2016/09/24 のログ
ご案内:「クローデットの私宅」にクローデットさんが現れました。
クローデット > あちこちの委員会を跨いで、各種の手続きを行った。
「再教育」の講習は大変かもしれないが、とりあえず「彼女」の生活は一時の安定を得るだろう。正当な形で。
諸々の手続きの手伝いを行ったクローデットは…そのまま「彼女」を…マリアを、自らの家へ誘った。

…「『武装』のタネ明かしをする」という、約束を果たす名目で。

「こちらです」

クローデットがマリアを案内したのは、学生街の高級住宅街。
そこにある、あまり大きくない一戸建ての住宅だった。

ご案内:「クローデットの私宅」にマリアさんが現れました。
マリア > クローデットに言われるままに,あちこちで手続きを済ませた。
公安委員が傍に居るというのは異様な光景かもしれないが便利なもので,
ほとんど何の疑いをかけられることもなく,手続きを終えることができた。

「……今日は本当に,何から何までお世話になりました。」

そういってお辞儀をしてから,目の前の家を見上げる。
それは,今日明日の寝床さえ満足に得られなかったマリアにとっては十分に立派な家だった。

クローデット > マリアが一時所在不明になってしまっていた件の不備を雪ぐと考えれば、手続きの手伝いくらいは安いものである。

「お気になさらないで下さい…この学園に奉仕するのがあたくし達委員の職務ですから」

マリアのお辞儀に対して、そう笑って言いながら私宅の扉の鍵を開ける。
中は、靴のまま入れるタイプの住居になっているようだった。

「どうぞ、おあがり下さい」

中には、シンプルな内装の空間が広がっている…。

マリア > クローデットの真意には気づかず。
ただ,その丁寧な対応や,気遣いに感謝しているマリアがそこに居た。

「それでは…お邪魔いたします。」

恐縮した様子で再びお辞儀をしてから,家の中へを足を踏み入れる。
……緊張しているのが,その表情や仕草からも手に取るように分かるだろう。

クローデット > マリアとほぼ同じタイミングで家に入り、扉を閉めると、クローデットは

「今日はハウスキーパーが休みを取っておりまして…
「武装」のタネ明かしはクローゼットのある二階でと思っているのですが、お茶はそちらで簡単にお淹れする形でも構いませんか?」

とマリアに尋ねた。

家の中はシンプルな内装だが…玄関口からわずかに覗き見える居間には、大きな水槽のようなものがあるのが伺える。
そして、玄関口の前にある上り階段。

マリア > 扉が閉じられる音に,ピクリと身体を震わせた。
覚悟を決めて来ているし,楽しみにもしていたのだけれど,
やはりこうして家の中にまで上がってしまうと,緊張感が先行する。

「あ,えっと…本当に,お構いなく…と言いますか…。」

慌てた様子を見せてから,深呼吸。
それから,ショルダーバックから小さな包みを取り出して…

「…その,この間と,今日のお礼…です。
 って言っても,このくらいが,限度だったので。」

…クローデットに渡そうとする。
包みを開ける前から甘い香りが漂う。中身はきっと,クッキーだろう。
上品な香りからは,それが(マリアの生活水準からすれば)上等なものだと,想像できる。

クローデット > 「あら、そうですか?
…それでは、お言葉に甘えて最初に『武装』の『タネ』を見ていただいて、その休憩にお茶を頂く、という形にいたしましょうか」

緊張した面持ちで遠慮するマリアに対して、くすくすと優しく笑ってみせながら提案をするクローデット。
…と、そして渡される、小さな包みと…それから放たれる、美味しそうな甘い香り。

「…あら、ありがとうございます。
お互いの「余裕」の総量に差があるのですから、お気になさらなくてよろしいのに」

そう言いながらも、優しい手つきで受け取る。
クローデットが腕を動かす時にわずかにふりまかれる甘い香りは優しく、どこか落ち着くようなものだった。

「…それでは、クローゼットへご案内いたしますわね。
こちらへどうぞ」

包みを受け取ったクローデットは、階段の方へマリアを先導する。

マリア > クローデットの笑みが,マリアの緊張を徐々にだがほぐしていった。
そして,お礼,として選んだクッキーは紅茶に合うものを,と,クローデットの好みに合わせたつもりである。
受け取ってもらえて,少しだけ安心したようだ。

「……えぇ,そういたしましょう。」

マリアにとっては,全てが初めての体験であった。
他人の家に上がり込むことも,他人の部屋へ入ることも,
だからこそ,その緊張感がどこから生じたものなのか,まだ分からない。

「だからと言ってお礼をしなくては私の気が収まりませんもの。
 喜んでいただければ,それだけで買ってきた甲斐がありました。」

にっこりと笑ってから,クローデットに続いて階段を昇っていく。

クローデット > こじんまりとした一戸建てに見えたが、二階には部屋が3つあった。
…ただし、その一つは不自然に小さいようだが。

「ふふふ…相手の趣向に合う食べ物でしたら、そこまで重荷にもなりませんし丁度良いでしょうね」

そんなことを言いながら、クローデットは二階の廊下に置かれている、ティーセットが収納された小さな棚に受け取った包みを一旦置く。
そして、クローデットは、その小さな部屋の扉に手をかけた。

「クローゼットはこちらです。どうぞ」

満面の笑みでクローデットが扉を開けたそこは、ウォークインクローゼットとなっていた。壁の両側にはずらりと服がかけられ…しかし、一部はコルセットやパニエなど、ドレスに近いワンピースを美しく着るための下着のようだ…その上の棚にはポシェットなどの雑貨や、髪飾りが並べられている。
…そして、扉の真正面の壁には、大きな姿見。

マリア > かつて、屋敷に幽閉されていたころなら、このくらいの広さは当たり前だっただろう。
しかし、今のマリアにとっては全てが眩しく見える。

「その……味は,間違いないと,思うのですが。」

頭をかいて苦笑しながらも、クローゼットの前に立ち…
…その扉が開くと同時に、「わぁ!」と声をあげた。

決して演技ではない。ずらりと並んだドレスやワンピース。
女として育てられたマリアにとってそれは……
……確かに、美しくて羨ましくて、輝く宝物に見えた。

「これが……全部、ルナン様の服ですか?


