2015/07/09 のログ
ご案内:「常世港・第三埠頭」に緋群ハバキさんが現れました。
■緋群ハバキ > 時刻は正午過ぎ。
試験期間も終わり、夏をエンジョイすべく計画と準備に奔走する学生達で、島全体が活気づいている。
だが、そんな雰囲気もこの常世港第三埠頭には無縁であった。
ここはいつも通り、太公望を決め込む暇人たちの聖域。
釣り人ルックに身を固めた少年もまた然り。
釣り竿を竿受けに預け、水平線の向こうをぼんやりと見つめる。
「平和だにゃー……」
缶コーヒーを片手につぶやき、気の抜けたため息を漏らした。
ご案内:「常世港・第三埠頭」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。
■緋群ハバキ > 不意に、くっ、と竿がしなる。慌てて視線を水面へ下ろせば、ウキが水中へと沈む所であった。
竿先を上げて手応えを確かめ、引き上げてみれば――
「あー……餌だけ食われた」
未だ顔を拝めぬ魚の手際に、肩を落とす。
寂しく揺れる針にミミズの尻を刺し、再び水面へと投下。
軽めの錘が、ぽちゃんと軽い水音を立てた。
■日恵野ビアトリクス > スケッチブックを抱えた人影が埠頭に現れる。
海開き当日だからか浜辺は鬼のような混みようだった。
あのあたりで遊ぶにしろ絵を描くにしろ少しは落ち着いてからのほうがいいだろう。
そう考えて沿岸を彷徨っていたら埠頭へとたどり着いた。
どこか適当なところを探してうろつく。
あまり釣果の上がっていなさそうな釣り人を脇目に、
その近くに腰を下ろしてスケッチブックを広げた。
■緋群ハバキ > 暫く竿受けに釣り竿を預けたまま、ぼんやりと視線を巡らせば。
新たにスケッチブックを広げた生徒の姿を見とめ、おや、と声を上げる。
制服のシャツにスカート。綺麗な金の髪と青い瞳、そして透き通るような白い肌は何処か西洋人形を思わせる美貌の――
中性的な、生徒。
「やー。美術部の人?」
この暑い中マフラーを潮風にたなびかせる少年は、片手を上げて親しげに声を掛けた。
■日恵野ビアトリクス > 視線がこちらを向いたことに気づくと、軽く会釈し
美術部の日恵野ビアトリクスであると名乗る。
「たまには目新しいモチーフでも探そうと思ってね……」
足をぶらつかせて、首を回してあたり三百六十度に視線を向ける。
釣り人。広がる海と水平線。埠頭クレーン。貨物船……いろいろなものが見える。
「きみはマフラーをなびかせる練習?」
■緋群ハバキ > 緋群ハバキと名乗った少年は、どういうことか名乗りと共に16歳彼女ナシをアピールした。
ツカミのつもりか、はたまた目の前の生徒の性別を勘違いしてのものか。
殊更に明るい雰囲気は、ビアトリクスにとっては苦手なものであるかも知れない。
「いや、正義マフラー習熟は既にかなりの境地に達したからねぇ……
今はフツーに釣り。ぼんやりしてる」
視線を巡らせる彼へとそう応え、己もまた埠頭を見渡す。
時折通る船が立てる汽笛が遠く、波音と海鳥の声に混じって独特の音楽を奏でていた。
「面白そうなモチーフ、ある?」
■日恵野ビアトリクス > 「今、なんでそのアピールをした……?」
眉をひそめた。
「……あ、ぼくも彼女はいません」
いつもどおりの、不機嫌にみえる無愛想な表情を向けている。
「それ習熟するとなんかボーナスでもつくの?
