2016/09/25 のログ
ご案内:「トレーニングジム『タイタン』」に加賀智 成臣さんが現れました。
■加賀智 成臣 > ガシャンガシャンと、金属がぶつかりあう音が聞こえる。
傍らでは、ドスンと重いものがマットの上に落ちる音が聞こえる。
ここは常世島の鍛錬場…トレーニングジム『タイタン』。
異能の力以外にも身体能力が求められるこの常世島では、比較的繁盛しているらしい。
そのためか、専門的な設備や大掛かりな機器もたくさん置いてあった。
「……えー、と。」
そんな中、あたりを見回すヒョロい青年が1人。
割引券をゴミ箱から拾ったため来てみたが、どうしたものやらさっぱりわからない。
とりあえずベンチに座り、小さなダンベルを弄くり回している。1kgのやつである。
■加賀智 成臣 > ベンチプレス。できるわけがない。
懸垂。肩が外れそうだ。
ランニングマシン。1kmいけるかいけないかだろうか。
兎にも角にも…加賀智 成臣という男にとって、ここはあまりにも場違いだった。
辺りから飛んでくる好奇と侮蔑の目線が痛い。
「………。」
あたりを見回せば、筋肉モリモリマッチョマンの祭典である。
女性も混じってはいるものの、大体は男性で……かなりガタイの良い男たちだ。
中にはガラの悪い男もいる。目を合わせないように、できるだけ下を見た。
■加賀智 成臣 > 「…………。」
とりあえず、ダンベルを両手に持つ。一番軽いやつである。女性の笑い声が聞こえた。
それを、何ともなしに上下に振ってみる。上下、上下、上下。
「………はぁ。」
……疲れてきた。自分の非力さが嫌になる。
やはり、気軽に来るような場所ではなかったかもしれない。空気が悪いのか、なんだか胸が苦しくなってきたし。
ホコリが多いのだろうか?このままでは喘息の発作が起きそうだ。
ご案内:「トレーニングジム『タイタン』」に白泉椿丸さんが現れました。
■白泉椿丸 > 加賀智を侮辱するような男たちの視線。
加賀智の非力さを笑う女たちの視線。
その全てが、一瞬にして別の存在に引っ張られた。
黄色に黒のラインが入った、運動用のタートルネックインナー。
悪環境にも負けないウォータープルーフの黄色いルージュ。
その緑の瞳に湛えるのは優しさか、それとも――――
要するに、明らかに目立つ筋肉隆々のオカマがジムへ入ってきた。
■加賀智 成臣 > 「………………。」
引っ張られたのは、男や女の視線だけではなかった。
当の本人である加賀智の視線も、それに引っ張られた。
まあ目立つ格好をした筋骨隆々のオカマが入ってきたら注目もするというものである。
「……いてっ。」
ガン、と音がした。椿丸の姿に気を取られて、ダンベルを取り落として足に落っことしてしまったのだ。
一番軽いとはいえ、落ちればそれなりに痛い。
「あぁ……………。」
しかも、床のタイルが衝撃で欠けてしまった。申し訳ないことをしてしまった。
しかし弁償するお金もないので、ゴホゴホと軽い咳をしながらその場でうなだれているくらいしか出来ない。
■白泉椿丸 > 来たばかりだというのに既に筋肉が隆起しているのは、
このトレーニングジム附属のプールで1時間キメて来たからだろう。
しかも普通の競泳プールではなく、ジムの名物の一つである水流プールの方で。
「アラッ、大丈夫ゥ~~~?」
ふわふわピンクのタオルとドリンクを片手に、ひょろ長い青年にオカマが近づいて来た。
いつもなら服装のインパクトで隠れている、オカマ独特のしなやかな歩行姿である。
しかし、その背中を笑うものはいない。オカマの背中に筋力の鬼神が"笑っている"のを、知っているから…。
「慣れないトレーニングは身体を痛めちゃうわよォ。お試し体験の子?」
ジム的な意味で。
■加賀智 成臣 > 「………あ、いえ……大丈夫です…げほっ。
それより、床が……」
ダンベルを元の場所に戻して、ぐったりと下を向いている。
なんだかこの世の終わりのような声色をしている。
「……あ、はい……その、割引券を拾ったので……
でもやっぱり、駄目ですね……僕なんかじゃ……」
はぁぁぁ、と大きくため息を吐き出したあと、ゴホゴホと咳をした。
見ればなるほど、筋肉も脂肪もない…ひょろ長い骨と皮だけである。
正直言って、ジムに来る以前に病院に行けと言いたくなる体型。
■白泉椿丸 > 床ごときで死にそうな声を発しているモヤシボーイに、オカマはアラヤダとその背中をさする。
普通は割引券を拾っても、ジムにくるってことはなかなか無いはずなんだケド…。
何か変えたいと思ったのか、単純に興味があったのか。
アタシ、そういう「とりあえず行ってみる」の精神、嫌いじゃないわよ!
