2018/03/27 のログ
ご案内:「夕暮れの浜辺」に川添孝一さんが現れました。
川添孝一 >  
夕暮れの浜辺。桜が舞い、卒業カラーに変わった街とは離れた場所。

そこで時代錯誤のヤンキー・ファッションをした男が仁王立ちになっている。

男の名は川添孝一。
元・不良。
不良行為をやめてからは、怪異対策室三課を設立し異界からの敵に備えていた男。

周囲にはガラの悪い男達が立っている。
寄せては返す波の音、足元を踏めば砂が鳴る。

川添孝一 >  
「オウオウ、雁首揃えて来やがったな」

川添孝一はニヤリと笑って腕組み。
それに対し、周囲の男達は指の骨をパキパキと鳴らして。

『卒業式代わりに喧嘩しようぜとはお前らしくもねえ』
『怪異対策室三課の良い子チャンは大人しく卒業セレモニーに出てりゃいいのによ』

周りのガラが悪い連中がそう言うと、人垣にどっと笑いが起きた。

「いや、良い子ちゃんごっこはもう止めだ」
「かといってもう不良にももう戻らない」
「俺にしちゃ不自然だったからな……不自然は、長続きしない」
「良い奴にも悪い奴にももうならねぇ。俺は自然体で生きる」

そこまで喋って大声を張り上げた。

「卒業式ってなんだよ!? 何を卒業する!! 何も変わらねぇ!!」

川添孝一のシャウトが響き渡る。

「俺たちがするべきなのは、自分の“業”と向き合うことじゃねぇのか!?」
「“業”を卒する………すなわち」

川添孝一 > 「卒業式(そつごうしき)だ!!!」
川添孝一 >  
周囲の不良からブーイングがとぶ。

『なっげーよ!!』
『結局卒業式じゃねーか!!』
『語感が悪いぞ語感がー!!』

言われながらも両手を広げて肩を竦め、

「そう言うなよ……付き合いがいいお前らにはやりたいことがあるんだろ?」
「俺へのお礼参りとか、ただの喧嘩とかよォ……」

と言い、構えを取った。

「かかってこいやァァァァァァァ!!!」

そう叫ぶと、周囲の男達が川添に殴りかかった。
いや、川添だけにではない。
周りの誰彼構わず、男達は殴り合いを始めた。

川添孝一 >  
木刀が、拳が、蹴りが、川添孝一に襲い掛かる。

それを両手で雑に防ぎ、あるいは体で受ける。

「喧嘩祭の始まりだああああああああああああぁぁぁぁ!!!」

怒号が響く砂浜で、近くにいた適当な男を殴り飛ばした。
さらに違う男を前蹴りで砂浜に突き飛ばし、次の瞬間には後ろから頭をぶん殴られる。

「……ッ!」

一瞬クラクラする頭を振って、後ろにいた男に頭突きをかます。

「オラ、オラ!! 見せてみろ、お前らのチンケな異能をよォ!!」

川添孝一 >  
『誰がチンケな異能だコラ!!』
『後悔すんなよ、川添ェ!!』

三人ほどが異能を構えて川添孝一に襲いかかってくる。

『拳に推進機能を付与する異能ッ!! ロケットNo.1!!』
『水を巨大ハンマーに変化させる異能だオラ!! 玄武猛襲槌(アクアパニッシャー)!!』
『砂利を加速させる異能ォォォォォォ!! ガイアショットガン!!』

