2017/08/06 のログ
ご案内:「廃屋の一室」にヴィルヘルムさんが現れました。
ヴィルヘルム > 満月の夜。クローデットとの約束の夜。
清められた部屋の真ん中で,怪物の姿をした青年は静かにその時を待っていた。

「……………………。」

丸まって眠ることもなく,静かに座って,貴女を待つ。

ご案内:「廃屋の一室」にクローデットさんが現れました。
クローデット > いつも通り、入り口の前に。
クローデットは、夜が深くなりすぎる前に姿を見せた。

「こんばんは…失礼致します」

姿勢の良いお辞儀をしてから、部屋の中に足を踏み入れる。
クローデット自身の魔力が部屋の空気に重なるのか、クローデットが足を踏み入れた瞬間、部屋の中で、「何か」の密度が上がるような感覚があるかもしれない。

ヴィルヘルム > 貴女が現れた事はすぐに分かった。
周囲の“温かさ”というべきか,包み込まれるような感覚が,少しだけ増したように感じられる。

「……こんばんは。」

青年もその巨体の頭を軽く下げて,貴女を迎え入れる。

クローデット > 「………ええ、こんばんは」

クローデットが姿を見せて…獣の形に囚われている青年は、特に不自然な所作を見せなかった。
そのことに訝る気持ちもないではなく、わずかな間にその気持ちが表れてしまったかもしれないが…今は掘り下げるべき時ではない。青年の傍で、改めて優美に腰を折った。

「…それでは…精神を鎮めた後、解呪に取りかかりますので…少々、お待ち下さい」

そう言って、目を伏せて胸元に手を置き、呼吸を整え始める。
解呪に取りかかる前に抱えている不安を抑え…白魔術に適した状態に、整えようとしているのだ。

ヴィルヘルム > 貴女の言葉の僅かな間に気付かなかったわけではないが,
それの意味するところが何なのかを正確に読み取ることはできなかった。
…少なくとも青年は,貴女へ憎悪に類する感情を抱いてはいない。

「……僕は,ここに座っていれば,いいのかな?」

青年は貴女の隣で伏せの姿勢となり,僅かにその身を寄せた。
貴女の不安に呼応したわけではないが,その仕草は貴女を安心させるかもしれない。

クローデット > 「ええ…出来るだけ、気持ちを平静に保って、待って頂く形になります。
…少しだけ、辛抱なさって下さいね」

少しだけ、クローデットに対して邪気なく距離を詰める青年の様子に、少しだけ笑みを零した。
それから、最後にもう一度深呼吸をして…

「…それでは、参ります」

クローデットは、自らの体内の魔力を循環させ始める。

ヴィルヘルム > 「………分かった,平静を保って…うん。」

自分に言い聞かせるようにそう繰り返してから,青年は静かに目を閉じる。
気持ちを落ち着けること自体はさほど難しいことではなかった。
最初はぱたりぱたり揺れていた尻尾も,次第に動きを止める。

「……………。」

クローデット > 口を開いて詠唱を始めるクローデットは、穏やかな表情をしていた。

「…月の眼差しよ、かの者に留まる事なかれ…」

クローデットの身体から、白いほのかな光がふわりふわりと漂い始める。
それは、巨大な獣の方を包むように囲み始める…。

「獣の幻影は人々の夢と消え、人の内なる獣は、人の力で枷を得ん」

柔らかく甘いクローデットの声が、優しく穏やかな口調で、術式を形作る言葉を紡ぐ。

「深まる孤独は他者を知ることによって和らぎ、心の雪解けは、安らぎの春を齎さん…」

青年の周囲を漂う白くおぼろげな光は、部屋の中に満ち、ただでさえ弱い青年の視覚を靄のように遮るだろう。
クローデットは…最後に一度、呼吸を整えた。

「………今、力に囚われし身体を、想いを解放せん…『解呪(ルヴェ・ドゥ・マレフィス)』!」

術式の完成とともに、魔力を激しく消耗したクローデットはその場に崩れ落ちる。
おぼろげな白い光の靄全体が、最後に一際強く光を放った。

術式が成功していれば、光が消える頃には、獣の姿から解き放たれた青年がその場にいるはずだ。
青年が抱く…特にクローデットに対しての…負の感情がよほどの強さでなければ、クローデットが余分な魔力を消費して、解呪は成就するだろう。

