2016/12/13 のログ
美澄 蘭 > 進路指導室で、時計の針の音が重々しく時間の進行を告げる。
机を挟んで座っているのは、蘭と…品の良さそうな中年の女性。
思い詰めたような表情をしている蘭に、複雑そうな表情の女性。
あまり、前向きな話の内容ではなさそうだ。

美澄 蘭 > 『…夢のためでも、この島を離れたくはない?』
「………。」

女性の問いに、蘭が唇を噛み締めた。
しばしそうしていた後、ぽつぽつと語りだす蘭。

「…この学園で、クラスの縛りとか気にしないで済んで…
「違う」ことも、楽しみながら勉強してきて…

………今更、本土の高校で…上手くやれると、思えないですから」

「普通の」「日本人」にはない瞳を持つ少女。
好奇心旺盛で、年齢の割には勉強の出来る少女。
異邦の魔術師の血を引く魔術師の卵。内気がちながらも、我の強さを秘めた少女。

高校ならば中学校ほどの「事態」にはならないだろうが、蘭が強い疎外感を覚えるのは間違いないだろう。

美澄 蘭 > 『…それだけじゃないよね。
美澄さん、音楽以外の成績も悪くない…というか、優秀だものね。

…音楽のために…ピアノのためにでも、捨てたくないものが多すぎるんじゃないかな?』

「………」

図星だった。唇を口の中に強く巻き込んで、黙り込む蘭。

『私は、それが悪いことだとは思ってないからね。
音楽の…特にピアノ専攻なんて、狭き門にもほどがある上に、将来の幅は狭くなっちゃうし。
私はこうして、ここに場所を得られたけど…正直、美澄さんくらい勉強も出来て、魔術の素質もある子が、それを全部投げ打って賭けに出るの、もったいないっていう気持ちも、なくはないから』

そう語りかける女性の…ピアノ実技の担当教師の声は、限りなく穏やかで優しい。
しかし、それは、彼女の1つの希望を…ピアノ「だけ」で身を立てることを目指す道を選ぶことを諦める方に誘導するものだ。

美澄 蘭 > 『さっきも言ったけど、ピアノ専攻じゃなければ、音大の目指し方だけなら色々あるからね。
音楽教育とか、作曲とか…もし美澄さんに頑張る気があるなら、声楽なんか、身体が出来上がってからがレッスンの本番だし。
音楽教育とか作曲なら…この島での生活が、武器にもなりうると思うし』

『何事も考えようだからね』と、表情を和らげる女性。
でも、蘭の表情は晴れなかった。

「…そうですね…もうちょっと、考えてみます」

絞るような声でそう答える蘭。

『そうだね…とりあえず、今年度の間はじっくり考えるといいよ』

教師は、穏やかに頷いてから、

『それじゃあ、今日のところはこれくらいにしておこうね』

と、蘭に退室を促した。

美澄 蘭 > 「はい…今日は、ありがとうございました」

立ち上がって、相談に乗ってくれた教師に頭を下げると、進路指導室を出て行く。
出口で早々に教師と別れた蘭は、逃げるようにまっすぐ自宅へ向かったのだった。

自分が頷けなかった「選択」について、考えるために。

ご案内:「進学進路指導室」から美澄 蘭さんが去りました。