2018/08/28 のログ
アリス >  
「組み合わせ……なるほど。確かに私の異能は便利だけど、便利なだけじゃないものね」

私が異能の制御が覚束なかった頃。
研究所の人間は私の異能を万能の異能といった。
空論を実現させる獣。ジャバウォック。

人を殺すことだって簡単で。
人を守るにはちょっと難しい。そんな異能。

「うん。追影さんも私が隣にいると奇異の視線が来るかもしれないけど。気にしないことよ」

人の視線には慣れた。
人は眼で見ることに対して、素直で暴力的だ。

「大物? それはいいわね、でも私の釣竿に引っかかるのはまた小さな魚みたい」

また手ごたえの弱い魚が引っかかって、苦笑しながらリールを回す。

すると。

「!? ちょ、ちょっと!!」

急激に引きが強くなる。
もしかしたら、今、釣った魚を。
“大物”が食った形で釣ってしまったのかも。

「聞いてない聞いてない!!」

ずるずると海側に近づく。
釣竿を手放すか、海面に引きずり込まれるか。

ご案内:「常世港」に追影切人さんが現れました。
追影切人 > 「…便利ってのは裏を返せば”何でも出来る”ってこった…どう使うかはソイツ次第だな」

つまりその持ち主の人間性を体現するとも言えなくもない。
そして、彼女が空論を実現させる獣の力を持つならば。
少年は――現実を切り裂く刃の申し子である。

誰かを殺す事は赤子の手を捻るよりも簡単で。…守るより殺す事に長けた技能。

異能もあるにはあるが、正直全くわからないというのが上の見解らしい。
まぁ、異能があろうが無かろうが少年には大した違いではないのだけれど。

「あ?それこそ気にしねぇよ。因縁付けて来やがったら斬るけどな」

真顔。冗談でなく本当に斬る少年である。まぁ、殺すのはアレだから衣服を切り裂いて辱める程度で済ませてやろう。
ともあれ、お互い人の視線で自分を見失う程のヤワさは無いという事だ。

「……あ?またさっきのナマズ―――って、おい。」

何か急に引きが強くなった。流石にマズいと立ち上がり、アリスを背後から抱きかかえるようにして支えるが…引きの方が遥かに強い。
ジリジリとではあるが二人纏めて海の方へと引っ張られて行く状態だ。

「チッ…!オイ、アリス!釣竿はまた作れんだろ!?一度手を離せ!!」

と、言いつつ。彼女が釣竿を離せば――右手を手刀の形に変えて。

「――運が無かったなテメェ。」

言いつつ、海面へと向けて振り下ろす。瞬間、凄まじい波飛沫と共に海面が数メートル”割れた”。
同時に、白い鯨をそのまま小型にしたような数メートルサイズの巨大な魚が飛び跳ねる。

アリス >  
「怖い怖い怖い!!」

判断の余地が介在しない短い時間に海に引っ張られる。
引っ張り込まれそうなところを後ろから抱きかかえられて。

「離さないでね、絶対! 絶対離さないでね!!」

フリじゃないからね!!
今、海に落ちたらどうなるかわからない。
混乱しながら必死に釣竿を引いた。

「手を!?」

釣竿自体は錬成したもの、手を離して海のゴミにならないよう、分解する。
咄嗟だけど、この程度の判断ができるなら早めに手放しておけばいいのに!! 私!!

次の瞬間、海が割れた。
剣の道を志す者は猫を斬って一人前、即して斬猫(ざんみょう)の境地。
さらに水を絶って達人、とはいうけれど。

海だよ!? 手刀だよ!?
頭が混乱しながらも、飛び跳ねた魚を見る。

ヒガンテシャーク。常世固有種。通称クジラ鮫。
近年、見境のない食欲で数を増やす凶暴な海の嫌われ者。
人も魚も食べれば、牙の生え変わる頃には船にだって噛み付く。
それがこんな近海に!?

呆然とその様子を見ていた。すごい。

追影切人 > 幾ら万能で強大な力を持っていても、こういう状況では矢張り一般の学生である面がどうしても出てしまう。
むしろ、これでアリスが即座に対処したらそれはそれで末恐ろしいものがあるけれども。

「いや、離したらお前そのまま海に引きずりこまれて食われるぞ」

と、冷静に返しながらも、彼女を支えていた。流石に即座に釣竿を手放す、という訳にはいかないか。
それでも、彼女が釣竿を分解する形で消せば、抱きかかえていたアリスを後ろに下がらせるように位置を入れ替えての…右手の手刀による無造作な一撃。

ただ、それだけで海面が断ち切れて件の…アリスの言うヒガンテシャークがたまらず飛び跳ねる。
あちらも、まさかただの人間で素手で海面を切り裂いて自らを炙り出すとは想定外だっただろう。

「――まぁ、取り敢えずテメェは切り殺して問題ねぇな?」

と、尋ねるように言うが既に少年は無造作に右手を軽く横に振るう。

瞬間、ヒガンテシャークが”64枚”に分割されてバラバラに散らばる。骨も皮も肉も牙も一切関係なく。
余りにも切れ味が鮮やか過ぎるためか、血の一適すら撒き散らさずに…バラバラになったシャークは少年やアリスの周囲にボトボトと落ちた。
そして、思い出したように肉片から血が染み出してくる。
…少しスプラッターだが、まぁアリスには我慢して貰うしかない。

