2015/08/06 のログ
ご案内:「島の道路沿いにある草むら」に三枝あかりさんが現れました。
三枝あかり > 草を刈る。
草を集める。
軽トラックに草を積む。
草を刈る。
草を集める。
軽トラックに草を積む。

終わりのない繰り返し。それがこの真夏の太陽の下に行われる。
これが生活委員会の見る地獄だ。

除草機――――棒の先端に丸ノコがついたような機材で除草している先輩の姿が遠く見えた。
三枝あかりはまだ生活委員会の仕事を覚えていないので、単純作業……草をまとめたり縛って軽トラに運び込む側だ。

三枝あかり > この時代にあっても除草作業は恐ろしく単調な仕事の繰り返し。

何か草刈ロボットのようなものがあって、それが便利に片付けてくれるわけでもない。
何か草刈用異能のようなものがあって、それが作業を効率化してくれるわけでもない。
何か草を刈る魔法のようなものがあって、それがあっという間に仕事を終わらせるわけでもない。

そもそも草刈は異能で効率化できないんですか?
と生活委員会の先輩に聞いたことがある。
回答はシンプルだった。

『危ないだろ』

ですよねー。
もし風の刃を作る異能があったとしても、人に当たる可能性をゼロにできない限り使うことはできない。
生活委員会の人海戦術で草刈という仕事を一つ一つ終わらせるしかないのだ。

ご案内:「島の道路沿いにある草むら」に蓋盛 椎月さんが現れました。
三枝あかり > 草を鉄の熊手のような道具で集める。
草を畳ヒモで縛って軽トラックに放り込む。
一人当たり30分作業したら水分補給と塩飴摂取を徹底する。
朽木先輩が言っていた通り、熱中症にだけは気をつけなければ。

一人、熱中症で倒れたら作業効率が半分落ちるからな。
そう言い含められた時、決して無理はするまいと思った。

軍手が汗を吸って重い。
いや、軍手がというか……ズボンも上着も下着も汗を吸っている。
これが花の女子高生の真剣十代職場である。
世も末だ。

蓋盛 椎月 > ブロローン。
法定速度を遵守した速度で走るバイクがひとつ。
白衣にジェットヘルメットというトンチンカンな出で立ち。
特にアテがあるわけでもなかった。蓋盛はただ外を走りたかっただけである。

作業している生活委員たちの姿が見える。
その中に知っている顔を見つけ、道路脇にバイクを停め、降りて近づく。
三枝あかり。転入生の生活委員。知り合いの男子生徒の妹でもある。
「よー、暑い中せいが出るねえ、ご苦労さん」
ヘルメットを外し、馴れ馴れしい調子で声をかけた。

三枝あかり > バイクから降りてきたのは、あかりもよく知るあの教師。
「あ、どうも蓋盛先生」
帽子を取って頭を下げる。
ちょうど休憩時間だ、水分補給のタイミングとしてもベスト。

「先生、こっちの日陰で話しませんか。何せ暑いので…」
「あ、汗くさかったらごめんなさい!」
笑いながら自分用のコップに自分用の麦茶を注ぐ。
一人頭とんでもない量の麦茶を用意するのが生活委員会スタイル。
「いやー、この辺は放っておくと蜂や蛇みたいな危険生物が巣を作るので。除草あるのみです」
これも先輩の受け売りなのだけれど。

蓋盛 椎月 > 「お、悪いね。せっかくの休憩時間に邪魔しちゃったかな?」
とは言いつつも、促されるままにあかりとともに日陰に。
「なあに額に汗する美少女、眺めていて悪くないものだよ」
薄く笑っていい加減なことを言う。

「そうだね~、この島は危険な外来種もいるし……
 あと草がブラインドになって一夏のアバンチュールも濫発するし」
白衣の襟元をパタパタと手で広げたり戻したりしながらいらんことを言う。
どう考えても暑いだろうにこの教員は夏の外でも白衣を纏うことが多い。
軽トラにみっしりと積み上げられた草の束を遠目に見やった。