…「大切な人」の残す「呪い」は並大抵ではない。クローデットが魔力を使い果たしても、間に合うか…。

ヴィルヘルム > 魔法の知識に乏しい青年には,何が起きているのか理解することは難しかった。
しかし少なくとも,青年は貴女のことを信頼していたし,憎悪してもいなかった。
光が周囲に満ち溢れて,青年は少しだけ,貴女にすり寄るように身を寄せた。
それは不安の表れではなく,優しい怪物として,貴女にできる最後の“挨拶”だったのかもしれない。

「………………っ……。」

光が部屋全体を眩く照らす。怪物を包み込み,そして静かに消えていく。
その光が消え去った時,そこに立っているのは紛れもなく,アルビノの青年だった。
恐らく,貴女の魔力が必要以上に消費されることは無いだろう。
青年は貴方に対して,負の感情を抱いてはいなかったのだから。

「…………クローデット!!」

再びよく見えるようになった瞳に,真っ先に飛び込んだのは倒れた貴女の姿。
青年は咄嗟に,貴方を抱き起そうとする。

クローデット > 魔力を余分に消費したりはしなかったが、それは十分過ぎるほどの大仕事だったのだ。
青年が助け起こしたクローデットの顔は、紙のように白いだろう。

視界が光を覆い尽くす前、柔らかな毛並みの感触があったような気がしたが…次に我に返った時、それは、細い腕が抱き起こす感触に変わっている。
視線を上げると、そこには髪をばっさりと短くした青年の顔が、そこにあって…。

「………髪、どうなさったんですか?」

力なく、クローデットは口元だけで笑んだ。かすれ気味の声も、優しく笑っている。

ヴィルヘルム > 貴女がどれだけの力を使って呪いと戦ったのか,貴女の顔色が全てを物語っていた。
自分の身体が元に戻った事への喜びよりも先に,貴女の身体の心配が心を埋め尽くす。
けれど貴女が優しく笑んで,髪の変化に気付いてくれれば…

「……その………切っちゃった。」

…まるで悪戯を見られた子供のように,楽しそうに笑ってそう答えた。

クローデット > 肩にかからないくらい…クローデットより少し短いくらいの髪は、男性としては十分に長い。
それでも、青年の中性的な顔立ちと華奢で小柄な身体ながら、その華奢な身体と首の太さとの対比が、少女のそれと違うのが見て取れる…「マリア」のままだったら、挑めない髪の長さだった。

「………よく、お似合いですわ」

目を閉じて…疲労感を吐き出すように息を吐いてから…優しく笑う声で、そう評した。

ヴィルヘルム > 似合うと貴女に言われれば,それだけで嬉しかった。
貴女はきっと,あの本が最後のひと押しをしたなどと思いもよらないだろう。

「ホントは,もう少し短くしようとしたんだけれど…。」

ヴィルヘルムは勇気を出して歓楽街の美容室まで行ってきた。
そこで勿体ない,などと言われたから,このくらいの長さに落ち着いたのだった。

「……立てる?」

もし立てないのであれば抱き起すし,立てるのであれば手だけを貸してあげようとしつつ。

クローデット > 「ふふふ…随分思い切られましたわね?」

くすくすと笑う。無論、自分の「参考文献」が、青年を前向きな方向に後押ししたのだと、考えてもいない。
立てるかと、尋ねられれば…

「…ええ…魔力の消耗だけですから、大丈夫かと…」

そう言って、よろよろと立ち上がり…

「…っ」

少し、バランスを崩した。

ヴィルヘルム > この方が“男らしい”と思った。
そんな単純な理由を貴女に伝えるのは,なんだか恥ずかしくて,
それ以上青年は何も答えられなかった。

立ち上がる貴女の手を取ったまま見守って……

「あっ……無理は,しないで。」

…貴女がバランスを崩せば,その手を引いて支えようとする。

クローデット > 「保守的なジェンダー規範に沿うならば、まだ長いです」。
実際に言葉にされたら、そう返して、悪戯っぽく笑っていただろうか。
…いや、そこまでの余裕はまだないかもしれない。

「………、………申し訳、ありません…」

手を引いて支えられるがままに、身体を華奢で、自分より背の低い青年に委ねる。
身体に触れる瞬間…軽く、息を呑んだ。

ヴィルヘルム > もしそう言われたなら,次に会う時にはさらに短くなっているだろう。
しかしそれは,また別の機会の話になるだろうか。

「………っ…,大丈夫,全然…!」

怪物の姿だったら,背に乗せて運んだかもしれない。けれど今は,貴女よりも背の低い本来の姿。
それでも貴女の身体を支えるくらいのことはできたし,青年は勇気を振り絞った。
優しく抱きしめるように腕を回して…

