2016/10/30 のログ
ご案内:「喫茶店」に五代 基一郎さんが現れました。
五代 基一郎 > いつからだろうか。

この時間の停滞したような世界にいるのは。
ある種の別次元……この黒い女との共通の認識で言えば五次元世界だろう。

そこで話をただ聞いていた。

この女とはずいぶん長く話している気がする。
この島に来てから……この島に来る前から、互いの超能力のような力で繫がってはいたが
お互いがどう考えているか、どう感じているか何を伝えたいかというのは
そういった感応能力”テレパス”ではなく、やはりこうして言葉を交わすことで理解しあえるかもしれない……
と思うのではないだろうかと感じるものはある。
それが人間のコミュニケーション能力なのだろうか。

島に来る前から、戦っていた相手。
所謂異能者や……大変容以前からもある世界に弾かれた者たちのために
漠然とある普通の、常ある世界と相反してそれらと戦っている女。
反対に自分はいつか帰るべき場所のために、いやそこで生まれたからと
そこがあるからそれらと戦っていた。
いつかこんな時代が終わって、いやまだ燻る争いはあるがそれでも
何がしか穏やかな時間が訪れるときのために、訪れさせるために
世界に反旗を翻す者たちと、その時々の理由があり戦ってきた。

そして、自分の主たるまさしく反対側にいる……体制側ではないところの女と
この島で戦い、破れ、能力も記憶も奪われて己の体すらその精神に侵されつつもここまで来ていたわけであったが

今も尚の……この女と同様に時間というものが考慮するものではない存在であったときよりずっと
人の、日々生きていく時間と同じ流れの中に身を置いていたことがいくつか影響したのか
今はただ、女とのゆっくりとした話と時間の中にいる。

自分がただの人間であり、限りある時間の中で生きていて……
そして、また自分の隣にいる人間と後というものが出来ると考えることも変わってくる。
変化だ。時の流れない存在ではありえない、重さのまた違う
変化があった。

五代 基一郎 > 世界もまた変化を続けている。
正確には、この時間が流れている世界には。

人間生まれてから、また死ぬまでという一方通行的な時間が流れている。
おかしな話だが、24時間という周回輪廻を規定している世界ではあるが
それでもより大きな単位の時間は進行して変化しているといえよう。

時間は、時計の針は進んでいる。
学生が入学し卒業することもまた時間が進むというものだ。
この島に来てからもうすぐ四年が経とうとしている。
最初の半分はほぼすぐ去っていくことすらも考えていなかったが
今となっては残りの半分がいように早かった気がする。

■黒い女>「比較するべき対象が存在するから、ではないかしら。
      ただ一人ではなく……とくに最近だとより時間の経過が早く感じられたのではなくて」

実際にそうだ。
誰かと何かをしていれば、誰かと何かを取り決めることもあり
その中にいることで自分が定まっていくということは当然ある。
自分ひとりで生きていく時に時間など考えはしないが
誰かといればまた違う。
彼女の卒業まであと2~3ヶ月だし
自分の子供という存在が生まれるのもあと半年少しだろうか。
自分は今、生きた時間の中にいるのだと。

人間が子供を作るということは、人間の時間が限られているからだ。
しかもそれがいつかはわからない。わからないから自分の生きた証……
であったり、自分が生きている中で得たものを後の時代や世代に残そうとする。

だから、そう。
自分が些かどうかと思われるような年齢の相手であっても
自分の子供を産んでほしいと思ったのは自分の時間が限られていることが
自分二時間というものが生まれたのだろうか、とも思う。
ただ性欲と愛情や恋愛が区別できていないものからかもしれないが
言うほど短慮にできることでもないな、と今更ながらに自分で思うのは浅はかだろうか。

■黒い女>「彼女にもしたわ。この後の世界。異能者や異邦人。
      異とされた者たちがどうような時代を生きるのか。
      どのように生きてほしいのか。
      あなたはどう?あなたはどう生きて、どう生きてほしいの」


最初にこの島でこの女と出会ったときに問われた問い。

この世界でどう生きて、誰かにどう生きてほしいのか。
この言葉は自分にも思っていた以上に入り込んでいたのか。
何人かに言葉なく、問いかけては答えを受けていたと思う。

自分は答えられなかったし、その言葉を聞くつもりもなかった。

ただ今なら、その答えを考える気にはなっていたし
考えてはいたし答えは自分なりに出していた。

そして、これはこの女からの誘いでもあった。
この女はよくわかっている。この女はその存在が確定され
方々で生まれた時より排斥される側だ。
有史以前では夜の世界に落とされた存在だ。
死ねば、またその排斥され異とされた者たちに移っては時代を超えていく。
断片的であるのか全てを抱えているのかは知らないが、この女はそうした
存在の代弁者といっても過言ではないのか。

