2015/06/12 のログ
■シュリク > 骨格も、人間のそれに合わせて作られてある
なるべく、人間と変わらぬように
ただし、人間とは違うと分かるように
差別されることなく、区別されるように
作り手の意志の宿った、6000年前の最新モデル
それが今もなお、この場で動いている
「ブランシュ、ですか。この白い薔薇はブランシュというのですね
童話の姫君、というと、どのような登場人物なのでしょう?
……それに、特別な意味、とは?」
機械であるが故か、あまりスピリチュアルな考え方は持ち合わせていないようだ
ただ、知ろうとする気持ちはあるようで、子供のように質問を重ねる
「学園に? それは奇遇ですね、私も1年生として通っているのです」
学園の在籍生に、身分の違いはないのだなと思った
スラムのようなところがあるかと思えば、貴族らしい貴族がいる
そのことについてどう思うか、問おうかとも思ったが、口を噤んだ
そのようなことを急に聞くのは、無礼な気がした
「アリストロメリア様の感覚は分かりませんが、この光景が幻想的なのは、同意します」
本当に、実にいろいろな種類の薔薇が二人を迎える
「バラのおちゃかいへようこそ、おふたりとも!」
と、どこからともなく声が聞こえる――ような感覚すら覚える
風が通れば、無数の薔薇たちが楽しげに、くすりと笑うような声が庭園に響いた
■アリストロメリア > (限り無く本物と変わらぬ贋作は、果たして贋作なのか?或いは本物なのか?
――……否『価値を持つのはそれそのもの』では無く
『周囲の人々が価値を決める』のだ)
(人と限り無く近く、けれど人ざらなるものと分かる彼女も人に近く
人ではないと分かりつつも、細部まで繊細に手を加えられ、あらゆる所に命を吹き込まれた彼女は
人では無いとはいえ、人と違い完全なる物扱いを受ける事は稀だろう
遥か昔に造られたとは到底思えないどころか
最新の技術を駆使しても、果たして彼女と同じ性能を持った機械人形は造り出せるのだろうか?)
ええ、ブランシュというのはフランス語で『白』という意味がございますわ
……童話の方は『ブランシュネージュ(白雪姫)』と申しまして……
貴方の様な美しい陶器の様な白い肌と、赤い血の様な唇
違う所は……そうですわね、黒檀の様な黒髪では無い所かしら?
けれど、純白のブランシュの名に相応しい白い髪の貴方の方が、ブランシュの名に相応しい様に思われるわ
(等と語りながら、白雪姫の話を語って聞かせる
最後には、真っ赤に焼けた鉄の靴を履かせて実の母を焼いて殺した所までお話しながら)
……特別な意味、というのはね
人は不思議な事に同じ人物でも、呼び方によって相手に想う感情にも変化が生じるんですの
……乏しいながらにも、貴方にも感情があるみたいですし、きっといつか その意味の分かる日が来るでしょう
まぁ?貴方もでしたの……私も同じく1年生ですの
仲良くして頂けると嬉しいですわ
(同じく学園の生徒と知れば、にこにこと嬉しそうに親密さを増して語る
自分と同じ共通点と、知り合った子が今後も同じく学園で会える事が嬉しいのだろう)
……そうですわね
私も何故かしら……?上手く表現できないのですけれど
季節外れの『アトリア』のせいかしら?……何故か魔法がかけられている気がしますの
(お伽噺みたいですわね、と内緒話するかのように口元へそっと人差し指を添えた)
ね?知っておりまして?
お伽噺や童話、神話でも――……何かそういった魔法や神々の遊びに出くわした時というのは
他では語ってはいけないと言われておりますの
……代わりに、秘密にしておくと幸運が訪れるとか
(そんなお話をしていたからだろうか……?)
(バラのおちゃかいへようこそ)
(と、どこからか聞こえるかの様な錯覚は
薔薇達の笑うその庭に案内されるかのように……気付けば
二人の目の前には、丁度二人分 あつらえたかのように、庭園の中央には
薔薇の紅茶と薔薇のマカロン、薔薇のケーキ……と、薔薇尽くしのお茶会が用意されていたのだった)
■シュリク > シュリク自身も、自らをヒトの偽物であると考えたことはない
ヒトに似せて――それも、そっくり精巧に――作られていても、シュリクはシュリクだ
比べる人はいる。区別(くら)べる人もいる
しかし、それがなんだというのだろうか?
彼女は、そこに、今いるのだ
「白……成る程。この髪を見て、ですね。
白雪姫、というものは本で見たことがあります。成る程、世界で一番美しい姫ですか。
……なんだか、むず痒いですね」
機械らしからぬ感情だが、白雪姫の結末を聞くと、驚いた
王子のキスにより目覚めたわけでなく、喉につかえたリンゴのかけらを吐き出したことで蘇ったことなど
読んだ本は、どうやら子供向けに書き換えられた優しい童話のようだ
「……ニックネーム、の話ではないんですよね……?