かっこいい以外に。
……あんまりピンとくるものはないな。
描いてみれば面白くなるかもしれないけど」
油性の色鉛筆を取り出し、青紫を取って指先でクルクルと回し……
ページの上半分をさかさかと塗り始めた。
■緋群ハバキ > 「えっいえ他意は無ひです……はひ……」
びくぅ、という擬態語がよく似合う程の狼狽え方で、不機嫌そうな視線にキョロキョロと視線を彷徨わせる。
長身の癖にその動きはいちいち大仰で、ビビりの大型犬を連想させるかもしれない。
「かっこいいボーナスがつけば十分じゃないかな。俺は十分だと思う。
……ふーん。絵のことはよく分かんねーけど。ビビっと来るものがありゃいいよね」
竿受けに預けていた釣り竿を手に取り、手慰みにちょいちょいと揺らしつつ。
人懐こい笑顔で、そう相槌を打つ。
……そのまま、数分。
途切れた会話に、ハバキはあからさまにそわそわし始めた。
何というか、沈黙が苦手なのだ。
ご案内:「常世港・第三埠頭」にフクちゃんさんが現れました。
■フクちゃん > 「ここはあったかなうみーだよー」
きこきこと、錆び付いたペダルの音が波音に混じって響く。
埠頭に現れたのはメイドの格好をした眼帯の幼女であった。あまつさえ狐色の耳まで生やしている。
「ニンジャだ。ニンジャがいる」
■日恵野ビアトリクス > 「あ、本当に伊達なだけ……」
この暑いのによくやる。
風の流れを読むみたいな答えを少し期待していた。
色鉛筆を動かす。
ページが色で上下に二分割される。空、そして海。
無難なモチーフの選択肢だった。
まばらな雲。漁船と思しき影がぽつりと洋上に浮かんでいる。
顔を上げる。
「……」
絵に集中して気がついていなかったが、
明らかに落ち着きのないハバキの姿。
「……おすわり!」
ついそう言ってしまった。
そうこうしているうちに新たな人物が現れた。人物?
(なるほどニンジャか……)
何かを想起させられる長い布だと思ったが。
彼がニンジャなら自分はなんだろうな。
■フクちゃん > 「あと……がか?がいる」
不意の来訪者に、釣人たちが応対に困っていると、補助輪付きの自転車を降りてコンクリートの埠頭に腰掛けた。
背中側を海に向け、尻尾を──当たり前のように生えている──波間に垂らす。
■緋群ハバキ > ビアトリクスが絵に没頭すればするほど、その落ち着きの無さは増加していく。
最早挙動不審、という段階に達した頃、掛けられた声に身体は鋭敏に反応した。
「はひっ!!」
素晴らしい反射神経と反応速度でその場に座り、ビアトリクスを見つめる。
その姿、まさに犬。
だがその静止は、狐耳の幼女の言葉に打ち破られた。
「ってニンジャ!? 何処に!!?
俺の目には何も見えませんけど!!!?!?!?」
闖入者の発言にわざとらしく首をキョロキョロさせ、釣り竿を上げたり下げたり。
明らかな狼狽具合である。
■フクちゃん > 「ニンジャ……いや、いぬ……か。いぬか……」
元々無表情というか無愛想な表情を浮かべていた幼女だったが、その眼差しが少し曇る。
■日恵野ビアトリクス > 「画家……」
まあそうかも。
「卵だけどね。画家の卵」
軽いお喋り程度で集中を乱されるようなことはないが、
こうも落ち着きが無いとさすがに支障が出るのだ。
「いやきみだろ……ユーアーニンジャ」
あいてる手でハバキを指さす。本当にそうなのかまではわからないが。
なぜこんなに狼狽しているんだと呆れた表情に。
「まあニンジャって権力のイヌでもあるからな……」
そして新たに現れたのは狐。そして釣り人属性。
今更ニンジャや獣要素を持つ人間(?)に驚きなどはしないが、
尻尾を垂らしてなにか釣れるのか、という興味が少しわいて
新たな釣りスタイルをしばらく注視してみる。
■緋群ハバキ > 「違いますー! ニンジャがこんな忍んでない訳ないじゃん!!
権力のイヌ……かどうかは所属委員会的に微妙に否定しづらい所はあるけど!!」
脂汗と冷や汗をだらだら流しながら忙しない手振りで自分がニンジャでないと主張する少年。
此処まで必死になる必要が何処にあるというのか。
「狐はイヌを嫌う……!?
