2017/04/16 のログ
美澄 蘭 > 『検査、明日も続く予定だったんだけど延期になっちゃって。
暇になったから、明日の昼は一緒に調理器具見に行かない?同好会の練習はないんでしょ?』

「ここにある調理器具だけじゃちょっと大変で」と、蘭に笑いかける女性。
一方で、蘭は微妙な顔で女性に向き直った。

「…そうはいっても、一応基本は大体あるわけだし。
あんまり用意しても私一人じゃ使いこなせないし、大体、帰る時にかさばらない?実家でダブったらどうしようもないでしょ」

実家…そう、蘭と会話をしているこの女性は、正真正銘蘭の母親なのだ。

美澄 蘭 > 『基本はあるっていっても、ちょっと凝ったやつとか…お菓子作りにあるといいようなやつは全然でしょ?
自分だけが食べる料理と、他の人にも食べてもらう料理って別の作業だと思った方がいいし…レパートリーは増やしてもいいんじゃないかしら』

「私がこっちに来てて、時間があるときなら教えられるしね」と、母・雪音は朗らかに笑う。
蘭と違って、雪音は一人暮らしの経験はない。だから、「自分だけが食べる料理」を作ったことはほとんどないのだ。
蘭と雪音。親子ではあるが、料理に向き合ってきたあり方は正反対で。
それを聞いた蘭は、ますます難しい顔になるが…

「………勉強を優先するつもりではいるけど、その合間でなら…覚えてみても、いいかな…」

最終的に、そうぽつりと言った。折れた。
必然の流れではあった。この島で、何があるにしろ。蘭は、一人「だけ」で生きていくつもりは、もうないのだから。

美澄 蘭 > 蘭の返答に、雪音の顔がますます輝く。

『それじゃあ決まりね。
…まあ、いきなり数を揃えても大変だから、明日は普通の料理にあると便利なのを優先しましょ』

「う、うん」

雪音のオーラに気圧されて、どこかぎこちなく頷く蘭。
雪音の異能は、負の面では人体に有害になり得るが、正の面では人のコンディションにプラスの影響を与え得るし…何より、正のオーラを発する雪音の表情の輝きは、「若さ」という分かりやすい資源が摩耗してなお、人をひきつけるものだった。
社会的には「周縁」におかれながら、堂々と恋愛結婚まで持ち込んだのは伊達ではないというかなんというか。

…だからこそ、蘭は自らの母に、そこはかとない劣等感を覚えることもしばしばあったのだが。

美澄 蘭 > 『じゃあ、私は寝ちゃうわね。
蘭も、あんまり無理しないで寝るのよ』

「お休み」と言って、蘭の部屋とは別の部屋の方に入っていく雪音。
蘭も、「お休み」と、さりげない声で返して雪音を見送った。

「………。」

それから、鍵付きのジュエリーボックスに視線を投げて…

「………もうちょっと、頑張ろ」

蘭は、改めて、意を決したように机に向かった。

美澄 蘭 > その頃…雪音の検査をした研究所は、その途中結果にてんやわんやであった。
「目に見えないものと親和性が高い」体質が、より強く出た場合。
…そして、その親和性を近代的思考によって「区切る」という意識が弱い場合。
それらの時に何が起こるかを、雪音の治癒魔術の技量が、適性検査の結果が強く示唆していたのだ。

『娘よりも、より強固な防御策を敷いて望まないと危険だ。
「よからぬもの」が、入り込む余地のないようにしなければ…』

娘の決意。それを支えたいと願う母親の意志。
それらとは無関係に、「空色の瞳」の意味を探る研究者達の苦悩は続く…。

ご案内:「美澄 蘭のアパート」から美澄 蘭さんが去りました。