確かに、親しくなるに連れて呼び方を変えるというのはありますが
それは、頻繁に呼ぶことになるのでより呼びやすい名前を授けているだけと思っていました」
「ええ、是非。友人は多ければ多いほど楽しいと、最近学びました。
学校周辺は楽しい店も多く、飽きが来ません。
ぜひ今度、たい焼きでも買って一緒に帰りましょう」
機械らしい言い方ではあるが、買い食いのお誘い
まるで自分は機械である前に一人の女の子なのだ、とでも言いたげだ
「『アトリア』? ……あの小さな薔薇ですか
……語っては、いけない」
シュリクは機械だ。異能は使っても、魔術に関しては、
――最近は治りつつあるとはいえ――
まだ、信じきれていない
だが、目の前の、友人になったばかりの少女の台詞には、何故か説得力を感じた
「……わあ……」
秘密の話に対して、どう答えるべきか考えていれば
広がるは「なぜか」二人分に用意された茶の席
芳しい薔薇の香りが、二人を誘う
「……これは、どうやら、ひみつにしてくださいね?……という、薔薇たちの声が聞こえてくるようですね」
くすっと、囁くように笑って
「折角ですし、頂きましょう、アリストロメリア様――いえ、アリス」
花のように、笑った
――これも、きっと、まほうのひとつですよ
■アリストロメリア > そうですわね 今日は薔薇園で白薔薇を見ているせいか
黒髪よりも白い髪の可憐な少女の方が、その名にずっと相応しい気が致しまして
存じておりましたの?……ええ、その姫君ですわ
……ふふ、ブランシュ……いいえ、この時だけはシュリク嬢と呼ばせて頂きましょう
貴方は本当にそう思わせてしまうくらい可愛らしくてよ
(……さて。結末を元のグリムで言ってしまったが、子供向けの優しい童話の方が良かったか
少し驚きの瞳の宿る少女に対し、夢を壊してしまったかのような罪悪感に胸が囚われる)
ニックネームも含まれますわ。愛称とか、その他にも魔術師でしたら魔術名とか
役職……例えば学園で分かりやすい例で言いますと風紀委員とかも、一応は一例に含みますわね
或いは、もっと別のその人に与えられた呼び名とか……
その時折で人の名前や呼び名というものは幾つかある場合がございますの
きっと、そのうち人と接する事で自然と理解し覚えていくでしょう
口で解説するのと、感じ方は違うものですわ……ブランシュもそのうち人と接しながら理解していくでしょう
嬉しいですわ……私もお友達が増える事は、とても楽しく新たに学ぶ側面も教えられて
改めてお友達の大切さを痛感するのですわ
まぁ?たい焼き……初めて聞きますわね。それは何ですの? ええ、是非案内して下さいませ
(誘われれば嬉しそうにお願いして
こうして接しているうちに、本当にその精巧さから機械という事を忘れ、人間の少女だと錯覚してしまいそう
甘いものとは今の時点で知らないが、きっと知ったら
『女の子はお砂糖やスパイス等の素敵なものからできていますから、好きなんでしょうね』と答えただろう)
ええ、あの小さなオレンジの薔薇ですわ
(『秘密』というように、唇にそっと人差し指を押し当てて答える)
(彼女が魔術に関して懐疑的だとは露とも知らないが
きっと、今回だけはそれを信じて守ってくれるでしょう
――……そんな、本来の彼女ならあり得ない事を起こしてしまう様な奇跡も、魔法というのだろうか?)
(薔薇園の中央に、二人を待ちわびていたかのような薔薇に囲まれたティーパーティーの席は何故か
『私達の為に用意された薔薇の魔法のお茶会』の案内であった事だけは何故か――……理解出来た)
……ですわね
(そっとブランシュに身を寄せて、耳元でそっと微笑めば、内緒話をするように返答し)
ええ。頂きましょう――……こんな素敵なお茶会を見過ごして先へと進んでしまったら
きっと紅いドレスと黒いレースの魔女の様な女王に、今宵は首を跳ねられる悪夢を見せられてしまいそうですわ
(等と冗談を楽しそうに囁きながら、花の様に微笑めば、席へと付く
それはまるで、あつらえたかのように二人にぴったりで座り心地が良く、心から寛ぐ事が出来た
薔薇園にかけられた魔法仕掛けの、ブランシュとアリスのお茶会が龍に守られる童話のような世界の中で幕を開ける――……)
(その席へと座れば、不思議な事に 独りでに二人のお茶やケーキが用意されていて
黒い鎧を纏ったフルフェイスの騎士が、従者の様に二人の世話を焼いてくれた
きっと、薔薇づくしのお菓子の中に紛れてあるレモンパイも、長年造られ続けた老舗の味を思わせるほどの絶品に違いないでしょう)
(お菓子を口に運べば、どれもこれも洗練された味わいで、舌を蕩けさせる程に甘く魅惑的でしょう
……けれど、注意しなくては
このお菓子は甘く甘く、実に甘美で素敵な一時を味あわせてくれるでしょうけれど
二人以外の秘密が漏れてしまった時に――……お菓子の甘さはベラドンナの毒となり、二人を蝕んでしまうでしょうから)
■シュリク > 可愛い、と再び面と向かって言われれば、ほんのり頬に赤みが差した
朝露で濡れた薔薇のように透き通った肌 機械にも赤い血が流れているのだろうか?
「私の名前の、シュリクというのは、「絹」という意味なのだそうです
恐らくこの白い髪から取られているのだと思いますが
それが薔薇の名にも通ずるとは思いませんでした
――アリスも、とってもお綺麗ですよ」
世辞ではない。本心だ
実際、彼女こそまるでお伽話からそのまま飛び出てきたかのような
そう、姫だ。一国の姫君
実際どれほど高貴な生まれなのかはシュリクには分からない
が、ある種魔性めいた美しささえ感じるのに、いやらしさはまるでない
不思議な美しさに、目を奪われることもしばしばあった
「いえ、その時その場に合わせた呼び名、というのはわかりますよ
親しい物同士でも、公式な場では敬意を持って呼び合うこともありますしね
……ただ、その目は、そうではない、とでも言いたげですね」
ほふ、を息を吐き出す
名前一つでここまで話したことなど当然、なかった
あくまで機械的に、識別上必要な情報というだけのもの
名前自体に意味はなく、名付けられた物こそが意味のあるもの
そういう考えであった
「私じゃ、なにがお教え出来るか分かりませんが……
なにぶん、この街どころかこの時代のこともわからないですので……
でも、たい焼きは美味しいですよ。懇意にしている店があるのです」
どんな形や味なのかは秘密です、と付け加えて
語るシュリクの表情は本当に、楽しげであった
友達と話している、普通の女の子
薔薇の薫りに、あるいは気を良くしているのかもしれない
「随分小さな薔薇もあるのですね」
異世界より齎された魔法であるならば、機械ですら化かされてしまうだろう
なにせ、法が違うのだ。それも認識できないレベルで
くすり、と笑い声が一つ
――聞こえたような気がした
「ああ、それは怖いですね……物語から飛び出てきた存在に、勝てる道理もありません
――そもそも、勝ち負けを気にする間柄でもないかもしれませんが」
二人のために誂えられた調度品
二人のために作られた菓子
二人のために淹れられた紅茶
二人のために用意された薔薇の園
――本当に?
――――二人だけのため?