やってみてわかることって、たくさんあるものネ!
「ンマッ、そんなことないはずよォ。やり方を知らないだけよォ。
ここは自主トレーニングの人のが多いから、トレーナーは声をかけないと出てこないし。準備運動のストレッチはした?」
大丈夫?オカマの胸筋揉む?
そう訴えるかのように、ぜんそくじみた咳をする青年に気を揉む。
■加賀智 成臣 > 「……あ、すいません……ありがとうございます……」
背中を優しくさすってもらい、少しは楽になったようだ。
少し苦しげではあるものの、咳は一応治まった。
「……あ、いえ……やり方がわからないし……とりあえず見学だけしようかと……
体も弱いから、あまり無茶できませんし……こんな所で倒れてたら迷惑がかかりますから……」
はぁ、とまたため息。幸せが可視化できたら、多分ため息の度にどんどん逃げていく姿が見えるだろう。
……ジムへ来た動機はともかく、どうにも自分に自信が持てない人種のようだ。
■白泉椿丸 > 「見学だったら、なおさらトレーナーを呼ばないとネ。
ああいう(オカマが指さす方向にはダンベルを動かすマッチョマンがいた)のは、何年も鍛えた後に出来ることよ!」
筋肉のみために騙されちゃダメよ!とオカマは言う。
しかしその後に、筋肉は良いわよともつけ足した。
曰く、勉強よりも気にかけただけ眼に見えて返って来る成果だと拳を熱くする。
「無茶にならない程度の運動量を知るのがトレーニングの基本だから、そんなに落ち込まなくて良いのよォ~。
アタシにも眼鏡クンみたいな細い時期があったし、
あそこでぽっちゃりに囲まれてお高くとまってるブスは、8か月前に130kg以上あったピッグちゃんよ!」
どこかツンケンした雰囲気の女性は、オカマの声が聞こえたのだろう。
飲んでいたスポーツ飲料を思い切り噴き出した。
■加賀智 成臣 > 「あ、はい……すいません。
……やっぱり、努力しないといけませんよね……昔から体が弱くて、こういうのは……」
ちらっと、指差した先を見る。自分とはまるで違う体型の男が汗を流していた。
自分の腕を見た。……細い。あの男が摘んだだけで折れそうだ。
「……そうなんですか?
