2015/06/28 のログ
ご案内:「菖蒲の自宅」に遠条寺菖蒲さんが現れました。
遠条寺菖蒲 > 時は、僅かに前の事。

誰かに知ったことを打ち明けた日。
後輩と笑って過ごした日常の一日。
その日の夜に何があったのかを知ったのは朝になってからだった。

目を覚ましたのは自分の布団の上ではなく、リビングのソファーだった。

「――…あれ?私、どうして」
『ああ、お早うございます菖蒲ちゃん。昨日はご飯を食べたら急に倒れるように寝てしまって少し吃驚しましたよ』

私の疑問に答えたのは、住み込みで家政婦をしている灰須ヘラ(はいす へら)さんで今の私の家族みたいな人だ。
この島に来て出会って色々と教えてくれたりしているし家の管理もほぼ彼女に一任しているところがある。

遠条寺菖蒲 > 「え?ああ、確か……ご飯を食べたら凄く眠くなって来ちゃって……
えっと、なんだか食べてる途中に寝ちゃってた気がするんですけど」

安心したのか、疲れていたのかは定かではないが、
あっという間に眠気に襲われて寝てしまったような気がする。
そう言えば、帰ってきた時からヘラさんがやたらと眠くないですか?なんて尋ねてきていたような気もするしもしかすると相当疲れが顔に出ていたのかもしれない。

『問題無いですよ。それよりも菖蒲ちゃんが無茶してあんな風に倒れるように寝るほうが私としては心配ですよ。生徒会の仕事だって私のいた時期なんかはもうちょい楽だと思ったんですけどね』

等と心配しつつ笑いながら自分の過去を思い出してそんな風に言う。
ヘラさんは、私が常世学園に来るよりも少し前まで生徒会の幹部だったらしい。なんでも各委員会との連絡役、と言うよりは交渉役として動く立場だったようだが、今では引退して趣味に没頭しつつ仕事を探しているところで生徒会よりこの家政婦の求人を薦められたのだという。

「毎日、書類仕事ばかりで少し目が悪くなりそうですよ。パソコンのモニタや文書書類と睨めっこですよ。たまに学生街に出て部活動などの年間部費等を出したりするお店なんかへの訪問が一番楽でいいですけどね」

そう言って笑い返す。

遠条寺菖蒲 > しかし、そんなに疲れていたのだろうか。
ご飯を食べている最中に眠るなんていうのは初めての失態で、少し恥ずかしいのも笑ってごまかす。

『そう言えば、先程何やらメールが来ているようでしたよ?』

彼女の言葉にハッとして部屋の時計で先ず時間を確認した。

――九時半。

もう日は昇り、夜は終わっている。
だいぶ、十二時間近くも寝ていたようだ。

「だいぶ寝てたみたいで……嫌なメールじゃないといいなぁ……」

そう杞憂を漏らし笑って携帯を取るとヘラさんは少し不思議と悲しそうな表情を一瞬していたような気がしたけれど、先ずはメール確認である。

これが割りと生徒会からとかで、至急生徒会室へとかだったら割りと面倒事なのだろうなぁと考えて嫌な顔をした。
生徒会より支給された旧世代だが昨日は簡易で扱いやすく電池持ちもいいと言われた折りたたみの携帯電話を開いて、
三件届いているメールを確認する。

遠条寺菖蒲 > その件名をみて、私の思考が

   ――停止する。


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2xxx/xx/xx(xxx) 08:30
From 生徒会・本部
Subject 公安第二回処理について
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昨晩より発生した公安の第二特別
教室の元『室長補佐代理』の処分
が無事に終了し、前任者が再びそ
の席に就いた事を報告する。

本件で君が色々な人物と接触をし、
事前に被害を抑制しようとし自ら
は事件と関わらない立ち位置で行
動した君の活躍は我々の目でよく
見させていただいていた。
この件は君自身の功績とは言い難
いが、その姿勢は生徒会の一幹部
として正しく良策であったと幹部
会並びに学園上層部として評価す
る。
これからも君が良き生徒会の幹部
候補生としての活躍を期待する。

      -END-
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……?
どういうことだろうか?
他の二件もまた生徒会・本部からであるが指が止まる。

遠条寺菖蒲 > 文面自体は、よく見る世話になっている幹部の人のものだと分かる。

が、『第二回処理』って……?