――――――観客は、大勢いるのだ
楽しいものを見るように
懐かしいものを見るように
美しいものを見るように
可愛いものを見るように
薔薇たちは注意深く二人を見ている
魔の法を破りはしないか
自分たちの用意した「世会」は楽しんでもらっているか
じいっと、魅入る
■アリストロメリア > (ほんのりと彼女の頬に赤みがさせば、まるで紅いハートの女王が
白薔薇を紅く染め上げたかのように見えた
そんなふうに照れる姿がまた、愛くるしい)
シュリクは絹という意味でしたのね……通りで
絹糸の様に艶やかで美しい髪をなさっているのね
(名前に相応しいわ、と微笑み、褒められれば少し照れたのか、化粧を施したかのように頬に紅がさして)
……ふふ、ありがとう
嬉しいのですけれど……何だか照れくさいですわね
(褒め合いは、今日はここまでにしましょうか、と切り出した
世辞では無く本心で褒められるほどに心に響くものであり
出会った当初は機械特有のクールさと、無表情で本心の見えない少女だと思っていたから
彼女の真っすぐな瞳に見つめられて素直に褒められるのは嬉しい半面
ストレートに心に響いて……限界になったら走り去ってしまいたくなってしまうだろうから
けれど、今日は何故か初めて会った筈なのに この機械人形とずっとこの場で居たい様な気持ちが強く
それは自分でも不思議に感じながら、こうしている事がとても心地良かった)
それであっておりますわ……そこまでわかっていれば、大丈夫ですわね
(『良い意味』だけでない事も時にはあるが、先程の童話のお話の反応から察するに
精神年齢も少女に近いのだろう……余計な事を言って、ブランシュの名に相応しい
純白の少女に黒いインクを垂らす様な真似はしたくなかった為に、口を紡ぐ
それに、自ら言わなくとも機械があれば自ずと知ることになるでしょうから)
……ふふ、既に私の知らない『たい焼き』とやらを存じてますわ
それにきっと、私の知らない知識をブランシュは所有している事でしょう
誰しも、自分にはない深い知識を持っているものですし、私はそれに敬意を示しますの
ええ、約束ね(嬉しそうに微笑みながら、蒼穹嬢に教わった『指きり』の形を彼女の前に出して)
(『まぁ、待ちきれませんわ……当日まで秘密という事ですのね?』
等と語る二人は、仲睦まじい少女そのもの
初めてなのにこんなに楽しい時間を過ごせるのは、薔薇達の加護の賜物なのだろうか)
ええ、薔薇は花弁の何枚も重なった姿のカップ咲きやロゼット咲きを想像されがちでしょうけれど
一重咲きで他の花の様に、花弁が5~6枚一つだけのものや
こうして、とても小さな薔薇等もありますの
昔から愛され、幾重にも時と人の手が加わり改良され――……私も全て歴史は語れるほど詳しくは無いですが
元々は今の様に目立つ美しい花というより、香りがとても強くもう少し地味な花だったそうですわ
それが今の様に花弁の美しさを競わせ改良され、観賞用にされる一方で、匂いは落ちていったため
原種に近い花の方が香りが強いと聞きますわ
(そんなお話をしていると、くすり、と笑い声が聞こえるのは何故だろう?)
……でしょう?
だから、この秘密の花園は二人だけの秘密で決して漏らしてはいけませんの
(子供に語るマザーグースの様に語る彼女は、薔薇の魔法なのだろうか?
一瞬だけ、強風が吹き薔薇の花弁が舞ったかと思ったら
――……アリスの姿は何故か 鴉の様な漆黒の黒髪の、紅い薔薇の装飾の……少しハートの女王を連想させるかのような少女に
ほんの一瞬だけ視えてしまっただろう
……もしかしたらそれすらも、一瞬で忘れ去り、記憶にとどまってすら居ないかもしれないけれど)
(二人にこれ以上ない位相応しいティーセット)
(二人の味覚にこれ以上ない位、好みで惹かれるお茶やお菓子)
(二人の為に特別に用意された薔薇の園)
(悪魔の誘惑に誘われるかのような、甘美でずっとこの時を永遠に過ごしていたいかの様に思うお茶会は)
(彼女達には『特別な薔薇のお茶会』でしかなかったのだけれど)
(それは同時に薔薇の囁きの『罠』でもあったのだ)
(甘い甘いベラドンナの実の誘惑は、恐ろしい精神錯乱や猛毒を引き起こして
きっと、神話の三女神の一人の様に、いつでも二人の命を絶ち切れるような恐ろしい毒を隠したまま)
…………
……………………
………………………………
(十二分に、どのくらいこの時を楽しんでいただろうか?
薔薇の香りと味の上品なお菓子とお茶で満たされた後
お茶会の中で少しだけ気になっていたけれど、そこまで気にしていなかった
時折聞こえる密かに囁く声や薔薇達の視線が――……)
(お茶会が終わると同時に、とても恐ろしく怖いもののように
或いは、踏み入れてはいけない空間に入ってしまったかのように
周囲を見渡せば、気付いた時には茨に囲まれて
自分たちの来た筈の道が全て途絶えてしまっており
まるで囚われた茨姫にされてしまったかのような、恐怖が密かに二人を襲う)
……何故? どうしましょう……
帰り道がございませんわ……?
(少し戸惑う二人の前に、いつの間に紛れ込んでいたのでしょう?
