2018/03/01 のログ
ご案内:「切り株のある”ハジマリ”の場所」に伊都波 悠薇さんが現れました。
■伊都波 悠薇 > ――それは、ハジマリだった。
あの時も、こんな。そうこんな――
月が薄っすらと視えていたときだったかもしれない。
「――……」
愛おしそうに、切り株を撫でる。
キレイな、切れている断面では、ない。
むしろ、力任せにへし折られたような、そんな場所。
そして、そこは――
木々に、傷があった。無数の傷。拳で、脚で――
何時かを、夢見た”路”
「ふふ……」
そこには確かに、痕があった。
痕があり、過去があり、場所があった。
そこで、彼女は待ち人を待つ。
”果たし状―こいぶみ―”。
コレ以上無いくらい、想いを込めた。
時間と、場所だけを記した。
でもそれだけで、きっと来る。
だってあの人は――
どっぷりと夜が暮れて。月が照らす、森。
その、月は欠けていて。どうしてか、赤かった
少女は、ただ。”痕”を指で撫でながら。
待つ……
ご案内:「切り株のある”ハジマリ”の場所」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
足音はなかった、ただいつの間にか少しだけ荒くなった呼吸の音が後ろから、する
その音の主は、呼吸を落ち着かせるように胸元に手をおいて、そちらを見ている
「おまたせ。こんなところにこんな時間に…父様に怪しまれたよ」
ふぅ、と小さな溜息をついて、その背に向けて言葉を投げる
───夜、怪異も現れるこの山は安全ではない
足早になってしまったのは当然心配だというのもあってのことだった、が……
■伊都波 悠薇 >
「やぁ。きっと来てくれるって。思ったよ」
ふわり笑う、笑い。くるり、振り返る。
前髪を、かき上げて。視線がしっかりと、重なる。
やはり、彼女はまだ”妹ではなかった”
そして、服装もまた――
「覚えてる? そろそろ、一年。そして、アナタが卒業間近になった」
白が主体の、青い”彼岸花”が咲いた、着物。
そんなもの、あの”妹”が着るはずもなくて。
「いろんなことがあった。キミの、貴女の、他人。妹、といいながらも、妹じゃない。そんな日々を送って。思い出を作って、創って」
ふふっと楽しそうに笑う
「どうかしら、私の事、好きになって、くれた?」
■伊都波 凛霞 >
「そうだね……学園に残る同級生も結構いるけど、私は卒業組」
異能に悩みを持つ少年少女は多い
大きな力に、精神を歪ませてしまう人間も
学園で過ごすうちに、そんな人たちの力になりたいという思いが少しずつ募る
決定打になったのは……勿論、妹のことがあったからだけど
専門のカウンセラーになるための勉強は大変だったけれど、卒業後はその道を進むと決めていた
「色々あったねぇ、夏も、秋も、冬も」
──問いかけには、まっすぐに視線を返す
真っ直ぐではあるものの、やはりそこにはいくらかの迷いが見えた
「…元の悠薇に戻って欲しい、っていう気持ちは変わらない。
それでも、君と過ごす時間は私にとって嫌なものじゃなかった……。
妹とは違う、けれど私は君のことがきっと嫌いじゃない。……貴女の求めている答えでは、ないね…」
■伊都波 悠薇 >
「そう……、残念……あの子がもう、いないといっても、そこはずっと変わらなかったわね。ふふ、頑固ね。あなた達、”姉妹”は」
微笑んで。
「一つ、昔話を、しましょうか。あなた達はここで、熊と戦った。正確にはアナタが、そうアナタがね――」
そこからは歌うように、紡いでいく
演劇をするように。その少女の劇は――迫真に迫っていた。
そう、それはかつて妹と、一時別れ、亀裂が走り、生死を争ったときに識った”一人の少女の慟哭”で――
「ただ。思い違いがあるのよね。この天秤――」
右手を前に。すると”視えた”。
今まで見えることのなかった天秤が、そこに――有った
「ねぇ、お姉ちゃん。いいえ、リンカ。この天秤、”持ち主って誰だと思う”?」
■伊都波 凛霞 >
「ごめんね」
言いながら、小さく笑う
そう、頑固なのだ
譲れないものは、やっぱり譲れない
そして、目の前の少女にはもう、嘘をつきたくもなかった
…続いた言葉には、少しだけ不思議そうな表情をしてしまう、頑固なのは自分だけの筈だ、と
「懐かしい話だね。
思えば私も無茶したなって思う、いくら父様に少しだけ武術を齧らされてたとはいえ…」
妹を助けなきゃ、その一心だったという記憶が、遠い彼方にある
必死すぎて細部はとても朧気であったけれど…
「───思い違い…?
