2015/09/27 のログ
ヨキ > 「……君はまだ若い。それに、ヨキもまだ『人間を始めて』日が浅い。
 互いに、未だ途上なのであろうよ。
 それに……今以上にしっかりされては、先輩たるヨキの立つ瀬がなくなってしまう」

(小春の真摯な言葉に目を細める。
 くすくすと笑いながら、運ばれてくる食事の香りに居心地良さそうに笑う)

「今日は君との約束が楽しみで、まだ五回しか食事をしていないんだ」

(これが六回目、と。
 量を食べるにしてはあまりに薄い腹を、戯れに軽く叩く)

「きっと……君の落ち込みは、ヨキには計り知れないものであったのだろうな。
 その経験が、君のよい足場となってくれればいい。

 ――お疲れ様、だ」

(言外に、自分の与り知らぬ彼女の身の上を含めて。
 穏やかに笑って、グラスを掲げる。

 朗らかな調子で食事が始まる。
 多い量を前にしていながら、カトラリーの使い方も、食べ方も、地球人と何ら遜色はない。
 それで、と言葉を続ける)

「仕事といえば。
 あれからどうなったね、『模型』を使った授業は?」

(今日の約束の発端――備品の発注が間に合わず、ヨキが急ごしらえの異能を使った、生物の授業のことだ)

朝宮 小春 > 「若い若いと言いながらこの歳ですから、あんまりのんびりもしていられないですよ。
 新しく赴任した先生からしたら、一回り上なわけですし。」
(相手の言葉に、ちょっとだけ困ったように。 そろそろしっかりしなきゃダメなんですよ、と肩を落とす。
 でも、相手のほほ笑みにこちらも返しながら。)

「………そうなんです? じゃあ、もうちょっと早くすればよかったかもしれないですね。
 ま、そういうことならせっかくですし、早速食べましょうか。

 ……そうですね、まあ、多少のことがあってももう落ち込んだりしませんよ。
 だから、頑丈が売りだって言ってるじゃないですか。」
(彼女の言う、頑丈、にはそういうものも含まれているのだろう。
 何も感じさせない、明るい笑顔を向けながら、グラスをかちん、とぶつけて。

 こちらも、本来は比較的食べるのは早い方ではあるが、今日はゆったりとしたもの。
 ワインを二口も飲めば、少し肌を赤くして。)

「ああ、ありがとうございました。
 おかげ様で、なんとか分かってもらえたみたいです。

 あれって、中々こう、口で伝えても難しいんですよね………。
 正直、あれがあったら模型を注文する必要、無いくらいなので、今後も使いたいなって思ってるんです。」
(思い出したかのように言葉を紡ぎながら、うん、うん、と二度頷いて。)

ヨキ > 「歳を取らぬヨキにとっても、年月が巡るのはひどく早いものであるからな。
 人間の君からすれば、目が回るような思いなのだろうな。
 ……君のように、『そろそろ』を自覚できるヒトを見て、ヨキにも時間の感覚が生まれるんだ。
 君の焦燥が、ヨキを人間たらしめるという訳だ。まったく冷たいものさ」

(言いつつ、悪びれる様子はない。
 乾杯を済ませたグラスを傾けると、染み入るように息を吐く)

「いや。空腹は最高のスパイスだと言うが、君と共にする空腹ならば尚更だ。
 ……おまけに、君の前向きな言葉も付いてくる。言うことはない」

(土気色の肌は、酒気が混じっても赤らむ気配はない。
 切り分けた肉を、大きな口がゆっくりとしたペースで頬張る。んまい、と小さく舌鼓)

「有難う。役に立てたのならよかった。
 ……うん?あれを使うかね。大丈夫だとも。ヨキの中へ戻らぬ限り、急に消え失せたりする訳でもない。
 授業の備品程度ならば、必要な分だけ工面してやれるからな」