純白のふんわりとした可憐なペルシャ猫がテーブルの上で、二人の残りのお菓子のクリームを舐めていたのでした)
■シュリク > 「……なかなか、褒められるというのは擽ったいものですよね
それもひとつ、勉強になりました……褒め過ぎは、居心地を悪くしてしまうかもしれない
……いえ、嬉しい事には変わりないのですが」
得心したように何度も頷いた
褒める、というのは一種の薬だ
使いすぎれば効果は薄れていく
それどころか、毒にもなる
適度に褒め合い、時には咎めることも肝要だ
この世の中は、バランスで成り立っている
それをどの生き物よりも知っているはずの、機械であるシュリク
だが不思議なことに、そんな機械もまた、アリスといくらでも、ずっと話していたいと思ってしまった
始まりがあれば終りがある
終わりの向こうにはまた始まりがある
緩急をつけるように繋がっていた縁という名の糸を、ここに来てからというもの
いきなり太くしたい衝動に駆られた
まるで、何かに操られるかのように
ほとんどは、楽しい、という意志によるものだが
それを、ほんの少しだけ、指向性を変える魔法――
――かも、しれない
「なら、良かった。――アリスの知らない知識、ですか
それはもちろん、私はアリスではありませんから、アリスが経験していないことで、私が経験したことは全てアリスのしらないことでしょう
――それは?」
差し出された指は、小指
不思議そうにアリスの手を見つめる
――指切りを知らないようだ
「……お詳しいですね。本当に薔薇が好きなんですね
でも、今でも十分薫りはいいですよね
人によって改良されたといえば聞こえは良くないですけど、
身だしなみを整えてもらった――というと、まるでわがままなお姫様が執事に着替えさせているようではないですか?」
普段ならそんな回りくどい喩え話はしない
いろいろな本を読んでいるとはいえ、知識を会話に混ぜることはあっても、詩的な表現を用いたことはなかった
今日は、舌に脂がよく乗る日なのかもしれない
でも、悪い気はしなかった
「……?」
見間違えだろうか
一瞬、アリスの姿ががらりと変わったように見えた
不思議の国のアリス、という本があったな――
そういえば、何故自分は、極自然にアリスと略したのだろう?
――などと、一瞬考えたが、些細なことだろう、と直ぐに考えるのをやめた
そうした疑問を愚直に考えるより、目の前の少女との会話を楽しみたかった
茶会は進む
二人は二人の意思で進めていると思っている
でも、世界は殆ど世界の意志で動いており
この小さな薔薇園という世界も、意志がある
どんな意志なのかは、きっと、二人の行動次第によって、気まぐれに
それが、この世界だ
――
――――
――――――
――――――――
その霧は、夢色をしていた
いつのまにか、二人の茶会は不思議な色をした霧に包まれていた
楽しさは時を忘れさせる
しかし、忘れるのは時だけではない、ということだ
「――これは、異界……?」
名状しがたい「不安感」が、二人を襲う
具体的に何かが迫っているだとか、そういうものは機械の感覚を持ってしても掴めない
ただ、その場に居続けるのは、――あまりに危険なように思えた
「……おや?」
どうするべきか考えあぐねているうちに、可愛らしい客が訪れている
それは二人に断りもなくクリームを口にしているが、それを咎める気にはなぜかならなかった
それが、自然なように思えてならなかった
自然に、猫へと手が伸びる
捕まえようだとか、追い払おうとか、そういう手ではない
単純に、撫でてみたかった
急に訪れた不安の中、それをすることが、不安を解消する方法のように思えてならなかった
■アリストロメリア > (終わりが無ければいいのに
そう思わせてしまう程に、心地よく このまま時を止めてしまいたいかの様な薔薇園での一時は
本当に、このまま時を止める魔法をかけてしまいたくなるような気持ちにさせてしまう)
ええ、そうですわね
私には無い知識、や思考の捉え方、経験や知恵等……もしかしたらそれらを貴方に伺う日が来るかもしれませんわ
……これ?(形作った指を見せて)
これはね、他の学園のお友達から教えて頂いた『約束』のやり方ですの
同じようにブランシュも指を形作って下さいまして?
(こうやって――……等と言いながら、そっと小指を絡めれば離して)
これが、日本文化での約束の印なんですって
……何だか素敵ですわよね
(優しく教えながら、微笑んで)
ええ、薔薇は好きですわ……花は見ているだけで心を癒して下さいますもの
そうですわね、香水や香油等を始めとしてローズウォーターを造られるほどですし
……まぁ、瀟洒ですわ。ブランシュは機械人形とは思えない詩的で美しい繊細な感性がございますのね
(『同感ですわ』と楽しそうに微笑んで――……確かに
選りすぐりの貴族の庭師達に丁重に扱われ、改良を重ねていく薔薇は
姫君の美しく着飾る手伝いの様にも思え、その様子がとてもしっくりと重なり、実に相応しい)
……?
(不思議そうな眼で見る彼女に、何も知らぬ彼女は一層不思議に思ったが
きっと、気に留める程でもない位に些細なことだろう……
それよりも、彼女と同じく自分も語らいたかったし、この時を願う事なら永久には難しくとも
ほんの少しでも永く味わって居たかったのだから)
(とても楽しく『運命に導かれて』招かれた様なお茶会は
どうやら自分たちでは意図できない、もっと大きな運命の上に偶然とはいえ乗ってしまった事に
今やっと表面上だけは気付く事が出来たかもしれないけれど
楽しい一時の代償に、視えないタブーを誤れば、命を対価に取られてしまう恐ろしい世界)
――
――――
―――――――
(気が付けば、幻想的な夢の霧に包まれていて――……
踏み外せば深海に引きずり込まれてしまうかの如く、出口のない悪夢に惑わされるかのように)
(白雪姫が目覚めるときは、どうだったかしら?)
(アリスが目覚めるときは、どうだったかしら?)
(嗚呼――早く帰らなくてはいけないのに
その方法すらも、今となっては道すら閉ざされて
お菓子に誘われて、夢中になると……怖い魔女に食べられてしまうお話が
何故か脳裏に浮かんで離れない)
(『私達はどうしたらいいのかしら…?』等と思って入れば)
(不思議に生クリームを美味しそうに舐める猫の姿が愛らしい
ブランシュが、その猫にそっと手を伸ばせば 懐いているのか容易に、気持ち良さそうに撫でられる
きっと、この猫をなでていると精神が落ち着くだけでなく『きっと全ては大丈夫』だと思うだろう)
白猫『きもちぃぃん……そこ!そこがねーとってもきもちいいの!
撫でるの上手ね、 はごきげんなん!』
(白猫が何か言った――……筈なのだけれど、何故か一部だけ聞こえなかった
……いや、それよりも喋る猫を始めて目撃し、驚きを隠せない)
白猫『生クリームはおいちかったし満足なんね』
(そう言うとその白猫は歩き始めた)
チェシャ『ここでは、チェシャっていうね。案内してあげるから、チェシャの後をしっかりついてきて欲しいん
……絶対に歩き始めたら、後ろは向いちゃ駄目なん
あとねー このお茶会はねー絶対にね、秘密なの。内緒よ?
