2017/03/23 のログ
ご案内:「セシルの少年期」にセシルさんが現れました。
■セシル > 嫡出の男子がラフフェザー家に生まれてからも、セシルが「男装」をする時間はほとんど減らなかった。
祖父の機嫌取りという部分もあったが…セシル本人が、「女性としての」教育を疎ましがったのである。
乗馬を覚えるよりドレスの捌き方を覚えろだの、家庭を守るため助けのために治癒魔術くらいは理解出来るようになっておけだの。
セシルからすれば、馬に乗るだとか、剣の稽古のついでに幼い弟の面倒を見るだとかの方が、ずっと楽しかったのだ。
『事情が変わったんだから、ちゃんと勉強してよ。もしかしたら、もしかするかもしれないでしょ』
…母親の態度の激変が、腑に落ちなかったのもあるかもしれないが。
■セシル > ただ、人間関係の変化はあった。
父の正妻の態度が軟化して、腹違いの姉が折りを見ては一緒にいたがったのだ。
「女の子らしい」遊びをほとんど知らない、そのための道具もろくにないセシルと異母姉が向き合うとき、それは、「女性としての」教育の手助けの形をとることが多かった。
当然、セシルは最初は疎ましがったのだが…
『セシルより私の方が血が近いのに、セシルの方があの子と仲いいのよね』
『…羨ましいわ。あの子は、まだ勉強するような歳でもないし、性別も違うから近づく切欠もなくて』
『おじい様は、自分の剣術を受け継いでくれない孫には、そこまで興味ないみたいだから』
…彼女の孤独を思った時、空いた時間の勉強くらいは付き合わなければいけない気になったのだ。
聡明な姉は、年相応の孤独感を抱えた少女でもあったのだ。
そして…そんな孤独な少女にとって、社交の場は承認欲求を満たす絶好の機会となったことだろう。
■セシル > そんなわけで、姉の助けを借りつつおざなりに「女性としての」勉強もこなし、たまには社交の場にも出たセシルだったが、やはり生活の中心には剣の稽古があった。
セシル達の祖父はまだまだ壮健で、彼の隠居とともに、孫二人への剣の稽古の密度が飛躍的に上がったのである。
セシルは、めきめきと強くなった。それはもう。
…たまに出る社交の場で会う同年代の武門の子息に、そうそう負けないくらいには。
■セシル > 『あんた、そんなに強くなってどうすんのよ…デートが剣の出稽古、おまけに相手を徹底的に負かして帰ってくるって、何のつもり?』
「どっちに似ても元は悪くないはずなのに」と頭を抱える母に、セシルは穏やかに笑った。
「女の私に負けるような連中、どうせ出世は期待出来ないでしょう」
『………あんた、自分が軍に入って出世した方が早いと思ってるでしょ』
母の指摘に、セシルは笑って返すのみで否定も肯定もしなかった。
■セシル > 社交の場に出てくる程度の上流階級の子息であれば、自分の出自は絶対どこかで問題になる。
問題にしないような子息は、「本物」ではない。
たった7年ではあった。
しかし、「女」としての期待を徹底して削がれたその時間は、セシルを諦観で固めるのに十分だった。
…そして、階級社会たるセシルの故郷において、その諦観を打ち砕けるような人間は現れなかった。
■セシル > 『………あんた、本当にどうするつもり?』
貴族の令嬢が「家庭を守るための魔術」を学ぶための女学校。
腹違いの姉がそこに進学し、セシルの進路が問題になったとき、母親が焦燥を滲ませて問うた言葉だ。
この頃のセシルは、「弟の剣の稽古を見てやる」ことを口実に、社交の場にすら、ほとんど顔を出さなくなっていた。
「もちろん、おじい様の同窓になりたいと考えていますよ。
あそこであれば、少なくとも出自であげつらわれることはありませんからね」
そう言って、セシルは笑った。とても、朗らかに。
■セシル > この頃、流石に衰えを見せながらも存命だった祖父は、セシルの希望を聞いて嬉しそうに笑った。
『そうか…だが、剣術科の入学試験の時は、魔術も異能もなしで純粋な実力を問われるからな。厳しいぞ?』
「構いません。精進します」
「剣士」の顔で、祖父にそう答えたセシル。
そして………命の残り火を燃やすかのような祖父の厳しい稽古の甲斐あって、セシルは無事に、士官学校に合格してしまうのであった。
ご案内:「セシルの少年期」からセシルさんが去りました。