下着の類いも、それそのものなら見慣れている。
だからか、殆ど視線を向けることもなく、視線はクローデットへと向けられた。

クローデット > 「ええ…こちらに全部は持って来られそうになかったので、好んで着るものだけを持って参ったのですが」

ずらりと並んだ洋服たちに目を輝かせるマリアを見て、花の綻ぶような笑みを零すクローデット。
装飾がちでないクラシカルなものも、豪奢なデザインのものも、どちらもクローデットらしいと言えそうなものばかりだった。
…ただ、程よく胸があった方が映えるようなシルエットをしていたり、ウエストを絞って女性らしい身体のラインを見せるようなものが多いのは、マリアとは違うところだろうか。

「それでは、「タネ明かし」をいたしますわね」

クローデットは、近くにあったワンピース…これも、程よく胸があった方が映えそうな、ウエストの絞られたシルエットだ…を、ハンガーから外してみせた。

マリア > 「……参りましたわ。
 私も、少しくらいお洋服持ってこれればよかったのですけど……。」

勝手にさわったりはせずに、けれど、興味深げに眺めている。
……男として生まれながら、女として育てられたマリアにとって、それらは確かに魅力的な衣装たちだった。
ただ、マリアには着られそうに斬られそうにないものもあり、それが確かに「女性」の衣装なのだと、改めて感じされられる。

「……えぇ、お願いいたします。
 えっと、私はどうしていれば良いのでしょうか……?」

ハンガーからワンピースを外したクローデットを見て、そう問いかけた。

クローデット > 「恐らく、不慮の事故でこちらにいらしたのでしょうから…そればかりは仕方がありませんわね。
………「自由」の代償、というには少し高かったでしょうか」

そんな事を言って、少しだけマリアの残念な気持ちに共感するように笑ってみせる。そして、手に取ったワンピース…襟元のレースの細やかさ、コルセットのようになったウエスト部分の刺繍が美しいロング丈のクラロリ系…の背面に手を回すクローデット。

「…シュピリシルド様は、「タネ明かし」を見て下されば、それで構いませんわ」

そう言って、背面についていたらしいファスナーを、ぐいっと下ろす。
…そして、その内側をマリアに開いてみせた。

そのワンピースの胸部の内側には…よく見ると、黒い糸で縫製には関係無さそうな刺繍がなされている。
不思議な記号や、紋章を組み合わせたような刺繍だ。
マリアの魔力感受性が高ければ、その刺繍に魔力が籠められているのが分かるだろう。

マリア > 「自由……。」
その言葉の実感は、まだ湧いていないようだった。
ずっと欲していた、外の世界。
けれど、そこには居場所がなく、不安な日々が待っていた。

「……そうですね、これから、少しずつ集めていきます。」

そう言って笑って見せ、それから、クローデットの言葉に頷く。
マリアの世界にも、衣服の下に身に付ければ鎧は存在した。
けれど、そのワンピースに隠されていたものは……

「……これは……?」

……刺繍だ。飾りにしては、見えない場所だし、紋様としての美しさもあまり感じられない。
困惑した表情を見せてから……じっとそれを見つめて……

「……?」

……違和感に気付いたようだ。
魔力。そんな言葉を与えることさえ出来ていない、マリアの原始的な力。
それに似たなにかを、感じる。

クローデット > 「そうですわね…こちらでの生活が確立したら、好きなお召し物が自分のお金で買えますわね」

マリアの笑みに、頷き返す。
…「彼女」がいつまで「彼女」であろうとするのかも、クローデットの楽しみではあるのだが…そこは、表には出さない。
そして…何か違和感を覚えたらしいマリアの様子を見て、不敵に笑んだ。

「…お気付きになられましたか?
魔力を蓄積する染料で染めた糸で、防御術式を縫い付けて…魔力による術式を更に上から重ねておりますの。
染料も、あたくしの手作りですのよ」

錬金術や魔具作成も得意としているクローデットならではの手順、と言えるだろう。
魔術言語による術式と、魔力を使った術式の二段構えが、普段着る服装の中に既に仕込まれている、というわけだ。

マリア > 「えぇ…でも,この間買って頂いたあの服は,ずっと大切にします。」

にっこりと微笑んで,そんな言葉を返す。
その言葉がただの社交辞令でないのは,どれほど鈍感な者でも分かるだろう。

「……魔力を……防御…じゅつしきを?」

魔術を感覚的にしか扱うことができず,そもそもそれさえも異能だと認識しているマリア。
魔力というものについても,伝説やおとぎ話でしか知らない。
そんなマリアには,あまりにも難しい話だった。

「えっと…つまり,これはルナン様が作った魔法の服,ということですか?」

本当にざっくりと。しかし的確にまとめた。
複雑な部分を理解させるのは難しいだろう、と、貴女は感じたかもしれない。

クローデット > 「シュピリシルド様にとっては、初めての黒くないお召し物、でしょうか。
気に入っていただけて何よりですわ」

にっこりと、邪気がない風で笑み返す。
異能者(バケモノ)に喜ばれるのは癪と言えば癪だが、自分の美的感覚が褒められたと思えば、まあ許せなくはない。

「お洋服は職人の方が作って下さったものですけれど…
見えない場所に魔法の力を持つ刺繍をして、その刺繍に魔法をかけて更に強い魔法にした、と思っていただければ概ね間違いはないかと存じますわ」

