2018/10/31 のログ
ご案内:「過去 路地裏」にパンデミック(天帝の髑髏)さんが現れました。
ご案内:「過去 路地裏」に川添 孝一さんが現れました。
■川添 孝一 > 謎の怪異が現れた。
そう報告があったのは、俺が卒業する前の年の10月の頃だ。
そう、ちょうど一年前。
ちょうどこんな、満月の夜の出来事だった。
「はぁ? ゾンビ騒ぎ!?」
怪異が路地裏に出現、倒された者が起き上がり、不死者として群れを成している。
解散手続きをしていた怪異対策室三課にも、ギリギリその情報が届いた。
状況は最悪。
何せ、やられた分だけ敵が増える。
やられるなんて一言で言えば一瞬だが、潰えるのは一人一人の人生だ。
断じて見過ごせない。
「まぁ、待てよお前ら。お前らがゾンビになっちまったら手がつけられねぇ」
「俺が行く。単騎駆けだ。俺ならウィルス、魔術感染、肉体変異、全部クリアできる」
「変異系の異能舐めんなよ? 心配すんな、危なくなったら逃げるからよ」
今になって思えば。
これが怪異対策室三課の出動した最後の事件。
俺たちのラストバトルだ。
屋根を蹴って跳躍しながら路地裏に急行する。
既に血と死の気配が濃い。さて、ターゲットはどこに。
■パンデミック(天帝の髑髏) > 満月の夜。
空高く上る月は不気味な程赤みを帯びて輝き、今夜の不吉さを告げている。
殺されたものが、何かに寄生され、そして赤く変色して起き上がる。
路地裏では、未知の怪異が出没していた。
「我は大国、―――の天帝である。
我の糧と、奴隷と成れる事を…光栄に思うが良いぞ」
そこには、異常な「門」と、そこから顕れ送り出された―――スケルトン。
それも、巨大な頭部と、手の部分だけを形にして、僅かに宙に浮いている。
骨だけでも分かる、死んでなおも収まり切らない憤怒と欲望が溢れた悍ましい死者の顔。
彼は天帝。在りし日の悪政の限りを尽くした暴君の亡骸。
その背後に深い闇と怨念を湛えて炎の様なオーラを放つ事が、
これが親玉であり、いまさっき、あの門から送り出された事を理解させるだろう。
「この我が―――貴様ら全ての生を貰い受けようぞ。
それが、我が復讐であり、貴様らの至福であるのだ。
貴様の死をここに刻んでくれる……『チェック』」
人の腕程の太さのある指先から放たれる怨念が凝固した魔法弾は、
光と闇の属性を交えて回転―――球体となり、殺人弾として路地裏を飛び交う。
被弾した人々が、瞬く間に赤黒いスケルトンに変えられ、
ある者はその骨を拾い喰われ、ある者は踏まれる。
凄惨たる状況がその場にあった。
この場には、もう人だった者しか残っていない。
―――今、ここへ向かう彼を除いては。
■川添 孝一 >
遠くから姿を見ていた。
遠くから声を聞いていた。
遠くから……怒りを堪え切れなかった。
あの化け物が冬の枝を踏み折るかのように蹂躙しているものは。
不死の軍勢が握りつぶしているものは。
命だ。
この島で精一杯生きてきた、人間だ。
どうしようもない奴もいた、輝くばかりの笑顔を見せてた奴もいた。
そいつらが今は骨の標本になってる。それが我慢できない。
ハラワタに熱いものを感じる。
至純の怒りが異能の肉体侵蝕率を上げていく。
暴君の骸、そしてその前の骨の軍勢を前に着地する。
「お前……なんだ…?」
「なにをやってるのかって聞いてんだよッ!!」
「お前に何の権限があって命を弄んでるッ!?」
懐に手を入れる。取り出すのは、櫛。
時代錯誤なヤンキーは、髪型を整える。
「お前を見ていると……弱いものイジメして笑ってたあるクソ野郎を思い出して気分が悪いぜェ…」
爛々と輝く双眸が、闘気を放つ。
「男、川添孝一ッ!!」
「てめェは見過ごせねェ!! ぶっ潰す!!」
両手の指を無造作に紅い骨細工たちに向ける。
指先の骨が硬質な銃弾となって発射される。
両手の指から、10発。
追放されし異形の果実(エグザイル・レッドフレア)。
肉体変異系の異能。俺の真なる力。
今はただ、守るために。
■パンデミック(天帝の髑髏) > 天帝の髑髏は、重々しく口を開く。
声は威厳と傲慢に満ち溢れた、心の臓に響こう低い低い男の声。
「我は天帝。絶対的存在にして、最高の王者である。」
天帝の基礎にして究極の光と闇の魔法、チェックが、彼の銃弾の半数を打ち砕き、相殺する。
「我は天帝。我はこやつら――愚かな生者共――を、この天帝たる我がシモベであり、
糧にしてくれてやっているのだ…悦べ、誇れ、光栄に思え。我は至高の存在である。」