朝宮 小春 > 「まあ、焦り始めて何年経つやらといったところですから?
 すぐに目が回ってしまうような私の焦りを元にしたら、だーめな人間になってしまうかもしれませんけどね?」
(くす、くすと笑いながら、ぱち、と片目を閉じて、笑う。
 ワインだけで、すぐに肌に朱が刺して、まあ、少しだけ陽気にはなっているのか。)

「…ふふ、ヨキ先生が相手だと、上手いこと言って、なんて言えないですから、ちょっと照れますね。
 私はこう………後ろを向くと何処までも後ろを向いちゃうんですよね。
 だから、意識的に常に前向きに。
 死ぬまで空元気が続いたら、それって本当に元気な人だと思いますし。」
(照れながらも、ワインを口にした後の吐息とともに言葉が漏れる。
 本当はすっごく暗いんですよー、なんて呟きながらころころと笑って。)

「ありがとうございます。
 ………………私、あまりそういう力、見たこと無いんです。
 ヨキ先生から見ても、驚いてしまったり、目を背けたくなるような……
 そんな力を持っている生徒って、今まで、いましたか?」
(思い出されるのは、空中で金属が生み出されて形を変えていった、あの光景。
 それだけで目を離せなくなり、理解に時間がかかった自分。
 自分はここでやっていけるのか、やっぱり不安で。 ぽつり、と漏らす。)

ヨキ > 「さまざまな人間を見て学んで、そうしてきたのがこのヨキだ。
 君を手本にすることは、ヨキの人間味のいい滋養になるだろうから。
 常世学園の教師としてはヨキが先輩でも……、人間としては、君の方がずっと先輩だ」

(笑みを深める。会話を共にする相手があることと、美味い食事と酒と。
 人の言葉と声、ざわめきとに心地よく浸るかのような表情)

「死ぬまで空元気、か。いい心掛けだな。
 そういう人間に、たまには休んでみろ、なんて無責任は言わんよ。
 せめて健勝でさえ居てくれるなら――君のどんな在りようだって、ヨキは支持するよ。
 光あるところに影がある。当然の摂理だ」

(異能について問われると、食器を手にしたまま食事の手を止める。
 少し考えてから、緩く首を振って)

「……そうだな。
 君の参考にならず済まないと思うが――『居なかった』。
 時に驚きこそすれ……突出して挙げるような者は、誰も。

 ヨキが驚いたとき、その異能の使い手は、初めにはもっと驚いていたはずだ。
 かつて――ヨキがそうだったのでな。
 目を背けたとて、どこにでも在る。それが異能だ。
 だからヨキは……真っ直ぐに見る。例え相手が、誰であってもな。

 要するに、異能の内容如何ではないのだよ。
 本人が制御できるか否か――あるいは、その力をどう使うのか、使わないのか。

 異能を制御できぬ者、悪意を以て用いる者。
 答えをあえて示すならば……そうした生徒には、細心の注意を払ってほしいと。
 ……そう思う」

朝宮 小春 > 「いいんですか? 私を手本になんてしたら、大変ですよー?
 ……まあ、程よく失敗の一つでもしてくれないと、手本にするにも大変ですけどね。
 では、先輩ですから? ここのお代は半々ってことで面子を保たせてくださいね。
 奢りませんからねー? ハンバーグが三段重ねになりそうですし。」
(んっふふ、なんて笑ってそんなことを言う。
 パスタを口に運びながらも、少しづつ少しづつ、お酒のせいか、砕けていっているような。)

「ふふ、ありがとうございます。
 そうやって言ってもらうのは、久々かもしれないです。
 先生が元気でいないと、生徒が元気になるはずもないですしね。」
(目を少し閉じてから、微笑み。
 その上で、………………相手の言葉に、真剣に耳を傾けた。)

「………私も。」
(まだ言葉は小さい。
 自信がないのか、はたまた。)

「私も、まっすぐに見たいんです。
 目を背けたくないんです。

 悪意には、確かに………気をつけなければとは、思いますけど。

 本当であれば、制御できない子であっても………目を背けたくないんです。
 もし、目を背けるなら、私にはここで教師をする資格が無いんだと、そう、思うんです。

 ……でも、ちょっと不安で。」
(相手の言葉を受けて、……頷く。
 頷きながらも、自分の不安をぽろぽろとこぼして。
 どんな危険があるか分からない状況のまま、注意を払いつつも下がる意思が無い様子。)