「保健課のほうもそうなんだけど、生活委員会って地味~でめんどくさい仕事多いよねぇ。
 はじめて日は浅いだろうけど、イヤになったりはしない?」

三枝あかり > 「いえいえ、休憩時間はみんな別々なので話し相手がいるのはありがたいです」
日陰は比較的涼しい。風も吹いている。
「あ、あはは……美少女…私が?」
苦笑した。自己評価、内角低め。

「そうですね、蟻人が隠れてたり…ってこんな草むらでアバンチュールは起きませんよっ!」
ビシッとツッコミを入れる。何故友達が少ないのにツッコミスキルを高めた。
軽トラは島の処理場に草を運び出していく。
だが計算されつくしたタイミングで次の軽トラがこの場にやってきた。

「確かに地味で面倒な仕事は多いですけど……」
「私、風紀や公安に入ってもやっていけるとは思いませんし」
「それに……お兄ちゃんに勧められた委員会だから…」
その時、キイロスズメバチが二人に向かって突撃してくる。
それを異能で視認し、人差し指と中指で摘んでその辺に放り出す。
逃げ散るキイロスズメバチ。
「……巣を二つほど壊したんです。人を嫌うのも当然ですね」

蓋盛 椎月 > 「フフ、いいツッコミだ……そのツッコミなら世界も狙える!」
ビシッとツッコミを受け止めてニヤリとした笑みを浮かべる。
流れるように往復を繰り返す軽トラ。
そこにはひとつの美が存在した。

「……どんな地味な仕事でも恨みは買う、か」
飛んできたハチと、それを正確に摘んだあかりの様子にわずかに瞠目して。
「まあ、風紀と公安は難易度高いよねえ。
 しかしなんだか消極的な理由だね。
 ……兄君のことは、信頼しているのかい?」

ご案内:「島の道路沿いにある草むら」に奇神萱さんが現れました。
奇神萱 > 郊外に出て、用事を済ませた帰り道。
どこまでも続くアスファルトをたどって歩く。
このあたりはあまり背の高い建物もなく、空が広く感じる。
とても近くにあるように思えるのだ。手を伸ばせば届きそうだと、そう思ってしまう。

黒髪に陽光が注いでじりじりと熱を帯びていた。
日傘か何か、せめて日差しを遮れるものを持って来るべきだった。
今から嘆いても詮無きことだが。

話し声が聞こえた先に振り向けば、陽炎の立つ草むらの向こうに人影があった。
この暑いのに草むしりとは奇特な人間もいたもんだ。

子リスだった。
白衣の女と話しこんでいた。

「ドングリを捜すなら秋だ。ここより大農園の方がいいぞ。橡の木があるからな」

三枝あかり > 「仮に世界を狙えたとしても目指しませんからっ!」
でもぼっちが目指すツッコミ全一はかなり新しいと思った。
新しいだけで無意味だとも。

「そうですね……結局、人間は不完全で」
「一つの便利のために誰かの不便を作り出してるのかも知れません…朽木先輩からそういう話を聞いただけなんですが!」
「……お兄ちゃんのことは、嫌いです。でも、嫌いでも心のどこかで依存してるんですよ」
「私はダメな子だから……」
視線を下げた。

現れた先輩に対して両腕を振る。
「もう、奇神先輩! だからリスじゃないですって!」
「ドングリをそのまま齧るような丈夫な歯も持ってないです!」
「先輩はどうしてまたこんなところに?」
奇神先輩に500mlペットの麦茶を差し出す。
「熱中症対策してないじゃないですか」

蓋盛 椎月 > 「依存することってそんなに悪いことかな?
 きみはまだ若いんだ。甘えられる家族がいるなら甘えるべきだよ。
 ……きみに問題があるとしたら、もっと別のとこじゃないかな?」
あかりの表情を覗き込むように。

新たに現れた、奇神と呼ばれた女生徒に軽く手を挙げて挨拶。
どんぐりという言葉、その意味を遅れて理解。
「確かにこの子はなんか頬袋に詰めてるのが似合う印象だよね~。
 良いセンスしてるぅ」
愉快そうに笑う。
「見事な長髪だね。この季節だと少しつらそうだが」