………頑張れば、そんな風になれるんでしょうか。」
ゲホゲホとむせる女性を見ながら、少しだけ羨ましげな視線を向ける。
だが、キッと睨み付けられたので慌てて視線を反らした。ちょっと怖かった。
■白泉椿丸 > 「ここの常連に写真を見せてもらったから、まず間違い無いわネ。
あそこの子は足が大根っていうより太ったレンコンだったけど、今は綺麗な曲線になってるし」
女の転身って男よりもスゴいと思わない?といらぬ共感を投げる。
「なれるわよォ~!眼鏡クンが望んで進むなら、必ず結果がついてくるわ。
世の中は努力しても結果がついてこない事も多々あるけど、筋肉だけは裏切らないの…。
肉体はあなたを包む、あなた自身なんだからネ♡」
そういうと、オカマは持っていたドリンクを青年に差し出した。
「アタシ、この奥の減圧室の予約を取ってるからそろそろ行くケド。
トレーナーにお話を聞いてみたいなら、声かけとくわよ!」
■加賀智 成臣 > 「………。
…すごい、ですね。たくさん努力したんでしょうね……」
はぁ、と小さなため息を吐いて、その女性を見る。
また睨み付けられたので視線を逸らした。
「…………。望んで進む……かぁ。
……はい、ありがとうございます。でも、大丈夫です。
今日はこのへんで帰ろうかと思ってましたから……ゲホッ。喘息の調子も、少し悪いですし……」
そう言って、ドリンクを受け取った。
良いのだろうか、という顔をしていたが、そういう雰囲気だったので貰っておいたのだった。
「(………望んで進む……。僕が望んでいることは、あるんだろうか。
いや、そもそも…僕なんかが何かを望んで良いのだろうか……?)」
■白泉椿丸 > 「進む道を苦しく感じるのも、楽しく感じるのも自分次第だからネ」
青年がドリンクを受け取ってくれれば、オカマはニコッと笑った。
帰るなら、良く知っているトレーナー(オネエ)に声をかけなくても良いか。
オカマは軽く背伸びをし、青年に背を向ける。
「気圧の変化でも喘息は酷くなるようだから、身体を冷やさないようにして帰るのよォ」
そう言いながら歩き、途中で振り返り――ウィンクをバチコンと飛ばして、奥の減圧室へと消えていった。
ご案内:「トレーニングジム『タイタン』」から白泉椿丸さんが去りました。
■加賀智 成臣 > 「………………。」
その背中を見守る。逞しく、どこか頼れる背中であった。
椿丸が居なくなった途端、周囲からの視線がよりいっそう厳しくなった気がする。
そそくさと逃げるように退散した。
「……はぁ。」
外に出れば、日は少しずつ傾き始めている。夏も終わり、秋深まる時期。
活気と熱気が何処かへ遠ざかっていく雰囲気に、物寂しさを覚えながら帰路についた。
「……………。」
望みは、死ぬこと。その通り。……の、はずだ。
では自分はなぜこんなところにいるのだろうか。さっさと死ぬ方法を模索しに帰るべきではないのだろうか。
……自分の望みとは、なんだろうか。
ご案内:「トレーニングジム『タイタン』」から加賀智 成臣さんが去りました。
ご案内:「クローデットの私宅」にクローデットさんが現れました。
ご案内:「クローデットの私宅」にマリアさんが現れました。
■マリア > クローデットが居なくなって,マリアは姿鏡をまじまじと見つめた。
そこに立っているのは,兄や父と談笑していた“女性”と変わらぬ美しい姿の“自分”だった。
「………………。」
見よう見まねだが,スカートの裾をつまんで,軽くお辞儀をしてみる。
ずっと,こんな姿でパーティに参加してみたいと思っていた。
兄や父と話していた女の子たちのように。
……けれど,実際にこうやって実現してみると,何かが違うような気がする。
■クローデット > ヘアアイロンやら、各種様々なピンやら、ヘアアレンジのための様々な道具を持って戻ってきたクローデットの視界に入ってきたのは、階級物語の社交会の「ご令嬢」達のような所作で、姿見に向かってお辞儀をしているマリアの姿だった。
「ずっと、そうされている女性の姿をご覧になっていらしたのですね?」
楽しげに笑いながら、後ろから話しかける。
「…お待たせいたしました、御髪を整えさせていただきますわ。
…どのようになさりたいか、ご希望はございますか?」
声に反応してマリアが振り向けば、そこには満開の笑顔を咲かせているクローデットの姿があるだろう。
■マリア > そんなに早く戻ってくるとは思っていなかったのか,
クローデットの声に身体をびくっと震わせた。
「………ッ!!」
何だか,見られてはいけないところを見られた気がして,
すぐに姿勢を正したのだけれど,それが逆に滑稽だったかもしれない。
「こんな格好をすると…その,仕草も変えなくてはと,思いまして……。」
振り向いたマリアは耳まで真っ赤である。
クローデットの問いが届くにはずいぶん時間がかかった。
「……あ、えっと……私,髪,弄ったことがなくて…。」
分からない。そう表情が告げていた。
■クローデット > 「とても、可愛らしい「お嬢様」でいらっしゃいましてよ?」
びくっと身体を震わせ、すぐに姿勢を正すマリアの様子を見て、おかしそうにくすくすと笑いながら。
…それでも、その笑い声に悪意の響きはないあたり、クローデットの真意は随分胸の奥深くに沈んだものである。
「そうですわね…装いには、相応しい仕草があると思いますし。
…いずれ、シュピリシルド様がご自分の足で立たれる際には、そのような装いもご自身でなさるのかしら?」
マリアのぎこちない弁明をあざ笑うこともせず、にっこりと優しげな微笑を向ける。
…その視線で、「彼女」が違和感を抱いている兆候を、端々で捉えてはいるのだが。
「あら…そうなのですか?