ヨキ > 「それでは、今回は君の言葉に甘えて……半々としようか。
 しかしヨキにはヨキで、男の面子というものがあるのでな。
 もしも……これから君を付き合わせる機会があるならば。
 そのときはヨキに、気持ちよく馳走をさせてくれ」

(折半は今回限りだぞ、などと笑う。
 小春の微笑み方に、目を伏せて柔らかくはにかむ。

 そうして――異能についてのやり取りに。
 長い前髪と睫毛の下に、陰が落ちる。
 翳された下で灯るかのような、あえかな金色の光が浮かぶ瞳)

「…………。そうだな。
 目を――『背けてしまうかも知れない』。しかし、『そうしたくはない』。
 教師として、当然の心掛けだ。

 こういうとき……ヨキほど不向きな相談相手はない、と思っている。
 ヨキはあまりに異能に親しく……また無神経に過ぎるのだ。
 異能者と無能力者の融和を謳いながらに――異能に立ち向かう無能力者の不安を、汲み取れん。

 君の言う、『目を背けたくなる』力とは……たとえば、どんなものを想像しているね?
 人知を超えた、おどろおどろしい変容を齎すものか。
 それとも、本人が苦しみながらにして……解決へ導けることなく、無力を強いられることか」

朝宮 小春 > 「あら、………それじゃあ、そうですね。
 次回。………その時には、お言葉に甘えるとします。
 落第街に行っても構いませんし、またここでも。」
(相手の言葉には、ふふふー、っと満足気に笑いながら、それでも相手の言葉を否定はしない。
 ええ、その時は、と小さく約束をするに留めて。)

「………………
 そういうこと、です。
 ヨキ先生は、それが当たり前の世界で生きてきたんだと思いますし、仕方ないとも思います。
 ………前者です。」
(珍しくきっぱりと、そう口にした。)

「見た目が大きく変わってしまったり。
 身の危険を感じてしまうような………そんな力。」
(そこまで呟きながら、ワインを、く、っとちょっと大きめに煽る。
 空になったグラスを、ことん、とテーブルに。)

「私は元は、異能の研究者を希望していました。
 ………残念ながら、手は届かなかったんですけれども。

 だから、無力は承知の上なんです。
 根本的な解決をしてあげることなんて、私にはできやしないんです。
 無力感に打ちのめされる、なんて言葉を使う資格は、ありません。

 無力で何もできないまま、目を逸らさずにいてあげることしか、元々できないんですから。
 それすらも出来ないのって、………格好がつかないじゃないですか。」
(格好くらい、つけたいですもん。……そう言って赤い顔のまま微笑む。)

ヨキ > 「有難う。
 そういう約束の積み重ねで、ヨキは自分を粗末にせず生きてゆける。
 だから君も……いつヨキに誘われたとて応えられるコンディションを保つくらいには、元気でいてくれよ」

(例え話だがね、とグラスを傾け、食事を進める。
 料理はぺろりと平らげられて、並んだ皿が綺麗に空く。
 小春の言葉に、残り少ないグラスを口許で止める)

「……君はやっぱり、真摯だ。
 自分の行き止まりがどこにあるかを、きちんと見ている」

(最後のワインを口へ運ぶ。
 グラスを置いて、唇を拭う)

「なるほど。君の印象は――『研究者然としていた』からか。
 夢見がちなようでいて、醒めた区切りが根差している。

 ……沢山あるさ。
 異能に傷付けられたことも、たじろぐ他になかったことも。
 幸か不幸か……ヨキの身体は、人間よりもよほど『頑丈』でな。
 その都度ヨキは倒れ、立ち戻り、向かい合ってきた。

 後にも先にも――」

(口を噤む。
 かつて研究者を志望した、無能力者――
 自分とはまったく立場も思想も異なる者を前にして、小さく笑う)