マリアの様子を見ても特に困った表情を見せず…というか、下手に理解されたら困るのでこの方が都合が良い…優しい言葉で大まかに言い直すクローデット。

「…今は、見せやすかったので胸の内側をお見せ致しましたけれど…
スカートの裏地の上の方などの、他の目立たない部分にも他の術式を、同じ要領で何カ所か仕込んでおりますの。
パニエや、アクセサリーなども合わせれば、下手な鎧には負けない「武装」ですわ。

………無論、こういった衣装本来の意味での「武装」でもありますし」

そう言って、「女性」の身体であればこそ映えるようなワンピース、ドレスのただ中で…その「武装」の使い手、「女性性」の魔女とも呼べそうなクローデットが、艶のある微笑を浮かべてみせた。

マリア > 「えぇ…あのお仕事に誘っていただいたのも,お買い物に付き合っていただいたのも…。
 ルナン様にとっては“職務”だったのかもしれませんが……私,本当に嬉しかったんです。」

もちろん,こうして今日,招いてもらったことも。
クローデットの思惑とは無関係に,マリアは今,とても幸福だった。

「凄いですね……あの時も,ルナン様の魔法は本当に見事でした。
 こんなことを聞くのはおかしいかもしれないのですけれど…これ,たぶん,私のナイフじゃ切れないくらい強いですよね?」

術式が読み解けるはずがない,だが,勘と魔術的な感覚が鋭いのだろう。
心の底から感心したような様子で……それから,話を真剣に聞く。

「…だから,あの遺跡でも普段と変わらないお洋服だったのですね。
 そんなに準備しているなんて……私なんかと大違いです。
 私なんか,ただの服ですから,刺されたら死んでしまいますわ。」

くすくす,と笑いながらも,クローデットが最後に付け加えた言葉に…もう一度,その服を見て,

「……私には,真似できませんね。
 私にとっての“服”は,私を怖がってもらうための材料でしたから。」

クローデットの浮かべる微笑に,自分と相手の,男性と女性の,明らかな隔意を感じながら。

クローデット > 「あら、先日のお仕事やお買い物はあたくし個人の意思ですわ。
そこは、信じていただいて構いませんのよ?」

きっかけが悪意であろうと、個人の意思には違いない。
悪意を表面に出さないまま、くすりと笑みを零した。

「ええ、もちろん」

魔術的な感受性はそれなりにあるのだろうが…それを表出する語彙には乏しいのだろう。
ナイフでは切れないどころか…今この一軒家が崩落しても、無傷で生還出来るレベルなのだが…まあ、「敵」にそんなことを教えてやる必要はない。
だから、淑やかに頷くだけで答えとした。

「ええ…あの手の服であれば、刺繍などを仕込む隙間にも、パニエなどの補助にも困りませんから。
…シュピリシルド様も、何か防御の魔法を覚えられても良いかもしれませんわね?」

「少し、お勉強が必要になるでしょうけれど」と、くすくすと笑って勉強を促してやる。
…もっとも、強制するほどの義理はないので、あくまで促すだけだが。

…と、自分の不敵な微笑に思うところがあったらしいマリアの言葉を聞いて、少しだけ笑みを陰らせ。

「せっかく飾ることが出来ますのに…「怖がらせるだけ」では、もったいありませんわね。
…誰よりも、自分に対して自信を持つための「武装」ですのに」

…が、次の瞬間、その笑みをぱっと明るくしてみせて。

「………この家にある範囲でよろしければ、シュピリシルド様、「着飾って」みませんこと?」

と、一見、邪気のない表情で問うた。

マリア > 悪意を感じ取る感性に欠けるというのは,ある種の才能であるのかもしれない。
クローデットの言葉を聞いたマリアは,頬を紅く染めて…ぱぁっと明るい笑顔を見せた。

「………私,やっぱりこっちの世界に来られて,良かったです。」

洋服を全部なくしてしまったことも,二度と両親に会えないだろうことも。
そんなことはもう,どうでもいいとさえ思えた。

「ルナン様のように手先は器用でありませんし…時間はかかるかもしれませんが。
 そうですわね,私も,お勉強してみることにします。」

そうやって魔術を学ぶことを決意したのも,クローデットが勧めたから,というのが最大の理由だろう。
無論,「敵」として見られていることなんて,気付くはずもない。

「いいえ,私はいつも“影”でしたし,それ以外に存在価値なんてありませんから。
 表に立つのは私ではなく…ルナン様や,私の兄弟のように“隠し事”の無い人物でなくては……。」

もったいない,というクローデットの言葉に,マリアは首を横に振った。
常に影として生きることを強いられ,そうあり続ける限り,必要とされた。
だから,光を浴びることは,捨てられることと同じだったのだ。

「………え?」

そんなマリアに向けられたクローデットの提案。
マリアは,困惑していた。自分でどうしたいのかが,分からなかった。
ここにある可愛らしい服を着てみたい。
そう感じるのも自分だ。
ここにあるのは“女性”の服で,自分のような者が着るものではない。
そう感じるのも自分だ。

けれど,クローデットが喜んでくれるなら。
いや,喜ぶとまでいかなくとも,少しでも笑ってくれるなら,

「……ルナン様のお洋服を,汚してしまいそうで……その,申し訳ないのですが…。」

マリアは躊躇しながらも,その提案に乗ってしまった。

クローデット > 「ふふふ…シュピリシルド様にそう言っていただけて、何よりですわ」
(「光」の中に出る前に堕ちてしまったら、「落差」を楽しめませんものね?)