奇神萱 > 「お前、兄貴がいたのか。ダメな子ほどかわいいって言うぜ」
「この世の真理だ。周りがほっとかないのさ」

ヴァオリンケースとスクールバッグを下ろして伸びをする。
ちょっとした重装備だ。文字どおり肩の荷が下りた気分だった。
行きはこれに手土産まで持ってったんだから恐れ入るよな。

「ああ、ちょっとな。野暮用だ。あっという間に終わらせるはずだった」
「……夏だから当然っちゃ当然なんだが、雑草伸びるのめっちゃ早いのな」

ずっと続いていく道の彼方、墓地のあるあたりを指差す。
答えになってるような、なってないような。

「我はアルファにしてオメガなり。始めにして終わりなり」
「渇く者には価なくして生命の水の泉より飲むことを許さん―――いただきます」

喉がカラカラだった。濃紺のブレザーを着込んでるんだから当然だ。
受け取って、ボトルの1/3くらい一気にいった。身体に浸みて、熱が冷まされたような気がした。

「手を焼いてるよ。まあ、やせ我慢だ。奇神萱。2年生だ。よろしく」

三枝あかり > 「……お兄ちゃんは川添の人間で……私は三枝の人間ですから………」
蓋盛に瞳を覗き込まれると、怯えた。
自分の真意を探られるのは何より怖いことだ。
「……私の問題………? それは、一体……」

奇神先輩の言葉に苦笑した。
「お兄ちゃんは川添孝一っていうんです、元・不良で…」
「……今は正義を標榜してるけど、やっぱり元々は悪人ですから」
「私は……お兄ちゃんを信じきれません……」
タオルで額の汗を拭う。
「野暮用、ですか……次からは日傘とか用意したほうがいいですね」
「雑草、すごく伸びる時期なので。私たち生活委員会の仕事もとーっても! 多いんですよ」
風が通り抜けた。夏の日陰は、こんな良い風が吹くこともある。それは救いだ。

蓋盛 椎月 > 「あたしは蓋盛~。保健室で先生やってるよ、よろしくね」
名乗りに自己紹介を返す。
「やせ我慢、か。するとそのブレザーと重そうなヴァイオリンケースもかな」
白衣の裾を掴んで小さく自分を扇いだ。

あかりの怯えた様子に、す、と身を引く。
身を背け、白衣から煙草を一本取り出し、火を付ける。
「真の問題というのは自分がそうと思っているところの
 裏面に隠れていたりするものさ。往々にしてね」
煙をゆるゆると吐き出す。
「川添孝一のほうでは、きみのことを大切に思っているらしいよ。
 きみはさ、お兄さんが嫌いなんじゃなくて……
 お兄さんを嫌いでいなければいけない、って思ってるんじゃないかな」

奇神萱 > 「出来の良すぎる兄貴かと思ったが、そうか逆か」

梧桐律に兄弟はいない。奇神萱にはいとこがいるらしいが、今はまだ赤の他人だ。
複雑な家庭事情というのは、俺にはよくわからない。

「ははん。人の道を外れたやつは兄さんだろうが関係ないって?」
「ちなみに俺は悪党だぞ。ちっぽけな島の狭い世間だが、そういうことになってる」
「過去形だ。なってた。ほんの一時のことだが、物騒な連中に追われてもいた」

「なあ、あかり。仲間の話、前にしたよな。最後までやりたいことをやって死んだやつもいる」
「墓参りに行った帰りだ。花束が萎れて、乾いた泥に埋もれてた。雑草まみれだったよ」
「俺はあいつらと同じ夢を見ていたことを、これっぽっちも恥じてはいない」

少し真面目な顔をして、長続きせずに弾けるように笑った。

「失望したよな。信じられなくなっただろ。もうこれっきりだ。お前なんか友達じゃない」

ケースの留め金を外して楽器を取り出す。ブレザーをばさりと脱ぎ捨てた。

「お前が言ってるのはそういうことだ」

三枝あかり > 視線を外してくれた蓋盛先生に、安心した。
タバコの匂い。彼女の、匂い。
「裏面……?」
人は仮面を見て仮面の裏側を想像しない。
それでも、確実に仮面には裏となる面がある。
顔と密着する『面』が。
「…………」
兄は自分を大切に思っている。それから目を背けているのは、私だ。
「………そうだったとしても…」
「今更お兄ちゃんのために何ができるんでしょう」
「今更ですよ……お兄ちゃんは怪異と戦う道を選んで、私は弱い異能しか持ってない」
「だから………」
だから、私はきっとお兄ちゃんに何もできないんだ。