「自分の見た目が大きく変わり、頭の中の景色が何もかも変わったこと……
 それ以上に『身の危険』を感じたことは――ないよ」

朝宮 小春 > 「そういうことなら、喜んで?
 ふふ、何を言ってるんですか、私は頑丈が取り柄ですからね。
 いつだって大丈夫ですよ?」
(なんて、ぽんぽん、と自分の胸を叩いて笑う。
 ワインを飲み切ってしまえば。こちらも食事そのものは終わっていて。)

「………本来なら、夢見がちなままでいたかったんですけどね。
 本音も建前も、ちゃんと分かりますし。
 綺麗事だけでは世の中が回らないことだってわかります。
 その上で理想論をぶち上げて、それを実現するような研究者になりたかったんですけど。
 どうにもそういうわけにも。」
(ああいう場にいる人の頭、本当にどういう構造してるのか知りたいくらいで。とぼやきながら、くすくす、と笑う。)

「………じゃあ、私も倒れても立ち戻ってきます。
 そりゃあ、多少は時間かかっちゃいますけどね。」
(相手の言葉に、自分も、と口にする。
 ほろ酔いではあれど、その瞳の意思がふわふわしている様子も無い。
 むしろ、本音のような。)

「………そういえば、ヨキ先生は………そう、でしたよね。
 自分が変わることが、一番怖いのかもしれませんね。
 他人の能力は、自分に向けられるまでは無関係ですけれど、自分の能力は、どれだけ逃げようにも、逃げられませんから。」
(相手の言葉を聞きながら、視線を少しだけ落とし。
 ………相手の言葉を、じっくり自分の中で反芻するかのよう。)

ヨキ > (明るい小春の言葉に、頼もしい、と微笑む。
 互いの食事が終わると、傍らのメニューを相手へ差し出す。
 デザート、あるいは酒の追加はないか、と。
 こちらは勿論、どちらにも付き合う心積もりではある)

「研究者の理想像だな。
 ……して、君が研究を進めていた先は、どこを目指していたんだ?
 これが古傷をいたずらに掻き毟るような真似でなければ……ぜひ、聞いてみたいんだがね」

(酒によって隔たりが緩み、しかして心が弛むことのない、心地のよい塩梅。
 結んだ唇が、ゆったりとした弧を描く。小春の言葉に、小さく首肯して)

「ああ。……何度でも、戻ってきてほしい。
 常世島が異能者の、魔術師の、……『持ちて知る者たち』だけの狭い楽園で終わるのは、厭だ。
 君のように……『持たずして挫けぬ者』こそが、必要なんだ。この島の在りようが、海の外へ出てゆくためには」

(伏せた小春の目を、真っ直ぐに見る。
 言い聞かせるでも、諭すでもなく、ただ伝えるために)

「……こうして自分の考えを、言葉で組み立てることも。
 君が話す言葉を、耳で聞いて理解することも。
 ヨキには何もなかった。自在に動く指も、二本足で立つ骨も、毛のない肌も……何も。

 得たのは一瞬だった。理解するのに何年も掛かった。
 ……そんなヨキの傍には、常に人が在ったよ。

 そういうことだと思っている。……目を背けずに、共に在るというのは。

 ヨキの恐怖を、ヨキ自身と同じく真に理解したものなど居なかったろう。
 それでも……ヨキは孤独ではなかったよ。

 慈しみのため、研究のため、始末する機会を窺うため――
 誰がどんな意図を抱えていたかなどとは、どうでも良かった。

 ただ離れずに居てくれたことが、……ヨキには重要であったのだと思う」

(何の答えにもなりはしない、渇いた独白。
 ――乞うように、水を飲む。喉を鳴らして、一口)

朝宮 小春 > 「あ、じゃあワイン追加で。」
(すっかりと顔が赤いのに、あっさりとお酒の追加を頼むことにする。
 うん、少しばかり気が大きくなっているのだろう。)

