2015/07/02 のログ
ご案内:「蕎麦処『麒麟』」に『室長補佐代理』さんが現れました。
ご案内:「蕎麦処『麒麟』」に東郷月新さんが現れました。
■『室長補佐代理』 > 「鴨南蛮一つ」
歓楽街の片隅にある蕎麦屋。『麒麟』
開口一番そういって、さっさと隅のカウンター席に腰掛ける。
■東郷月新 > ふらりと入ってきた男。
少し身体をだるそうにさせながら。
カウンターの一席に腰掛ける。
「店主殿、鴨蒸篭を」
■『室長補佐代理』 > 一瞥だけ寄越して、少し席を詰める。
お互い、時間に遅れはない。
こういう『会合』は時間が少しでも遅れると面倒になる。
早すぎても然りだ。
故に、これはお互いに分かりきっている予定調和であり、同時にお互いに話をするつもりがあるという事の証でもあった。
これはつまり、『そういう話』であり、結局のところそれ以上でもそれ以下でもない『会合』である。
「確かに悪くない店だな。この腕章を見ても誰もビビらないし、妙な動きもしない」
そう、右肩の腕章を一瞥し、嘯く。
■東郷月新 > くすりと笑う。
腕章をしたまま来るとは思わなかったが――まぁ、大丈夫だろう。
この店は蕎麦を手繰りに来る客以外いない。
東郷とて、ここでは一介の蕎麦食いだ。
「小生の事を誰も知りませぬし、知っても億尾にも出しませんからなぁ」
蕎麦茶を啜る。
うん、美味い。
■『室長補佐代理』 > 「『賢い店に賢い客』が揃ってるからこそだろうさ。誰にとっても『都合がいい』」
皮肉気に呟いて、薄笑いを浮かべる。
湯気を纏って出てきた鴨南蛮を斜切りの葱と一緒に乱雑に啜り、一息ついてから、本題を切り出す。
「アンタ、当然だけど捕まる気は更々ないよな」
藪から棒に、そういった。
■東郷月新 > 「まぁ、ありませんなぁ」
というか、捕まる気があるなら最初からあの公安監獄を出たりしない。
蒸篭の蕎麦を手繰り、汁をつけて啜る。
鴨肉に箸を伸ばす。うん、良い。ほろりと身がほぐれ、それでいて味がしっかり残っている。
さて、この公安の男は何を言い出すのか。
■『室長補佐代理』 > 「俺達も正直アンタを捕まえる気は更々ない」
そう、あっさりといった。
外であればそれは問題発言と捉えられるのかもしれないが……それは実は間違いである。
そもそも、男の所属している組織は公安委員会。それも調査部。
元々、相手を捕縛することが仕事の部署ではない。
あくまで仕事は調査。逮捕権の有無すら『曖昧』だ。
本来、逮捕権に関する第一権限は風紀のものであるため、そういう表現になる。
……故に、公安は逮捕よりも『処分』という表現が増えるのかもしれないが……何もかも、『曖昧』故にまぁ、『そういう事』なのだ。
「が、それは『表向き』お互いに都合が悪い」
意味のない鼬ごっこをしてもお互いに旨みはない。
追われる東郷にとっては時間の無駄で、追う公安風紀にとっても時間の無駄だ。
それどころか接触が増えれば増えるほど東郷を取り逃がしたという『不名誉』がついてまわる。
その事実は、ただ揚げ足を取りたいだけの野党勢力……今の生徒会予算案に異を唱える連中に、ああだこうだ言わせる材料を与えるだけだ。
そして、それを必死に撤回しようとする熱血漢が現れれば現れるほど、東郷にとっても動きづらくなるという話である。
「まぁ、だいたいわかるよな。俺の言いたいアレコレについてさ?」
鴨肉ごと蕎麦を噛みちぎりながら、一瞥と共に問う。
■東郷月新 > なるほど、公安も風紀も色々あるようだ。
少なくとも、自分たちが動いていた時のような単純なものではないらしい。
――あの頃は、ロストサインVS学園という非常に単純な構図だった。
それだけロストサインが大きく、また学園にとって『都合が良かった』のだろう。
が、今はそうではない。
ロストサインはもはやなく、自分たちは一介の悪党に過ぎない。
「ま、小生に出来る事は限られますが――まぁ、『掃除』くらいは出来ますなぁ」
つまりこういう事だ。
『公安はお前に構っているほど暇じゃない』『だが正義の味方でなければいけない』『お互いにとってメリットのある選択をしよう』
そして東郷が出来るのはただひとつ、人を斬る事。
こうなれば答えなど、今やっている試験よりも簡単だ。
そう――東郷を見逃す代わりに、落第街でこれを機にと粋がっている悪党どもを斬ってこいと言っているのだ、この男は。
■『室長補佐代理』 > 東郷の物言いに、じわりと汚濁が滲むような笑みを向ける。
好感よりも先に嫌悪感が来る、汚らしい笑みだ。
それでも、『満足気』に口角を吊り上げ、男は一口汁を啜る。
毒を食らわば皿までも……転じて、毒を以て毒を制す。
それは何時どの時代でも、古来から当たり前のようにあったことでしかない。
たったそれだけの当たり前の話だ。
「アンタは強者と死合う事が目的の武人であると『聞いて』いる。
それが真実であるなら、俺としては『都合がいい』し……目くじら立てる必要は『今のところ』それほどないと思っている。
そんな連中、スラムになら『掃いて捨てる』ほどいるからな」
いつかの西園寺やクロノスのように、不特定多数の生徒や一般施設にまで手を付けるなら『それまで』だが。