「そ、そんな……」
奇神先輩の言う、自分は悪党だという言葉。
さらに続く言葉。
それには自分を諌める意図はあれ、拒絶の言葉は感じられない。けれど。
「奇神先輩の仲間……悪………」
考えることをやめてはいけない。感じる心を止めてはいけない。
「……ごめんなさい、先輩…ううん」
「これは本当は、お兄ちゃんに言わなきゃいけないんだ……わかってるのに…」
勇気が出ない。自分の罪を認めるのが怖いんだ。
だって私は。

「蓋盛先生。奇神先輩」
「私……父親を殺したんです」
「父親は酒に酔ってよく私とお兄ちゃんを殴りました」
「ある日、父親が苦しみだして……私はそれを見てました」
風が止まる。一瞬の凪。
「救急車も呼ばず、父親が苦しみぬいて肝硬変で死ぬ姿を見ていたんです」
肝硬変。食道静脈瘤破裂。その言葉を思い出す度に心が締め付けられる。
「それが私の罪。帰ってきて、それを知ったのに何も言わなかったのがお兄ちゃんの罪」
罪人の兄妹。何故、今話そうと思ったのか。それはわからない。

蓋盛 椎月 > 「弱さを言い訳にするな」
鋭く、冷たい語調。

「きみにとっての兄が川添孝一しかいないように、
 川添孝一にとっての妹はきみしかいない。
 だからきみにしか出来ないことが、ある。
 それをあたしが教えることはできないがね」
弱いことも、幼いことも、罪ではない。
教師は、手を取って助けることも、知らないことを教えてやることも出来る。
だが、歩むための足を踏み出すことは、本人にしかできない。

「…………」
たなびく紫煙。止まった風の中、告白を黙して聴く。
靴のヒールで、ぐり、とアスファルトを小さく捏ねるように踏む。

「きみは殺してなどいないさ」
静かにハッキリと言った。

奇神萱 > 潔癖を責めるのは酷だ。それはわかってる。
こいつの兄貴には会ったこともない。本当にクソ外道だったのかもしれない。

「俺はそいつが嫌いだった。悪党だからな。自分の目的の為なら手段を選ばないようなやつだった」
「やることなすこと綺麗じゃない。下世話で、泥臭い人間だった。そんなやつにも死ぬほど焦がれる理想があった」
「最期まで悪あがきして、そりゃもう人さまに迷惑もかけたさ。見苦しくもがいて、足掻きながら死んだ」

小悪党の仮面男。憎めない奴だった? まさか。今でも嫌いだよ。けどな。

「俺はそいつを嗤わない」
「舞台にのぼる俳優はクズでも何でも構わない。演者は孤独だ。技芸(アート)が全てだ」
「ほんの一瞬でも輝いて、一流のショウマンになれたなら…そいつは本物だったってことだ」
「忘れてやる気もない。たまになら様子を見にいってやってもいいと思ってる」

陰惨な過去が語られた。
三枝あかりは父親の亡骸とどれだけの時間を過ごしたのか。
救いのない光景が脳裏をよぎる。
これでも一度は殺された身だ。人が死ぬということの重さはよく知っている。

「それがどうした」

「昔々にしてきたことが今になって追いかけてくるかもしれない。怖いか? 怖いよな」
「俺も怖いぜ。お前の兄貴だってそうだ。怖くて怖くてたまらないだろうさ」
「そういう怖さを知ってるなら―――逃げないで向き合ってる人間を邪険にしてやるなよ」