「………どこを。
 そうですね、その、具体的にどうこう、これを実現させようとか、そういうものを考える前に終わってしまったんですけど。
 不思議なその力を一つでも二つでも理解して、それが一つの人間の特徴にまで落とし込めるような、そんな世界を目指したい……っていう、まあ、受け売りなんですけど。
 そのためには、もっともっと、誰でも分かるようにしなきゃいけないですし。
 下手したら、手術で無くしたりできるような、そのくらいにまで理解をしなきゃいけない。
 ………そういう技術が育まれれば、……そこまでいかなくても、こういうものだ、っていう知識が積み重ねられれば、きっと。」
(言葉を告げる。夢を見て届かぬ理想はとても遠くて。
 言葉を発しながら、嗚呼、と声が漏れた。 目元を軽く拭って、新しく置かれたワインのグラスをぐ、っと傾ける。)

「………その言葉が、どれだけ私の力になるか。」
(独白に言葉をかけながら、くす、くすと笑う。)

「私の有り様が。………ここにいるべき目的が見えたような気がします。
 ………まあ、結局何もできないはできないんですけど。
 それでも、私は私のままでここにいなきゃいけないんだと思います。
 この島から卒業する生徒をちゃんと作らないと、生徒だけが増えすぎて、学園、破綻しちゃいますし、私達が過労で倒れますしね?」
(くすくすと笑いながら、そんなことを言ってウィンクを一つ。
 グラスを今度は大分早く空けてしまえば、ことん、っとグラスをおいた。)

「あ、パフェと……もう一杯?」
(ペースが上がった。)

ヨキ > (ふっと笑って、自分もワインの相伴に与る。
 間もなく運ばれてくるグラスを指先で支えながら、顔は赤くとも明朗な小春の言葉を聞く。
 遠く遠く――今や彼女が置いてきたものたちに、目を凝らすようにしながら)

「ふふ。
 ……その話を聞いて、いよいよ君のことが好きになった」

(その語を愛を呼ぶほどの重みはなく、けれど嘘なくして真っ当に。
 グラスを添えた唇が、に、と笑む)

「異能を持たずに、そこまでしかと口にできる人間は未だ数少ない。
 それを受け売りと呼ぶからには……君はさぞよい師を持ち、伸びやかに学んできたのだろうな。

 ……常世学園は、財団の誇る学術の街だ。
 その心を曲げずに持ち続けたならば、きっと繋がれるべき道は、ある。

 今の君は……何も、これまで目指してきたものとまったく道を違えた訳ではない。
 教師として枝葉を伸ばし、生徒を教えること――きっと、無駄にはならんはずだ。

 自ら学び続けること、そして自分の学びを、人に伝えること。
 ――見てみろ、それほどまでに、君は地続きのはるかな地平に立っているではないか?

 ひとたび道は断たれたとて……『根』までは断ち切られていない。

 ……今日、君と話してみて。そう思った」

(笑みを交わしながら、グラスを煽る。
 同じく空にしたグラスを置いて――不敵に笑む)

「君の望むとおりに、朝宮。
 甘味と酒は、我々を裏切りはせんよ」

朝宮 小春 > 「………もう。
 ヨキ先生は本当に、………言い返す言葉が無いじゃないですか。」
(正直なことはよく分かっている。
 でも、苦笑を浮かべながら三杯目を口にして。)

「………ぅー……ん。 そこは微妙ですけど。
 まあ、そういう意味では良い師だったかもしれないです。

 ………………」
(その言葉を聞いて、視線を落とし。
 ……それから窓の外を見て、空を見上げ。
 また、視線を元に戻して。)

「………私は。
 …そうかもしれません。

 おもいっきり、樹の幹をチェーンソーでぶった切られたような感じでしたけど。
 確かに、根っこは。
 ……まだ、生きているんです、ね。

 諦めるとかじゃなくて、私はまだ道半ばなんです、よね。」
(自分の手を見つめながら、ぽつぽつと。
 言葉が唇から零れ落ちて。 ……一滴の言葉ではないものも、手の甲で跳ねた。

 道を外れて真っ暗だから、真っ直ぐに進む彼女。
 三杯目のグラスを空にしてテーブルに置いた時には、ふ、ふふ、っと笑って。)

