2017/08/24 のログ
クローデット > クローデットが氷の入ったアイスティーのグラスを2つ、トレイに乗せてリビングに戻ってくるまで、さほど時間はかからなかった。

「お待たせいたしました」

グラスをそれぞれ青年と、その向かい側の1人がけソファの前に置いて、青年と向かい合うように腰掛けた。
青年が、話を聞く態勢を整えるのを待って…

「…以前、違うけれども似たような問題のために、打ち合わせを試みたことを…その時にわたしが話したことを、覚えておいでですか?」

そう、たおやかな微笑を保ったまま切り出す。

ヴィルヘルム > 青年は,最初から聞く姿勢を保っていた。
今日何をするのか,貴女が事前に伝えていたからこそ,心の準備はしてきたのだろう。

「……あの時は,色々な事を話したし…。
 最後は,まるで喧嘩別れみたいになってたから…。」

貴女が言っていることがどの部分なのか,さっと思い至るには,まだ整理をし切れていないようだった。
そう言えば…あの時はまだ,表に出たいなどとは,僅かほども思っていなかったのだ。

クローデット > 「…そう…わたしが、ヴィルヘルムを「ヴィルヘルム」としてスムーズに表に認めさせるために、どうすべきかという提案をしようとしたときのことです」

そこまで言って、クローデットは一度アイスティーのグラスに口を付け、喉を湿らせた。

「…あのとき、わたしは
『「マリア」の身体が男であることには気付いていたけれど、「マリア」であることを心から望んでいると思っていたためそう扱ってきた』
という形で、あなたを「男」として「表」に出られるようにしようとしましたでしょう?

…喧嘩別れのようになった後も、わたしは、その基本は変えなかったんです」

そこまで言って、クローデットは青年の顔に控えめな視線を投げる。
彼の反応を、さりげなく確認するために。

ヴィルヘルム > ヴィルヘルムは,まだグラスに口を付けようとしなかった。
それは,それだけ話に集中しているからでもあり,

「……僕は,あの後落第街に籠ってしまっていたし…
 そこからどう話しが動いているのかは分からないけど,クローデットに責任を擦り付けるようなことはしたくないんだ。」

貴女の思惑を測りかねているからでもあった。言葉に,青年は小さく頷く。

「…だから,何だろう…そういう方向で上手く言い訳するのって,難しいかな?」

調子の良い事を言っていると自分でも思うから,表情はどこか後ろめたそうな,苦笑。

クローデット > 「………。」

吐息だけで零す、困ったような笑み。クローデットは再度アイスティーに手を付けた。
そうして、再度口を湿らせてから…

「いくらヴィルヘルムがわたしに好意を持っていて、許せるとしても…
わたしがかつて為したことは、ヴィルヘルムに屈辱を与える行為として認識されるでしょうし、そこに委員会の権限を利用したとなれば、到底許されるものではありません。

…そもそも、ヴィルヘルムに対してかつて抱いていた悪意には、異邦人や、異能者に対しての悪意、の割合が大きかったんです。それを知られては…わたしは、もう表にはいられないでしょう」

そこまで言ってから、クローデットは瑞々しい微笑を、ヴィルヘルムに向けた。

「…ですから、それらが露呈しない範囲では責任を負い、隠す必要がない範囲では事実を隠さず…出来るだけ、明確な偽りを減らす。
それが、わたしの流儀なんです。お互いに負担が少ないですし…その方が安全でしょう?」

偽りは、それを繕うために更なる偽りを呼び…それが、破綻に繋がる。
嘗ては、自分の保身のための手段だったが…今、守るべき対象は、自分だけではない。

学園に…財団に大きな隠し事をする提案ながら、クローデットの顔が邪気を伴って見えないのは、そのため、あるいはそのせいだろう。

ヴィルヘルム > クローデットが卒業を迎えるまで,自分が表に出なければ済む話ではないか。
青年の思考は一瞬,危険な方向へと加速しかけた。
しかし,貴女が続けた“流儀”を聞けば…青年は心の中で,一つ納得し,

