2018/07/25 のログ
ご案内:「双葉コーヒー常世島学生街店」にアリスさんが現れました。
■アリス >
暑い。
耐えられないレベルで暑い。
物質創造能力を持つ私は時折、叩くと冷たくなるパック状のアレを作り出して体を冷やすも。
暑くてやっていられない。
ふと、見つけたのはコーヒーチェーン店。
双葉コーヒーだ。
知ってる知ってる、あの呪文みたいなコーヒーの注文の仕方をするやつ。
知ってる知ってる。
ホワイトモカフラペチーノのグランデで、あと追加でキャラメルソース、ヘーゼルナッツシロップ、チョコレートチップ、エキストラホイップのエスプレッソショット1杯でって言えばいいやつだ。
漫画で見た。
私はその呪文を試してやろうと双葉コーヒーに足を踏み入れる。
空調が適度に利いていて店内は涼しい。
■アリス >
レジの前の行列に並ぶ。
こうしてみれば、なんてことはない。
普通の客層に普通のコーヒーショップ。
ならばソロ喫茶店暦も長い私に攻略できない理屈はない。
この街に来て今でも追影さん一人しか友達ができていないぼっちソウルを舐めてもらっては困る。
と、早速私の注文の番。
『ご注も……』
「ホワイトモカフラ……」
しまった、店員さんと一緒に喋ってしまった。
失敗失敗。
「えへへー、すいません」
『あはは、では改めてご注文をどうぞ』
と、人好きのする笑顔で注文を聞いてくれる女性店員に微笑みかける。
今だ。
今、言えば、呪文は完璧に通る。
「ホワイトモカフラペチーノのグランデで、あと追加でキャラメルソース、ヘーゼルナッツシロップ、チョコレートチップ、エキストラホイップのエスプレッソショット1杯で」
言ったー!! カンペキダー!!
『あの……今シーズンではホワイトモカフラペチーノは取り扱っておりません』
え?
えっ、えっ………ドユコト?
一気に汗が流れた。
私は、それ以外の注文の仕方を、知らない。
■アリス >
ぎしい。
空気が軋んだ。気がする。
この気まずさに私が幻聴を聞いただけだとも思う。
「ア、ア、ア………」
顔が真っ赤になりながら次の一手を模索する。
口がぱくぱく、酸欠の金魚のように勝手に動いた。
女性店員さんの名札を見ると、研修中と書いてあった。
普通、この手の店で研修の人にレジ担当させる!?
させないよね!?
『あ、あの……それとヘーゼルナッツシロップは秋口のみのビバレッジ・フレーバーとなっておりまして』
あぐう。
どうする!?
どうすればいい!?
店員さんまで呪文を唱え始めた!!
ビバレッジはBeverageであって飲み物のことだよね?
合ってるかな! わかんないよ!!
ぼっち娘、双葉コーヒーにて討ち死に!!
げげーんという効果音が心の中に流れた。
どうする、どうする!?
■アリス >
後ろに人は並んでいるのだろうか。
怖くて振り返れない。
髪が蛇の魔女に睨まれた存在のように硬直する体が言うことを聞いてくれない。
「メ………メニューを見せてくだされ………」
噛んだー!!
私は武士か!!?
『ご……ごゆるりと』
店員さんもノるなよ!? 相乗効果で倍恥ずかしいでしょう!?
いよいよもって熱中症以外のナニカで耳まで真っ赤になる私。
でもメニューが来た、これで何とかなる!!
「これのMサイズください!!」
言ったー!!
『……申し訳ありません、お客様…サイズはショート、トール、グランデ、ベンティでして』
ナニソレ!?
あ、私が言った呪文のグランデって大きさのことだったんだ!?
全身が総毛立つ感覚に今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
デンジャー、デンジャー!!
■アリス >
イタリア語か……そうか、イタリア語かぁ~~~~。
わかんないよ!! 私は生まれはイギリス、育ちは日本だよ!!
双葉コーヒーよ、難解なる言語用いてぼっち惑わせし罪、軽くはないぞ!!
「ア、ア、ア、ア………」
『あはははは……』
ギブリ映画に出てくる仮面の怪物みたいに唸る私。
ぼっちが双葉は早かった。そう後に述懐したい。生き残れたら。
「そ、それじゃあー………どうしちゃおっかな…ハハハハ」
ようやく人間の言葉が出るようになった。
でもこれってアレじゃない?