「本当ですか?
 私、お酒には裏切られたことが多いんですよ?
 あんまり飲まない内にちゃーんと切り上げるように、先輩らしく忠告をお願いします?」
(ころころと笑いながら、ふっふー、と笑って片目を閉じる。
 運ばれてきたパフェに、華やかな声をあげて。)

ヨキ > 「……ふふ。言ってしまった。
 けれどどうしたって、心に秘めることが出来なくて。
 返す言葉など、ひとつきりしかないではないか。
 そこは君こそ、ヨキを好いてくれるところではないかね」

(傲慢な言葉を、明るく響かせる。
 続く小春の言葉に、相槌も打たず黙って聞き入った)

「…………、そうだ。道半ばだ。
 自分も、倒れても立ち戻ると言ったろう?
 ……今はそれに、ただ時間を掛けているときなのだと、そう思え。
 教師としての日々が、君を慕う生徒らが、みな君を新たに育む土壌なのだと。

 ……生徒のためだけに自分があるとは、決して思うな。
 生徒らもまた、自分のためにあるのだと……

 見返りを得ることは、悪ではないよ」

(目を伏せる。何も言わず、ハンカチを差し出す。
 食後のデザートを、笑って迎えられるように)

「愚問だな。
 このヨキともあろう者が、女性に不義理を働きはせんよ。
 君のことは、ちゃんと見ていてやるさ」

(大きな手が、細身のスプーンを優雅に摘んでひらりと返す。
 とろけるような生クリームの純白に、半ばうっとりとした顔を作って目を細めてみせる)

朝宮 小春 > 「………ふふ。
 冗談も上手、ってことにしておいてくださいな。
 私は今はまだ、道半ばで座り込んでいた根性無しですから。
 まだまだ、やるべきことだらけです。」
(ハンカチをそっと返しながら、言葉を紡ぐ。
 片目をぱち、っと閉じて笑いながら、更に続けて。)

「それでも、生徒のためにやりきるつもりです。
 そうやってやりきれたら、きっと私も、多少はマシな女になっているかもしれませんし。
 その時にもう一度、返す言葉を試してみましょうか。」
(なんて、またくすくすと笑うのだ。
 それでもあくまでも、先生のままでいることも止めるわけもない。
 全力で走りきっても、空元気を出せればそれでいい、そう思っている。)

「じゃ、お願いしますね?
 ………んん、嗚呼、これ食べきったら、私寝ちゃいそうです。
 今日も、しょーじき疲れましたし……」
(ん、んんっ……っと、声を漏らしながら、ぐっと背伸びを一つ。
 最初に漏れなかった本音がぽろりと漏れて、とろん、とした瞳で笑う。)

「今日は、ありがとうございます。
 リラックスしてますよ? 見て分かる通り。」
(パフェを食べれば、満足気な表情で………お礼を口にして。
 緩やかに夜は更け、そろそろ帰ります? なんて言葉を相手にかける。)

ヨキ > 「判った。真面目で冗談も上手と来ては……まったく君は、生徒に好かれる資質を持っているな。
 ……見ていてやるとも。ヨキはずっと、君のことを。
 常世島に一度でも関わったもの――そのすべてが、ヨキにとっては大切なのだ。

 断たれて追いやられたなどとは、思ってくれるな。
 この島こそが――ヨキのふるさとなのだから」

(ハンカチを受け取って、笑う。
 たっぷりのクリームと果物とを、満足げに頬張った)

「――ヨキの方こそ、どうも有難う。
 斯様なまでに、充実した時間を過ごせてよかった。
 また共に過ごしてやってくれ。
 明るく笑う君を見ているのは、心地が良いでな」

(デザートまで綺麗に食べきり、芝居じみて礼儀正しく食後の挨拶。
 席を立ち、約束通りに代金を分け合って――分かれ道まで、談笑は続いたはずだ)

ご案内:「カフェテラス「橘」」からヨキさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から朝宮 小春さんが去りました。