2015/08/07 のログ
蓋盛 椎月 > 目を開けて、演奏を終えた奇神に視線を向ける。

「いい演奏……そして、いい友人だ。
 あたしは必要なかったかもしれないね」

この立場では説教ぐらいしかできることはない。
しかし彼女のような頼もしい知己がいるならもっと実りある時間を与えられるはずだ。

目を細める。
すう、と肺腑に煙を吸い込む。
風に揺れる煙の筋。
携帯灰皿に、吸い殻をねじ込んだ。

「胸を張って生きていいんだよきみは。
 お兄さんもそう願っているはずさ。
 慌てる必要はない、一歩、一歩だよ」

背を向け、一足先に日なたへと踏み出す。
背中越しに手を振り、ヘルメットをかぶり、停めてあったバイクにまたがる。
白衣をたなびかせ、とろとろとした眠たい速度で走り去っていく――

ご案内:「島の道路沿いにある草むら」から蓋盛 椎月さんが去りました。
奇神萱 > 「大人にしかできない役回りもあるさ」
「蓋盛…先生だったか。あとは頼ん―――」

振り返るともういなかった。白衣の後姿が遠ざかっていく。
三枝あかりと顔を見合わせて、どうしたもんかと思案する。
いい感じの雰囲気に騙されて子リスの世話を任されたような気がする。
あざやかな手腕に可笑しくなって笑った。ひとしきり笑って。

「……仕事、残ってたよな」

スクールバッグから軍手を出して腕まくりする。
ゴムで髪をまとめると大きなポニーテールができた。
バッグの中には掃除に使った道具が一式そのまま残ってる。

「とっとと終わらせて帰るぞ子リス。ドングリよりマシなもん食わせてやるよ」

夏の空は底抜けに青く。そんなこんなでもう一汗流していくのだった。

ご案内:「島の道路沿いにある草むら」から奇神萱さんが去りました。
三枝あかり > 「そんなことないですっ」
「蓋盛先生と、奇神先輩がいてくれたから……私は」

携帯灰皿を取り出す恩師をじっと見る。
人を見るのは、どこか怖いと思っていた。
けど、今なら素直に人を見つめられる。

「はい! ありがとうございます、蓋盛先生!」
頭を下げて見送った。
――――自分の少しの勇気を後押ししてくれた教師を。

奇神先輩と顔を見合わせる。
くすくすと笑い出し、その声は次第に大きくなって。
「はい、ここらへんを綺麗に除草するまで終わりません」
「えっ、手伝ってくれるんですか!?」
テキパキと掃除の準備をする先輩を前に、呆気に取られていて。
「……はいっ!」
笑顔で頷く。私の友達は、こんなにも頼れる!

星の光なんて見えなくても。
私はこの輝きを信じて歩いていける。

生活委員会の先輩たちが何も言わず迎え入れてくれた。

この世界で私は、生きていく。

ご案内:「島の道路沿いにある草むら」から三枝あかりさんが去りました。