拳だけで猛烈な速度で突っ込んでくる男。
抱えるほどの海水の巨槌を振り上げて襲い掛かる不良。
ポケットの中の砂利を銃弾のように放つ生徒。

それを見てニヤリと笑い、全身で全ての攻撃を受けた。

「……痛くねぇぇぇぇぇ!!!」

拳を砲丸でも投げるかのように大仰に構えると、右拳が巨大化した。

「追放されし異形の果実(エグザイル・レッドフレア)―――――」
「鬼! 角! けええええええええええん!!」

巨大化した拳による質量攻撃、鬼角拳で三人まとめて海に弾き飛ばした。

川添孝一 >  
「チマチマチマチマと!! 面倒くせぇんだよ!!」
「テメェらまとめてかかってきやがれ、オォ!?」

拳を夕日に向けて突き上げながら、川添孝一が吼える。
周りの乱闘騒ぎも加速していく。

その中。

川添を睨みつけながら一人の少女が砂浜を歩いてくる。
過去、二級学生だった、今年の卒業生の女子学生。
かつて、川添がカツアゲしてきた弱者。

その中の一人。

木刀こそ持っているものの、その異様な雰囲気に喧嘩が一時中断され、女と川添孝一に視線が集まる。

川添孝一 >  
『何が喧嘩祭よ……あんた、何浮かれてるの…?』

少女が川添孝一を憎悪を込めて睨みつけながら言う。

『私からお金を取っていってた不良のくせに!!』
『卒業したらヤンキー集めてお山の大将気取り!?』

川添がボロボロに傷ついた体のまま、一歩前に出る。
耳を小指で穿りながら少女と向き合う。

「…もう金はイロつけて返した。お前らが癇癪起こしたら黙って殴られてきた」
「お前が勉強してぇっつったら正規の手順踏ませて学籍取らせてやったろ?」
「もう十分だろ……もう謝ってやんねーよ」

小指をフッと吹くと顔を歪めて笑った。
その顔に向けて、元・二級学生の少女は木刀を振り上げて殴りかかる。

「!!」

その木刀を素手で受け止める。

『謝れぇぇぇぇぇ!!』

泣きながら叫ぶ、かつて被害者だった者の悲しい声。
それに対し、川添孝一は胸いっぱいに潮風を吸い込む。

「もう謝らねえええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」

かつて弱者を虐げてきた男が、真っ直ぐ見据えて返す。
木刀を必死にどうにかしようと動かしていた少女は、川添孝一の目を見て。

『じゃあ、もう謝らなくていい…!!』

そう言い捨てて木刀を放り出し、砂浜を去っていった。

川添孝一 >  
「ケッ、なんだよ……いーい女じゃねぇか…」

その辺に捨てられた木刀を蹴飛ばしながら、川添はそう言った。

『川添孝一よぉ……お前は許されねーことをしたよ』
『ああ、そうだな……だけど、その十倍は良いことした』
『相殺されるようなモンじゃねーけど、もういいだろ。事実、アイツももういいっつったべ』

「関係ねーだろ」

川添孝一は血の混じった唾を吐く。

「俺がやったことは永遠に消えねえよ」

センチな雰囲気でそう呟いた川添孝一に、聞いていた男達が一斉に彼の頭をぶん殴った。

『良いヤツぶんのはもうやめるっつったろ!!』
「………痛…ってええええなぁこの野郎ども!!」

再び川添孝一とガラの悪い男達は殴り合いを始める。
時に凶器を、時に異能を、時に己の拳を使って。

いつまでも、いつまでも喧嘩を続けていた。

川添孝一 >  
最後の一人を殴り飛ばし、己も力尽きて砂浜に大の字に倒れこむ。
周りには血だらけで笑ってる、奇妙な男達の群れ。

「………この服ももう着ない」
「怪異対策室三課も解散だ」
「島の外に出て就職する………じゃあな、クソ野郎ども」

よろよろと立ち上がった川添に、周囲の男たちもまたふらつきながら立ち上がる。

『待ちな、川添よォ』
「ああん?」

岩陰に走っていったガラの悪い男達が、隠しておいた花束を抱えて戻ってくる。

『卒業、おめでとうございます、川添先輩』

そう言って一人一人、神妙な顔つきで川添に花束を押し付けていった。

キョトンとしていた川添は、顔を下に向ける。

「バッカ野郎ども……こういうの、俺もお前らも似合わねぇってんだ…」

こうして川添孝一の卒業式は、そして喧嘩祭は終わった。

川添孝一 >  
川添孝一は……

島の外に出て就職した。スーツを着て、ネクタイを締めて、革靴を履いて。
サラリーマンとして生活している。

異能とも、怪異とも、不良とも、街の闇とも関わらず。

普通の…そう、普通の男として生きている。

ご案内:「夕暮れの浜辺」から川添孝一さんが去りました。