人間、いや存在というものはいざ自分がその立場に立たされないと
それらを実感できないものであろう。

この島は異能者にとって住み心地がいい場所だろう。
だからこそ目をつぶって、ただ恩恵を受けられるならと過ごしていく。
一枚めくればただ異能者や異邦人の実験場でしかないというのに。
そしてそれらが作られる世界というものが、自分達をどう見ているのか。
この世界で自分達がどういう立場にいるのかとは……考えないだろう。
考えて、何かがというものでもあるまいだろうから
何がしかの特別な力がある者というものを抱えて生きていく。
それかただの人間である、という根拠のないまた何かも抱えてただ時間を過ごしていく。
気づけぬまま、気づかぬままに。
気づいてもまた、目を逸らして生きていくように。

自分は、そうはできなかったというよりできないようになっていたという方が正しい。
このまま……放っておいていいのだろうかと。
力があるから、変えなくてはというような傲慢さではないと思っているが
それでも何がしかしたくなるというのは笑ってしまう話ではあるが人の心というものではないだろうか。

自分だけではない。
自分の愛する者や、これから世界に出てくる人間のために出来ることは……と
いざ、その場所に立たせられれば
いや、誰もが答えを出さなければならない命題ではないのだろうか
本当は自分の世界と密接だというのに遠く感じているからこそ見過ごしているような……
その問いに、自分は。

五代 基一郎 > だから、手をとった。

今までのように体制の中で体制側という”誰かが決めた正義”の中で戦うのではなく

体制に従わない悪とされ、己が決めた正しいことを成し
後の者たちのためにと立ち上がった女の手をとった。

確かに今まで戦うことは自分で決めてきた。
だが自分で決めたルールの中で、それに反するものと戦ってきたかといえば別だった。
誰が決めた法の中、というのはまぁいい。
だが今の世界で新しく変化し続けている……いまだに形を定めない世界で
そのままに従うことは、良しといえるものではないものは感じてはいたことだ。

だから、というわけでもないが
自分が思うようにとなれば……この世界はどうなのかとも確かに見えてくる。
このまま流れて、埋没して消えていくよりも……
後の時代を、世代というものを考えればそう思わなければならないのだろう。
学生世界の先輩が後輩を案ずるように……


■黒い女>「心強いわ。そうとしか言えないことを許して」

差し出された温度もあるのか、ないのかわからないような手を握るという行為で
その手を取るという協力の意を伝えて。

かつて正義の中にあり、その中で生きる人々を守るために
法の執行者としていた人間は今まさしくそれに反旗を翻す立場に転がった。
若干熱を帯び始めているそれを手に感じながら。

■黒い女>「共に異能者、異邦人……いえ、この世界の次の時代のために
      私達と、彼らのために戦いましょう。」


時計の針が動き出すように、静かであった……
音もなかったような喫茶店の中に柱時計の音が、強く
時を刻み始めていた……

五代 基一郎 > 「無理だな」

小さな、声が上がることもなく。
その手から炎が上がった。

黒を、また黒く。灰という城ではなく黒のまま焼いていく炎が
女を包んでいく。

「嫌いなものは嫌いなままさ。そのためにどうこうするというのは、嫌だな」

どうして、という聞こえない声が聞こえる。
時間の止まった部屋ですら焼いていくような炎が回り、その空間を焼いて切り裂いていく。
切り裂くのは、2つの炎の腕

「どうして。それこそ俺が問いたい。
 お前はどう何を見たらこの世界の人間、異能者、異邦人に対して希望を抱ける?
 教えてくれ。あいつらの何を見たらそう思える?」

見えきった、何を問うのだろうかという言葉に感情はなかった。
相手を愚弄することではなくただただなぜそのような答えが出たかという疑問。

「普通とされる人間も然り。有史以来からの話。
 別段滅べとも言わない。異能者はこの島でのことを見ていればよくわかる話ではないか。
 異能者とて人間、と君らが言うのであれば所詮人間でしかないし、人間は如何なるものかお前もよく知っているだろう。
 異邦人もまた然りで大して変わることもない。
 そう、異能の程度など些細なことだ。」

既に語りかけるものない……喫茶店などない、ただの荒野に立つ。
相手が聞いている、というよりそれこそ今の感応能力で聞こえてはいるのだろうが。

「そうだよ”ヨミ”
 俺はずっと変わってなどいない、ただ一つ。
 人間が嫌いというそのただ一つは力を取り上げられてから今まで変わらなかった。
 むしろより憎むべき存在だということをハッキリさせるに十分だった。」

若干燃えカスの残る衣服を叩く姿は成人した大人ではなく
この島に来た当事の姿。
12歳程度の、少年の姿。

「正す必要なんてない。
 壊す必要なんてない。
 改める必要なんてない。
 人は人で勝手に火をつけ合い、それが滅ぶことであっても戦い続ける。
 たとえ知っていても争い続ける。それが人間というのは承知だろう。
 この先も滅ぶまで続くよ、こんな世界は。」

先ほどの答えにまだ答えていなかったなと
幻の……蜃気楼の中にあった、今やその姿をハッキリと映す塔を前につぶやく。

「私が見たいのは、この世界が燃えていく様さ。
 人が出来うる限りの愚かな争いで滅びていく様を見たい。
 二度と、人という種が繁栄しない程に。」

塔の中に、ゆっくりと歩いていく。
五次元世界の荒地に足跡をつけることもなく、ただ悠然と
家に帰る主のように……

ご案内:「喫茶店」から五代 基一郎さんが去りました。