2015/07/25 のログ
ご案内:「図書委員会棟 ロビー」にヘルベチカさんが現れました。
ヘルベチカ > 空調の利いたロビー。
入口の自動ドア正面、ベンチ腰かけて。
小さな手帳に、かりかり、と何かを書きこんでいる。
時折手を止めれば、考え込むように眉間に皺。
薄いガラス一枚挟んだ外の気温と比べれば、随分と過ごしやすい環境。
自動ドアが開き、一人女生徒が入ってきた。
入り口脇にあった案内板を、緩く上げた手で、上から順に指さして。
授業使用受付、の文字で止まった指先。
一度頷いてから、案内板を離れた。
その姿を横目で見ていた少年。
猫の耳が少し緊張を失って、視線を手帳に戻した。
暫く迷っていれば、案内する予定だったのだろう。

ヘルベチカ > 再び作業を始めたところで。

『やっほー猫ちゃん、ここにいたんだ!』

後ろから聞こえ始め、最終的に顔の左横から聞こえた声。
そして背中に感じる重み。
ぐ、と少年は喉を鳴らしてから、溜息1つ吐いて。

「重いんでどいてくれませんか、犬井先輩」
『わんこで良いって言ったじゃん、もう。猫ちゃん冷たくなーい?』

えー、と苦情の声を上げながら、声の主は大人しく離れた。
少年が振り返れば、立っていたのは、カーディガン付きの夏制服姿の少女。
両手を腰に当てて、口を尖らせた表情をしていたが、
少年と眼が合えば、やほ、と笑って右手を振った。
肩口で切った茶の髪が、ふわりと揺れる。

ヘルベチカ > 「で、なんです?」
『うん、昨日のお礼しようと思って。
 いやー、助かったよぉ。私だけじゃ火力不足でさ。追う分にはいいんだけどねぇ』

両腕を汲んで、むむ、と唸るように斜め下へ俯いた少女。
それを見た少年、ゆるゆると首を振って。

「別に、報酬はもらってるんで。いいですよ」
『えー。それと感謝の気持ちとは別じゃない?
 その報酬、別に私の懐は痛んでないしさぁ』

伸ばされた犬井の手、少年の頭、猫耳と猫耳の間、
てしてし、と緩く叩いて。
嫌そうな顔の猫乃神。猫耳が、へにゃり、と寝た。

ヘルベチカ > 「やめてもらえません?背が伸びなくなるんですけど」
『いいじゃんいいじゃん。そのくらいの方が可愛いって』
「これから俺三十路にもなる予定なんで……」
『なるの?』


ぴりっ、と。ロビーの空気が震える。


「なりますよ」
『そっか。じゃあやめとくよ』

少女は、にこっ、と笑って。
猫耳が、ぴん、と立った少年の頭から、手を離した。

ヘルベチカ > 解放された頭の中央、少年は大事そうに撫でて。

「で、本当は何なんです?」
『本当にお礼だってば。そーちゃんとよっちゃんとアイス食べに行くからさ。
 一緒に行こうよ。奢ったげる』

心外だ、というように、肩を落とした少女に対し、
少年は少し悩んだ様子の後。

「わかりました。じゃあ、行きます」
『じゃあ行きます、じゃないでしょ?ありがとうございます、は?』
「ありがとうございます……あれ。お礼なのにおかしくない?」
『気にしない気にしなーい』

笑う少女の声を受けて、少年はポケットの中へ手帳を仕舞いこんで。
立ち上がれば、二人その場を後にした。

ご案内:「図書委員会棟 ロビー」からヘルベチカさんが去りました。