ロットを乱した罪ってので斬首刑じゃない?
双葉コーヒーにロットがあるかはわからないけど。
後ろの人は相当待っている……し、しにたい。
店員さんも珠の様な汗を浮かべてこちらを見ている。
ご案内:「双葉コーヒー常世島学生街店」にモルガーナさんが現れました。
■モルガーナ >
「何じゃ……これは」
その後ろで若干場に合わない服装の人影があった。
幾分か汗ばんだ様子で服も少し気崩しており、うっすらと汗ばんでいる所を見ると店内に入ってきたばかりなのだろう。
そして耳に飛び込んできた言葉に一瞬眉を寄せる。
「今のは呪か?」
……いくら龍でも熱いものは暑い。特に人の形になっている時は特に。
何か片手に冷えた物でもとおもい、いつぞや知り合いに紹介されたこの店を訪れたのだが……
出迎えたのは何やら西洋風の店構えに若干謎の服を身にまとった客層。
そして苦悩に身を捩りながら謎の呪文で踊る少女。
「……成程の?」
此処はいったいどういう店なのかと疑問符を浮かべながらも
前の方で苦悩に身をよじっている客を眺める。
どうやら踊りながら注文しているらしい。
奇怪な注文方法もあったものだ。
そしてしばし耳を傾け……完全に理解した。
この注文方法、店員の話す言葉
奇怪な品書きに謎の立て看板。
つまり……
「わからん」
そう、
これはもうわからないものと割り切った方が早かった。
■アリス >
気配を感じてギギギ、と振り返ると。
真後ろに異邦人と思しき、角のある少女? 女性?
助けを求める視線を送る。
それが何の意味を持つかはわからない。
生まれ変わったら薩摩人になりたいな。
朝からキエエと叫んで的に木刀を振るの。
そこに双葉コーヒーなんて存在する余地のない生活。
でも朝が早いらしいから早起きできるかな? 私。
『お、お客様……?』
はっ。意識が飛んでいた。
どうしよう。まだ何も問題は解決していない。
『もしよろしければ次のお客様、先にご注文をどうぞ』
バッと角の少女に私の視線が向いた。
これで彼女が正しく注文ができたなら。
私も同じのくださいと言って逃げるだけなのだから。
■モルガーナ >
「む、良いのか?
そちらがまだ済んでおらぬようじゃが……」
若干挙動不審になっていた店員がこちらに目を向け、
ぱっと笑顔で注文を聞きに来た。
恐らく堂々とした立ち振る舞いから注文に慣れた客であると思い
助かったと思っているのだろう。
先に居た客に目を向けると此方も何やらすがるような目を向けてきている。
嗚呼やんぬるかな。この娘、完全に初心者である。
「ふむ……」
一瞬目を瞬かせ品書きを一瞥し小首をかしげる。
とりあえず何か色々と書かれているが今の所未だこちらの文字には慣れきっていない。
なので
「(やはりわからぬ)」
つまるところ、半分は読めない。
しかし彼女には確固たる自信があった。
世の中の事はたいてい何とかなるというのが持論の彼女は
店員の瞳をじっとのぞき込むとおもむろに口を開き
「今お主が一番お勧めの物を頼む」
……実に堂々とした口調で全力で選択を投げた。
■アリス >
お、おすすめ!?
そんな注文の仕方があるの!?
私の心の目から鱗が落ちた。ぼっち女の天鱗だ。
『はい、でしたら本日はハーバルレモネードのフローズンティーがおすすめです』
レモネード……?
コーヒーショップに、そんな頼みやすそうなものが!?
この機会、逸してなるものかーっ!!
「じゃ、じゃあ私もそれを、トールで」
言ったー!!
店員さんも笑顔で頷いてくれた!!
後は角の少女の出方次第だ!!