真意は表に出さず、マリアの明るい笑顔に対して優しい微笑を返す。

「一口に防御の魔法といっても、様々な形がございますから…
シュピリシルド様の場合は、自分の中の「力」を頼りに扱う魔法が良いかもしれませんわね」

クローデットは、「防御の魔法」としか言っていない。
何を防ぐべきなのか、それを伝えることをしていない。
それは本人が考えるべきことだと、突き放す。…「彼女」は「同志」でないどころか、「敵」なのだから。

もっとも、そんな考えはおくびにも出さず、クローデットはにこにこと柔らかい微笑を浮かべているのだが。

「…「影」であることを強調するため「だけ」の武装…虚しいものですわね」

少女の独白に、嘆かわしげに溜息を吐いてみせるクローデット。
…無論、自分が本当は秘密だらけなことを、明かすつもりはない。

………そして、長い躊躇の末、マリアが自分の「提案」に乗れば…

「お気になさらないで下さいな…簡単には汚れないように細工もしてありますから。

…それでは、シュピリシルド様がお好きなものを選んでいただけますか?
体型を補正する手段は「いくらでも」ございますから…今は、何も心配なさらないで結構ですわ」

と、にっこりと艶のある微笑を浮かべた。
実際にワンピースやドレスを見ていると、クローデットの美意識を反映してか、女性らしい身体のラインを全く隠してしまうようなシルエットのものは見当たらなかった。
胸が程よくあった方が綺麗に見えそうなもの、ウエストが絞られているもの…明示的に絞られてはいなくても、ウエストで切り替えがあるもの。
先ほど「タネ明かし」されたもののように、程よい胸とくびれたウエスト、両方を要求するようなシルエットのものも珍しくない。

マリア > 生まれ出でた瞬間から,ずっと陰で育てられたマリア。
光の中に突き出した時に,生きていけるのかはだれにもわからない。

「すみません…なんだか,勝手なことばかり言ってしまって。」

クローデットの真意に気付かないからこそ,笑っていられるのだろうか。
それともこの“不憫な少年”は,全てがわかっても笑い続けるのだろうか。

「…きっと,まずは魔法について基礎を学ぶところからですわ。
 私,魔法なんて使ったこともありませんから。」

あの原始的な魔術を,それと認識せずに使用している。
マリアの発言からはそれが手に取るようにわかるだろう。

「……私にとっては,それが大切だったんです。
 両親も兄弟も,私には“魔女”であって欲しかったのですから。」

一方のマリアは,貴女のことを“隠し事の無い人”だと信じて疑わない。
尊敬のまなざしさえ向けて…

「……それでは,えっと…お言葉に,甘えさせていただいて…。」

…とは言ったものの,ここに並んでいる衣装は“女性らしさ”を強調するものが大半だ。
自分が普段着ているワンピースのような,“男性らしさを感じさせない”衣装ではない。

「………………。」

1つ1つ,丁寧に扱いながら手に取るたびに,それが“女性”のものだと感じさせられる。
それどころか,持ち主がすぐそこに居るのだから……

「…あ,これ………。」

マリアが手に取ったのは,優しい色使いの,可愛らしいドレス。
華美でない程度にフリルの装飾が施されており,胸元には大きめのリボンが結ばれている。
極端に体形を強調するようなものではないが,絞られたウエストから,花のように広がるスカートへの曲線が美しい。
そんな衣装だった。

クローデット > 「ふふふ…お気になさらないで下さい」

マリアの笑いに、こちらも笑み返す。
とりあえず、「彼女」が「綻び」を綺麗に隠せている間は、「少女」として、「女性」という存在の「後輩」として扱うと決めているのだ。

「…そうですか…でも、シュピリシルド様、魔法の素養はおありですわ。
あたくしが、保証いたします」

マリアの認識を無理に否定せず、それでも、優しい微笑で背中を押した。

「ご両親やご兄弟の方々は…シュピリシルド様に、どのような"魔女"を期待なさったのでしょうね?
…あたくしほど強気でないものを望んだのは、確かでしょうけれど」

自覚的に「魔女」としてあるクローデットからすれば、上位者に従順で自我の乏しい、力「だけが」ある女性を「魔女」と呼ぶのは、笑止と切り捨てたくなるような話だった。

………どこまでも、自分のありようには無自覚なままで。
しかし、そこには真実の欠片がないわけでもなかった。

「それに、なさいますか?」

マリアが手に取ったのは…柔らかい雰囲気を出すときのために持っていたワンピースだ。
甘いピンクよりはくすんだピンクベージュなので、子どもっぽくなり過ぎないところが気に入っている。

「ある程度、補正の内容には自由が利きそうなシルエットですわね。
…どうなさいますか?折角補正が出来るのですし、「シュピリシルド様の憧れ」を投影しても良いかと存じますが」

胸がなくても何とかなりそうな衣装を「彼女」が選んだことには、つまらなさを覚えないといえば嘘になる。
…でも、問題は「彼女」がどうありたいかだ。
マリアの選択に対する少々の落胆はきっちり心の奥に封じ込めて、優しげな微笑を崩さずに問うた。

クラシカルなドレスに形よく収まる、丁度の大きさの胸。無駄の見当たらない、ほっそりとしたウエスト。
恐らく、ふわりとしたスカートの下には、女性らしく丸みを帯びた臀部があるのだろう。
クラシカルなドレスがよく映えそうな身体つきをした、人形めいた美貌の女性がそこにいる。

ご案内:「クローデットの私宅」からマリアさんが去りました。
クローデット > 【続きはまた後日】
ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」にクローデットさんが現れました。
ご案内:「クローデットの私宅」にマリアさんが現れました。
マリア > 確かに存在する「綻び」は,今は綺麗に繕われている,とでも言うべきか。
だからこそそんなクローデットの笑みに,マリアもまた微笑んで応える。

「いいえ,私は魔法なんてこれっぽっちも…
 …ただ,人にはない力を,神様から貰っただけです。」

“異能”という言葉はマリアの国には無いのだろう。
その力,原始的な魔術と,それからクローデットを守った異能を,マリアは少なくとも好意的に受け止めているようだった。

「お恥ずかしい話なのですけれど……私は,父や兄弟を守るために,なんでもしましたから。
 私が“魔女”になればそれだけ,皆が安心して暮らせました。」

クローデットの在り方とはまるで対局にあるような,マリアの在り方。
捨てられた子が必死に居場所を求めて,もがき苦しんだ軌跡。
それは,多くの人にとっては理解しがたいものかもしれない。

