それ以上の幸せはない。
…けれどそれを決めるのは自分ではなく,クローデット自身なのだ。

「クローデットは,これから,どうしたいの…?」

それを聞くのは怖かった。貴女の声の沈みを,聞いているから。

クローデット > 「…他人に好かれるために「自分のあり方」を生贄に差し出してしまえる方と、わたしが「対等に」、「共に」歩くことはありません」

表情こそ優しいままだったが…クローデットに距離を置かれて萎れる青年に向けられたのは、厳しい言葉。
…しかし、それは自分に言い聞かせるようでもあった。

実際、そうだったのだ。
自分の心の在処が不透明になっていることに今更気付き…模索している間は、彼の想いを「本当の意味で」受け入れることは出来ないと。
逃げ道として青年の想いを「利用」することは、それこそ「加害者」と「被害者」の関係をより固着させてしまうのだと。

「…魔術といえども、人が使う限り万能たり得ませんから…
………そうですわね、少しずつ…探りながら勉強していきましょうか」

青年の素朴な動機に、クローデットの懸念、それに伴う緊張がわずかに緩んだようで…クローデットの笑みから、良い意味で力が抜ける。
…が、青年が再度歩み寄ってくれば…その顔に、肩に、わずかに緊張の強張りが走る。

「…シュピリシルド様は…もう、ご自分で、定められたのですね」

青年の夢を聞いたクローデットは、視線を落として、そうぽつりと呟く。

「………わたしは………」

問い返されて、しばし、口ごもるクローデット。その顔は、笑ってはいない。

「………魔術の探究が…新しいことを、学んで、知って…自分でも、何らかの地平を切り拓こうとするのが…疲れますけれど、楽しいんです。
そんな日々が、続くならば…きっと、それ以上に幸せなことは………」

そこまで言って、クローデットは完全に顔を伏せてしまった。
口元を、手で押さえる。

「…でも…そんな生活を、わたしが安定して続けられる場所が…社会が、想像出来ないんです。
………いえ…実際、わたしは…罪を、償わなくては、いけないと思うのですけれど………」

そう語るクローデットの声は、どんどん震えを増し、安定を失っていく。

そう、罪は償わなくてはならない。当たり前のことだ。
けれど、今それを、この青年の前で口にするのは………。

失敗した、と思った。けれど、「先」を出来るだけ丁寧に語ろうと思えば思うほど、避けられないことだった。

ヴィルヘルム > 「…………好かれたい,ってだけじゃないよ。」

貴女の厳しい言葉は,青年にとって耳の痛いものだっただろう。
けれど,一つだけ違うことがある。
好かれたいのは事実だが,それよりも,貴女に喜んでほしいし,貴女に安らいでほしい。
でもそれは言い訳のような気がしたので,青年はそれ以上なにも言わなかった。
それ以上に,これからのことを語る貴女の姿が,その悲痛な声が,反論するなどという意思を完全に忘れさせていた。

「クローデット………。」

貴女がこれからの望みを語り…
…しかし,震えた声で顔を伏せてしまえば,青年はまだ少し離れた場所で足を止めた。

罪を償う。

それは自分と貴女との間の,被害者と加害者の関係についてのみ語っているとは思えない言葉だった。
きっと,自分と同じような“バケモノ”や“ヨソモノ”たちに,クローデットたちがしてきた所業のことを言っているのだろう。
すぐにそう思い至ったが…かける言葉は,すぐには見つからなかった。

「…僕は……。」

罪を償う。ヴィルヘルムの故郷でもその概念は存在する。
牢屋に繋がれたり,首を撥ねられたリとやや野蛮で古風ではあったが
クローデットがそれを望むのなら,自分の罪を正直に告白するというのなら…。

僕は,いったいどうするんだろう。

「僕は…クローデットが“やりたいこと”をしたらいいと思う。
 罪を償いたいなら……クローデットがそれを望むなら,僕は……止めない。」

本心は違う,この命をかけてでも止めたかった。
けれど,クローデットがそれを望まないのなら,ここで主張しても何にもならない。

「……でも,僕みたいに,ある日突然…ここじゃない世界に行くことになるかもしれないよ。
 そこで,もしかしたら,何か良いことがあるかも知れない。
 クローデットのやりたいことを,ずっと続けられるかもしれない。」

