2018/03/16 のログ
ご案内:「進路指導室」にセシルさんが現れました。
■セシル > 今年度の単位習得状況が概ね定まった後の、ある日の午後。
セシルは、異邦人の生徒の進路指導を受け持つ教師に呼ばれ、セシルは進路指導室にいた。
机を挟み、向かい合って座る二人。
『自然科学系の科目がちょっと危うかったけど、よく学業と委員会活動を両立しましたね』
「ありがとうございます」
まずは成績を褒められ、真っ直ぐな姿勢で頭を下げるセシル。
■セシル > 『確か、ラフフェザーさんの母語はこの世界で広く使われている言葉の1つに近いんでしたね』
「はい、文法も文字もかなり近いので、こちらに来た時点で、日常生活に必要な範囲では支障がないと、テストで言われたように記憶しています」
『ラフフェザーさんの身体的特徴はこの世界の一般的な人々と大差はありませんし、基礎教養の履修状況、委員会という社会活動と合わせて考えれば、島の外での生活に適応するのも、難しくないように思いますね』
教師がこのように語ることは、何もセシルを突き放しているのではない。
セシルには研究者になるための蓄積はないし、今までの講義履修も基本的に「この世界に適応すること」を重視しているため、何か専門の科目を教えられるようにはなっていないのだ。
現段階でこの世界への適応を褒められているだけ、セシルの学業は、総合的に順調とさえ言えるだろう。
…だが、セシルの表情は微妙で。
「…そのこと、なのですが…」
何とか切り出したのは、
「………今から、この学園での教師採用を志望した場合、どのような講義を履修することが必要で、年限は、どのくらい必要そうでしょうか」
そんな、劇的な方向転換の相談だった。
■セシル > 『………。』
最初、教師は面食らって目を丸くしていたが…ひと段落すると、セシルの講義履修情報を改めて確認し…
『…一部の専門的な戦闘関連の講義を除けば「一通り教養を修めている」くらいの履修状況ですから、残り2年で教師になるための専門的な科目を修めきるのは難しいと思いますけど…志望理由など、聞かせてもらえますか?』
と、セシルの顔を見やった。
セシルの声のトーンや表情が、単に「島の外へ出ることの不安」から志望しているのではないと思わせたのだろう。
実際、「残り2年で修めきるのは難しい」と言われても、セシルが臆する様子はない。
「異邦人出身という立場で…この世界の社会のあり方へ対応出来るように、生徒を導ける立場になりたいんです。
ですから、科目は「社会科」が相当すると思っています」
そう、はきはきと答えた後。
「…まあ、剣を持ち続けるためにはこの島にい続けるのが一番良いという打算も、ないわけではないのですが。
それでも、落第しかかっていたりする生徒をすくい上げるために、剣の腕が役に立つ場面も、あろうかとは思っています」
「我儘でしょうか」と、少しだけ気まずそうに笑った。
■セシル > 『…悪くないんじゃありませんか?
正規の居場所を得たいという希望を異邦人の生徒が持ってくれることも、そのために努力すると決意してくれることも、嬉しいことですし』
教師は、たおやかに笑った。
それなりの居場所を得て羽ばたいていく生徒もいるが、卒業後、行方知れずになる生徒もいるのである。
この世界に馴染みの薄い異邦人は、余計に危うい。
『ただ、先ほども言った通り、残り2年で修めきるのは難しいと思います。
教える科目の理解を深めないといけませんし、教え方ですとか、生徒との関わり方とか…学ばなくてはいけないこともたくさんあります。
先ほどのお話だと、教師になっても風紀委員会に所属することになるんでしょうけど…残りの期間、委員会の職務に携わる時間の余裕はあまり無いだろうことも、覚悟してもらわないといけないでしょうね』
「…分かりました」
セシルの声のトーンが、少し落ちる。
長い間、後輩達に関わっていくために必要な年月。…救えるかもしれない後輩達を、取りこぼしていく年月。