それ、は……悠薇のものじゃ…?」
視覚化されたことなんてなかった
常世学園の研究部からの検査報告書でそういった概念をもった異能である可能性の示唆から、
イメージ的なものとしてはずっと識っていたけれど、あれが、天秤───
■伊都波 悠薇 >
「ふふ、教えてあげないわ」
んべっと舌を出す。そんな可愛い顔をしたってダメだ。
だって彼女は自分を選ばなかったのだから。
だったらそれ相応の代償は覚悟してもらう。
それがせめてもの、復讐だ。
かつてより、随分と、かわいい復讐になったものだが。
「そうね。そうよね。普通はそう。ハルカもそう思ってるわ。私だってそう思ったわ。使おうとしたら使えなかったんだもの。元々”私”のだったのにね? だというのに、言うこと聞かないの、可笑しいわよね? ふふふ、すごく困ったわ。だって本当なら、アナタ、一年前の私の事好きになってるはずだったもの」
――天秤は、”動かない”
今もなお、均等を保ったままだ。
「ねぇ、リンカ。この天秤。働いていたタイミングって、どうだったと、思う? 起点は、アナタと、あの子。どっちだったと、思う?」
■伊都波 凛霞 >
元々、私のもの?
好きになっているはずだった?
言っている意味がよくわからなくなってゆく
これまでも謎掛けのような言葉遊びは多かったけれど、それとはまた違っていて…
「わざわざ呼び出したんだから答え合わせくらいはしてよ」
苦笑しつつ、少し歩み寄ってその天秤を見つめる
天秤はまったく動く様子を見せない
「…私は、あの子が大事で、大切で、大好きで。
物心ついた時にはあの子がまだ赤ちゃん、すごく小さくて。
お姉ちゃんだから、私がちゃんと守らなきゃ、そう思ったのを覚えてる」
前置きはそれだけ、その後は…少々辛い話
「私は妹のために努力して、多くを実らせてきた。
あの子は姉である私を見て努力して…でもそれは実らないことが多かった。
……ねぇ、そういう問いかけをするってことは、そういうことなのかな」
■伊都波 悠薇 >
「もちろん。大事なところは、するわ? でも今のは大事じゃない、そういうことよ」
くすくすと笑った。
ぎぃっ、ぎぃっと揺らぐ、天秤。
「ええ、そうね。”真逆”。エネルギーの釣合。才能の釣り合い。貴女の想像通り――この天秤は”アナタが起点”なのよ。ハルカに宿ったのにね? だから、私はこっちにいるのに。なのに、動かしてるのは――」
指を、向ける。人差し指が、貴女を、射抜く。
「アナタが”実ったから”。妹は”実らない”
アナタが”出来たから”。妹は”出来ない”
アナタが”出来ないから”。妹は”出来る”」
ゆっくりと、天秤から手を離す。
離せば、宙にそれは浮いていた。
「――重りを乗せているのは、いつだってアナタ。天秤を奪ったのか、それとも天秤に作用するなにかなのか分からないけれど」
■伊都波 凛霞 >
天秤が揺れたのは…自分が揺らいだ───ということなのだろうか
でも、それは……
「私が、起点…? 妹の、悠薇のモノなのに?」
───異能の力、それによって心に傷をおった子供達へのカウンセリング
そんな仕事に就こうと決めた時から、異能に関する勉強はかかさない
けれど、そんな異能の話など聞いたこともなかった───
「そんなの───」
言いかけて、はたと気づく
凛霞自身の異能、"≠ (ALMOST EQUAL TO)"
それもまた、妹の為にしかその機能を有さない、限定的な異能という偏執的な特異性があった
発現の起点は本人だけにあるとは限らない
その可能性が、続く言葉を留めた
■伊都波 悠薇 >
「そうね、なんて歪な機能になってしまったんでしょう。だって、アナタ、妹が”こんなんだから”。もっと頑張らなきゃと、思ったんじゃない? 自分が守ってあげないとって、思ったんじゃない?」
さて、それが異能のせいかは分からないけれど。
でも間違いなく――歪んでいた、いるのは間違いないのだ。
「そんなの――そんなの……? ふふ、そんなの、何かしら。だったら、ほら。皿を、見て?」
天秤の皿に、物が、乗る。
――青い薔薇と……
――赤と黄色の、混ざった、薔薇
「ほら、出てきた」
それが何を意味するのか。聡明な姉なら解るはずだ。
青は、あり得ない。そう、絶対に有り得ない”色”
赤の薔薇が示すのは愛情で、黄色の薔薇が示すのは嫉妬。
「可笑しいわよね? アナタは”薔薇”ではないでしょうに。霞、でしょ?」
■伊都波 凛霞 >
「………」
それは決して口にはしなかったこと
お姉ちゃんは妹を守ってあげなきゃいけない
子供の頃にそう思って、それからずっと、ずっと
妹の出来が悪かったから?そうじゃない、そうではなかった、筈
けれどそう思ったことが一度もなかったのか、本当に?