その言葉から感じられるのは、この世界の住民への侮蔑。
高い王座から人民全てを見下した、傲慢な暴君のもの。
重い、重い言葉は、さも当然のように天帝たることを断言し、もう一度魔法弾を固め、
川添孝一のエグザイル・レッドフレアで繰り出される弾丸を2発目で10発全て打ち砕く。
「我は天帝。
愚かな人民共の生死与奪の権は、即ち将来それ全てを治める我の手にある。
然り…こやつら愚かな生者には、かような殺戮兵器か我が身体の一部である事こそ、至福であろう?」
天帝、そう名乗る者は掌を空に掲げる。
骨だけの顔面、大きな髑髏が邪悪な笑みを浮かべる。
「我は天帝。その名を…ディスニオ。
この世全てを治める者の名を、しかと心に刻み込め。
そして―――貴様もまた、我がシモベにしてくれようか。二度と口答えなど出来ぬような。
天帝が命ず、この者に終焉を―――『チェックメイト』」
天帝の背後のオーラが燃えたち、光と闇が入り混じり激しく回転する。
空高く掲げた手は、闇夜を背景に不気味な色合いで輝き、そして人一人を容易に飲み込もう、
魔法のレーザーが川添孝一の血肉を焼き尽くそうと襲いかかった。
■川添 孝一 >
「天帝だぁ……!?」
異なる世界から来た不死の王。
不遜な態度も、高貴な身から出る言葉も。
威圧感と共に感じる、こいつはマジだ。
だからって男が一度口にした言葉をそう簡単に引っ込めるわけにはいかない。
「愚かっていうのはな……」
「誰かを踏みにじっても反省しねーバカ野郎のことを言うんだよ!!」
無詠唱、そして詠唱破棄してもなお一撃で人をひとり吹き飛ばして余りある威力の魔力放射!!
咄嗟に持ってきていた魔導書『世界は蜜でみたされる』を開く。
できるだけ短い詠唱で対抗しなければ。
「209番目の記憶!! ひからびつつある湖の底で、二匹の鯰がにらめっこして笑い転げている!!」
「アンチマジック、歪めぇ!!」
喉を変質させて、人間の可聴域を超える高速詠唱。
魔力放射を打ち消し、少量の木気に分解しながら魔導書をめくる。
その時、気付いた……本が負荷で一部焦げてる。
嘘だろ、B級魔導書とはいえ俺が学生生活で一度たりとも性能に不満を持ったことがない一品だぞ。
おそらく、魔力は相手が圧倒的に上だ。
こいつには異能で勝つしかない。
「バラバラになりやがれッ!!」
その声は、指向性を持って巨大な音の塊としてディスニオに放たれる。
悪魔の咆哮(デモニック・ハウル)。防げるもんなら防いでみやがれ。
■パンデミック(天帝の髑髏) > 「……天帝たるこの我の魔導を?…所詮愚民のまぐれ足掻きであったか。」
チェックメイト。その意味は、終局。
降り注いだ者に終わりをもたらす、天帝の究極の魔術。
それを魔法で打ち砕き、歪め…消した。少なからず、天帝ディスニオは驚きを感じ…
焦げ付いた魔導書を空洞の目が見れば、さもありなんと邪悪に笑う。
「歴史は勝者が常に正義。故に、我が誰を踏み躙ろうと、
我が如何に貴様ら愚民から見て馬鹿であろうと。我は正義である。」
「理解せよ。我が蹂躙は正義。我が復讐は万民が望むべきことなのだ、愚民よ。」
髑髏が口を開き、諭すよりも怒る様な口調で、
そして見下した者を嘲る様な振る舞いで言ってのける。
「ふっ…『王の領域』」
天帝が両腕を自らの周囲に回せば、そこからガラスの様な魔導防壁が張り巡らされる。
絶対的不可侵にして、圧倒的権利者が愚民を見下ろす高い壁。
その中は愚民には決して侵す事が許されない、王の領域が作られ―――音の塊を防ぐ。
「なにィっ…んぐおおおっ?!」
だが、防ぎきれない。
音波が王の領域からディスニオを引き摺り出し、
宙に浮く二本の手の指先を全て粉砕してバラバラに撃ち落とした。
これではもう、手から魔法を生成する事は出来ない。
宙に悍ましいオーラを纏う髑髏が浮くだけだ。
「こやつら愚民は我が糧に過ぎぬ。我が故郷もそうだ…」
「天帝となった我は全てを手に入れた。財も女も城も権威も―――」
「だが、我は恩知らずの愚民共に、統治してやった恩も忘れて首を落とされたのだ!」
「であるから…全てを殺し、全てを我が身体の一部にしてくれようと復讐を決意し、王宮の全てを食った。」
「死して尚、生者の様に動き、愚かな生者を全て狩り尽すこの身体を得てな…!」
天帝は忌々し気に過去を語らう。
その殺戮への執念と、権威への執着だけが残り、このアンデッドを作り出したのだ…。
「貴様には足掻いた褒美をくれてやろう。…さすれば我が心も理解できようからな?