頭の中は混乱している。
いつの間にか手には上手く力が入らなくなっていた。

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2xxx/xx/xx(xxx) 08:35
From 生徒会・本部
Subject 詳細について
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これは第二回処理へと運ぶことにな
った詳細の聞き取りと現在判明して
いる理由についてである。

公安の第二の元『室長補佐代理』で
あった者が落第街にて大規模な『門』
の開放をはじめた為、学園と公安は
これに対して処理を敢行する事を決
定し前任者への復帰と仕事を要請し
元『室長補佐代理』を処理した。

一般学生の幾名かいたようであり、
その学生たちの詳細は後日生徒会の
特殊資料室にて閲覧を可能とする。
今回、君に事の詳細を伝えるのは君
が少なからず関わろうとして動いて
いた事を我々が知っていたからに他
ならないということは把握しておく
と良いだろう。
君には君の仕事があるように、他の
委員会の事の為に動く必要はない。
が、今件は我々の予測した被害より
も狭く小さく収まった為に君を生徒
会上層部は評価する事にした。
以降、今回の君への評価等について
は次回の定例会で行う。

      -END-
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遠条寺菖蒲 > ―――…・・・。

理解する。
理解してしまう。

ここに書いてある内容についての知識と人物把握はある程度出来てしまうから。
彼女が昔の『彼女』の呪いを抱いて動いて。
彼が『間違えた』彼女をその手で処理した。

そのうちの一人とは結局会うことがなかったけれど、
恐らく処理したのは病院で一度だけ会ったあの『室長補佐代理』さんなのだろう。
あの“害来腫”を殺し得る彼ならば、きっと誰であろうと喰らってしまうのだろう。

そして恐らく処理をされた彼女は死体すら残ってはいない。
処理とはそういうことだと何かが私に教えるように囁いて。

「……私は」

視界がボヤケた。

心が悲鳴をあげて。
ひび割れ砕けそう。

遠条寺菖蒲 > 結局、私は。

「何も、出来なかった……」

約束すら守れない。
もう、私ともう二人を連れて行くことは不可能となってしまった。
涙が携帯の画面を濡らして既に歪んで見えなくなった視界から
そのメールを隠そうとする。

けれど、結果は既に出された。

変わることはない。
変わることはない。

『……菖蒲ちゃん』

ヘラさんが一瞬だけ私を心配そうに見るが、
それ以上声をかけることも近寄ることもなかった。

「うぅ……」

耐え切れずに嗚咽を漏らしてその目から涙を流した。
だから、正直ヘラさんが今私にやさしい言葉をかけていたら、

きっと、私はヘラさんに依存していただろうし、
きっと、私はヘラさんを憎んでしまっていたかも知れない。

遠条寺菖蒲 > 前の、西園寺偲先輩の時と一緒なのは、
私が動けば自体はややこしくなるということと動かなくても事件は無事に『処理』されるということ。

けれど、今回は公安は自ら処理するだろうと事前に五代さんから聞いていた。
その結果、今回の『クロノス』さんがどうなるかと言う予測も聞いていた。

知りながらにして、私は動けず何も出来ず
疲れ、家で寝ていた。

写真でしか顔を見たことのない人だった。
声は聞いたことがないし、言葉も交わしたことはない。
メールなどをして親しかったわけでも出身地が一緒だったということもない。

ただ、救えるかも知れなかった。

『ただの可能性』と言われるが、それで私には十分で。
『それで』私は、彼女との約束を守れると信じていた。

しかし、そんな約束すら最早叶う事はない。

はじめての自分からした約束だったのに――…


私は、涙を拭いフラフラとソファーから立ち上がるとゆっくりとした足取りで自室へと向かう。
今は少し一人でいたい。

遠条寺菖蒲 > 私が抱いているのは、『クロノス』さんの死への悲しみだとかではない。
正直に言えば、知らない人ならこの島は毎日どこかで殺され飢えて自殺している可能性すらある。

だから、私が抱いているこれはそういうものではない。
これは、そんな綺麗なものではない。

私は、頼みを何一つ果たせず自らした約束すら守れなかった自分に――怒りを覚えているのだろう。

どうして私は動けないのだ。
どうしてこんなにも不自由。
きっと、多くの人は不自由でありながらも多くを選択するのだろう。
けれど、私は目に見えない多くの束縛により多くを選択出来ずにいる。
自らの不甲斐なさと力のなさを自覚してなお何もせずに結果だけを与えられる。
それでは『死んだように生きている』のと変わりはない。
私は『人形』ではないのだから。

