2016/08/30 のログ
ご案内:「ヨキ作品展(しずかめ)」に松渓つばめさんが現れました。
■松渓つばめ > 十分な間隔をもって並べられた作品群のすきまには、殆ど人間がいない。
展覧会序盤は多くの人間がいて、中にはカップルも見受けられたのだろう。
耳を澄ませば時々話声も聞こえたろう。
今は、独り、独り、それが数人。
そして作品の楽しみ方も違った。
きっと、一人で何度か来ていて、気に入った作品があって。
一つの作品の前で静かに佇んでいる。
が。娘は残念ながら、そういう情緒を味わえる域に無かった。
■松渓つばめ > 靴音、否衣擦れの音ひとつ騒音となる静謐な世界。
そこにいたのは、夏休み終わる前に見ておかないと!と思い立ち、
サンダルをつっかけて、段々乗客の少なくなる列車に違和を覚えつつ産業区まで乗り、
そして今物凄く場違い感と居心地悪さを感じているつばめである。
(人がぼんやりとした輪郭線だけの存在に見えてきたわ……なにこれ)
――カギカッコつきの言葉など怖くて発せる訳もない。
■松渓つばめ > 人の流れに乗りながらアレ見て~これ見て~ああ満足、と無粋を貫くつもりだったのだが。
この時点でやっぱり帰ろうかなとも思ったのだ。何せ入場無料だし。
(だけど最初の数個だけ見といて・・・ってのも)
ラーメン屋で一口すすって席を立つようなものだ。
それに、作品そのものには――むしろ強い魅力を感じるのだ。
心のどこかで、序盤の混む時ではなく、最終盤の、今、来て良かったと主張しているのを、認めないわけにはいかなかった。
「――エロいんだけどさ」
無意識に口をついてしまって、おわ、っと周囲のイラ視線が来ていないか気にする。……大丈夫のようだ。
■松渓つばめ > 作品に意識を戻していく。つとめて自分もボンヤリとした輪郭の生き物になろうとする。
1メートルと少し前にあるのは、それは見事な手際で作られた女性の裸像だった。
(これヨキセンセー実物元に作ったのよねきっとー)
そういうものだと解ってはいるのだが。芸術ですから、というアレなのだが。
見知った人が裸婦像をしこたましたためて、というのは少し気恥ずかしさを感じないでもない。
(だからってダビデっぽいもんばかり作られても、だけどさあ)
ゆっくりと時間をかけて、他の人に見咎められないように、歩む。
■松渓つばめ > ――あれ? ああ。
彼の実技ではロクなものを作らない娘。
時間を相当かけているのも理由だろうか。
いくつか見ていると、作品群に何か共通点があるように思えてきた。
(これ、セクシーにとかじゃなくて、なんていうか、美化……?)
語彙が足りない。
作り手の思う「美しい姿」を像に込めるのではなく。
素体の持つ「美しさ」をさらに増幅させるために作り手の脳を用いている――
(まあ、ゲージュツの感じ方とか好き勝手なモンですが)
だけども根拠はあった。
■松渓つばめ > (性癖じゃ、ないもんねこれ)
確かに裸婦像。そこには性質上どうしようもないエロティシズムは存在している。
しかし――。
(こーゆーのって、フェッチぃなあって思うんだよねあたし。
あー首筋オタかー、お腹大好きさんかー、アンタもタレチチ好きねーって)
そこに個人的嗜好の介在は無かった。一つ一つが、一人一人の美姿で。
ふと周囲を見回してみる。
少し太ったおっちゃんは、髪を長く切りそろえたグラマラスな女性の像を見て、何か満足気だ。
ああ良いですよねそういう、のと思いながら別の婦人を見ると、何だか昔を思い出しているようにも見えて。
なるほどなるほど、と頷いた。そして3つ程戻って。
あたしゃコレかな。だ。
■松渓つばめ > ――――時は、進んで。
「うっはー、ゲージュツの秋っ!」
ギャラリーを出て、ロビー。入り口付近の椅子。缶コーヒーを手に万歳の娘がいた。
■松渓つばめ > ふう。ぱた、と手を下ろす。
外の芝生からは小さく数匹、虫の声が届いた。ホントに秋だわ。
夏どこ行った。――滅茶苦茶サカナのコンテナを担いで金に換えましたね。
あの後、心ゆくまで裸身を堪能し、併設展示にも足を運んだ。
常世の学生と、数人の教員による作品。
書が多く、そしてつばめは作品出さなくて――というかコレの事知らなくて良かったなあと思った。
■松渓つばめ > だってほら。指折り数える。
「あたしの作品出すじゃない?ヨキセンセーの講義受けてるってことになるじゃない?
……出来はビミョーじゃない?あっもしかしてモデルをって話になるじゃない?」
ならない。
「なるわよ。あたし作ったやつ無いじゃない?あーそのまっ平らじゃあって話になるじゃない?」
多分被害妄想だと思いますが。
「いいのよ。あたしはこの体型が」左様で。
コーヒーを飲み干して、一息。
■松渓つばめ > 「っと、そうそう」手に持った小さな紙袋を開けた。
ふふーん、と目の前にかざしたのは、一番気に入った作品の写真がくっついたマグネット。
自宅、夕陽ちゃんと共有してる冷蔵庫の扉にくっつけとこう。
にまにましていると、先ほど一つのぼやけた影だった中年のおじさんがつばめに気づき、
目が合ったので帽子を軽く脱ぎ、会釈ひとつ去っていった。
■松渓つばめ > 空き缶をゴミバコに――外した。取りに行って捨て直し、こぼれた分は異能でサッと拭いて・・・
「そーいや、ガッコの連中なにしてるかしらね」と美術館を後にした。
ご案内:「ヨキ作品展(しずかめ)」から松渓つばめさんが去りました。