「…何だ、もうちょい硬いかと思ったが大した事ねぇな」

と、呟く少年の声は何処か暢気なもので。そして、割れた海面が波飛沫と共に元に戻る。

「…おぅ、アリス。怪我とかねぇよな?」

ご案内:「常世港」に追影切人さんが現れました。
アリス >  
しばらく呆然と彼に抱きついていた。
すごい。人間とは鍛錬次第でこんなこともできるのだろうか?
分割された鮫のパーツが周囲に散らばる。

怪我について聞かれると、ようやく自分が彼に強く抱きついていることに気づいて。
赤くなって離れた。

「だ、大丈夫! 怪我せずに済んだから!」
「あ、ありがとう……追影さん」

たどたどしくお礼を言うと、さっき氷を買ったところから騒ぎを聞きつけて人が来る。

「え?」

無言で分割されたパーツのうち、背びれを確認すると写真を撮り。
何らかの書類を書いて印鑑を押し、こちらに渡した。

『ヒガンテシャークの駆除は一匹6000円だから。生活委員会に申請してもらってね』

とだけ告げて漁港の人は去っていった。

「えっ!? えっ!?」

渡された書類を手に持って混乱している。
私の命がけ、微妙に安い!!

「こ、これどうしよう追影さぁん……」

混乱続行中。この鮫のパーツもどうすればいいやら。

追影切人 > これが異能や魔術ならまだ説明が付くだろうが、生憎と”この程度”は少年にとって手足を動かす延長でしかない。
これは少年の技能であり、常世島という環境、スラムという底辺が生み出した”人の形をした刃”の所業だ。

ともあれ、美少女に抱き付かれるのは悪くはないが、こちらの声に顔を赤くして離れるアリスは年相応だと言えるだろう。

「気にするな、流石にダチを魚の餌にする訳にもいかねーだろうよ」

と、手をヒラヒラと振って気にするなと。その手で海面や巨大魚を真っ二つにしたりバラバラにしたのだけれども。
と、流石に騒ぎになったか周囲の喧騒に面倒臭そうな視線を向けるが…。

「…何だ、駆除対象かよ…近くに居りゃあ根こそぎ斬ってやるんだけどな」

と、海面を隻眼で見渡すが…残念ながら近くには居ないようだ。この一匹だけ偶々この釣りポイントの近くに来ていただけのようで。

で、アリスと周囲のやり取りを他人事のように眺めていたが…。
情けない声を出すアリスに、溜息と共に軽く頭を掻いて。

「臨時収入…小遣いが入ったと思えばいいだろ。俺は別にいらねぇから、アリスにそれはくれてやる。
こいつのパーツは…まぁ、食えそうにもねぇし、海に捨てるか何かするしかねぇか」

言いつつ、目の前にあったヒガンテシャーク”だったもの”の一部を海面へと蹴り落とす。
ともあれ、派手にやった手前、処分は少年がそうして淡々と海面に蹴り落とす事で解決としよう。

駆除対象は基本的に食用には適さない。それに、この死骸のパーツも他の魚の餌になる。

「……お」

最後、ヒガンテシャークの口の部分を蹴り落とそうとしたが、その立派な牙に目が留まり。無造作にその牙だけを引っこ抜けば、軽く学ランの裾で無造作に拭き取って。

「――アリス、記念にでも取っとけ」

と、その牙を少女へと軽く放り投げて渡そうと。

アリス >  
「う、うん……助かった、命が」

赤くなる顔を錬成した濡れタオルで拭いた。
ヒガンテシャークを図鑑以外で見たのは初めてだし。
その展開図を見たのも初めて。

「ええ……いいの? 斬ったの追影さんなんだけど」

とりあえず書類を荷物の中に入れる。
今度、追影さんにご飯でも奢ってチャラにならないだろうか。

蹴り落とされる鮫のパーツ。
十字を切って神に祈る。
海の嫌われ者とはいえ、自分のせいで死んじゃったのだし。これくらいは。

「……え?」

その時、無造作に投げ渡されたものは。
鮫の! キバ!!
手に持った時点でぞわわと背筋を嫌な何かが走る。

「キャー!! き、記念にしたってこれは…!!」

そんなこんなで、私は大騒ぎして。
家に帰る頃には、すっかり夕暮れになっていました。

……夏の思い出、できたかも。

ご案内:「常世港」からアリスさんが去りました。
追影切人 > 「まぁ、アレに食われたら流石に死ぬだろうなぁ」

ヒガンテシャークはその消化能力も半端無いらしい。つまり食われたら即座に体内で消化されてしまう。
それを考えれば駆除対象なのも納得であろうか。ともあれ、最後の口の部分も海に蹴り落とす。

「いいっての、俺は別に金にんな困ってもいねぇしな」

風紀の”汚れ仕事”をこなし金そのものは大して困っていない。既に十分な働きをしているし、口止め料もあるのだろうが。
彼女と違い、少年は祈らない。神だろうが悪魔だろうが全部斬る。それがこの少年だ。

「……何だ、ただの牙だろうが。加工すればアクセサリーとかになるらしいぜ?」

と、彼女の慌てっぷりにニヤリとしつつも、その後は何だかんだあって途中まで彼女と帰路を共にしただろう。

後日、”枷付き狼(グレイプニル)”が金髪美少女と磯釣りデートしていた!と、あらぬ誤解を受ける事になったがそれはそれ。
ちなみに、噂した奴らは今度全員ぶった斬るか、と思ったそうな。

ご案内:「常世港」に追影切人さんが現れました。
ご案内:「常世港」から追影切人さんが去りました。