2016/08/09 のログ
ご案内:「国立常世新美術館」に糸車 歩さんが現れました。
■糸車 歩 > 国立常世新美術館。
行くのは、はじめてではない。
工芸、というか芸術にわずかでも関わっているものであるならば、幾度となく足を運ぶのに相応しき場所であり。
超絶インドア派で学内に顔見知りが少ない歩であっても、例外ではなく。
海を見下ろした産業区の一画。その美術館は、遠目からでもわかりやすい目だった外見をしていた。
軒下まで来ると、差していた日傘を丁寧にたたみ、傘立てに預ける。
左腕に手提げ袋をもち、いつもならば美術図書館に向かうその足で、
まっすぐに係員の立っているところへ向かった。
「すみません、『視差』の展示はどちらにいけば──」
■糸車 歩 > 係員から指さすように教えられ、つられてそちらを振り向く。
こく、こくりと頷いて、展示室Cの場所を把握すると、微笑を浮かべて係員にありがとうと礼を言う。
とくに迷うこともなく、すんなりと展示室入口に着いた。
「んー、何人か、知っている方も来ているようですね」
細い指で芳名帳のページをめくり、さらさらと流れるような字で名前を書き込む。
ペンを静かに置き、ふと、脇に置かれたものに目が移る。
「『糸車 歩』……と。
あら、この花は。いいえ、これは……」
受付の机の上に飾られていたもの。それは色とりどりの花であった。
しかし、まるで今し方採ってきたばかりのような瑞々しさが、そのままに停滞している。
単なる生花の技術だけではない、何か、現状を維持するための術式が掛けられているようであった。
歩の魔術素養では、それ以上の推測は難しいことであったが。
ついで、作品を一覧表にした薄い冊子を1冊、手に取って。
館内を見回すと、最初に目に入るのは展示室中央、落ちてゆく花のオブジェ。
しかしてその前には、早くも人だかりができていた。
これでは落ち着いて鑑賞することもままならない。
小さくため息をついてリストを見る。
今、次に見たいものは……
■糸車 歩 > 大型のオブジェがいくつも並んでいる一角。
鑑賞物が大きく、また複数であることもあり、それらは比較的眺めやすい場所にあった。
重厚感あふれる、水牛の全身像。
男性や女性の立像や、座像。
しかしそのうちの数体は、正面から見るにはやや不自然な格好だ。
良く注意して見ると、それもそのはず、体の各パーツが一方向に向けて結集しているような歪さを感じられる。
思うに、これは人間の視点で作られたものではない。
誇張されたディティールの人物像の脇に立ち、しゃがんでそれらを眺めてみる。
角度としてはもう少し低く、──四足歩行の獣の視点に近いように感じられた。
「なーるほどー。
こうしてみると、また違った印象を受けますわね」
わざわざこのような像を作った意図は分からない。しかし、人間からの視点。獣からの視点。
昔々、ある時期に、「魚眼レンズ」なるものが流行っていたと記憶している。
それともまた違ったものであろうが、種族による見ている世界の違いというものは、歩としても、興味のそそられるものであった。
(色彩感覚も、当然ながら、種族・民族によって違いますしね。私も、モノをつくるときは留意しなければ)
ご案内:「国立常世新美術館」に滝川 浩一さんが現れました。
■滝川 浩一 > 「おぉ~…」
小声でそう感銘の声を出す。
田舎では見られなかった光景、驚きの連続だが、まだ驚きの限度は来ない。
大型オブジェを興味深そうに見渡し、目をキラキラと輝かせながら、田舎出身のこの男はこう思った。
(都会に来てよかった~~~!!)
田舎の人に失礼である。