パキリ、と何かが砕ける音がして、それが聞こえた。

―――あの子は、器だ。

誰かの声が、
私の思考に紛れ込んで。


―――生まれながらにして依代となるべく仕立てあげられた。
―――私達の娘であってもあれは生まれながらにしての贄だ。

それは実家にいた時でもあまり聞いたことなかった父の声か。

―――これで理解しただろう。

つまり、これは私の過去の記憶なのだろう。

―――この子は、殺しても死にやしない。

そう言って記憶の中の父は生後間もない私を貫いた霊刀を私の胸から―――

遠条寺菖蒲 > 「ひっ……!」

血の気が引いて、思わず自分の胸を見る。

血は、出てない。
傷跡も、ない。

幻覚か、それとも真実か。

そもそもどうして急にそんな『過去』を。
と自分の手を動かして違和感を覚える。

《影》が腕の動きを追いかけて。

「どうして……?」

なぜ、私の異能が発動しているのか。
そして何かが、前と違い私の意志を聞き届けているような気がする。
誰かに見守られているような。
そんな錯覚とも言えるような感覚がこの身にある。

不思議に思っていると《影》は消える。
―――ただ、少しだけ頭が痛くなった

遠条寺菖蒲 > どうすることも出来なかった結果に、
突然、聞こえて僅かに見えた過去と、
勝手に発動していた異能。

考えることが増えすぎて逆に混乱して何も考えられなくなって来る。

どうにかしたいのは現状と自分。
どうにも出来ないのがその二つ。

つまり、詰んでいる。

一人ではソレ以外に答えは見つけられそうにもない。
長い間、自室でぐったりしていたようにも思えるしそんなに長くなかったようにも思える。


「…………はぁ、ダメ」

本当にダメだ。
泣けば誰かが何かをしてくれるわけでもない。
悔しがれば代わりにやってくれる大人がいる訳でもない。

誰かに知恵を求めるのも助けを求めるのもいいだろう。
けれど、結局は自分なのだろう。

「……ダメね。ヘラさんに心配かけてもダメ」

だから、装ってでも隠してでも立たなければ動けやしない。

「……ごはんに、しよう」

部屋に向かった時よりは、マシな足取りで菖蒲はリビングへと向かった。
この時に、自分の身に起きている変化を気にせずに。

ご案内:「菖蒲の自宅」から遠条寺菖蒲さんが去りました。
ご案内:「硬式飛行船『ユリシーズ』号」に三千歳 泪さんが現れました。
三千歳 泪 > 今日は航空力学研究会ご自慢の飛行船『ユリシーズ』号がいよいよ完全復活を果たして、お披露目飛行の日。
私も晴れの舞台に招かれて、地上を遠く離れて空の上。豪華絢爛な立食パーティの会場にはぜいたくなごはんとお酒が所狭しと並べられている。
大盤振る舞いだよね。あまった予算を全部ここに突っ込んじゃいましたって感じ! 誰もが会長さんの挨拶をいまや遅しと待っていた。

お連れさまは一名まで可。誘える人はひとりだけ。それってつまり、そういうことでしょ?

「見て見て!! すごい! あれ見える!? ラジオ塔がおもちゃみたいだよ!」

ご案内:「硬式飛行船『ユリシーズ』号」に桜井 雄二さんが現れました。
桜井 雄二 > 「すごいな、あんなに大きかったラジオ塔が小さく見える……」

航空力学研究会、それは名前は知っていたけれどこんな規模の大きな研究会だったとは。
二人でユリシーズから眼下の景色を眺めている。
「あれ、大時計塔か? ……こう考えるとすごく高いところにいるな、俺たち」

三千歳 泪 > 「たまーにあの文字盤の裏側らへんでお仕事してるんだ。外から見るとすんごい高さだったんだねー」

船体はクジラみたいに大きいのに、乗り込める人数は50人にも満たない。船員さんにウェイターさんを引いたら、お客さまは半分以下ってとこ。
そのうちの2人がなんと、桜井くんと私だったりするのです。これにはちょっとしたわけがあるのだ!