お化粧はなさるのに、もったいない。神秘的で、お美しい髪色でいらっしゃるのに」
同じ銀色系統ではあるが、クローデットの髪はマリアのそれより暗く、どこか硬質な印象を与える。
…だからこそ、クローデットは「女児らしい」ピンクを、他の女の子達より早い段階に卒業してしまっていた。合わないのだ。
「…そうですわね…シュピリシルド様はあまり背が高くはございませんから、アップスタイルがよろしいかと存じますけれど…全部まとめ髪にして首筋のラインを出すのは、控えた方がよろしいでしょうね。
………あたくしに、任せて下さいますか?」
そう言って、にっこりとマリアに笑みかけた。
ワンピースを脱げば、「少女性」をほとんど脱落させてしまう「彼女」に、フルアップは危ういだろう。
そんなことを考えながらも、ヘアアイロンの差し込みプラグを、部屋の隅のコンセントに押し込んだ。
■マリア > 「お恥ずかしいところをお見せしてしまいました……。」
こればかりは素直に恥ずかしかったらしい。
目を合わせることもせずに,視線を下げたまま……
「……毎回このように着飾るのは,少し大変そうです。
それに,なんだか…私が私じゃないみたいな感じで……。」
まだ慣れないからでしょうか。なんて笑って見せるが,
その違和感の根源がどこにあるのか本人はまだ明確には理解していないようだ。
……男性として生まれながら,女性として育てられたマリア。
「有難うございます…お手入れの仕方は教わったのですが…。」
色素を持たないが故に,その髪は神々しいばかりのプラチナであり,
その言葉通りに手入れが行き届いた髪は艶やかで,手触りも良い。
黒い衣装はこの髪を際立たせるためには,確かに良い選択だったかもしれない。
「……えっと,お恥ずかしい限りなのですが,本当に何もわからなくて…。
お任せしてしまっても,よろしいでしょうか?」
■クローデット > 視線を下げたままのマリアの様子に、くすりと笑みはこぼすが…追求はしないでおいた。
…そして、違和感を表明する「彼女」に対しては…
「そうですわね…慣れの問題もありますけれど、一人で補正までなさるのは、少し骨が折れるかもしれませんわね。
…簡単に補正が出来るお下着など、あれば良いのですけれど」
(まあ、異性装自体はまああり得る趣味・指向ですし、探せばあるでしょうね)
流石に、この世界で生まれ育つクローデットは要らんことまでよく理解していた。
まあ、そんなことはおくびにも出さずに、柔らかい微笑をマリアに向けるのみだが。
「…実際のところ、適度におまとめになった方が動きやすかったとは思いますけれど…雑なまとめ方をすれば「女性性」の装いを損ないかねませんし、難しかったのでしょうね。
………ええ、承りました」
マリアに「お任せ」されれば、にっこりと満面の笑みを浮かべて。
「…それでは、こちらに座って、姿見の方を向いていただけますか?」
と、丸い、背もたれのない椅子を棚の陰から引き出した。
■マリア > クローデットの言葉に,返す言葉は歯切れが悪かった。
「……確かにそうですわね……これを一人でやるのは難しそうです。」
マリアの中でも,違和感がまだ言葉にならないのだろう。言葉と言葉の間が,不自然に開いていた。
けれどクローデットが“違和感”について多くを指摘しなければ,内心の迷いをそのまま飲み込む。
「……そうなのかもしれません。
この髪の色も…肌の色も……本当に,珍しいものでしたから。」
今の時点ですでに,自分が自分でないような気がしている。
だからこそ,クローデットにそれを任せるのは,少し不安だった。
けれど………
「……あ,はい!…こんな感じで,良いですか?」
……クローデットの笑みを見ると,何だかそんな不安も和らいで,
髪を整えてもらえるのが,なんだか少し,嬉しいことのような気がした。
■クローデット > 「一人で出来る方法を探すのも、いい勉強になりそうですわね。
…無論、そうなさらないのもシュピリシルド様のご意思次第ですけれど」
