2017/12/21 のログ
ご案内:「美澄 蘭のアパート」に美澄 蘭さんが現れました。
美澄 蘭 > 「…もしもし」

夜。携帯端末を通じて通話を試みる蘭。連絡の相手は…。

『こんばんは〜、蘭。もう冬休み?』

蘭とよく似た声の持ち主。母の雪音だ。

美澄 蘭 > 「まだ全部の講義が終わったわけじゃないけど…うん、そろそろ」

明るい調子で応じる母の声と比較すると、蘭の声は大人しく…心なしか、重さがあるように感じられる。
「勘のいい人」と、娘に評された雪音が、気づかないはずはなかった。

『帰省のスケジュール相談…ってだけじゃなさそうね。どうかした?』

まだ、母親の声のトーンは少し落ち着いた程度で、劇的な変化はない。

美澄 蘭 > 「………。」

一つ深呼吸をして、少女は語り始める。

「…あのね………私、恋人が出来たの。
それで…クリスマスは、出来たら、彼と過ごしたいなぁ、って、思うんだけど………」

『………。』

途切れ途切れに、気詰まりな感じが全面に出た調子の蘭の告白を、雪音は遮らず、黙って聞く。
そして…

『…そういう報告は、もっと晴れやかに聞きたかったわ』

報告を聞き終えての第一声は、苦笑交じりだった。

美澄 蘭 > 「………っ」

経緯を認めてもらえるかどうかの不安はもちろん、「彼」が抱えている秘密に自分が不安にさせられているのに、家族に納得してもらえるかどうかの恐怖もあった。
それらを丸ごと察されたわけではないと信じたいが…指摘の重さに、思わず言葉を詰まらせる。

『…私は、蘭ほど自由に人間関係を選べたわけじゃないけど、その中で色々あること自体に反対したいわけじゃないのよ。
ただ…出来るなら幸せであって欲しいし、びくびくした感じを表に出されちゃうと…どうしても、心配になっちゃうでしょ?』

「………そう、よね………ごめんなさい。でも、どう、どこまで言葉にしたら良いか、分かんなくて」

『そんな、いかにも「言いたくないことがあります」みたいな、言い訳にならない言い訳しなくていいのに。根掘り葉掘り、洗いざらい聞こうなんて思ってないんだから』

「………う、うん」

娘の謝罪と下手な言い訳に、母親が困ったように、それでも晴れやかに笑う声が端末から聞こえてくる。
蘭は言い訳の裏側をしっかり見抜かれたことにばつの悪さを覚えつつも、一方で深い追求の意思はないという母の言葉に、若干の安堵を覚えていた。

美澄 蘭 > 「その…私がどこまで上手く話せるか分からないってことで、相手に相談はしてて…
それで、もし必要なら、お母さん達に会ってくれても良い、って言ってくれてるから…」

『ふ〜ん、そう…』

相手が蘭の家族を決して毛嫌いしていないことを伝えると、雪音が何かを考えるような声を出す。

相手が、何か「隠しておきたい」ようなことを抱えていること。
そのことについて自覚も持っていること。
…その上で、蘭の家族である自分達と向き合うことから、逃げないでいようとしていること。

それらを、意識的にか無意識的にか悟り、どうすべきかを思案しているのだろう。

『…悪い人じゃ、ないのよね?』

「うん。…私、年の近い男の人に、ここまで真っ直ぐ、深いところまで向き合ってもらったこと、なかったもの」

母親の確認に対する答えだけは、真っ直ぐだった。

美澄 蘭 > 『ん〜………』

思案がちな、軽めの唸り声をしばし出して…母、雪音の出した結論は。

『蘭のその判断を疑う気はないんだけど、念のため話をさせてもらっても良いかしら?
出来れば、クリスマス前に』

「………随分、急ね?」

急な提案に呆気にとられて、その感想を声に出すのが、しばし遅れた。

『だって、クリスマスに恋人と過ごしたいんでしょ?
気詰まりなことを抱えたままじゃ嫌じゃない』

そう言って笑う雪音の声は、声質は蘭と似ているはずなのに響きが大らかで、どこか楽しげですらある。

美澄 蘭 > 「………まあ、そう…ね」

母親に先回りして気遣われたのが恥ずかしいやらくすぐったいやらで、少し拗ねたような感じで、それでも頷く蘭。

『急な都合なら晃もお父さんもついてくるなんて言わないでしょうし、よっぽどのことがなければ穏便に済ませられると思うわ』

そんな風に語る雪音は本当に楽しそうで、母親というより、年の離れた姉というのが近そうな雰囲気を醸し出していた。

「…そうね…ちょっと、日程とか相談してみる。
………色々ありがとう、お母さん」

そう返す蘭の声からは、重さが幾分取り除かれていた。

美澄 蘭 > 『「母親」としてどう向き合うのが正解かは分からないけど、一人の大人として、家族として出来るだけのことはしたいと思うしね。
…それじゃあ、都合のいい日が決まったら連絡して。念のため、早めにそっちに行くつもりではいるけど』

「うん、分かった。
…色々ありがとう。それじゃあ、お休みなさい」

『うん、お休みー』

快活な笑いを含んだ声と共に、通話は終わった。

美澄 蘭 > 「………。」

通話を終えて端末を机の上に置くと、息を一つ。
「逃げきれなかった」と言えなくもないだろうが…少なくとも母親の言葉と、声の調子を考えれば、「逃げなくて良かった」とも思えた。

(少なくとも今のところ…お母さんは、味方でいてくれてる)

安堵感から脱力し、机に突っ伏す。

「大丈夫…きっと、大丈夫」

「恋人」に連絡を試みる気力を奮い立たせる前に、蘭は、静かに…しかし念入りに、自分に言い聞かせた。

ご案内:「美澄 蘭のアパート」から美澄 蘭さんが去りました。