青年は貴方に歩み寄り,隣に座り込んだ。
すり寄るようではなく,寄り添うでもなく,望むなら貴女が体重を預けられるように,

「だから,そんな顔しないで。」

クローデット > 「………やりたいこと………」

クローデットは、まだ顔を上げない。

「…分かりません…
知を楽しむ生活を続けたいと思いますけれど…罪を覆い隠しての生活が、どれほど続けられるだろうかとも思います。
それに…罪を償うということは、「あたくし達」がしてきたことを、社会に、改めて突きつけることでもあって…それに魅力を感じるわたしも、いるんです。
…まだ…これがどういう感情なのか…よくは、分かりませんけれど…」

ここまで語って、クローデットはへたり込んでしまった。

「………わたしは、卑怯者です…。
自分の心が見えもしないのに…自らの罪の意識から楽になるために、あなたに意思を問い続けた…。
自分に分からないことを…あなたの意思に任せようとした…」

その声は、すすり泣いているようだった。
…と、隣に座り込む大きな気配を察知して、顔を上げる。その瞳は、まだ滴り落ちぬ涙で潤んでいた。
擦り寄るでもなく、ただ傍にある獣の巨体。

「………先ほど、好かれたいだけではないと、おっしゃいましたが………」

躊躇いがちに、意図を問う。

ヴィルヘルム > 「……確かに,隠しながら生きるのは,辛いかもしれないね。」

初めて,家族のために他人を殺した時のことを思い出す。
あの夜は,震えが止まらなかったし,それから何日も夢に見た。
慣れてしまってからはめっきり行かなくなったが,教会で懺悔をしたこともある。
……勧めるべきか迷って,馬鹿馬鹿しい,と思い直した。
続けられた言葉を聞く限り,貴女は罪の意識に押しつぶされているというだけではなさそうだったから。

「…卑怯者なんかじゃない。
 だって,こうやって全部話してくれてるから。」

言いつつ貴女の瞳を見て,どきりとした。
今にも涙の零れ落ちそうな,潤んだ瞳がこちらを見てきたからだ。
今ばかりは,この狼の姿であることを恨んだ。そうでなければ,抱きしめてあげたいと,素直にそう思った。

…貴女に問われれば,青年は少し躊躇ってから静かに立ち上がり,貴女に身を寄せた。
まるで貴女を包み込むように。貴女がその身体を預けられるように。

「…こうしたら,安心するでしょう?」

ヴィルヘルムにはまだ,人の姿でそれをやれる自信がなかった。

クローデット > 「…家族から離れて…余計に、そう思うようになりました」

クローデット自身の感情の暴発がここまで抑えられているのは、奇跡であると自分で思う。
異能者や異邦人、彼らに融和的な人々に対する敵意。それは和らいだと思うのに、まだ黒い感情が自分の中に渦巻いている。その正体を、クローデットはいまいち掴みかねていた。

「………先日、新月の夜にこちらを訪ねてから………ずっと、迷っておりました。
今、こうして話せて………ほっとしています」

「シュピリシルド様には、迷惑な話かもしれませんが…」と、潤んだ瞳のまま、口元だけで笑みを作る。…が、やっぱりぎこちない。
…と、狼の姿をした青年が、こちらに身を寄せてきて、「安心するでしょう?」と聞いてくれば…

「………本当は…いつまでも甘えていられないのは、わたしの方だと、思っていたのですが…」

身体を預けはしないけれど、寄り添ってくる巨体を、今度は拒まなかった。

ヴィルヘルム > 「……………。」

ヴィルヘルムには,貴女の内心までもを読み取る感覚は備わっていない。
けれど,先ほどの言葉からも,後悔や罪の意識だけではない,何かを抱えているのだということくらいは分かる。
本人でさえも正体のつかめないそれを,この青年が理解できようはずもなかった。

「……話してくれて,ありがとう。
 それと……。」

貴女のぎこちない笑顔や,その潤んだ瞳を見て,青年は…躊躇った。
言葉を続けることを…,本心を告げることを。
しばらくの沈黙の後に,青年は口を開く。

「……本当は,ちゃんと人間の姿で,僕の腕で,クローデットを安心させたいんだ。
 でも,僕は臆病だし…クローデットみたいに強くないし…小さいし。
 クローデットに甘えられるには,ちょっと頼りないと思うから…その……。」

滑稽に聞こえるが,意外と最後の理由は大きいのかもしれない。
こうして貴女を包み込めるのは,この姿だからこそでもあるのだ。

「今日が最後かもしれないしさ,何て言うか……。
 たまには,その…クローデットも,甘えていい,んじゃないかなって。
 ずっと悩んで,ずっと苦しんでるように,見えるから……。」