……しっぽで釣れるの……?」
ともあれ。
自身も釣り竿に意識を戻し、狐少女に問いかけを投げた。
■フクちゃん > 「つればつれる。つらねばつれぬ。なにごとも」
などとよくわからない文言を述べつつ。
感情を読み取りにくい隻眼が、他称ニンジャと自称画家の卵を見比べる。
しばらくそのまま、特に変化もなく釣糸(?)を垂らしていたメイドだったが──。
「あっ」
その小さな体が何かに引っ張られて、海面に落ちた。
■日恵野ビアトリクス > 「とりあえず公安か風紀の人だっていうのはわかった」
ニンジャかどうかは定かではないが。
ここまで挙動不審なニンジャというのも妙な話だし
彼の言うとおりニンジャではないのかもしれない。
「……別にニンジャだろうがそうでなかろうがどっちでもいいじゃん。
通信簿に落ち着きのない子だって書かれなかった?
大丈夫? 社会の荒波に漕ぎ出して行ける?」
ひたすら冷ややかな視線を向けて。
完全に色鉛筆を握る手は止まっていた。
「……あっ」
わー見事に落ちたなあ。
これは釣ったのか、果たして釣られたのかどっちだろうな、
なんて呑気に考えながら狐幼女が落ちた海面を覗きこんだ。
■フクちゃん > 波間に蠢くのはタコのような頭部を持ち、タコのような無数の触手をうねらせるタコのような緑色の怪生物であった。
小さな獲物をその触腕に抱え、海を行くその姿は、おおむね巨大なタコであった。
「たーしけてー」
■緋群ハバキ > 「あっはい。公安委員会の事務方です。
怪しいやつを見かけたら俺じゃなくて最寄りの相談窓口まで」
現在進行形で自分自身が怪しいという自覚があるのか疑わしい台詞を吐きながら、ビアトリクスの冷たい姿勢に視線を逸らす。
「そ、そうなんですけどぉー。
今かなり社会の荒波怖くなってる……ビアトリクスみたいな人ばかりだとしたら社会こわいな……ビアトリクスこわ」
言葉の途中で響く水音。
落ちる狐耳の少女。
「おいあれ大丈夫なの……?」
そして現る巨大ダコ。
海神の眷属であろうか。
「大丈夫じゃなさそうだよね……?」
■日恵野ビアトリクス > 顔をしかめる。
「ぼくなんかむしろ優しいほうじゃないかな……
というか事務方なんだ。なんか意外だな」
こういう世間的には親しみの持てそうな人材が
相談窓口のほうには向いていると思うけれど。
「おお、随分と奇抜な色のタコだな……」
社会の荒波などではなくリアルなタコが押し寄せてきた。
怪異のたぐいだろうか。
他の釣り人は大丈夫なのかこんなところで釣りしていて。
この手の怪生物を間近で見られる機会はそんなにない。
思わず白紙の頁をめくってしまった。
「いやー……多分大丈夫じゃないと思いますよ公安さん」
急に緊急事態が降ってくるとどうも薄ぼんやりとしたことしか言えないらしい。
チラッチラッ。かっこいい忍術見せてくれないかな。
■フクちゃん > その巨体と海原に巻き込まれるようにして、メイドの姿は波間に消えた。
後に残されたのは埠頭に打ち寄せる大きな波、しかしそれも一度二度打ち寄せて泡となって消えていく。
メイドが海に落ちて二十秒程度、あっという間に辺りには静寂が戻った──。
「しぬかとおもった」
釣り場にもメイドの姿が戻った。
■緋群ハバキ > 「まぁ、下っ端だし。下っ端故にこういう事態にはどうしたものかと――」
懐に潜ませた苦無の柄を掴み、事態の推移を見守る。
実際救い出すべく努力した方が良いのだろうか、という一瞬の逡巡の後、怪蛸と狐耳の幼女の姿は海中へと没し――
「……あぁ、俺が躊躇っている間に幼女が!
眼帯狐メイド幼女……うわ列挙すると中々属性盛りまくりだな! が!!
海魔の餌食に!!!」
見れば分かる事を叫んだ後、見れば其処には今まさに特徴を叫んだ人物が。
「……えっ?」
世は全て事もなし。
そんな言葉で片付けるには、不条理に過ぎる光景であった。
■日恵野ビアトリクス > 「うわっ早過ぎる」
タコ、と謎の幼女はあっさりと海中へ消えた。
クロッキーしているヒマもなかった。
と思ったらいつのまにかいた。
「よかった生きてた」
人並みの情は持っているビアトリクスの月並みなコメントであった。
……これでよかったのだろうか?