……ついてきて』
(そう言うと、二人の前を先導するかのように、てちてちと小さいあんよで歩き始めた
……すると、固く閉ざした門の様な茨は、全員が何なく通れる道を作り出して
このまま二人で歩いて行けば、見失う事もなく ゆっくりと確実に一歩一歩進めば きっと大丈夫な足取り)
■シュリク > 「私にお教えできることならば、喜んでお教えします
その、代わりと言ってはなんですが……アリスも、私に色々教えて下さい
今日も、知らないことをたくさん教わりました。それは、とても有意義なように思えます
――ほう」
互いのか細い指が絡まれば、なんとなく、より親密になれた気がした
離れてしまうのは惜しいけれども、秘密を共有できた
元より今回のことを誰かに話すつもりはないが、以前にも増して、語る口を持たないだろう
機械は、約束は守るのだ
「そう、ですね。すごく素敵です。――たまには、こういうスピリチュアルなことも、悪くないかもしれません」
利便性や合理性を求める普段の自分からは、想像もつかない台詞だな、と内心くすりと笑う
なんだかこの場にいると、いつもの自分ではない、本当の自分を出せる気がする
心というものがどのようなものなのかはわからないし、自分にそれがあるかどうかもわからない
胡乱な単語だし、積極的には使おうとも思わない
だけど、今この時だけは、心なんていうものの存在を信じても良かった
「私が生まれた時代でも、花はよく愛でられておりました
薔薇もその時代にはありましたが、今のように様々な種類があったかどうかは分かりません
……そう、ですか? なんだか今日は、いつもよりもおしゃべりな気がします」
でも、心地よかった
でも、心地よいだけの世界などなく
終わりは、どこにでも潜んでいるものだ
――
――――
――――――
最初は、これが人間の言う「夢」なのか、とも思った
しかし夢にしてはリアリティがあるし、そもそも夢など今まで一度も見たことがない
機械も夢を見るのかと問われれば、恐らく自分は、NOと答えるだろう
そういう不安も、猫を撫でていると解される
なんとかなるだろう、という根拠の無い安心感
普段ならそれを気持ち悪がるはずなのに、今は、非情に有難く思えた
「――それは、えっと、どうも」
喋った。猫が。でも、きっとそんなことは、どうでもいいことだ
大事なのは、この猫がきっと自分たちを救ってくれること
それだけだ
「チェシャ、――インプットしました。
ああ、それは助かります。ええ、わかりました。
後ろも見ないですし、他言もしません」
自分でも驚くほどあっさりとチェシャという猫の言うことを信じたなと思った
何の疑う余地もなく、絶対的に猫の言うことに間違いはないだろうと踏んだ
振り返る気も全くなかった。――名残を惜しむ気持ちはあったけれども
でも、きっと、また来れる。
そんな胡乱な確信があった
■アリストロメリア > ありがとう……ええ、勿論喜んで
知らない事を教え合う事は互いに向上できますし、親睦も深まり有意義だと私も思いますわ
(絡まる、細い白い指で紡がれる約束
誰にも話すつもりは無かったけれど……契約の様に約束を交えれば
彼女たち以外の大きな力も含めて、秘密に閉ざされたそれは神秘的な儀式にも見えた)
(彼女の言葉に、静かに微笑む
まだあったばかりの少女がどういう思考を持つかまでは分からないし、何を想っているかも全てはわからない
けれど、彼女の声の響きからは『今の幸せ』に浸り、それを十二分に堪能している雰囲気を感じ取ったからだった
……後日、もし彼女と詳しくお話をする機会があれば
彼女が魔術を懐疑的に思っている事に驚くかもしれないが)
やっぱり、何処の時代や国でも花は愛でられますわね……
そう?――……ところで、貴方の居た時代ってどんな所でして?
(時代、という事はどういうことだろう?普通そう言う言い方はあまりしない。故に不思議に思った)
私も、いつもに増して饒舌な気がしますわ……何故かしらね?
(不思議ね、と微笑んで)
(心地よい、薔薇の魔法で閉ざされた空間は)
(まるで砂時計が残り少ないかのように、終焉を迎え始めていた)
(――……もし、砂が最後の一粒まで落ちきるほどこの場に閉ざされて居れば
きっと永久にこの薔薇園にいられるだろう)
(しかし、等しく同じものは存在しない
その時は仮に一時心を奪われたとしても――……囚われてしまったらそれは
永遠に溶けない悪夢に苛まされるように、後悔をしてしまうだろう)
(等しく、全てのものには終焉があるのだ
実った果実が、木から落ちて拉げる様に)
(心地よいからと、望んでも人は制止した時の中では生きられないのだ
もし――……それが訪れるのであれば
『死という形』で『今』の時を残しておく事が出来るかもしれないけれど)
――
――――
――――――
(美しい色に満ちている夢の霧の筈なのに
そこには不穏が蠢くかのような、不気味さが漂うばかりなのはなぜだろう?)
(チェシャ猫にしては縞模様のない純白の猫は)
チェシャ『うん、それなら案内してあげられる……こっち!他は絶対に駄目』
(と案内しながら歩いて行く)
(よちよちよちよちと歩いてく度に、チェシャの通った後から地面には道が創られて
不気味な霧の空は晴れ、美しく鮮やかな星が見守る様に輝いている
不思議と何故か『この子の後をついて行けば大丈夫』という核心と共に
ブランシュと一緒にはぐれないように、見失わないように歩んで行く)
チェシャ『ついたよ!』
(暗いトンネルを抜けたかのような先を行けば――……
気付けばチェシャの姿は無く、二人は薔薇園の外にいつの間にか立っていた
……まだ、二人で居たのは正午の日が高い時間だった筈なのに
気付いたら空は、満面の星が二人を照らすライト、或いは妖精の舞う羽の様に輝いて
――……全ては、まるで――……)
―――
――――――
―――――――――
???『さて……ちゃんとチェシャはあの子達を送り届けたかしら?
