2018/01/18 のログ
■アリステア > 「……ここはうわさのげーむせんたーというものです、ね?」
はぃ確かに私の目的地はここではありません。
私はカフェに行く予定だったはずなのです。
……手に持っているパンフレットはいつの間にか別の物に入れ替わってましたけど。
そう心中で呟きながら立ち上がろうとするも
「あああああ……」
後ろにいた別の男性に自動ドアさんが元気に反応。
けげんな表情で張り付いた子を眺める男性客を迎え入れんと左右に開き、
何だかもうすごい勢いで頬を削っていく。
ああ、硝子って意外とこすれると痛いよね……
■アリステア > とりあえず指や服を挟まれて痛い目に合う前にドアから離れなければ……
若干涙目のまま急いでドアから離れると同時にドアに遮られていた店内の音と光が溢れ出してきた。
初めて見る其処は頭が痛くなるような雰囲気だけれど
なんだかとても楽しそうな雰囲気で……
「……ちょっとお店の人に道を聞くだけです。そうなのです。
決して興味本位なのではないのです」
斜め下を見つめだれに言うでもなく言い訳を口にしながら
またドアさんが機嫌を損ねる前にと店内へと滑りこむ。
■アリステア > 店の中は思った以上に活気に満ちていて……時折一角から歓声が上がる。
それは大きな画面が付いた機械の台、えーっと……
「ぷらもでる…なんとか機?」
一応プラモデルは知っています。
マッチ棒とかをこう頑張って組み上げていく遊びだったはずなので
多分なんかこう凄い感じに組み上げてくれる機械なのでしょうあれは。
とにかく何だか人がたくさんいるのでもっとこう、人の少ない
少しでも落ち着けそうかつ店員さんがいそうな場所を探してぐるりと見渡して……
「あ、ベンチがあります」
自動販売機とベンチの設置されたファミリーコーナーなる一角を発見。
そして何故だか近くに人が居ない機械が都合よく一台。
あの辺りならきっと邪魔にならないはず。
■アリステア > とりあえずその機械の近くまで急いで避難。
今日はもう本に雪崩れられたり知らない人に壷を買わされそうになったり、
その壷を押し付けられた際に手が滑り、落下してきた辞書による大ダメージにより
虫の息だったすまーとふぉん?さんに止めを刺したりとそれなりに色々あったので
……多分きっと少しは落ち着いているはず。きっと。
途中から願望にすり替わっていく何かを呟きつつ
大きな鞄を引きずるようにしてそこまでたどり着き……
「……ふぅ」
無事到着。今日も世界は平和。
傍から見るとかなり危ない子というのは完全に除外して額の汗をぬぐう。
■アリステア > と、寄りかかった機械からデレレーンと不吉な音が流れ出す。
『ようこそ!ピラニアパニックへ!
遊び方を説明するよ!』
え、え、え、何?何が起こったの!?
弾かれる様に振り向くとポケットに入れていた小銭入れから
百円玉が二枚、コインの投入口へと吸い込まれる様にダイブしていく。
ちょぴーん!というやたら軽快な音が二回。
そして画面には2Creditの文字……
■アリステア > 『手元のハンマーを持ってね!
恐ろしいピラニアたちが飛び出すのを、君は何匹撃退できるかな!?』
飛び出すんですか!ピラニアが!?
それってどうなんですか危なくないんですか!
ここは熱帯地方の川じゃないんですよ!?
魚も人間も可哀そうでしょう!
『それじゃあ……はっじまっるよー!』
軽快な音楽と軽薄な口ぶりにそんな思いは伝わるわけもなく、
画面を見つめておろおろしていると……
『最初からとか恥ずかしくないの?』
完全に意識がお留守だった手前の
機械に沢山空いた穴からなんだか魚らしき何かが飛び出し…
驚いているうちに可愛らしい声で煽りながら帰っていく。
■アリステア > あ、ピラニアさん意外と元気そうです。
というかぴらにあって喋れたんですね……。
そう思うのもつかの間、別の穴から先ほどの魚に似た黄色い魚が飛び出し……
『立って寝るなら家帰って寝たら?』
可愛らしい声でまたしても煽りつつ穴に戻っていく。
……私だってもしできるなら全力でそうしたいです。
■アリステア > 途方に暮れながら再度画面を眺めると……”ハンマーでたたいてね”との文字。
ほぅほぅこれはあれですね。口の悪いピラニアさんを愛の鞭で叩いて矯正……
『無駄金入れるなんてお金持ちだね尊敬しちゃう!』
『ニートなの?』
『齧るのは僕たちの仕事なのにねー』
『すねかじり!』
……訂正。食物連鎖の厳しさを心身に叩き込んであげる趣旨なのですね。
ぐっとハンマーを握りしめる。
といいますかこの長文、最初から叩けると思ってないでしょう。
■アリステア > 良いでしょう。ピラニアなんて叩いて平たくしてくれるのです。
都合よく最初に暴言を吐いて去っていった魚がまたしても穴から顔を出しています。
まずは貴方から現代社会の厳しさ(当社比)を教えてあげましょう。
何故か骨付き肉の形をしたハンマーを振りかぶり……
此方を馬鹿にしたような表情のピラニア(のような何か)へと振り下ろす!
みるがいいのです!これが人間様の……怒りの力!