この手の復活の仕方、前にも見たことがある。確かウェインライトと名乗っていたか。
不条理のアーツを宿す存在、結構いるらしい。
「……もう一回海に落としたらどうなるんだろ」
悪魔的な発想が口から漏れた。
■フクちゃん > 「よのなかりふじんなことばっかりだな、いぬニンジャよ」
訳知り顔でうんうん頷いて、メイドは釣りを諦めたのか──それ以前の問題という気もするが──、乗ってきた自転車にまたがる。
「もういっかいやってもおなじことだ、がかよ。アイルビーバック」
■緋群ハバキ > 「い、いつの間に……」
驚愕するハバキを置いて頷く幼女。
そして若干邪な呟きを発する画家志望の少年。
今やこの常世港第三埠頭は釣り人の安息の地から予断許さぬ不条理が支配する地へと変貌を遂げたのだと、遅ばせながらに理解した。
「っていうか俺はニンジャじゃないんだって!!」
■フクちゃん > 「じゃあ、ただの、いぬか……」
そう呟いて、思い出したように懐をまさぐると、チラシを取り出してハバキのポケットにねじ込んだ。ビアトリクスにも同じように。
「これもなにかのえん。ファミレスであったらサービスしよう。ではな」
ヘルメットをかぶって、またきこきことペダルを漕ぎ出す。休憩は終わったらしい。
■日恵野ビアトリクス > 「そうか……」
納得行かない顔でチラシを受け取る。
ファミレス勤めらしい。じゃあメイドではなくウェイトレスなのでは?
理不尽の象徴に理不尽と言われることほど理不尽なこともない。
それにしても補助輪がよく似合う。
三輪車のほうがもっと似合うかもしれない。
「なんでそんなにニンジャを頑なに否定するの……
どこかのすごい高いビルで家族でもニンジャに殺されたの?」
呆れながら座り込んで今度は油性マーカーを取り出し、
新しい頁にキュッキュッと何も見ずに描き込んでいく。
緑色の怪タコに幼女が襲われる様子が鮮やかな色使いで描かれようとしていた。
ご案内:「常世港・第三埠頭」からフクちゃんさんが去りました。
■緋群ハバキ > 「これはどうもご丁寧に……」
チラシを受け取り、きこきことペダルを漕いでその場を颯爽と後にする幼女をぼんやりと見送る。
なんだかその後姿は異様に様になっていて、妙に悔しい。
補助輪つきなのに。
「いいいいいいやそんなハードな過去は無いんだけど!!!!???
頑なじゃないと思うんだけどなー! 違うから違うって言ってるだけなんですぅー!!!」
子供めいた口調で苦しい否定を塗り重ねつつ、スケッチブックに向かうビアトリクスを覗き込む。
瞬く間に描き込まれていく、先程の怪異な風景。
ハバキからすれば驚嘆すべき記憶力と再現力である。
……題材はともかくとして。
「……ビビっと来た?」
■日恵野ビアトリクス > (こいついちいちうるさいな……)
「もう認めて楽になっちゃいなよ兄さん」
老刑事が諭すような口調。
否定すれば否定するほどドツボにハマっているぞこいつ。
正体はどうでもいいが必死に隠そうとする理由はやはり気になる。
「うーんどうだろう。
珍しいモチーフだし描いてみたら面白いかと思ったんだけど」
首を横に振って、マーカーをしまう。
記憶が揮発しないうちにと大急ぎで描かれたためかなりラフだが
先ほどの悪夢めいた光景のニュアンスはバッチリ掴んでいた。
「……ひどい絵だな」
どこに出しても恥ずかしくない360度ひどい絵だった。
■緋群ハバキ > 「違うんです、刑事さんこれは……これは何かの間違いなんです……」
がっくりと項垂れる少年。
最早見抜かれているのか? 始末すべきか?
などと脳裏を駆け巡る物騒な思考をなだめすかしつつ、完成した絵を見て。
「俺、絵はよく分かんねーけど……よく描けてるよね。
……ひどい絵だけど」
賛辞を述べつつも、ひどい絵であることは否定のしようが無い。
かくも人類は不条理に対し無力なものか。
「……帰ろうか」
正午過ぎの穏やかな日差し。海鳥の鳴き声。寄せては返す波の音。
全てが今しがたの突風のような展開とそぐわなくて、やけに虚しい。
疲れた声でそう言うと、少年は釣り竿を仕舞い始めるのだった。