「いわゆる『Z式』っていうんだけどね! こういう飛行船、見たことなかったでしょ?」
「大昔にはほんとに空を飛んでたんだよ。でも誰も造らなくなっちゃったから、実機の造り方わかんなくなっちゃってさー」
「まず復元から始めたってわけ。それで私にもお声がかかってね! あとはだいたいいつも通りな感じ」

窓に張り付いていたお客さんたちがパーティ会場へと戻っていく。そろそろ会長さんの挨拶がはじまるみたい。

桜井 雄二 > 「へえ。泪は色んなところで仕事しているんだな?」
「大時計塔では絡まれてる女性を助けようとしてならずものに殴られて昏倒した記憶が……」

周りを見渡す。なんだか偉そうな人ばかりで、自分がここにいるのが不釣合いに思える。
それでも誘ってくれた三千歳泪の手前、堂々としておくのが筋だろう。

「Z式………知らないな、メモっておこう」
「復元から始めて飛行するまでなんて、時間のかかったプロジェクトなんだろうな…」
パーティ会場に戻っていく賓客たち。
「……そろそろ挨拶が始まるな、行こう泪」

三千歳 泪 > 「あっはっは、なにそれ! かっこわるいなー。でも途中まではかっこよかったんだよね。それで、どうなったのさ?」

なんといっても晴れの舞台。ふだんはなかなか着ない制服だって、今日はきっちり袖を通してるんだから。どうよ桜井くん?
桜井くんの袖をつかんでパーティ会場へ。遠目に会長さんの姿をみつけた。感無量って感じで会場を見回したりしてる。
ウェイターさんがワイングラスを渡してくれて、私は白を選んだ。気分だけだよ。あとでソフトドリンクに変えてくれるんだってさ。

会長さんは周りの子達に指示を飛ばしてうなずいたりしている。マイクチェック。よろしい。スピーチが、はじまる。

『ただいまご紹介に預かりました、航空力学研究会、会長―――』
『――――この喜ばしき日にお集まりを頂きました皆様。私、―――――――として、今日という日を迎えられましたことを――』

食事が解禁されるのはまだ少し先のこと。この船のことをもっと知ってもらいたくて、すこし表情が硬い彼に耳打ちした。

「飛行船のしくみは知ってる? 簡単にいえば大きな風船。軽い気体をつめて空にぷかぷか浮かんでるわけ」
「昔は水素を詰めて飛んでたんだけど、大きな事故が起きたりして、それって危ないんじゃない?って話になってさ」
「一度ついたイメージってなかなか変わらないでしょ。そういうのが飛行船が廃れる一因にもなったりしたんだ」
「でも心配ご無用! この子には絶対燃えないヘリウムが積まれてるし、船の外装の素材にだってずいぶん気を使ってるんだから」

『―――皆様のご健康と、われわれ航空力学研究会のますますの発展を祈りまして――』

「あ。乾杯だってさ! カンパーイ☆」

グッとワイングラスを掲げて、お客さんたちが一斉に祝杯を口にする。私は飲めない。がまんがまん。だよね、と桜井くんの顔を見る。

桜井 雄二 > 「……別の異能使いに助けられた。人と人は分かり合えると信じているけれど、さすがに無防備すぎたな…」

思い出しながら殴られた部分をさする。傷跡がハゲとなって残っていないか。それだけが気がかりだ。
「制服、ちゃんと着ているんだな。似合っているぞ、泪」
「俺が普段着なのが凄く申し訳ないな……」
なんとも締まらない表情で自分のスーツを撫でた。

「へえ、風船なのか。それでちゃんと動くのは凄いな……」
「絶対燃えないヘリウムに、頑丈な素材で作られている……のか」
頭の中で何とも不可思議なイメージになっていく飛行船。
まるで魔法だな、とちょっと間の抜けたコメントを言って乾杯のタイミングだ。

「乾杯!」
赤ワインの入ったグラスを掲げて泪の顔を見る。
「俺で言えばあと3年はお預けだな、乾杯というやつは」
肩を竦めた。

三千歳 泪 > 「そうそう! こういう時にはちゃんと褒めておくんだよ。いつもと違うとこ、よーく見といてさ!」
「君が掃除のおじさんモードで来ても私は平気。そういうの気にする系じゃないからさー」

最初に倒れたのは、白いドレスを可憐に着こなすきれいな人。助け起こそうとしたおじいちゃん先生がそのまま倒れて、ばたばたと人が倒れていく。
鋭い目をした――たぶん風紀か公安の人が身を起こそうとしてもがき、フロアをかきむしって動かなくなる。