何か、割り切れないものがあるらしいマリアの口調を急かさないように、優しい口調で語りかけながらも…その”違和感”の正体は、指摘しないでおいてやる。
…クローデットからすれば、最初の2回の邂逅の時点でおおよそ見えていたことではあった。
「こちらの世界でも、あまりない御髪の色ではございますけれど…
お美しいのですから、どうか自信をお持ちになって」
優しく、囁くように語りかける。
そして…マリアが嬉しそうに椅子に腰掛け、姿見の方を向くと…
「ええ、それで構いませんわ。
…極力、シュピリシルド様に痛くならないように務めますけれど…時折引っ張るかもしれませんから、出来るだけ堪えて下さいませ」
そう、マリアの耳元で声をかけてから、まずはマリアの髪に櫛を通す。
それから、髪をいくつかのまとまりに分けて、ヘアアイロンを使って巻き始めた。
■マリア > 鏡に映る自分はこんなに美しくて,可愛らしい。
なのに,どうしてこんなにも,気が進まないのだろう。
「…いろいろと,試してみても面白そうですね。
でもなんだか……」
あぁ,と,一つだけ,その理由に思い当って…
「……私,こんな風に一緒に居られる方って,ルナン様の他に居ないので。」
見せる相手もいないし,きっと,褒めてくれる人もいない。
今はクローデットが一緒に笑ってくれるのだが,クローデットが居なければ,その姿は“求められて”いないのだ。
男性性と女性性の間で揺れ動きながらもその事実に気付かぬマリアは,
そうやって自分以外の誰かを理由にするのが精いっぱいだった。
「……そんな……ありがとうございます。
ルナン様にそう言って頂けると……嬉しいです。」
マリアはクローデットに言われた通り,じっと動かずに堪えていた。
くすぐったいと感じることもないので,胸を盛った時よりは楽だ。
初めて見るヘアアイロン,興味津々といった様子で視線は鏡越しにそれを追いかけ……時折,クローデットの表情を見る。
■クローデット > マリアが、違和感の理由を一つ「作り上げ」………いや、もしかすると、この依存状態から察するに嘘のうちには入らないのかもしれない。
「あら、そうですの…。
………この世界できちんと立てるようになれば、きっとお見せ出来る方も増えますわ」
そう、優しげに励ましておいた。
少なくとも今は、若さが美しさを担保してくれる。本人だって、「このままであり続けるならば」美しさを保とうという努力くらいはするだろう。
………そうなれば、きっと「彼女」を「求めて"しまう"」人間は、現れる。
もっとも、「彼女」が「彼女」であり続けるかどうかは、また別の話でもあるのだが。
「ふふふ…こうして巻くと髪のボリュームも増えて華やかになりますのよ」
マリアに話しかけながらも作業をするクローデットは、静かな楽しみに満ちあふれたような瞳をしている。
ゆるすぎず、きつく巻き過ぎず。上品な巻き髪が出来上がると…クローデットは、その髪を少し高めのハーフアップの形に持っていこうとする。
クローデットの手首から、ふわりと零れる香りは…甘い花の香りながらも、優しい。
…ただし、髪をまとめようとする際には、少し、髪を引っ張られるような感覚はあるかもしれない。
■マリア > 嘘は吐いていない。ただ,それだけでは説明し切れていないだけだ。
これまでずっと女性として育てられてきたマリアだが,
それは女性で居れば兄弟や父から必要とされるからだ。
……その理由を抜きにすれば,本当に女性になりたいと思ったことは,まだ,一度も無かった。
「学校へ行ったりすれば……そうかも知れませんね。」
にっこりと笑ってそう返したが,少しだけぎこちなさが残ったかも知れない。
学校へ行く……他人と関わることになったとして,
自分はいったい,どんな顔をして,どんな風に関わればいいのだろう。
「……………………。」
“魔女”としてしか,他人と関わったことは無かった。
こうして“女性”として自分を扱ってくれるのはかつてのメイドや乳母たち。