「ありがとう,クローデット…
 …落ち着いたら,ソファに座って休んで。」

…そうとだけ言ってから,一瞬で熱を帯びた身体を離し,手を引いてソファに導こうとする。

クローデット > 「保守的なジェンダー規範に則った、「男らしい」男性」。それは、「観賞用としての」クローデットの好みに、より近づくものではある。
…しかし、それこそが本当に自分の望んでいる「理想の殿方」であるのか。最近のクローデットは、よく分からなくなっていた。
「人間との…特に異性との関わりにおいては、「家族以外とは」支配するか、されるかでしかあり得ない」と考えていた頃は、悩みもしなかったのに。

「………。」

自分と同じように呼吸の調子を乱す青年の様子に、クローデットは吐息だけを零して笑った。
…けれど、青年が自分の身体に腕を回して優しく抱きしめるようにすれば…少しだけ、緊張に身を固める。
…やっぱり、青年の身体は服越しでも分かるくらい、熱を増していた。

「………ありがとう、ございます」

少しだけ、緊張にかすれた声でそう言って、口元で笑みを作る。
視線は…青年の顔を見ないように、伏せられているのだが。

ヴィルヘルム > 尤も,髪を切ったところで身長や体つきが変わるわけでもない。
男らしさの獲得のためにはまだ達成すべきものがいくつもあるだろう。

そして貴女の緊張を,青年はきっと感じ取ったのだろう。身体を離した青年は,努めて普段通りに振る舞おうとした。
貴女をソファのある部屋まで導けば,

「……座ってて。」

とだけ言い,部屋の隅に置いてある小さな箱から,ペットボトルのお水をもってきた。
それを差し出して,青年は微笑む。
青年は貴女に従順だと言えるだろうが,支配されているわけではない。

…ソファの前に置かれたテーブルには,貴女が置いていった本。
青年がそれを読んだ形跡が見て取れるだろう。

クローデット > 青年に支えられて、ソファのある部屋に導かれ…そのまま、足に込めた力を抜くように、どっと座り込む。座り方は行儀よく整えられてはいないが…まだその余裕にないことは、青年も想像に難くないだろう。

「…ありがとう、ございます…」

ペットボトルの水を受け取って、数口飲んでから一息つく。
それから、視線を落とすと…テーブルの上にあったのは、「参考文献」。
………しかも、開いた形跡のあるそれ。

「………お読みに、なられたのですね」

そう青年に尋ねるクローデットの口調は、少し硬かった。

ヴィルヘルム > もちろん貴女に余裕のないことは分かっているし,作法や行儀を気にするような青年ではなかった。
貴女が“参考文献”に気が付けば…小さく頷いて,

「……うん。」

小さくそうとだけ答えた。どう言っていいものか,すぐには分からなかったからだ。
貴女の口調が硬いのはきっと……悪意を知った自分が,貴女を憎むのではないかと思っているから,だろう。
表面だけの言葉で全てを水に流すなんてことは,きっとできない。

「……クローデットは,僕が男だって知ってて,でも“マリア”に“女性らしさ”を教えてくれたよね。
 クローデットは“マリア”が気に入っていたの?それとも…ただ,遊んでいただけ?」

クローデット > 「………遊んでいましたけれど………そうですわね…。
…「出来の悪い妹分がいたら、こんな感じだろうか」と…考えていないことも、なかったように思います。
………わたしは兄弟がおりませんし…同年代や年下の親族に、女性はおりませんでしたので…。

………他の方を「飾る」のは…自分を飾るのと違う満足感が、得られるものでしたわね」

視線を、思案がちにやや斜めに落として、そんなことを、ややぼんやりとした口調で語り始める。
青年の方を見て話す勇気も、それを奮い起こす体力・気力も今は欠けているし…当時の、自分の心情を改めて振り返って、言葉にするのは初めてで…それなりの、思考が必要だったから。

ヴィルヘルム > 「そっか……。」

貴女の答えに,青年は小さく頷いた。
嘘を吐いているようには見えなかったし,その答えは思った以上に“悪意”の薄いものだった。
けれどそれは“マリア”に対する感情だ。

「……ねぇ,クローデットは,“僕”をどうする気だったの?」

その瞳は,真っ直ぐ貴女に向けられる。
もうその瞳は,何も理解していない瞳ではない。