「…その方が良いかも…僕は嘘を吐くのが,けっこう苦手だから。
 クローデットには多分,言わなくてもバレてると思うけど…。」

くすっと笑った。けれどその瞳は決して笑ってはいない。
青年にとって最大の課題は,いかにしてクローデットを表に居られる状態にするか。
その一点だけだった。

クローデット > 「でしょう?ですから、あまり明確な虚偽を証言するよう、お願いするのは逆効果だろうと思いまして」

青年の言葉に、こちらもくすりと笑みを零す。こちらは、目の中までしっかり笑っている。
笑みを零して見せてはいるけれど、青年の瞳はやたら真剣で。
「クローデットが責任を取る」という言葉に、過敏になっているのが窺われた。

「…それで、喧嘩別れのようになった後、わたしは次のように報告したんです。
『ヴィルヘルム・フォン・シュピリシルドは身体通りの性別で社会生活を送ることを望んで自分に個人的に相談しにきたが、
私的に異性と接する際にどうして良いか分からず、感情のコントロールが出来ずについ突き放してしまった』
…と」

そこまで言って笑みを零したクローデットは、再度アイスティーに口を付けた。

「…もちろん疑われましたけれど、完全な虚偽でもございませんでしたので、通りました。
…そして、「委員会所属者でありながら生徒を裏に放逐してしまった」ことへの処分は受けて、今、わたしはこうしております」

そこまで言って、クローデットは青年に優しく笑みかける。
「少なくともそこまでの経緯については、今のところどうにかなっている」と、青年を安心させるつもりで。

ヴィルヘルム > 貴女の言葉を聞いて,貴女が周囲の視線を気にしている理由にも納得がいった。

「…つまり,僕はクローデットに突き放されて落第街に飛び込んだことになってるんだ。
 そのままだと確かに,こうして会ってるのはまずい感じだね…。」

頭を掻いて…それからやっと,アイスティーを口にする。
考え事に熱を持った身体を冷やす,その冷たさが心地良い。

そのお陰かどうか分からないが,青年はふと,考え至る。

「……あれ,でもそれって,クローデットがパトロールか何かで僕を見つけて,改めて話したってことにすれば問題ないんじゃ…?」

怪物として過ごした日々に事件でも起こしていればそうも言えなかっただろうが,
少なくとも表沙汰になるような事件も起こしていない。
であれば,ここ2人の間だけで,話は落ち着くのではないかと。

クローデット > 「ええ…そういうことです。
…というか、実際にそういうことだと思っていたのですけれど」

「ことになってる」と他人事のような言い方をし…クローデットが人目を気にする理由に心当たりがなかったらしい青年に、「わたしの勘違いだったでしょうか?」と、少しだけ苦笑い。

「…わたし、パトロールから外されておりまして。
ですから、その路線で行くならば、
『処分を受けるのを承知で裏の街でヴィルヘルムを探し、謝罪した』
くらいの話が必要になりますわね。
…幸い、処分の一環でカウンセリングも受けておりますから、その流れで独断で行動した、と言い訳は出来るでしょうし…学園の体制にとってさほどマイナスの行動ではございませんから、大したことにはならないでしょう」

そこまで言って、アイスティーのグラスに口を付けて…離して、それから、困ったような笑みと、楽しげな表情が入り交じる顔を青年に向ける。

「疑うのが仕事のような委員会ですので…ヴィルヘルムがわたしに精神干渉を受けていないかなどの、疑念は向けられるかもしれません。
あとは…致命的な部分…ヴィルヘルムを弄んだとか、「あたくし達」が学園の敵だったとか、そういった部分が露呈してしまうと困るのと…。

………ああ、そうでした。報告の際に異能の存在を告げてしまいましたので、異能に関する検査だけは必須になるでしょうね」

「大きな問題はそのくらいで…あとは、経緯の細かい部分をどういうことにするか、でしょうか」と言って、クローデットはヴィルヘルムの瞳に視線を向けた。

ヴィルヘルム > 突き放されたと言えば突き放されたとも言えるのか。
実際には青年が強がって飛び出したという側面も無いではない。
貴女を恨んでいなかった青年は,貴女の苦笑に合わせて…少し恥ずかしそうに笑った。