それから,この世界で出会い,全てを看破されたクローデット。
今,こうしてクローデットと会話をしながら“美しい”自分を作り上げているのは,本当に楽しかった。
クローデットの甘い香りに包まれているが,今はそれさえも,温かく自分を包んでくれる。
「…………ルナン様,馬鹿なことだと思うので,聞き流してください。」
「私,今,とっても幸せです。」
■クローデット > マリアの葛藤には、見当がついている。
…しかし、そこに「助け舟」を出してやるほどの義務感を、クローデットは抱いていなかった。
寧ろ、自分の「楽しみ」の、邪魔になるとさえ考えていた。
「シュピリシルド様のような境遇の方には、同じようなお気持ちを抱えていらっしゃる方も大勢いらっしゃいますし…そういった方々の支援も、委員会(あたくしたち)の職務のうちですから。
…どうか、遠慮なく頼って下さいませ」
マリアの事例は極端なもののうちだろうが、学校なんて存在しない場所から来た異邦人は、大なり小なり適応に苦労はしているはずで。
あまり気負うことはないのだと、真意を隠しながら優しく諭す。
そうして、ハーフアップにした髪を、髪色に溶け込むような色のゴムで留め…全体の形を整えるように、アレンジした髪の各所をピンで挿し、支える。
「………そうですか………。
それは、何よりですわ」
マリアの「戯言」は、聞き流されなかった。
優しさと、艶を兼ね備えた微笑を浮かべて、マリアの耳元に唇を寄せ、優しく、甘い声で囁く。
…今のマリアの言葉に、将来の「破綻」を確信した喜びを…心の、ひたすら奥底に押し込めながら。
■マリア > 助け舟を期待しての言葉ではなかった。
自分自身の思いが分からず,それを自分自身で探っている最中だった。
「ありがとうございます……本当に,この島は良いところですね…。
でも,できるだけ……お手を煩わせないよう,努力しますわ。」
クローデットの言葉に,マリアは少し勇気づけられたようだった。
僅かに自然な輝きを取り戻した笑顔で,鏡越しにクローデットを見る。
……ヘアメイクを施した自分の姿は,これまで見たことが無いくらい“美しい女性”だった。
「………………。」
その微笑を鏡越しに見て,マリアは静かに目を閉じた。
開きかけている“綻び”を見ようとしないマリアは,あまりにも不安定な綱渡りをしているようなものだ。
しかも,渡り切った先に待っているのは“破綻”のみ。
それを知らず,無垢な笑みを浮かべるマリアは,嘘偽りなく,本当に幸福だった。
■クローデット > 「誰でも、最初は一人では歩けぬものです。
…「自立」しているように見える者は、広く、浅く…様々な相手に依存しているに過ぎませんのよ。
広く浅く、様々な相手に依存する手段として…「貨幣」というものが存在するのですから」
そんな風に穏やかに語り、マリアの背中を、更に後押ししようとする。
…完全に真意を隠した、善意の言葉。
ヘアメイクの仕上げの前、髪の形を作ったところで姿見を見…そこで、「何故か」目を閉じるマリア。
「綻び」が裂け始める音を、クローデットは聞いた。
………しかし、これで終わりではない。
「…最後のもうひと仕上げがございますから…そのまま、目を閉じていて頂けますか?」
マリアの「揺らぎ」が見えない「ふりをして」、純粋に楽しそうな声をマリアにかける。
それから、棚の上の方に手を伸ばして…薄紫色の、スイートピーをモチーフにした髪飾りを取る。
…そしてそれを、高めのハーフアップにした髪に沿わせるように飾って、ピンで留めた。
「………はい、出来上がりです。
シュピリシルド様、長時間お疲れ様でした」
気品のある巻き髪を、高めのハーフアップで華やかにまとめる。
そして、そこに花の髪飾りをつけ、女性らしい柔らかい印象を加えた。
クローデットは、マリアの後ろに佇んだまま、別の鏡を用意して、後頭部のヘアアレンジがどのようになっているかを見えるようにする。
………「彼女」の感想が、本当に楽しみだ。