どうでもいいけど諂いの笑みみたいな気持ち悪い笑顔が自分の顔に張り付いているのを何とかしたい。
■モルガーナ >
「うむ、ではそれの最も大きなものを頼む。
……そうじゃな。此方の焼き物も二つ。」
まるで慣れた注文であるかのように鷹揚に頷き
展示されている粉ものと思わしきもの……スコーンと書いてあるものを指さす。
繰り返しだが彼女はこの店の利用は初めてである上に
提案された物の半分も理解できていないが
そんな気配は微塵も見せない。
「……そうじゃな。会計はそこな娘の物もあわせてで良い。
幾らかの?」
流石に買い物に関してはだいぶ慣れているので
提示された値段を支払い……
「ふむ」
先人を見習い脇へとよける。
どうやら品物は後から渡される様子。
既に対価は支払ったのだからあとは待つだけでよいのだろう。
「これ、邪魔になっておるぞ」
そうして今にも手もみを始めそうな非対称な笑みを浮かべている先の客に声をかける。
どうやら彼女も注文の仕方を迷っていたらしい。
後ろの客が何やら少しほっとしたような表情を浮かべているように見えるのも
恐らくキノセイではないだろう。
■アリス >
「えっ、えっ……」
どういうことだろう、助け舟を出してくれた角の少女は支払いまでしてくれた。
ぼんやりとしていると、邪魔になっていると言われて。
「は、はい!」
ビシッと姿勢を正し、顔をぺちぺちと叩いていつもの表情を取り戻して彼女の隣に立つ。
「あの、やっぱり自分の分は自分で払うわよ?」
「それより、助けてくれてありがとう。注文の仕方がわからなくて困っていたの」
コミュ力を正しく働かせて話しかける。
別に人と会話ができないわけじゃない。
今回みたいな緊急時に上手く喋れないのと、致命的に友達ができないだけで。
■モルガーナ >
「何、気にするでない。
面白おかしく眺めさせてもろうたでな。
支払いに関しては見学料じゃ」
緩く売り台に寄りかかり口元を扇で隠しながら
もう片方の手をひらひらと降る。
そのまま商品を受け取ると近くの机に腰掛けると
「それでもと言うなら慣れぬもの同士
しばし歓談に付き合うというのはどうじゃ?
ちょうど暇をしておってな」
ゆっくりと足を組みながら鷹揚に対面の椅子を指さす。
基本マイペースなため戸惑われる事は多いがまぁ
それはそれでそういう縁だと割り切ってもらおう。
「案ずるな。実の所妾とて理解しておらぬ」
さらっと爆弾発言をしつつ目の前の娘を改めて眺めた。
実に表情のよく変わる娘だ。
何方かと言うと見ていて微笑ましく
茶を飲みかわすには好ましい相手。
つられるように自然と柔らかい笑みを浮かべる。
■アリス >
「お、面白おかしい………」
面白おかしく? そんなの……
あ、わかる。
理解できる。今の私は、面白おかしかった。
「歓談に? いいけど……」
対面の椅子に座ると、理解していないという旨の発言を聞いて。
柔らかい笑みに緊張もどこかへ消えてしまって。
「ふふふ、ありがとう。あー……ええと」
「私はアリス。アリス・アンダーソン。あなたは?」
名前を聞いてみる。
お互い名前も知らないままじゃ、不便だし。
■モルガーナ >
「暇は龍をも殺すでな。
最も、先ほどまでは暑さで死にそうになっておったが」
どうやら動けなくなるほどの異常な緊張は無くなったようだ。
当初思っていた以上に真面に喋れる相手のようで
それに先程は気が付かなかったが見た目もなかなか可愛らしい。
何よりも目が生き生きとしている。
「ありす、か。
ふむ、良き名じゃ。
妾は此方の言葉ではモルガナと言うようじゃな。
正確な発音は未だ慣れておらぬ。許せ。
この際親しみやすい名でも考えるべきか……」
注文の品を口に運びながら自己紹介をし、
口に含むと一瞬動きが止まる。
「……思ったより酸味が強いものであったな。
主の口に合うかが気になるところじゃ」
思った以上に柑橘系だった。
これも嫌いではないけれど。
■アリス >
「あ、わかる。暑かったよね、今日は特に暑い!」
暇は龍をも殺す、という定型文は知らなかったけれど。
彼女の世界では普通のものなのかも知れない。
「ありがとう、パパがつけてくれた名前なの」
「あなたはモルガナね、発音が綺麗で良いと思うわ」
酸味に言及されてフローズンティーを口に運ぶ。
冷たく、酸っぱく、甘く、そして何より安堵感があった。
自分は緊張して喉が渇いていたんだ。
「美味しいわ、私は好きよ。レモンが利きすぎなのは、わかるけど」
薄く微笑んでから窓から外を見る。
地獄のような暑気も、今はガラスの向こう側。
「モルガナはどこの人? 見た感じ、異邦人っぽいけど」