「……えぇ,あまり体系が目立つものですと…ルナン様のように美しく着こなすのは難しいかと思いまして。」

そうは言ったが,クローデットの口から“補正”という言葉が出れば,考え込む。
男性としての逞しさはもちろん,女性としての丸みにも欠けた,華奢な身体。
それをコンプレックスに思ったことは無かったが……

「……憧れ,と言われると……恥ずかしいのですが…。」

眼前に立つクローデット…優しげに微笑む女性は,心の底から美しいと思う。
それが“少女”としての思いなのか,“少年”としての思いなのかはもはや定かではないが…

「ルナン様のように,着こなせたら……とっても素敵だなって,思うんです。」

クローデット > 「………お勉強すれば、いずれ、分かりますわ」

マリアが「魔法なんてこれっぽっちも」と重ねて言ったことには、少しの間を空けた後、そう言って意味有りげな微笑を浮かべてみせる。
異能に対する敵意をこの場で表に出すほど、クローデットは愚かではなかった。

「………そう、ですか」

それでも、マリアが「何でもした」と言えば、その重みには少し俯いてみせる。
無論、演技ではあるが。

クローデットとマリアのあり方に、根本のところでは多くの違いはなかった。
…ただ、クローデットの方がより「賢かった」だけである。…複数の、意味で。

そして、補正のことを考え…何とか絞り出したマリアの答えに、にっこりと花の綻ぶような笑みを浮かべて。

「ふふふ…「女性」の「先輩」として、そう言って頂けると光栄ですわ。
それでは…準備をして参りますので、少しお待ち下さいね」

そう言うと、クローデットはクローゼットから一旦出て行った。

マリア > 「……そうですわね,お陰で学校の授業にも,出られそうですし。」

魔術の授業はいくつもあった…その中からどれを選ぶかが,問題なのだが。
そしてクローデットがうつむいて見せても,マリアは自嘲気味に笑うのみ。
裏社会での用心棒という仕事を引き受けていたことや,ナイフの扱いに慣れていること,そしてあの異能,
マリアがどんな“魔女”だったのか,大方想像はつくだろう。

マリアは魔女として立つにはあまりにも純粋過ぎた。
純粋であるがゆえに……狙われた者にとっては恐怖そのものだっただろう。

「…すみません,変なこと言ってしまって。
 はい,お待ちしています…ね!」

クローデットが“女性”の“先輩”と念を押してくれたことが,マリアを安心させた。
「綻び」は顔を出さず,今は,ただひたすら,期待に胸を膨らませることができた。
それもこれも,全てはクローデットのおかげだと,感謝しながら。

クローデット > 「学校の授業に、再教育講習とこれから忙しくなるでしょうけれど…
頑張って下さいね。
魔術のことでしたら、あたくしも相談に乗りますわ」

そう言って、優しげな微笑を浮かべるクローデット。

近距離専門で…得物がナイフならば、1対1であればクローデットの敵ではないだろう。
…ただ、マリアがクローデットの「標的」を守るならば、厄介だとは思った。
あの異能は、因果を超えてしまう。
クローデットの、「魔女としての」マリアに対しての評価は、このようなものだった。

「お待たせいたしました」

そのような悪意をまるで表に出さず、様々なものを用意して戻ってくるクローデット。
その腕の中にあるのは、たくさんの小さなタオル、ブラジャー。そして、不透明な青い液体の入った瓶。

「一応、お身体の方も女性に寄せることは可能ですが…どうなさいます?」

そう、青い液体の入った瓶を軽く持ち上げて見て尋ねる。

マリア > 「大丈夫ですわ…ルナン様のお手を煩わせないよう,努力しますから。
 ただ,魔術は自信がありませんので……お願いするかもしれません。」

ぺこっと頭を下げるマリア。
戦いとなれば,肉体を強化してのナイフでの戦闘がメインである。
そして,マリアの異能は確かに,どのような因果をも超えて対象を守るだろう。
……そして,裏側の力を使えばあるいは,何者をも打ち倒せるのかもしれない。

「身体の方を,女性に……?」

その言葉の意味が分からなかったマリアは,クローデットの持つ瓶を見た。
その中身を見て理解することなどできそうもないが,おそらく魔術的な薬品なのだと想像できる。
……変身魔法という分野は,伝説や物語でもメジャーなものだ。

「………いえ,身体まで変えてしまうと,私が私で,なくなってしまいそうなので。」

迷った挙句に,マリアは首を横に振って,そう答えた。

クローデット > 「ふふふ…シュピリシルド様は、指導の仕方の考え甲斐がありそうで楽しみですわ」

頭を下げられれば、そのように、本当に楽しげに笑って。
…先ほどの「武装」の「タネ明かし」の方で、マリアには「難しいことを勉強する」ための下地がまるで出来ていないのは確認済みだ。

「ええ…完全に女性になることは出来ませんけれど…少し、ふっくらとして頂くくらいのことは可能です。
そこから、コルセットで引き締めてメリハリを作り出す形ですが…」

マリアが瓶の方を見つめるのを見て、そんな風に解説をする。
…が、マリアは、それを選ばなかった。

「………そうですか、承りました」

そう返事をするクローデットの方は、しばし意味有りげに目を軽く伏せがちにしたが…それは、ほんの少しの間。
すぐに、ぱっと花のような笑みを浮かべて。

「それでは、布地を使った補正で頑張りましょう。
暑い時期でなくて、幸いでしたわ。

…それでは、一旦お召し物をお脱ぎになって頂けますか?」

というわけで、早速着替えさせにかかるようだ。

マリア > 「……なんだか,迷惑しかおかけしておりませんね,私。」

そんなクローデットの内心を,今ばかりは読み取ったのかもしれない。
申し訳なさそうに,けれどどこか楽しそうに苦笑した。

「…すみません,せっかく準備していただいたのに。」

……その薬を断ったのは,どのような心境からだったのだろう。
もちろん,正体不明の薬に対する恐怖や,不安もあっただろう。
だが,恐らくはマリアの“少年”としての自我がそうさせたのだ。
マリアは女性の恰好をしているが,女性になりたいと思っているわけではない。
その複雑な心境が,選ばせた選択だったに違いない。