『狩人役はグソクムシかな?』
振り下ろしたハンマーは憎たらしい声を発する魚を捉えることなく
引っ込んだ穴を空しく叩く。
その隣から顔を出した魚はとてもいい笑顔。
そう、一つ大きな問題がある事を忘れていた。
■アリステア > 『遅すぎぃ!』
『蚊のご馳走だね』
『サラマンダーよりはやーい』
『反応』『優雅さ』『予想力』
『なによりも』
どんどんと速さを増していく魚に対してそう、
致命的に……
『『『速さが足りない』』』
うるさいうるさいわかってますよばかぁ!
■アリステア > 最早顔を出しているとか関係なしに手当たり次第ぽふぽふハンマーを振り下ろす。
この骨付き肉型ハンマー柔らかくて振りにくい上に、そもそも魚を眼で追えていない。
当たれば幸いとばかりに滅茶苦茶に振り下ろすも……
『トイレご飯って美味しい?』
『クリぼっちおめでとう』
『初詣がソロ詣で』
見事に当たらない。
カメラか何かついているんでしょうか。
最早ピラニアに対する憐憫は綺麗さっぱり消え失せていた。
■アリステア > 『もーいーくつ寝ーてーもー』
『無w意w味wにw働wけwはwたwらwこ?』
この機械を作った人は現世に一体どんな恨みを持っているんでしょうか。
さぞかしつらい事があったに違いありません。全然同情できませんけれど。
もうこれは一匹でも当たったら私の勝ちです。
良いのです、完敗じゃなければまだ希望はあるのですから。
完全に負け惜しみに近い謎い理論をこじつけつつ
涙声で呟きながらハンマーをぶんぶん振り回す。
その様子があまりにも哀れを誘ったのか、いつの間にか周囲には遠巻きにこちらを見るギャラリーの群れ。
■アリステア > 『スゲ―……一個も当たってねぇ。』
『そもそも狙えてないうえに穴叩けてねぇ……』
『あれ見えてないんじゃね?』
『そもそも何であの子クレーンゲームの景品で魚殴ってんの?』
実況するくらいなら助けてください。
そう思って振り下ろした手に始めて何かが当たる感触。
勝った。これは勝った。
確実に一匹仕留めた感触……!
勝利を確信する。やはり食物連鎖の頂点はへんなピラニアではありません!
けれど……
『『『おおはずれー!やーぃ、引っかかったー』』』
無駄に楽しそうな声と共に明滅する画面。
そして妙におどろおどろしい音が周囲に響き渡る。
恐る恐るはんまー(だと思っているもの)を持ち上げると……
「だれですかーーーー!」
何だか緑色の蛸っぽい羽の生えた何かがハンマーの下から此方をにらみつけているではありませんか!
しかもなんだかすっごい質感!つやっつや!何だか名状し難い光沢を放ってらっしゃる!!
■アリステア > 『うわすげぇ……大外れじゃん』
『俺初めて見たんだけど……嘘じゃなかったんだな大外れ……』
『都市伝説だと思ってたわ……』
その余りにも冒涜的な質感に目を奪われていると……
なんと全ての穴から叩けない微妙な浅さで
にっくきお魚’sが半分口を開けて此方を眺めていらっしゃる!
『こんな判りやすいのに引っかかるなんて』
『恥ずかしくないの?』
『最早確信犯?』
『いるよねそういう痛いの狙って滑る人!』
『その浅はかさにウケるー!』
穴の中の安全圏から投げかけられる罵詈雑言の数々……そして
『残念!タイムアップ!!ゲームオーバー!!!』
それが終わるや否や画面に明滅するゲームオーバーの文字。
それ悪口大会始まる数秒前に残り2秒とかでしたよね?
わざわざ悪口が言い終わるまで時間延長してくださいましたよね!?
■アリステア > とりあえず終わった……そう、たとえ叩いたのが名状し難き冒涜的な窓に!窓に!でも
私は戦い終えたのです。逃げずに戦いきった事、それは誇らしいこと……
ズタボロの内心を庇う様な自己弁護を呟きつつ
ハンマー(だと思っているもの)をそっと元あった場所に戻し深呼吸。
おちつこうアリステア。こんなことは何時も良くあること。
そう、私にとっては些細な事。
そう呟きくるりと背を向ける。
今目下大事な事は無い心を悟られずにこのギャラリーを抜け出す事。
……そう、それだけ。
■アリステア > けれど……
『ようこそ!ピラニアパニックへ!
遊び方を説明するよ!』
背を向けたはずの機械が再びしゃべりだす。
ひたすら軽快に、楽しそうに。
『手元のハンマーを持ってね!
恐ろしいピラニアたちが飛び出すのを、君は何匹撃退できるかな!?』
そう、その時私は絶望と共に思い出したのです。
はじめこの画面を見た時目に入った光景を……
■アリステア > そう。画面には2Creditと表示されていました。
今の画面には1Credit……つまり
――あと二回、この地獄は繰り返されるのです。
■アリステア > 『それじゃあ……はっじまっるよー!』
お願いですからもうやめてください。
そんな願いが当然通じるわけもなく……
なりだした軽快な音楽と共にまたしても
ハムスターの回し車の如くハンマー(だと思っている別の何か)を
振り回す事になったのです。
……しかも二回。
結局私は一度たりともぴらにあに天誅を下すことなく
黒服のお兄さんが迎えに来てくれるまでの間、魚に罵られ続けたのでした。
ご案内:「ゲームセンター「セバ」」からアリステアさんが去りました。