……ま、最後に秘密にするよう釘を打っておいたからきっと口外される事は無いでしょうけれど』
(先程まで彼女たちの座っていた場所に、ハートの女王とジャバウォックが席に座り
紅茶を嗜んでいた
先程までと違うのは、少女たちに相応しい調度品から、女王と龍に相応しいものに変わり
同じものなのだけれど、新しいお茶とお菓子が用意されていた事)
■シュリク > 「知識の探求……というほど大仰なものではないですが
普通に話して、笑って、楽しんで……きっとその中にこそ、新しい知識というものが詰まっているのでしょうね」
その指がどんなに細く、脆く、小さなものでも
交わした約束は固く、まるで鎖のよう
――薔薇たちが、そんな様子を、どこか羨ましそうに眺めていた
「ああ、そういえば言っていませんでしたね
私は、今からおよそ6000年前に作られたのですよ
現代よりもずっと科学の進歩した文明で、だからこそ私のような存在も作れたのでしょう
――尤も、既に滅びてしまいましたが」
6000年前のこの地域といえば、丁度縄文時代だ。
その時代にシュリクのような人そっくりの機械人形が作られたとはなかなか考えつかないだろう
或いは、高度な文明だったからこそ隠蔽も上手かったのかもしれないが
「きっと、紅茶が美味しいから。ケーキが美味しいから
たぶん、それだけなんじゃないですかね?」
くすくす、と小鳥が歌うように笑った
終わりというものは何にでも訪れる
他愛のない会話でも、血反吐を吐くような闘争でも、心の底からの愛も
どれだけ長く続こうとも終わりはあり、
――終わるからこそ、その時を大切にしようとする
故に終わりとはすべての事柄の中で尤も大事だ
終わりよければ全て良し、なんてことわざもあるように
世界は、ゆっくり、流転する
――
――――
――――――
「ああ、待ってくださいチェシャ……
アリス。あの猫は間違いなく、――なぜかは知りませんが、信用できます」
アリスの手を、自然と握る
はぐれないように、断ち切れないように
大切な友達を、こんな胡乱な場所でなくすわけにはいかなかった
「ああ、漸く――」
星は瞬く
月は微笑む
草木は夜風に微睡み、小さな友人たちが二人を迎えるように歌い始める
長い長い迷路もいつしか終わる
しかし、終わったのを悲しく感じるのであれば
――また、始めればいい
――――なべてよはこともなし――――
………………
…………
……
『フフ、しんぱいしてるんですね? おやさしい「じょーおーさま」ですこと』
此処は、幕が下りた後の、舞台裏
美しい女王と席を共にするのは、醜悪な邪龍
――ただし、その声は、なんと言えばいいのだろうか……幼かった
『まあ、だいじょーぶでしょう。あのコたちはアタマがいい
たぶん、あんなにていねいにマホウをかけなくても、きっと、うまくいけてましたよ』
龍の名前は、――此処では――ジャバウォックと云う
そう、きっと、多分、そんな名前だ
■アリストロメリア > ……まぁ!6000年も前も昔の事でして?
(驚きを隠せない。当然だ)
(彼女の語る話に驚けば、静かに耳を傾けていた
少しでも彼女の居た時代について知識を求めるかのように
6000年前と言えば、日本で言えば縄文土器
真偽の程は不明だが、神もそのくらい前の時代に人類を創ったと聞く
……しかし、どちらにせよそんな高度な文明があるとは限らない
もしかしたら、既に失われて久しいアトランティスの様なもの
或いは高度だからこそ、隠蔽も上手く何一つ証拠を残さない可能性も
……もしかしたら、あるのかもしれない)
小鳥が……!?
(謳う様に語る小鳥に一瞬驚くものの、すぐに
案内役の猫が人の言葉で語るのを思い出し――……きっとここは、そのような場所であるのだろうという事は理解して)
そうですわね……招いたのは貴方かしら?
或いは、違うとするのであれば――……
私達を招いた白い兎へ、美味しい薔薇園のお茶会に対してのお礼を伝えて頂きたいですわ
(この素敵な一時と、空間と、お茶と、気紛れな運命と――……全てに敬意を示して、一礼する)
(波に飲まれるかのように、運命は流れて変化してゆく
破壊と再生が一つの様に。今この時を破壊し、次の道を作ってゆく
ずっと居たい時というものはあるけれど――……時は等しく前に流れるからこそ美しく
人々の想い出に鮮烈に刻まれ、かけがえの無い宝石となるのだ)
(夢の波に飲まれるかのように――……時は変化してゆく
その様子はまるで、人魚姫の淡く儚い夢に似ている)
――
――――
――――――
ええ、私も同感でしてよブランシュ……
(頷いて、互いに身を寄せる様に手を握りながら、見逃さないように慎重に後を追って行く
こんな素敵な出会いで作った友を、失う訳にはいかないのだから
大切な宝物を手にするように、大事に大事に手を取る)
……なんて、美しいのかしら……?
(満面の星空は、昼間より明るく照らし
彼女たちを歓迎するかのようにも見えた
煌く星の鼓動も、優しく髪を撫でる風も……ただ月だけは
龍に飲み込まれたかのように、蝕まれていた
その様子はあまりに美しく、儚く、まるで…………)
…………
………………
……………………
ハートの女王『別に心配している訳じゃないわ
あのお菓子が、あの子達を溶け壊す毒だとしても……ね』
(ハートの女王と言われた少女はツンとしながら、カップを口付ける
6月は薔薇の月であり、この月に生まれた者は全て守護花が薔薇となる
そんな、とりわけ美しく甘く香る6月の薔薇園のお茶は
いつもよりも格別に、薔薇の紅茶を引き立たせた)
(――……もしかしたら、それは既に儚い遠い過去の一部となってしまった
自分たちの楽しく甘く、時にはほろ苦さの残る時間を、あの子達に重ねて見つめていたからかもしれないけれど)
(こうして、ジャバウォックとお茶をするのも、実にどのくらいの永い永い時間ぶりだろう?