「クローデットがそれで大丈夫なら,一番真実に近くて良いんじゃないかなって…
 …いろんなことがあったけれど,間違ったことは言ってないし。」

貴女の表情の理由までは分からなかったが,青年は小さく頷いてから,
どちらかと言えば前向きな,楽しげな笑みを浮かべて貴女を見た。

「精神干渉……そこは何だろう…好き勝手調べてもらうしかないよね。
 弄んだとかそういう風には思ってないし…学園の敵だったってことは絶対しゃべらないから。」

多分大丈夫!と笑顔を見せる。
貴女の為だというのならば,この青年の意志は固いだろう。

「あぁ,それは別に隠すつもりもないから大丈夫。
 ……あんまり役に立つ異能じゃないと思うし。」

小さく肩を竦めてから,もう一度アイスティーを身体を冷やす。
経緯の細かい部分。これは勿論考えなくてはならない部分だろうが…

「…考えたら全部覚えないといけないんだよね…。」

…頑張らないとなぁ,なんて,苦笑する青年。

クローデット > 「…まあ、ヴィルヘルムの気持ちの、本当に細かいところまで分かっているとは言えないでしょうし…
…心のお話は、致命的にならない範囲で、ご自身の思うところを語って頂いても良いかと思います」

基本的に、クローデットは心そのものは読まない。だから、青年の行動の真意は語られなければ分からなかった。
…そして、クローデットが過去に委員会の説明した経緯と実際の青年の心情にずれがあった程度ならば、致命傷にはならないだろうと考え…それを伝えて、アイスティーのグラスに口を付ける。

「…もっとも、あたくしが悪意を弄ぶ形で発現させたなどと、委員会も考えはしないでしょうし…そちらはあまり心配しなくても良さそうでしょうか。
………精神干渉がなければ、異能者にして異邦人であるヴィルヘルムが、どのようにわたしを語るか。それ自体が疑いを否定してくれるでしょうね」

「頼りにしておりますわ」なんて言って、くすくすと笑う。
…実際、「学園の敵」だったことが露呈したら、精神干渉抜きに、異能者にして異邦人である青年が、クローデットを好意的に語るなどあり得ないだろう。…普通は。

「捉えるのが難しい…というのは司法の行使者としては、少々やりづらいところではございますけれど。

…ああ、別に一言一句暗記せずとも良いのです。かえって不自然ですし。
趣旨を覚えた後は…ヴィルヘルムご自身の言葉で、語って下さい」

「趣旨だけならば、そこまでの量ではないはずです」と、柔らかい笑みのクローデット。
………勉強というか暗記というか、そういうものの適性の差が見え隠れしているかもしれない。

ヴィルヘルム > 「正直,恥ずかしいからやめとくよ。
 あの時だって,色々言ったけど結局僕は落第街で身を潜めてただけだからね…。」

苦笑だけを浮かべて,青年はそれ以上語らなかった。
実際のところ,致命傷になるような相違は存在しないし,言う必要もないだろう。

「……責任重大だなぁ。
 とにかく,僕はクローデットに助けられたし,クローデットが好きだってことを素直に言えばいいかな。」

この素直さと無邪気さは青年の最大の武器になり得るだろう。
少なくともそこに,後ろめたい思いは僅かほども介在していない。
青年が貴女の事を語る表情や,その言葉が多くの疑いを晴らすはずだ。

問題はどちらかと言えば,青年に全体の流れを覚えさせる部分だろう。
劣悪という訳ではないが,優秀とも言い難い青年の理解力が試される。

「…とりあえず,クローデットに突き放されて落第街に行って……」

まずは全体の流れから。
時間はかかるかもしれないが,青年は貴女のために,必死で覚えようとするはずだ。
適性の差はあれども,意欲や熱意は負けないつもりでいるから…。

クローデット > 「…特に大きなことはなさらなかった…少なくとも捕捉されなかったおかげで、大きな問題無く表に出られると思えば、気は楽ですけれど」

そう言ってくすくす笑うが…青年が委員会に向けて好意の告白をしてもいいくらいに考えていると知ると、思わず真顔になり。

「………わたしは、「突き放したことを謝罪した」だけです。
好意に関してはヴィルヘルムの主観でどうにか…ならなくもないかも知れませんけれど、「助けられた」は大げさですわ」

と、打ち合わせで作り上げる「流れ」と合わせるとまずいことを伝える。

それから、クローデットは辛抱強く青年の「暗記」に付き合った。
「暗記」の中でのずれを指摘し、時折アイスティーを補充し…青年が疲れを見せた際には、焼きショコラ(青年には見覚えがあるだろう)を提供してやり。

そうしているうちに、夏の陽はすっかり落ちてしまうのだった。

ご案内:「クローデットの私宅」からヴィルヘルムさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。