何かを言おうとしても、言葉が出てこない───
天秤の上に、何かが現れた
それは色とりどりの、薔薇……
品種として生み出すことできなかった青い薔薇の花言葉は───『不可能』
愛情と、嫉妬と…そして不可能
そして、薔薇の中の霞草は『あなただけを見ている』
「───……」
声に、ならない
■伊都波 悠薇 >
「――さぁ、選んで」
手を広げた。両手いっぱいを広げて。
目を開く。その眼は――すごく、ひどく”黒く”、見えた。
普通の瞳。さっきまで優しくて、人間味の有った瞳なのに。
――なんでか”人間離れ”して、見えた。
「青か、それとも赤と黄色か。――もう、決まってるでしょう?」
ニコリと笑う。
それは宣告だった。
最期の、宣告
■伊都波 凛霞 >
「…青い薔薇は」
ぽつりと、小さく言葉を零す
「ずっとずっと、出来なかった色。
でも気の遠くなる程の努力と諦めない心が、不可能を可能にした色でもある」
そう、青い薔薇は生まれた
諦めなかった人間の手によって、不可能とされた色は現実になったのだ
ブルーローズ、その花につけられた花言葉は……
「……『夢、叶う』───」
天秤が揺れる
軋むような音は聴こえず、ただただ揺らめき、そして───
かたん
最後に小さな音を立てて、蒼い薔薇へと傾いた……
■伊都波 悠薇 >
「ふふ、ふふふ……」
識っていた。知っていた。
頑固な2人のことだ、こうなるのを、知っていた。
「とても似てるわよね、私たち。ねぇ、ハルカ?」
細まった、眼差し。その端から、溢れる涙。
「――リンカ、アナタは選んだ。天秤は、この世界のどこにでもあるものよ」
何かの価値の重さを見て、その重さで、人は動く。
選択肢という幾つもの重り。どちらが自分にとって”重い”のかを、選んで――進んでいく。
「伊都波は、”五輪”であり、”逸話”。それを識ってる人は、いなくなったわ」
でも――
「識っていてね、リンカ。私という”逸話”はいたことを。こうして、痕を残したことを忘れないで」
”天秤”が消えていく。”花びら”となって、消えていく――
「さて、貴女には――どんな逸話が眠っているのかしら」
くすりと、笑った彼女の表情は、すごく――儚くて……
■伊都波 凛霞 >
「───あっ…」
手を伸ばしかけた
声をかけようとした
「…人は、選ばないと前に進めないから」
人生は選択の連続
選ばれなかった道はただの可能性として消えていく
選べなければ…立ち止まる他なくなってしまう
時間が有限、だから選び、切り捨てて、人は生きていく…
「忘れない為には…ちゃんと名前を知っておきたいな…それくらい、いいでしょ?」
伊都波は五輪、逸話───
わからないことを言う、わからない存在
それでも彼女は妹で、家族で、そう在ることで共に時間を過ごしていた
だからずっと、悠薇としか呼ばなかった
でも、もう……
「本当は全部、ちゃんと聞きたいんだけどね」
そう言って、少しだけ悲しげな微笑みを向ける
■伊都波 悠薇 > 「ダメよ、未練があるやつが追ってきたら後悔するから。来た方も、来られた方も。だから、これ以上何も教えてやらない」
しぃっと、鼻に指を当てた。
「ふふふ、振っておきながら、そんな風に言うなんて貴女、ひどい女ね? きっと、そういう逸話を残すに決まってるわ。だって、私の”子孫(こ)”だもの」
ざぁっと――風が鳴いた。
静かにないて――不思議と花びらが舞っていく――
「――覚えてくれてなかったら、一生恨んでやる。それこそ、千人殺してしまうかもしれないわ? 私の好きはとても重いのよ? あぁでもそれよりも、薔薇を詰んであげた方が良いかしら。一人で千人分の価値がありそうね、貴女にとって」
――花びらが、姉妹を別けるように。
壁となって、視界を塞いで――
「――”……”」
その声は、聞こえたのかどうか。
花びらが明けたとき――
姉に映ったのは、倒れ伏した”妹”の姿で
■伊都波 凛霞 >
「貴女が何も教えてくれないからじゃない」
それをひどい女だなんて、まったく
──それ以上の言葉を遮るように、花びらが舞う
そしてその向こうから現れた光景に、考えるよりも早く、駆け寄って抱き起こす
……最後に聴こえた言葉は彼女の名前だったのだろうか───
■伊都波 悠薇 >
「……すぅ――」
目をつぶって。穏やかに、穏やかに。
あたりに、天秤は無く、消えていた。
「――…………ん……」
目が覚める。その眼は、見覚えのある眼差し。
どこか一歩引いているけど優しく貴女を見ていた――
「……姉さん?」
■伊都波 凛霞 >
今のこの子が誰なのか……改めて確認するまでもない
目を覚ました妹を、ぎゅっと抱きしめる
なんて声をかけよう
色んな思考がぐるぐるするけれど
「…おはよ、悠薇」
結局そんな言葉が出るのだった
■伊都波 悠薇 >
「……え、あ、え? お姉ちゃん? く、くるし、ちょっとぉ……」
困ったようにつぶやいて。どうしようかなと思って。
でも――結局抱きしめ返して。
「………………変なお姉ちゃん」
そう、呟いた
ご案内:「切り株のある”ハジマリ”の場所」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「切り株のある”ハジマリ”の場所」から伊都波 凛霞さんが去りました。