天帝が命ず!この者を極刑に処せ!―――『キャピタル・エクセキューション』」
顔だけの天帝は夜空を仰ぎ、命じる。傲慢さが滲み溢れる詠唱から、
川添孝一の首を狙って、鎖でつながれた大きな鉄の刃が一つ、首を刎ねんと夜空から降ってくる。
■川添 孝一 >
「アンチマジックは十八番なんだよ!!」
強がりの言葉を口にする。しかし、今はあまりこの魔導書に頼るのは危険だ。
おそらく、あと2、3の魔術を発動してこの魔導書は終わり。
寂しいが、そんなもんか。
「くだらねぇ……そんなもんが正義かよ?」
「じゃあ俺がお前を踏み躙ったら俺が正義か? お前は満足か?」
「なワケがねェ……こんなことが、正義であってたまるか!!」
異能は通じる。相手がダメージを負うのを見て拳を構える。
鬼角拳で圧倒すれば、あるいはこの場を収拾できるかもしれない。
「くっだらねぇぇぇぇぇんだよ!!!」
「暴君が順当に処分されたのを逆恨みして、こっちの世界に御迷惑かけてんじゃねぇぞ!!」
拳に力を溜めて、解き放つタイミングを見計らう。
が。
次の瞬間、上からの殺気に咄嗟に反応し、腕の骨を強化して交差させた。
落下してきたのは、ギロチン。
召喚魔法にしても禍々しく、規模が段違いの魔術だ!
「うおおおおおおおおおおおぉぉ!!?」
両手から血を噴出しながら、足元を砕いてその圧倒的重量を支える。
まずい、隙が。クソッたれ!!
■パンデミック(天帝の髑髏) > 「暴君…だと?」
暴君。そう呼ばれた天帝ディスニオは背後の炎を燃え盛らせる。
「ははは…!!愚民が。よく言ったな!我が、この我が暴君であると。」
「そして、下らんとな…!」
「どうやら貴様には理解できんようだ。そして…そのつもりもないらしい。」
「我が崇高なる復讐も、我が正義も!」
その言葉は正論だった。
正論だっただけに天帝の逆鱗に触れた。
「たかが愚民ごときに語らい過ぎたわ…貴様の生は我が貰いうける。」
天帝の骨の穴の部分に魔力が収束していく―――!
「今こそ!この者に終焉を―――『チェック・ペンタライン』!!」
目と鼻と口、そこに凝固した魔力が束となり、5本のチェックメイトのレーザーが集う。
天帝は、川添孝一に史上の苦しみの末の死を与えようとする。
それが、この過剰な魔力を投与したトドメに現れていた。
上からと前からの死を運ぶ攻撃。
絶対、絶命…?!
■川添 孝一 >
「どうやらお前の世界にゃ俺の知ってるスウコウって言葉が通じねぇらしい」
「そういうのを逆恨みっつーんだよ!! 幼稚だぜ!!」
鋼刃を支えながら、足元のヒビが広がっていく。
このまま両断されるか、追撃で死ぬか。
クソッ、状況が悪ぃな。
「…………!!」
さっきの一本でも魔導書が再起不能になってたのに、五倍だと!?
