2016/07/08 のログ
ご案内:「異邦人街安アパートの一室」に五代 基一郎さんが現れました。
五代 基一郎 > うだるような熱気が支配していた昼の時間が過ぎ
夜の時間が訪れてだいぶたつ。
デスクの事務椅子に座りながら目を瞑りながら、溜め息が漏れる。

ここ最近着用する機会が増えてきた……というより着けなければならない程度に視力が落ちてしまった。
三年程で残る力の在庫が切れたのか……傷の治りや所謂自己治癒機能とは別に
自分の身体機能がより人並み程度に落ち着きつつあることを思い知らされている。
そのような状況で異能とはまた別に危険を孕む世界に身を進んで持っていているのだ。
自分自身で何が出来る、何かするのも限られてくる。
だからこそ

「”あの女”を見つけ出さなければならない。」

自分の思考とはまた別のものの語りが己の口から放たれる。
あの時より姿を小さく……何かに追いやられるように封じられていた者が語る。

「”あの女”が何故消えたか私にはわからない。だがこれは転機である。」

五代 基一郎 > 「”あの時”よりお前の中にあり、お前と私を封じていた”あの女”を見つけ出すこと。それが我々の目的だったはずだ。」

未だに霞がかかった……というよりそのページだけ奪い去られたように
切り抜かれた記憶の話。何故この島に来たのか。何故このような活動をする経緯になったのか……
それら全てが奪われ、それらが奪われた瞬間すらも奪われていたのは……

「奪い返さなければならない」

「そうだ。でなければお前は私によって滅ぶ。そして私はお前により滅ぶ……
 本来の使命を果たせぬまま。だからこそこの島にいる”あの女”を見つけ出さなければならない。」

三年も見つけられなかった……最もそれが言うには自分の中にいたらしいが
それが出たとして探し出せるのかとも思うが……
あれはそもそもどこにいるのか、どこにいないのかというものではなかったような気がする。

「いや”あの女”のいる世界は決まっている。だからこそ夜に活動していたのではないか」

それすらも忘れていたのか、という自分への失望の念が強くなる。
もはやそれらに関して自分で何がと思い出せる事柄など何もないのではと思うくらいには。

「故に転機だ。何かしらの動きがあったというのならば、その痕跡と影響は必ず出る。
 そこから取り掛かればいい。今度は負けない。何せあの時は………いや、そうだな覚えていないのならいいだろう。」

五代 基一郎 > 「そしてあの時に一度崩されたものはもう一度組み直す必要がある。」

”あの女”についてはどうにかなる。ならばもう一つ……もう一度組み直さなければならないものはある。
自警団”ヴィジランテ”として活動していたあの時。
あの時に集めた者達のように……

「力という機能と、人の精神を持つ徒を集めること。既に半ばだな」

「各々によるだろう。実質三者三様ではある。
 綾瀬音音は機能としての素質は十分にあった。あとはその精神をどれだけ寄せられるかだな。
 それについてはお前が一番理解していようが、一番足元を巣食われ易い。
 お前が如何に人により堕ちているかは理解していよう。故にとして寄せ過ぎるのは如何とは思うが。」

反論する余地はない。実際様々な経緯はあったが、あの少女には甘い。
何かあり、話す度に自分が失っていたものを得ているように思える。
彼女に甘いのか、自分に甘いのか……言い様のないものは確かにある。
恐らく後者であろう。戒めなければならないのだが……

「レイチェル・ラムレイについては機能として考えれば十分だったがこれからだな。
 異邦人として転々としてきたのもあってか感じていた以上精神面も子供だったな。
 その辺りはこれからとしたが、そうとしか言えないな。
 これからの次第であるがまだ始まったばかりと言える。」

「どうなるか見届ける前にお前が滅ぶような悠長さではどうでもいい話だ。
 精々大人にしてやればいい。この世界は永遠に子供でいられる世界ではないからな。」

それは同感である。自分のことはさておいてこの島の学生という制度からもわかるように
時間は有限だ。いつまでも子供ではいられない。
いつまでも子供でいられるようなモノを我々は持っていないのだ。
大人にならなければ泡のように消えてしまうのが世界だ。
それか淵にこびり付く藻になるか……自分はどちらも良いとは思わない。

五代 基一郎 > 「程度の問題でいえばあの少年だな。あれは駄目だ。”機能”に精神が引かれている。」

機能ありき。力あっての精神構造が組み立てられている。
それはわかっている。根源的にその機能こそ存在の全てであるとされてきたのか
そうしているのか……どちらにせよそれはもうただの機能でしかない。
人の精神など、こびり付いている垢程度のものだろう。

「お前が同じ奪われた者としてあの少年に同情し肩入れするのはわかるが、我々に機能のみの道具は不要だ。
 甘やかさずに開いてやればいい。腹をな……まずはそこからだ。
 そう、まだ始まってもいない。そこから始まるんだ。
 一年過ごしてこれというのは、全くあの女のせいにしたいところだが」

薄々は、というより知るうちにやはり同情というものが湧いてきたか否かでいえば湧いてきたのだと思う。
それなりに近い所で見てきたからこそ思う。
あの少年は機能を求められ、機能を行使することで生きてきた。
例え何をと言おうとそれは機能があって初めて成立するものだ。
天秤にかけた比重がより強く、故に自分があるようでない。
おそらく誰も彼も、なまじ人のように見えるから……人のような動きと働きをするから
人としてとするのだろう。ただあるかないかのわずかな人らしさを押し付ける者もいたのだろうか。

「それぐらいだな今は。だがそれはとても大きい。
 各々どうするかを導けばいい。そしてお前はお前がやるべきことを成せばいい。
 我々の使命はただ一つであるからな。」

そう、ただ一つ。一つの使命のためにこの島に来て……いたはずだ。
今はそれが思い出せないが、覚えている部分はある。

「では休もう。我々はもう有限だ。疲れもするし、出なければ眠りもする。
 おやすみ」
「……おやすみ」

目を閉じ意識が遠くなる。
驚くほど……あぁこんなにも疲れていたのかと驚くほどに
とても速く意識は遠ざかった。
眠りの世界に流れて行くように。

ご案内:「異邦人街安アパートの一室」から五代 基一郎さんが去りました。