「!! 桜井くん!?」

何が起きているのかわからない。たまたまワインを口にしなかった人が恐慌に襲われてグラスを取り落とす。
聞きたくない。物が壊れていく音が聞こえる。

『えェ、ええ、わかりますとも―――眠たいスピーチはこれくらいに。それでは、本艦はこれより針路を変更いたしまして』
『青垣山北西――弱水の海の向こう。本部離島に参ります』

『皆様には旅のお供をつとめて頂きましょう。つまりさァ、あんたら全員道連れだよ! しばしご歓談のほどを――!!』

船尾の方から小さな爆発音がして、船体に微震が走る。
地表を映すモニターには、操舵装置と連動して動くはずの副翼が粉々になって落ちていく姿が映りこんでいた。
その次は両翼が映りこむ。いくつかのプロペラが動きを止め、船体がゆっくりと傾いていく。機関室のあるあたりから黒煙が噴出していた。

ぶつり、とマイクの接続が切れる音がして、裏返った声で哄笑する会長の足元から白い煙が噴出していく。
悲鳴がさらなる悲鳴を呼んで、パニックがとめどなく広がりはじめる。
違う。あれは会長じゃない。別のだれかが成りすましていた? まさか、そんなことが。
ここは地上数百メートルの高み。自分の手さえも見えないほどの白い闇に押し包まれて、桜井くんのそでを強く引いた。

桜井 雄二 > 「……覚えておく、泪の普段とは違う姿を見るのも何度目かになるからな」
「掃除のおじさんじゃなくて、これは俺の戦闘用の……」

会話の最中に倒れていく人々。
目を疑う光景、その場に恐怖が満ちていく。
「泪、俺から離れるな!!」
何が起きても咄嗟に彼女を守れるように。

「本部離島!? 常世財団本部か……一体何故!」
状況を把握する。このままだと飛行船が落ちてしまう。
それも最悪の形で。

「クソッ!!」
乳白色の闇の中で、俺は視界を熱探知に切り替える。
自分にできることを考えなければならない。
だが、この状況で何ができる?
こんなちっぽけな魂で、彼女を守りきることができるのか…?

三千歳 泪 > すぐに消火装置が作動して、白い煙が吸いだされていく。
航空力学研究会のメンバーは視界が晴れる前から総出で避難誘導と負傷者救護を始めていた。
風紀の制服を着た警備担当の異能使いも状況の把握に動きだす。

その混乱の中で、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

『おい見ろ、《直し屋》だ!! 助かるぞ!』
『クソッ、何だよいきなり!』
『知らないのか!? 三千歳泪。異能使いだよ。あいつは何でも直せる!! この船だって!』
『知るかよ畜生!! 何でもいい! おい異能使い!! 俺を助けろ!!!』
『ねえ!! 私のパパが乗ってるの! はやくお医者さまに見せないと――どうにかしてよぉ!!!』

そう。だよね。私なら直せる。はず。私がなんとかしないと。
動揺から抜けだせずに思考は凍りついたまま。怖いのかな。私は。何を恐れているんだろう?

『何とか言えよ《直し屋》!!』
『―――チッ、役立たずが! おいどうする!? 使い物にならねえぞ!! 何なんだよバケモノのくせに!』
『あああああああああああああああああああ!!!!!』

胸倉をつかまれて、首が絞まる。リボンがぐしゃりと潰される。
空飛ぶクジラが悲しそうな軋みをあげて傾いていく。私を責める声が聞こえる。怨嗟の声。溢れていく。
どうしよう。動けないよ。私がみんなを助けないといけないのに。ごめん。ごめんね。私は――。

桜井 雄二 > 「やめろ」
三千歳泪の胸倉を掴んでいた男の腕を掴む。
「やめろと言ったんだ、聞こえなかったのか?」
そのまま腕を捻り上げて突き飛ばした。

「お前たち、おかしいぞ!!」
「使い物にならないとか! バケモノのくせにとか!!」
「こんな女の子一人捕まえて、なんだその言い草は!!」
彼女の前に両手を広げて立ちはだかる。もう誰も彼女を傷つけさせたりはしない。
「確かに今は自分の命が危険に晒されている状況だ」
「だからって、人間性を捨てることはないだろう!?」
「彼女は人間だ! 人間なんだぞ!!」
「首を絞められれば苦しいし、詰られれば心が痛む!!」
「なんでそんな簡単なことがわからないんだよ!?」
表情が、くしゃりと歪む。まるで自分の心が悲鳴を上げているかのように、言葉が止まらない。
「お前たちだって、人間だろうが!!」

その叫びは、自分の心も締め付けていた。