歪んだ輝きに消える。
影さえも残さずに。
静寂。次の瞬間。
ディスニオの背後に立っていた。
「おお、危ねぇ危ねぇ」
こいつは俺の足元にヒビを入れたのが良くなかった。
魔術が強力すぎたのもだ。
俺はな。
足元のヒビに体を折りたたんで地下に潜らせ、逆側のマンホールから出るくらいワケがないんだぜ。
「終焉が……なんだって?」
エグザイル・レッドフレアの最終能力を構える。
「鬼角ッ!! 龍! 撃! 拳!!!」
拳が貴種龍もぶん殴れるサイズまで巨大化し、それをディスニオに叩き付けた。
これこそが超質量攻撃。
いや……俺の男伊達だ。
■パンデミック(天帝の髑髏) > 「ふざけおって…!」
自分のすべてを否定される様な、そんな気分に陥る天帝。
「だが!これまでだな!」
光と闇が全てを飲み込み、川添孝一を消し飛ばす。
これで、完全に勝利した。
そう、思いこんでいた。
「ガハァァッ?!」
それはあまりにも突然で。
そして…予想だにしていない、この世には既に存在しない筈の者の声だった。
ディスニオは龍撃拳―――滅びを知らぬ龍ですらも殴る拳で、大量の骨を撒き散らし、粉々に砕け散った。
「貴様だけは―――!」
「貴様だけは許さぬ―――!!」
「天帝を侮辱した罪業、その身で思い知るが良い。」
天帝の断片が憎しみの籠る思い言葉を吐いている。
そう、こんな粉々になっても、未練が深い天帝は死んでも執念は生きている。
とうに処刑されて尚、この世全てに憎しみを抱いて。全ての生者にその復讐の目を向ける。
「…貴様には我が国を全て我が食った話はしたな」
「喰った人民や財宝は何処へ行ったと思う?」
「…我が腹の中だ」
顔だけのスケルトンが再構成され、ずらりと巨体が出来上がる。
人骨の断片で出来た悍ましい骨の巨人が、天帝の髑髏から生えてくる。
目を凝らせば、手や肋骨、頭蓋骨の部分が浮き出て不気味に見えるだろう。
手が、足が作られ、そして背中には6枚の羽根。
無機質な赤い骨を彩るは、無数の金銀と宝玉たち。
天帝が思い描いた、理想の自身の成れの果て。それがこの、骨の天使。
「もろとも地獄へ転げ落ちるが良い。
これは、天帝たる我の天譴である!『イントゥ・ザ・ヘル』!」
世界が暗転する。
天帝のバックで燃え盛る怨念の炎が、ここ一帯を全てを焼き尽くし、暗闇に誘った。
ここは天帝が作った地獄。
苦痛に満ち溢れた憎しみの世界。
「この炎は…熱いだろう」
本来は、天帝を憎むべき、愚民と言われた者たちの怨念が彷徨い、
天帝に操られ、川添孝一を呪い、燃えるような錯覚を与える。
「年貢の納め時だ―――。
天帝が命ず!この者を磔刑にせよ!―――『グラウンドクロス』!!!」
地獄の世界が莫大な魔力に歪んでいく―――。
天帝の六枚の羽根が羽ばたき、巨大な十字架の閃光を彼に目掛け打ち付ける。
それは、骨の天使すらも凌駕する巨大な処刑台。
気に食わぬ者を留め、そこで殺す為の最悪の処刑魔術。
火あぶりにされながらの磔刑を彼のはなむけにせんと打ち出す―――!