そうでなければ……東郷のしていることは落第街に蔓延る『それら』とそれほど差がない。
そして、『それら』の多くは未だ『のさばって』いる。
ならばそれは、『そういう事』なのだ。
「俺の話に納得してくれるなら、『払い』くらいは持ってやれるんだがな」
そう、薄笑いと共に云った。
公安の腕章を、微かに揺らしながら。
■東郷月新 > 本当は違う。
東郷は根っからの人斬りだ。
斬りたくなれば女子供老人の見境なく斬る。『斬りたい』という衝動に従っているだけだ。
――が、目の前の男はそれでは都合が悪いのだろう。
『東郷月新は武人で、落第街の強者たちと死合うだけの存在だ』
そういう事にして、かつ東郷に落第街の猛者たちを斬らせたいのだ。
そういう『筋書き』がお好みなのだ。
まったく――反吐が出るほど公安そのもののような男だ。
「いや、分かりやすくて結構ですなぁ。おおいに『納得』しました」
なら乗ればいい。
2年前にもこの手の取引は多くあった。いまさら潔癖を気取る気もない。
それに、斬る相手が悪党かそうでないかなどたいした違いではない。真っ二つにする藁の質など、気にしたところでしょうがない。
どうせ落第街に顔を出す風紀などとは、イヤでも戦闘になるのだ。
――そうでなくとも、今は疲れている。
あの女の相手のせいで、体力はすっからかんだ。少し休みたいぐらいだ。
■『室長補佐代理』 > 蕎麦をまた一口啜り、『好みの味わい』に満足したように、男は目を細める。
伽藍洞を思わせる真っ黒な瞳。
光すら返さないその瞳が、汁の水面越しに東郷を一瞥する。
「話の分かる『武人』で助かるよ……この島には『話も分からない悪党』が山ほどいるんでね」
意味深に呟いて、嗤う。
なんにでも、優先順位がある。
敵の敵は味方ではないが……敵の敵と今すぐに戦う必要は何処にもない。
それは歴史が証明する事実であり、『誰の話』でもない『人間として当たり前』の話だ。
「出来る事なら、アンタが『一介』の『武人』として『話が分かるまま』でいてくれることを、切に願うよ」
そう、『都合が良い』ことをわざとらしく口にする。
公安監獄からその男が逃げ出したことは事実だ。
それに対する公安の真意は誰にもわからない。
男にも、恐らく、東郷にも。
だが、そんなことは問題ではない。
今、『東郷が……達人が野放しで檻の外にいる』という事実と状況だけが、重要なのだ。
過ぎた過去に意味などない。
未だ訪れない未来にも意味などない。
状況があるのは結局のところ……『今』だけなのだ。
そして、その『今』をつくったに過ぎない嘗ての『今』を過去と呼ぶならば……其れは結局、それ以上にもそれ以下にもならない。
最後の一滴まで汁を啜ってから、男は……嗤った。
■東郷月新 > こちらも蕎麦を平らげ、蕎麦茶で一息。
何にせよ、話で分かる人間なら、それで解決したいところなのだろう。
見た所、2年前と違って公安も随分手が足りなそうだ。
風紀委員などあの狂犬以外あまり見かけも――
そこでふと東郷は気付く。
――手が『足りていなさ過ぎる』。
ここまでの事態になっているのに、介入がほぼ無い。
公安は内紛があったようだからともかく――
風紀と生徒会執行部。この両委員会にとって、学生街での支持率低下は響くだろう。
まして執行部長は『あの男』だ。手をこまねいて見ているとも思えない。
つまり、この状況は――
「――渡りに船だったかもしれませんなぁ」
嵐の前の静けさ。
一斉検挙の準備。
なら、それが終わるまでは身を隠した方が良い。
落第街で悪党を斬りながら潜伏というのは悪い選択肢ではない。
■『室長補佐代理』 > 「渡し賃が六文銭じゃなくて良かったな」
皮肉気にそう嘯いて、立ち上がり、明らかに多めの額をカウンターに置く。
『賢い店』にもそれなりの報酬ということだ。
「学生自治なんていやぁ聞こえはいいけどな。
それはつまり、都合の良いテストケースって名前の『箱庭』で生かされてるってことだ」
明後日の方向を向いたまま……遥か、遠くの島を睨むように、男は嘯く。
「この島は結局『箱庭』に過ぎない。お互い……弁えて生きたいところだな。
ま、それはそれ。これはこれだ。
ともかく、アンタの今後に期待する。それでは――良い仕事を」
意味深に呟いて、男は踵を返す。
箱庭の街。予定調和の島。テストケースという名前の意味。
ならば、其処に生きるということはつまり。
誰も、答えを得ることは……ないのかもしれない。
ご案内:「蕎麦処『麒麟』」から『室長補佐代理』さんが去りました。
■東郷月新 > 「――この島も、随分とつまらなくなりましたなぁ」
蕎麦茶を啜りつつ呟く。
『箱庭』を是としてそこで生きる者。
2年前の戦いの結果――最終的にはそれが勝ったという事か。
グランドマスターがいれば、状況は違ったのだろう。
だが、言っても詮無き事だ。
東郷たちは負けた。敗者には敗者なりの生き方がある。
「――さて」
会計を支払い、立ち上がる。
身を隠すといっても、こそこそするのは性に合わない。
まずは隠れ家の選定――そこからだ。
ご案内:「蕎麦処『麒麟』」から東郷月新さんが去りました。