「脱……あ,そ,そうですよね…。
 ちょっと,待ってもらってもいいですか……?」

当たり前なのだが,服を着替えるには脱ぐしかない。
そして,マリアはこういった服を着るには他者の助けが必要だと,知っていた。

「…………………。」

僅かに耳と頬を紅く染めて…息を吐く。
マリアは器用に背中のホックを外して,ワンピースを脱いだ。
上半身はタンクトップを着て,下半身はインナーパンツを履いている。
女性ものだが相変わらず配色は黒一色で,そこまで可愛げがあるデザインというわけでもない。
それゆえに,ワンピースを脱ぎ去るだけで“少女”としての側面が急激に失われるだろう。

…恥ずかしそうに頬を染める様子は,確かに少女じみているのだが。

クローデット > 「あら、お教えすることって教える側にとっても勉強になりますのよ?理解が深まりますから。
そのように伺ったこと、ございませんか?」

苦笑に対しても、そう楽しげに対応するクローデット。
魔術の勉強が好き、という感情には…嘘がないように思われた。

「いえ…お気になさらず。
シュピリシルド様が「迷って」おられるのは、あたくしも存じているところですから。

………一時的な疑似体験も、良い経験だとは思いますけれど」

そう気遣わしげな表情で言いはするものの…含みのある言葉を付け足すのも、忘れなかった。

「ええ、お手数をおかけいたします」

柔らかい微笑のまま、マリアがワンピースを脱ぐのを見守る。
装飾された衣服を脱ぐ、それだけで「少女」としての側面が急速に失われる有様は…マリアの根本にあるのは「女性性」ではなく「男性性の欠如」であるのだと、クローデットにもよく周知させた。
振る舞いは、年若い者の微笑ましさを体現しているとは言えるが。

「………シュピリシルド様…インナーも黒でしたのね」

少し、考えるようにする。
インナーパンツは…まあ、何とかなるだろう。
パニエでめいっぱい膨らませて腰のボリュームを補うのならば、寧ろ必要なものとも言えるし。
…問題は、タンクトップの方だ。
ワンピースはピンクベージュという淡いめの色である。いくら補正を重ねるとはいえ、下着類も、コルセットも白いのだ。透けるかもしれない。

「………申しわけありませんけれど…上の方は、お脱ぎになっていただけますか?
もしかすると、透けるかもしれませんので」

気遣わしげな表情で、マリアに請う。
…無論、内心は面白がっているのだが、そこは表情にも、声にも出さない。

冷えた心は、より冷淡に内心を隠すようになっていた。

マリア > これまでの打ち解けた表情や言葉も,こと,性別に関する内容となればやや硬くなる。
それはあの経験がそうさせているのか,それとも,今ここで表出しかけている綻びを包み隠すためか。

「すみません……お気遣いに,感謝いたします。」

マリアはそうとだけ言って,笑って見せた。
色素の欠落したマリアの肌は異様なほど白く,皮膚の下を流れる血管の色が透けて薄紅色に染まっていた。

…華奢な身体だが,その骨格も,それから肉付きも,確かに男性のものだ。

「えぇ……ワンパターン,と言われてしまいそうですね。」

苦笑しつつも,そんな姿を晒していることへの羞恥心が沸き上がる。
クローデットはどう衣服を合わせるか考えているのだろうけれど,まるで品評でもされているかのような気分になって,落ち着かなかった。

「あ……そうですね,分かりました。」

尤もな指摘に頷いて……タンクトップを脱ぎ去った。
余分な脂肪がほとんどついていないために,決して筋肉質ではないのに筋肉がよく見える。

「これで,良いでしょうか……?」

クローデット > 「いえ…「シュピリシルド様の、なさりたいようになされば良いのですから」」

マリアが、自らの内の「綻び」の気配を感じ取ったのか表情を硬くしたこと自体は見逃さなかったが…それでも、マリアがそれを振り払うように笑ってみせれば、こちらもそれに応えた。
「少女」性をはぎ取る…まさに、「綻び」の上で踊るような危うい状況を、クローデットの方はまるで気にしていないかのようにたおやかなままである。

「…本当に、黒いお召し物しか考えられていなかったのでしょうね。
淡い色のものを纏えば、透けてしまうようなお下着なんて」

穏やかに苦笑しつつも、その目は、マリアの体格を見ながら補正の計算をしている。マリアの羞恥を、無視するかのように。
クローデットの長身と、西洋人としての骨格もあるが…アンダーバストのサイズが、少し足りないかもしれない。
そして、マリアがタンクトップを脱ぎ去り、さほど量の多くない筋肉が露になると…

「ええ、お手数をおかけいたします。
…それでは、まずはこちらのストラップに腕を通していただけますか?まだ、ホックは止めないように」

淡々とそう言って、白のブラジャーをマリアに差し出した。

マリア > 「……本当に,ルナン様にはなんとお礼を言っていいか分かりません。」

クローデットには全てを見通されているような気がする。
けれど,それでありながら,マリアにとって今一番欲しい言葉を,向けてくれる。
それはクローデットの作為的な言動に他ならないのだが,マリアにとってそれは紛れもなく救いだった。

「……お恥ずかしい限りです。なかなか,自分を変える勇気が,起きなくて…。」

その言葉は,まさに今のマリアにも通じるのだろう。
疑似体験としてでも女性へと変わることは選ばず,しかし男性として生きることも選べない。
結局は全てを先送りにしているに過ぎないのだ。

「……なんというか,不思議な気分です。」

女性用の下着。外見を偽るだけでない,本質的な変化。
それに腕を通したマリアは,その心境を正直に述べた。

クローデット > 「大したことは、申し上げておりませんわ」

マリアの言葉に、くすりと笑みを零して。
「したいようにすれば良い」を、「選択の強要」ではなく「現状維持の許容」ととってくれる鈍感さは、つくづく驚嘆に値すると思う。褒めたくはないが。