■川添 孝一 >
龍撃拳は完全に入った。
しかし。
相手はまだ活動を続けている。
なんというタフネス。
伊達に不死の王を気取ってはいない。
しかし……しかし。
「お前が……元の臣下や民の命を侮辱していることはよーくわかった…」
「そして、お前はこの世界に来てこの街に住んでる命すら辱めたんだぜ!!」
怒りが限界を超え、脳が逆にクリーンな思考に包まれる。
「風紀に代わって言ってやらぁ、てめぇは現行犯死刑だ!!」
燃え盛る地獄の中、声帯を変質させ、異形の神の名を叫ぶ。
それは人には発音できない名前。
その名を呼ぶことは、異能の強制進化を意味する。
かつて、海底遺跡の調査に同行した時に知ったことがある。
人は時折、異世界の神に祝福され、その呪いと共に生まれることがあると。
それが異能という形で発現することがある。
俺が知ったこの神の名は、俺に力を与えたやつだ。
そして、多分妹も同じだ。
くたばったクソ親父が生前、何をしていたかはわからない。
ただ、ロクでもねー研究に関わってたんじゃないかと思うことはある。
もう、確かめる術はないが。
………今は。今だけは。感謝してやるぜ、親父。
「冒涜されし異形の花々(エグザイル・ブルーフレア)!!」
異能を純化させ、決戦に赴く。
ディスニオの攻撃に貫かれ、体は燃え上がる。
それでも歩みは止まらない。
無限の生命力と、燃え尽きそうな命を抱えて。
一歩、一歩。ゆっくりと前に進む。
「……オイ」
眼光が暴君を貫く。
「終わりか? じゃあ……終わらすぞ」
体が何度、処刑魔術にダメージを受けても。
超再生能力が全身をより強く復元してしまう。
一定の距離で走り出し、跳躍し、骨の暴君の眼前まで一瞬で距離を詰める。
「ディスニオ!! てめーを地獄に送り返してやらぁ!!」
70兆の細胞全てを戦闘向けに組みなおした男の、最後の攻撃。
それは拳。
技でもなんでもない、超パワーでぶん殴るだけだ。
■パンデミック(天帝の髑髏) > 「馬鹿な―――何故だ。何故死なない?」
それは処刑魔術。
気に食わぬ者に絶対的な死を与える、王者の特権。
生死与奪を好きにする暴君に似つかわしい魔術。
恐怖を通り越した純粋な疑問だった。
そこに立っているなど、ありえない。
そう、ディスニオが思ったのはさっきと合わせて二回目だ。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!!」
骨の天使が、砕け散る。
余りの威力の拳に、それを構成する全ての骨が吹き飛んでいく。
そして、飾り気のある財宝も、がらがらと地獄の底へ落ちていく。
天帝の魔力が薄れて消えていくにつれ、川添孝一を呪う炎は真に呪うべき天帝へ向かう。
「認めるか!」
「認めるものか!!」
「私は!!」
「この私は!!!」
骨の羽根が砕け散り、
全身が粉々になっていく。
余りの威力に耐えきれなかったのだろう。
全てが消えるまであとわずかだ。
「天帝なんだぞおおおおおおお!!!!」
「貴様ら!誰が貴様らの小国を統治して帝国にしてやったと思って居る!」
「この恩知らず共が!!!」
「ああ!我が玉座が!!」
「私の!!大切な玉座が!!」
消え行く手で、身体から零れだした巨大な金塊と宝石で作られた椅子が、
髑髏から零れ出て吹き飛ぶと、天帝はそこに縋りよる。
「わ…れ…は…」
「て……ん、て……い……だ……」
暴君は、完全に塵になって消えた。
これこそ、彼に相応しい処刑であり、最後だったのだろう。
殴打の余波で、時期に天帝が縋った玉座も木端微塵になり、
辺りの闇は少しずつ晴れ渡り―――明るい朝日が昇り始めよう。
■川添 孝一 >
何故死なない?ディスニオはそう言った。
「悪いな、妹を一人にゃできねーぜ……」
拳を振りぬいた形のまま、勢いを殺しきれずに一度転がって着地する。
「ディスニオ……お前は踏み外したんだ。決して踏み出したんじゃねェ…」
自分の罪は消えない。
それに向き合わなければ、自分も目の前の存在同様の末路を迎えていただろう。
「あばよ、暴君」
異能の強制進化を必死に調整して前段階に調節する。
これが上手くいかなかったらお陀仏だ。
「ふぅぅぅ~~~~……」
強制進化の代償に暴れ、そして今ようやく落ち着いた心臓の辺りを手で押さえて、朝日を見る。
「……終わったか、あとは…」
「次の世代に任せるぜ」
陽光を眩しげに見ながら、我ながら年寄りくさいな、と笑ってしまって。
これが一年前に起きた事件。
あれから、あの街ではパンデミックという形でゾンビ騒ぎが起きてるらしい。
痛ましい。だが、俺はもう関われない。
俺はもう……戦うのはやめた。卒業したんだからな…
ご案内:「過去 路地裏」から川添 孝一さんが去りました。
ご案内:「過去 路地裏」からパンデミック(天帝の髑髏)さんが去りました。