2017/03/26 のログ
ご案内:「セシルの選択」にセシルさんが現れました。
セシル > 士官学校に入学したセシルだったが、腕に自信がある若者が階級を超えて集まってくる場所だけあって、細身に見えるセシルは舐められたのだ。
祖父に厳しい鍛錬を受けただけあって、剣術の成績は上から数えた方が早かったが…

『ラフフェザーさん、これ…』

女子生徒が、セシルに手紙を差し出す。
これも、ほぼ男子校の剣術科ではセシルの敵を増やす理由だった。

入学時点でそれなりに背が高く、剣士でありながら汗臭さの薄いセシルは、女子生徒の注目を集めることになってしまったのだ。
一応女子制服だが、パンツとスカートを選べるので結果は似たようなものである。

セシル > 幸い、士官学校であれば将来の立場上「国歌を歌うため」という理由で最低限の音楽の授業があり、教師がいる。
そんなわけで、セシルは「迫力のある低音の出し方」を教師に習い始めた。
もちろん剣の腕も磨き、セシルの祖国の軍隊の花形である魔法剣もきちんと修め…セシルが女子生徒との関係に線引きするタイプの人間であることが周知されていくと、徐々にセシルは剣術科の同級生と、上手くやれるようになっていった。

そんな折、セシルの祖父が他界した。

セシル > セシルはもちろん、学校に休みを申請して実家に帰り、葬儀に参列した。
今際の際に傍にいた家族の話によれば、祖父は最期までセシルのことを案じていたとのことだった。

『お前は、よく尽くしてくれた自慢の孫だ』
『どうか、これからは自分の人生を生きて欲しい』

と言っていたと。

セシルは、その心遣いに感謝すると同時に、どこか冷えた感慨も抱いていた。
一体、どうしろというのだろう。身分の低い妾の子で、どこの世界にも属しきれない半端者の、自分が。

セシル > 学校に戻ってからも、財産分与などの処理の関係で、セシルは実家と学校を行き来する生活をしばらく続けた。

セシルを気に入って…そして、将来を案じてくれていた祖父は、セシルにもかなりの遺産を譲り渡してくれた。
きっと、この家を出ても大丈夫なように、と考えてくれていたのだろう。不義の子たるセシルは、実父からの財産分与はあまり期待出来ないから。

…しかし、セシルが案じたのは、自分よりも、母のことだった。
士官学校に入れた自分は、よほどのことがない限り自分の生きる分は何とでもなるだろう。
しかし…父が死んだ後の母の居場所はどうなるだろうか。

セシル > 実際、母はセシルが譲り受ける財産を、老後のあてとして考えていた。
だからこそ、セシルに男子の格好をさせて、祖父に可愛がらせるように仕組んだのだから。
セシルも、大筋では異論はない。

ただ………セシルにだって、やりたいことがないわけではなかった。
母親に…いや、周囲の女性陣に眉をひそめられてでも剣の道に進んだセシルには、「もっと強くなる」ことが、唯一、ひたむきになれる希望だったのだ。

セシル > 「母上、相談があるのですが…」

士官学校の教育課程が後半に差し掛かる頃、セシルは母に相談をする。

遺産は、母の老後の生活資金ということで構わない。
ただ…魔法剣に向いた剣を、二振り作らせて欲しいと。

魔法剣に向いた剣は、決して安くない。
魔力と親和性の高い金属は高価だし、通常の剣にそのメッキを施した上で戦闘に耐えうる強度・密着性を持たせる職人に頼む依頼料も、決して安くは済まないのだ。
譲り受けた財産を、半分くらいは削ることになるだろう。

当然、母親は渋った。
それでも最終的にセシルの母が頷いたのは、セシルが「軍に入った俸給で、母の生活を絶対に支えきる」と誓ったからだ。

セシル > そうしてセシルは、士官学校でますます剣に、学業に励んだ。
出自の面では決して有利とは言えないし、優秀な男性を押しのける気は流石にない。それでも、少しでも立場を確保するために。
学校では、「迫力のある低音」はもはや必要ではなくなっていたが…ぶつかり合いで凄めることは有利だと判断したセシルは、その声を日常でも使い続けた。

そうして、セシルは「男装の王子様」であり続けた。
今更、「女」になどなれない。かといって、「男」の野蛮さに迎合しきる気もない。
「幻想の」「王子様」であれば、どちらとも距離を取れる。…諦観の中で、見れば辛いものを見ないで済む。

時空が歪む事故に巻き込まれて、故郷から切り離され…「支えるべき人」との接点を失った今も、セシルは大筋で、そうあり続けようとしている。

ご案内:「セシルの選択」からセシルさんが去りました。