「………ただ、「現状維持」は、緩やかな「退化」であることだけは、お心にお留めおき下さいね。
シュピリシルド様もあたくしも…永遠に「若い娘」ではいられないのですから」

そう、静かに告げながらも、マリアはクローデットのアンダーバスト相当の部位にタオルをぐるっと巻く。
それから、

「タオルを、押さえておいていただけますか?」

とマリアに頼み…マリアがその通りに押さえれば、タオルを巻き込むようにしてブラジャーのホックを留める。
マリアがその心境を零せば、

「ふふふ…女性らしい身体でなければ必要はございませんものね?」

そう、どこか楽しげに笑みながら、今度はブラジャーの中身の方に、小さなタオルを丸めて詰めにかかるだろう。
…その過程で、クローデットの手がマリアの肌に触れることがあるかもしれない。

マリア > 無意識のうちに,マリアはクローデットの言動全てを好意的に解釈している。
それはそう思い込むことが,マリアにとって自分の居場所を守ることに他ならないからだった。
どんな悪意にも,気づかずに居られれば……そこは幸福な居場所なのだ。

「……そう,ですわね。
 ですが,まだ,正直に言えば…変わることは,不安で仕方ないです。こんな風に,服を着せていただくのも……。」

そんな風に心境を言葉に出すのは,クローデットがそれを受け止めてくれるだろうという,信頼があったからだ。
それが形だけの,作為的なものだったとしても……嬉しかったからだ。
タオルを押さえながら,クローデットの成すがままに,身を任せる。

「……ひゃ…、す、すみません!くすぐったくって……!!」

…つもりだったのだが,クローデットの手がその肌に触れれば,身体をピクリと震わせてしまう。

クローデット > 「ふふふ…是非、ワンピースをお召しになられた後、姿見で全体をご覧になって下さいね?
きっと、今までにない感慨が得られますわ」
(それが、あなたにとって心地よいものである保証はございませんけれど)

マリアが不安を吐露すれば、それを受け止めるかのように柔らかく微笑んでみせる。
…が、手が肌に触れたことで、マリアがぴくりと動けば、少し手元が狂う。
辛うじて、詰め物のやり直しにはならずにすんだが…

「…申しわけありませんが、もうしばし、我慢していただけますか?
ちゃんとしたお胸の補正ではないので、少し手間がかかりますの」

淡々とそう言って、それから詰め物の形を整えにかかる。
詰め物を押し込んだり、寄せたり。何度か、先ほどとは比にならないくらい、遠慮なくクローデットの手がマリアの肌に触れる。
…淡々とした表情の裏で、マリアの反応を面白がっているのは言うまでもない。

マリア > 「……やっぱり,ちょっとだけ不安です。
 ずっと,可愛い服を着ること,夢だったのですけれども…。」

今までにない感慨,と,その言葉には期待と同時に不安が掻き立てられる。
女性用の下着に腕を通した時に感じた違和感が,色濃く残っていた。

「すみません!!……その,頑張りますので……っ…。」

クローデットの言葉には,咎めるような響きも,反応を楽しむような響きも,まったくなかった。
淡々としたその言葉に,マリアは身体中に力を入れ,努めて平静を保とうとする。
……が,一度気になってしまったものは,なかなか意識の外へは捨てられない。

「………っ!…………や、……っ……!!」

わざとやっているんじゃないだろうかと思うほどに,肌に触れてくるクローデットの手。
マリアは,期待した以上の反応を見せたかも知れない。
決して動かないよう努力して努力して,耳を真っ赤にしながら……でも,結局身をよじってしまっている。

クローデット > 「…シュピリシルド様、ずっと黒ばかりだとおっしゃっておりましたものね」

くすりと笑みを零し、マリアとの会話に応じながらも…淡々と、補正作業を続ける。
まるで、マリアの反応など意に介さないかのように。
…だが、マリアが身をよじればよじるほど、補正のために動くクローデットの手が、力を増す。

「…申しわけありません…動かれてしまうと、どうしても強引に手を入れざるを得ませんので」

淡々と、そう告げる。
クローデットの手は偽りの胸部を綺麗につくるためだけに動かされてはいるし、クローデットの言葉も事実ではある。
…しかし、淡々と作業をする裏で、クローデットがマリアの反応を面白がっているのも事実だった。