静止した時があまりにも長く、それは死と等しい寂しさがある
だからきっと、彼女達の甘美な一時は……見ている此方が頬を緩ませた
微笑を浮かべれば、ジャバウォックの問いに『そうね』と静かに答えて)
女王『……思春期の女の子ってお喋りですし、少しだけ怖い魔法を最後にだけそっとかけたのだけれど……杞憂だったわね』
(苦笑しながら、久しぶりに会うジャバウォックとのお茶を再開する
招いた客も無事に帰り、全ては元の形と世界に相応しく終焉は訪れる)
女王『……所で帽子屋……?
お前薔薇園の薔薇でジャムを作れと言ったのに、クロテッドクリームと
季節のベリーのスコーンを用意しておけ といった筈なのに……どうして足りない訳?』
(帽子屋――……と言われた黒い騎士は、トランプ兵の様にも見えたかもしれない)
帽子屋『おまっ――……!こんだけ薔薇のマカロンやら薔薇のケーキやら薔薇のムースやら薔薇の……(略)って
バリエーション満載に作らせておいて、言う事はそr――……』
女王『お前、首を切り落とすわよ』
帽子屋『あ……ハイすみません……今から作ってきます……』
(大人しく引っ込めば、こんな月蝕の輝く夜だというのに、薔薇を積んでベリーを用意してスコーンを用意させられる事となり
美しい……というにはやや棘のある女王と、醜悪な邪龍が静かにお茶会を始めた
……けれど、本当にその邪龍は、甘く可憐な小鳥の囀りを思わせる様な声なのに醜いのだろうか?
もしかしたら、月の蝕まれた夜の今――……そっと凝らせば……
それは女王と邪龍のお茶会では無くて
彼女達の足元に照らされた影から、美しい少女達の密やかなお茶会である事が……もしかしたらわかるかもしれない)
――
――――
――――――
6月、と言えば『夏至』である
春分から始まり、夏至、秋分、冬至と季節の始まりを告げてゆくが
春分は『始まりを』 夏至は『成長』を示す
夏至の魔術儀礼等がある位(勿論他の季節も)季節の始まりというのはとりわけ重要であるが
魔術的な意味で夏至とは、太陽が頂点に達する時であり各地で火の祭りが行われ
この時期は最も肉体と魂が緩む時期であり、特に妖精が最も力を得る時期でもあり
彼らの祝祭であり、目撃例も多いという
正しく言えば『midsummer night』とは『夏至前夜の夢』と訳されるが
皆に馴染み深く、分かりやすく答えるのなら――……
『真夏の夜の夢』となる
それはまるで、魔法のかけられた真夏の夜の夢の一時の様に
女王と龍のお茶会へと紛れてしまった彼女達が見た
忘れられない夢の様な一時であると同時に
女王と龍の昔過ごした時を彼女達に重ね、夢として見つめ
過去の幻想に抱かれて……時が再び戻ったかのような錯覚を得たかのように
互いが互いを鏡として見つめ……夢を見ていたお茶会だったのだ
まさに、6月に相応しい 真夏の夜の夢
ご案内:「薔薇園」からアリストロメリアさんが去りました。
ご案内:「薔薇園」からシュリクさんが去りました。
ご案内:「Night of the lonely wolf」に犬飼 命さんが現れました。
ご案内:「Night of the lonely wolf」にヴィクトリアさんが現れました。
■犬飼 命 > 天を仰ぐ、ここは落第街のゴミ捨て場。
雲のない夕闇には星がよく見える。
「……ハッ」
谷蜂と遭遇してからと言うものの、今まで取り締まってきた違反学生の報復を受けることが多くなった。
活動停止中はろくに手が出せないことが広まったからであろう。
体を起こすと口に溜まった血を吐き出す。
おかげで最近は体中怪我だらけである。
東郷との戦いの傷も癒えていないというのに。
ふと人影が目に入る。
そういえば探すためにここ(落第街)に来たのだと思い出す。
「なんだ……居たのかよクソ女……」
ヴィクトリアを呼ぶ名も変わっていた。
■ヴィクトリア > ばーか、いるも何も飯だつって呼んだのはそっちじゃんかよ。
何だよ自分のことも忘れたのかよ、ケンボー症かよ?
【いつもの様子。いつもの態度で現れる。斜に構えた感じでいつも何か諦めた顔。
だが、この間を含め、どうも様子がおかしいと言える。弱い。
特にこの間はひどかった。
覇気がない、というレベルじゃなかった、絞りだすように嘆く気力さえもないような状態
蹴ってすら抵抗しない。
そんな女じゃなかったと思うのだが、そんな女を感情任せに蹴ったのも犬飼だ。
とはいえそういう時に冷静でいられないのも犬飼だったとも言えるが。
なんにせよ、この間はほとんど別人だった。とは言える。
ただ、少女はこんな状態のことには何にも触れなかった】
■犬飼 命 > 「そういやそうだったな……忘れてた。
てめぇに言われるとなると病院行きも考えねぇとな」
最近、病院送りにされたのだが。
「その様子じゃだいぶマシになった見てえじゃねえか。
……今日はあのしっぽを振るワンちゃんは居ねぇようだがよ」
恐らく荒木翔の事を言っているのだろうが。
「……」
ヴィクトリアの様子がおかしいのは犬飼も承知である。
それほどの何かがあったのだろうと推測するが、それが一体何だったのかど知る由もない。
それに、素直でないヴィクトリアが簡単に話すなどとは思っていない。
「……いくぞ。
もたもたしてると飯が腐っちまうだろうが」
■ヴィクトリア > ……自分がゴミでクズでイザって時に持ち主まで傷つけるような、つかえない錆びたナイフだって再確認しただけだよ。
なんか持ってるってフリしたかっただけだからな、ボクは。
あー。
アイツはとくにあれから呼び出してないけど、まー、アレもいろいろあるんじゃないの?
ま、お前と同じくらいにはさ。そんなもんだろ、ボクもお前も等しくクズってとこは共通してるんだ。
アイツだってそーなんだろ。
【以前ならここでももう少し反発しただろうが
例の件で身も心も傷つけられた少女には、むしろ最下層として自分を貶めたほうが楽だったのかもしれない
ただ、とりあえず軽口を叩ける程度には多少落ち着いたようには見える】
え、何、お前モタモタしてる程度で腐る飯作ったの?
すげーな、新しい料理法を開発でもしたのか?天才だな?