罪の意識だとか、そういうのを忘れるのとは別の話だ。
弦を撫でて音をたしかめる。奏でる音色は―――。

ガブリエル・フォーレの歌曲。『夢のあとで』。

三枝あかり > 「………っ」
普段の蓋盛という人間からは想像もつかない、鋭い言葉。
兄にとって自分がただ一人の妹だなんて、考えたこともなかった。
自分のことばかりで、兄の立場になって考えたことがなかったんだ。
「私にしか出来ないこと………」
わかっているはずだ。それなのに。

兄と同じ色の瞳が青空を見た。
この光の只中では、星の光なんて簡単にかき消されてしまう。
「………そう、でしょうか…わかりません…」
「今でも、夢に見るんです……」
「父親が苦しみながら私の名前を呼ぶ、夢を……」

奇神先輩の言う誰かのことを、私は知らない。
「……だから先輩は、今もその人の墓参りを…?」
無風地帯の日陰。暑かった。
とても、とても…暑かった。

それがどうした。たったそれだけの短い言葉が、鋭く胸に刺さった。
鳴り響くヴァイオリンの音色。そのタイトルを偶然だけど、私は知っている。

涙が溢れた。

悪い夢のあとで私が縋っていたのは、きっとお兄ちゃんなんだ。
それを見ないフリをして、私は兄を遠ざけてた。
心無い言葉で傷つけていた。
こんなことはもう、終わりにしないといけないんだ。

蓋盛 椎月 > 瞑目する。
自分の言葉はこの幼い少女に対して、苛烈に過ぎるかもしれない。

「父親を殺したのは誰あろう父親さ。きみではない。
 だからだれもきみを裁くものはいない。
 それでもきみが父親を殺したと信じるなら、
 精一杯生きることでしか贖えないだろう。
 きみはそうするために殺めたのだからね」

瞑目して演奏に耳を傾ける。
題名などは知らない。

自分が生徒に向ける言葉は、願いだ。
こうであったらいいな、という希望。
こうであってほしい、という夢。
それを彼女に託している。勝手な話かもしれない。

けれど、同じ夢なら、悪いものより心地良いもののほうが、きっといいはずだ。

奇神萱 > 夢に見た姿を慕う。
今はもう、夢の中でしか会えない人を想う。それだけの詩だ。

元はトスカーナの名もなき詩だった。ガブリエル・フォーレが音楽をつけた。
訳者のロマン・ビュシーヌはフォーレと同じパリ音楽院の教官で、仕事仲間だった。

Hélas! Hélas! triste réveil des songes
あわれ! あわれ―――然し悲しき夢の目覚めよ

Je t'appelle, ô nuit, rends moi tes mensonges,
私は呼ぼう おお夜よ、幻影をかえしておくれと

Reviens, reviens radieuse,
蘇れ、ふたたび来たれ 輝きよ

Reviens ô nuit mystérieuse!
今一度帰り来たれ おお、神秘なる夜よ!

素朴な詩情にふさわしく、どこか古風で美しい和音に満ちている。
叙情的な技巧が過ぎると鼻にかかる感じがする。
だから飾らず、ありのままの自然体で奏でた。

「……仲直りしたら紹介してくれよ。お前の兄さんなんだろ」

三枝あかり > 自分たち兄妹と見捨てて出て行った母親が嫌い。
自分たち兄妹を憂さ晴らしに殴っていた父親が憎い。
自分を置き去りにして常世で不良なんかしていた兄を恨む。

それでも、その裏側にある感情は。
きっと彼らから愛されたかったんだ。

「精一杯生きることが許されるのなら」
涙を流しながら蓋盛に言う。
「そうできたら……星の光みたいにささやかだけど、自分の人生を生きれたら」
「私は………っ」

顔を両手で押さえる。
熱い涙が流れた。

「はい……お兄ちゃんのこと、きっと奇神先輩に紹介します…」
涙を拭って、笑った。
「蓋盛先生はもう知ってますけどね」
「お兄ちゃんに今までのこと、謝ってみます」
「それと……ありがとうを言います、必ず」
ふと、携帯を見ると。
休んでろ、という四文字だけのメールが見えた。
生活委員会の先輩たちは空気を読んでいた。
自分が一人でない。そんなことを少しだけ考えられた。