「…お疲れ様でした。胸の形は何とか作り終えましたわ」

それでも、何とかバストメイクを終え。
今度は、コルセットを持ってくる。

「シュピリシルド様の細さであれば、ウエストを締める必要はないのですけれど…ビスチェの代わりです」

そう言って、コルセットをマリアの胴体部にあてがう。

「胸の下の部分を、押さえておいて下さいませ。
コルセットが落ちないように…しかし、胸の部分が崩れないように、お気をつけて」

淡々とマリアに指示を出しながら、マリアがコルセットを押さえればそれを締めにかかる。
クローデットの言葉通り、ウエスト部分には苦しさをほとんど覚えないだろう。

マリア > クローデットの言葉に答える余裕は無かった。

「…………ッ……!!」

淡々とした口調で告げられる言葉に心の中で謝りながら,
こそばゆくて,恥ずかしくて……声を出さないよう耐えるので精いっぱいだった。

「…っはぁ!本当にすみません…こそばゆくて,あぁ……もう…。」

作業を邪魔してしまった自己嫌悪も相まって,真っ赤になりながらもしょんぼりと視線は下がる。
けれどクローデットは淡々と,今度はコルセットを持ってきて……

「…えっと,こう,ですか?」

せっかく作ってもらった胸が崩れたらまたあの拷問が始まる。
そう思えば,絶対に崩すことはできなかった。
コルセットを押さえて,クローデットにゆだねる。

「……………。」

緊張してか,マリアは呼吸を止めていた。
クローデットの言葉通り,思ったより締め付けが優しかったので拍子抜けだったが。

クローデット > 羞恥と…自己嫌悪もあってか顔を赤くして俯くマリアに、

「いえ…あたくしの方こそ、きちんとしたお胸の補正用のパッド等があれば、もう少し手間が省けたのですけれど。
…普段は、用がないものですから」

と、穏やかに笑みかける。
…間接的に、クローデットの胸には補正が入っていないことを示しているが…今のマリアにそのことに感づくことが出来るかどうか。

「ええ…ありがとうございます」

マリアがコルセットを押さえたのを見計らって、丁寧にコルセットを締めていく。

「…お疲れ様でした。
それでは、腰回りもボリュームを足していきますわね」

そう言って、腰の後ろの部分にタオルを重ねて、最後にタオルをくるりと巻く。
パニエを2枚持ってきて…それを、タオルを押さえるようにマリアに穿かせた。

マリア > 首を小さく横に振ってから,

「いえ,私のような事情を抱えている人なんて,そうそう居ないでしょうから。」

そうとだけ答えた。女性が胸を補正する,という事実を,詳しくは知らないのかもしれない。
コルセットが締まれば…マリアは姿鏡へ視線を向けた。
そこに立っているのは自分…のはずなのだが,なぜか,そう感じられない。

「……あ,おねがい,します!!」

声を掛けられて,慌てて言葉を返しながら…腰回りの作業は,先ほどの胸に比べれば楽だった。

クローデット > 「あら、女性でも補正される方は結構いらっしゃいますのよ?
大きさもですけれど…形とか。
あたくしには必要ありませんし…ハウスキーパーの方も、そういった補正をさほど必要としない服を好みますので、ここには置いていないのですが」

そう言って、くすりと笑む。
マリアが、「女性が装うこと」の知識にさほど優れていないことが伺えた。

そうして、パニエを穿かせたところで、改めてマリアが選んだワンピースを持ってくる。
肩の部分はショートケープになっていたらしい。それをぱちんと外して、ワンピースをジャンパースケート状にし、ファスナーを下ろす。

「それでは、参りますわね」

それから、マリアの頭から、そのワンピースを被せた。
マリアが袖を通せば、そのファスナーを締めるだろう。
最後にショートケープをつけ直せば…綺麗に「女性の身体」を装ったマリアが出来上がるだろう。

マリア > 「……そうなのですか。女の人も,いろいろと大変なのですね…。」

知らなかった知識だが,今後それを生かすことがあるのかどうかは疑問だ。
クローデットと,まだ見ぬハウスキーパーが使っていないということから,それらを必要とする割合は少ないのではないか,などと,思いつつ。

改めて,選んだ服を見る。普段なら,あんな服を選ぶことはしないだろう。
落ち着いた配色だが,改めて見ても,可愛らしいと思った。

「……はい,お願い…します!」

目を瞑って,クローデットが被せてくれたワンピースに袖を通す。
柔らかくて,肌触りが良い……その感触が,その服の質の良さを物語っていた。
ファスナーが締められる………マリアは,ゆっくりとその目を開けた。

最初にクローデットの方を見て…それから,姿鏡へと,恐る恐る,といった様子で視線を向ける。

クローデット > 「ええ…「美しさ」というのは、女性でも悩まされるものです。
…得られた際の喜びもまたひとしおなのが、悩ましいところですが」

くすりと、楽しげに笑む。
クローデットが「美しさ」を追い求める作業に見出すのは、快楽の方が大きいことがその表情から伺えるだろう。

「ふふふ…お綺麗ですわ。
どうぞ、正面からご覧になって?」

着替えが終わり、恐る恐る目を開けるマリアの耳元に、背後からそっと囁き、正面から姿見を見るように誘導する。
女性らしい箇所にふくらみが乗ったように見える、柔らかい色合いのワンピース姿。
ワンピースが補正の内実を隠せば…いつも以上に、マリアの外見的な「性別」は、疑えそうもなかった。

「シュピリシルド様がお望みであれば、御髪も整えさせていただきますけれど…どういたしますか?」

姿見を見るマリアの耳元で、優しく囁く。

マリア > 正面から鏡を見たマリアは,言葉を失っていた。
その変化は体系と服装,とても単純なものでしかない。
けれどそれだけで,まるで本当に“少女”であるかのように,
クローデットと同じくらい,とまではいかないが,美しいと,感じられた。

「………これ,私ですか…?」

漏れるのは,感嘆と,困惑の声。鏡越しに見えるのは,クローデットの楽しげな笑み。
そんなクローデットが耳元で優しく囁けば…マリアはその身体を,ピクリと震わせた。

「あ,えっと……その…………。」

マリアは不思議な感覚に陥っていた。
鏡に映る自分は,普段の自分の姿に比べても,本当の女性のようにしか見えなくて,
何故かそんな自分の姿が,自分とは思えなくて……

「……えっと,お願い…しても良いですか?」

……困惑したままに,クローデットの言うがまま,頷いてしまう。

クローデット > 「ええ…もちろん、シュピリシルド様ですわ」

相変わらず、マリアの耳元で囁くクローデット。
「男性性の欠如」と、「女性的」の顔立ちの違いはあるが…それでも、2人の体格差もあって、年齢による差異として埋もれてしまうだろう。
…それでも、マリアが戸惑った表情を浮かべているのを見て、少し含みのある微笑を見せるが…マリアが頷けば、

「それでは…ヘアアレンジ用の道具を持って参りますので、お待ち下さいね。
…鏡台は寝室にあるのですけれど、流石にそちらにご案内するわけには参りませんから」

そう言って、くすりと楽しげで邪気の薄い笑みをこぼすと…また、クローデットは一旦クローゼットを出て行く。

【続きはまた後ほど】

ご案内:「クローデットの私宅」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」からマリアさんが去りました。