……んじゃ、さっそく天才料理人様の飯を拝みに行こうぜ!
【と思ってればこれである。
とは言え元気が少し戻ってきたようでもある様子は犬飼にとっては多少気楽かもしれない
なにせ余計な気は使う必要がない】
■犬飼 命 > 「あぁ、そうかい。 てめぇのネガティブは相変わらずだなぁ」
「中途半端な忠犬君なこった。
そいつがそうだかしらねぇが、クズがクズ同士でより合っても何にもならねぇ確かだな」
ひとまずは大丈夫だろうと考える。
正直なところ以前のようにぐだぐだと卑屈な言葉を垂れ流していたら手を出していた。
正確には足だ。
「アホかてめぇは、そんな腐った飯があってたまるか。
それともなんだ? 納豆だらけのフルコースがいいのかてめぇはよ?
どうせ手づかみだから腐った飯よりヒデェ事になるだろうがなぁ!」
ヴィクトリアを連れて自宅へ向かう。
犬飼の自宅は住宅街だ、いわゆるアッパータウンだとか言っていた。
自分に合わない場所だとか言っていたが関係ない。
両親に用意された一軒家。
一人ではかなり広いが今は犬飼一人と猫達が住んでいる。
カードキーで扉を開ければ待ちわびていたかのように猫が玄関に並んでいた。
■ヴィクトリア > しかたないじゃん、ボクらクズなんだからさ
こういうゴミ溜めでたわむれてんのがお似合いだろ?
【ケラケラとわらう。
とりあえずは大丈夫そうだ。
とはいえ、それならそれで素直じゃなくなるところはあるのだが】
えー、おまえいまどき、発酵食品を腐ってるとかいうどっかの古いひとなわけ?
それとも納豆でカルチャーショックでもうけたのか?
それにお前手づかみって風習もあんだろ、民族差別かよ。
あと、世の中には納豆オムレツに納豆天ぷら、納豆しらすに梅肉納豆とかってフルコース存在するからな?
【案内されるままにまるで自宅のような態度で入っていく。
靴は脱ぎ散らかしたままだ】
まーせまいとこだけどゆっくりしてくれよな!
【お前の家じゃない】
■犬飼 命 > 「ハッ……納豆ぐらい食えるってんだろうが。
あんま好きじゃねぇけどな、匂いがキツイってのは食べ物としては致命的だと思うぜ。
別に少しならいいがそこまでのフルコースだとめまいがしそうだ。
民族文化かよ? どこのだよ、どこの未開の部族の習慣だ!?」
ヴィクトリアの脱いだ靴を律儀に揃えてから後を追う。
広めのリビングキッチンにはソファとテーブル。
冷蔵庫を物色すると材料を決めて調理にかかる。
エプロン姿の犬飼は、普段の姿と比べると実に滑稽だ。
「ちったぁおとなしくしてろよな」
足元をうろつく猫に言っているのか、猫に囲まれるヴィクトリアに言っているのかはよくわからない。
東郷との戦いで負傷した左手は、料理をするには少々不便。
普段であればしでかさないミスも度々起こす。
手間はかかったものの料理ができて並べられる。
サラダに焼き飯、チキンソテー。
統一されていない雑な飯、犬飼の作る食事はいつもこのようなものばかりだ。
■ヴィクトリア > 決まってんだろ日本だよ。
お前、回る寿司しか食ったことないんだろ?
それにお前、匂いで言ったら松茸様を全否定したろ
【確かに寿司は手で食べるのがもともとだし、松茸は海外では匂いがきつくて合わないという人もいる
完全に返答の用意された罠だった】
あいよー。
んでおまえさー、なんでそんな無駄にマメで料理好きそうなのに下手なの?
【ソファで猫を抱きかかえてゴロゴロしつつ戯れる。
まだ作ってる最中にこの言葉を掛けるあたり容赦がない。
で、しばらくして返事がないなと思ってみてみると、猫と一緒に無防備に寝ていた】
■犬飼 命 > 「てめぇ……まんまと騙してんじゃねーぞ……!」
つい手を出しそうであったが、てみ持った包丁を落としそうになったので堪えた。
(なんだかんだで人をおちょくるだけの余裕はできてんじゃねぇか……)
「うるせぇ、黙ってろ!
調子悪い時もあるだろうが、気が散るってんだよ!」
犬飼の自炊は習慣となっているものであった。
元々は一緒に暮らしていたもう一人と交代制であったが。
居なくなった今も続けているのは忘れないようにしているのだろうか。
犬飼自身も良くわかっていない。
テーブルに料理を置く、肝心のヴィクトリアは寝ていて呆れた顔をする。
叩いて起こそうと思ったが、無防備に寝ているその顔を眺めていたらなんだかその気が無くなってしまった。
気が付けばヴィクトリアの頭を撫でるように手を置いていた。
(そういえば兄貴もこうして……)
我に返る。
一瞬、コイツと重ねようとした?
コイツと兄貴は違う、そもそも重ねることが間違っている。
そんな自分を殴りたくて仕方がない気分になる。
「……おい、起きろ」
ため息をつくとヴィクトリアの頬を軽く叩いて起こそうとした。
■ヴィクトリア > 【完全に無警戒で寝ているようで、触れたぐらいでは起きない。
腹の上に乗っていた猫が犬飼の乱入に怒ったようにぶすっとする
きっと居場所を邪魔されたと思ってるのだろう】
んぁ……?
あ………………まさか、寝てたのかボク!?
【起こされれば一瞬で跳ね起きる。
血の気が引くほどに、ぞっとする。
いくらボクでもアレがすぐに消えるわけではない。
しかもこの間蹴られた犬飼の目の前で無防備だったって言うことだ。
コイツの事は、あんなボロボロのボクを飯に呼ぶくらいだから警戒してるわけじゃないが
それでも、寝るとまでは思ってなかったし、起き抜けは……怖かった。】
あーーーーー……うん、ごめん。
だいじょぶ。
【気を取り直す程度の強がりは言えるようだが、青ざめているくらいには大丈夫ではなさそうだ。
ただ大丈夫といえる以上、これ以下にはならないだろうしほっとけば問題ないだろう
とは言え、もちろん少しおかしな反応に思える】