2016/06/07 のログ
ご案内:「梅雨入りからプール」に松渓つばめさんが現れました。
松渓つばめ > 「っるぁーーーーっ!」
カエルも鳴きはじめようかという夕刻。本来人気のないところに気合の声が響いた。

体育会系娘、松渓つばめ。
彼女はいま、自分の背丈よりも長いデッキブラシを見事に操り、プールの藻をこそぎ落としているのだ……ひとりで。

松渓つばめ > 水着の上に白の運動着。何故かねじり鉢巻という出で立ちで、剣豪か何かのように掃除をぶちかます。

さて。こんなことをしているのは素行の微妙に良くない彼女への懲罰ではない。……そういうのならもっと適切な人材が多い島だ。

松渓つばめ > つばめは運動が好きだ。特に季節感あふれる運動が大好きだ。
島の外で冬を過ごした時、シベリアを選んだのは『寒くなって雪が降るのが早いから』というのも一つの理由だ言うくらいだ。
当然水泳も、本土の小学生に負けず劣らず待ち遠しくてたまらない。

だから教師の一人に交渉を持ちかけた。掃除をさせろと。そして真っ先に泳がせろと。

常世学園はその性質上、プールが使われない年すらもあったということを、つばめは耳にしていた。
居ても立っても。こうして講義の後にぬるぬると格闘しているというわけだ……「ぐぬ、やりおる」足を滑らせるとかなーり危険。

松渓つばめ > そしてふと見渡す。だいたい半刻ほど続けて見たが、まだまだ先は長い。
気温も高くない、下手をしたら今の彼女の格好では肌寒くすらあるのだが……額には汗。
この調子では数日かかるだろう。考える。

「――これならッ」
異能を使ってみよう、そう決めた。手を前に振り出すと放たれる煙のような粉。
これがプールの底に溜まった水に溶け込むことで……

掃除のしやすさは別に変わらなかった。落胆のあまり、デッキブラシを支えにしゃがみ込む他にない。
「何か楽になる方法ないのー?」
人を集めるのが最も有力な手段だろう。だけれど。

松渓つばめ > イマイチ誘う相手というのがぱっと浮かばない。いや、二人ほど……絆の力とつばめが気づかぬ魔術の力で思い出す二人はいるのだが、どっちも案としてはボツ。
(こうして思い出したからって、かつて棗嬢から受けた呪がその力を失った訳ではないことを明記しておきたい。)

つまり一人で頑張るのが正攻法なのだが、裏ワザを試さずにはいられない。つばめはそう言うヤツだ。
気分を持ち直して立ち上がると、プールの底全体を見た。
「水に、木気……」
そして頭のなかでシミュレート。
もやもやもや。

水生木とは、五行相生の理。魔術を使ってプールの水をみんな藻に吸わせてしまえばよい。では、その後はどうするか。
決まっている。木生火。火を放つのだ。
そして燃え盛るプールのど真ん中、デッキブラシを扇のように持ち『人生五十年……』と謎の踊りを踊るつばめの影があった。

やもやもやも。
「死んでどーする!!」

ご案内:「梅雨入りからプール」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 「プールの掃除をしている者が居る?……ひとりで?」

職員室でそう聞いて、見下ろしたプールに確かに人影があった。
一日にやるべきことは大方終わらせてあったし、夜に予定がある訳でもない。

行ってやるか、と思い立って、デッキブラシを肩に担いだ大男がプールサイドに現れる。
孤軍奮闘するつばめの姿を見つけると、手を振って声を掛けた。

「――おーい。君かね、一刻も早くプールで泳ぎたいというのは?」

持参したハイヒールのサンダルに履き替えて、のしのしとつばめの前にやって来る。

松渓つばめ > 妄想をツッコミで吹き飛ばしたポーズで少し止まっていた、が、
視界の端に人の姿を認めると一応居住まいを正した。まあ……武蔵坊弁慶のようにブラシを垂直に立てた、というやり方だが。

「あらら?えーっと……先生?」美術に全く縁のないつばめ。1年の入学式にいたかなあと記憶を探ってみるが……ダメだったようだ。微妙にアタリをつけて返事。
「ん、まぁ、そんな所。――先生もそのクチ?珍しいじゃない」
近づいて、下から見上げながら歯を見せる。にひひ。

ヨキ > 「そう、美術のヨキだ。見上げた根性の女子が居ると聞いてな。
 ……君、名前は?」

尋ねながら、プールの水槽内へ降り立つ。
さっそく靴底にぬめりがこびり付いて、おお、これはこれは、と足を持ち上げた。

つばめの言葉に笑い返す。

「いや、ヨキは泳ぐことをせんのだ。
 単純に人助けだよ。君の情熱に敬意を表してな」

試しに床を擦って汚れを剥がし取ると、よし、と頷いて、つばめを見遣る。

「ところでその恰好は……気合が入っておるな。
 掃除が済んだら、すぐにでも泳ぎ始めそうではないか」

松渓つばめ > 「つばめ、よ。松渓つばめ。なーに風呂屋の大将が一番風呂にありつこうってだけの話だわ。
――でも、結構な汚れでしょ。一瞬焼き払おうかと思っちゃった所」
手を動かしだすのが早い教師には負けてられぬと、ガツガツと藻を削る。

「ヨキ先生?」
名前?一度聞き返すも、ほぼ『そうなのだろう』と思ったのか確認までは取りきらない。
「泳がないのに手伝いだなんて……嬉しすぎ。だからっていきなり泳ぐのはムリ、かな?
もともと数日かかるとは思ってたもの」

ヨキ > 「松渓つばめ君。ふふ、ヨキは良いことをする生徒は一発で覚えるぞ。
 プールを焼き払われても一発で覚えるが」

ヨキ、という名前らしからぬ名前を訊き返されて、頷く。

「かわいい生徒が独りで頑張っているところを見過ごすなど、教師が廃るからな」

話しながら、しゃがみ込んで汚れをごりごりと擦り落とす。
先は長いが、横顔にはいやそうな表情一つなかった。むしろ楽しげですらある。

「一番風呂、ならぬ一番プールを満喫した後には、せいぜい声高に誇ってやるがよいぞ。
 ここを掃除したのはこの松渓つばめだ、とな」

にやりと笑うと、大型犬に似た牙が目立つ。

松渓つばめ > 「下の名前で呼んでよセンセ。あたし外国でもファミリーネーム聞かれない限りそう通してたの」
つばめは世界を股にかける渡り鳥『燕』の事だってね、と。

「でも、教師たるものこれ見過ごせないのなら、そしたら」
と、教室棟を指差す。こちらからも窓の中が見える。
ということは、明日には進捗がしっかり見てとれることだろう。頑張れば3割り前後だろうか。
「明日からはセンセー総出ね。むしろあたし楽できそー
それにさ、こういう事ってあんま目立っても子供っぽいってならない?先生?」

一応普通の学生である彼女にとっては、逸脱のし過ぎは恐怖である。まだまだコドモなのだ。