2017/09/07 のログ
■和元月香?? > 「..あなたこうなること予想ぐらいできたよね?
どうして止めなかったの。ねぇどうしてよ。
悪いけど、あなたの顔は見たくない。
あなたも私達の幸せを壊したの、自覚して欲しい。
どんな理由があろうと許せない。
ごめんなさい、出ていって」
上司の奥さんにも、
泣き腫らした目でまっすぐ見据えてそう言われた。
何も言えず見送る私を、彼女に手を引かれていた小さな子供が睨みつける。
わたしは、世界に悪役に仕立てあげられた。
ワイドショーで「悪女説」を平気で述べるコメンテーターだっていたし。
全く、不幸に余る人生だ。笑えない。
会社を辞めてからも、バッシングを受けた。
やっと一人暮らしが可能になったアパートに悪戯書きがされたり、
中傷の手紙が匿名で大量に届いたりした。
わたしは、それでも壊れない。
壊れることが出来たら、きっと楽になれるのに。
■和元月香?? > それからなんとなく就職活動をしながら生きていたら、
最初で最後の幸せが私に訪れた。
私なんかを愛してくれる青年が現れたのだ。
よく笑う人だった。
背が高くて、ちょっと照れ屋で。
平凡だったけれど、しあわせそうな人だった。
そんな人がどうして私を好きになったのかなんて、
私には分からないし分からなくてもいい。
恋とか、人を愛する気持ちなんてもう喪ってしまったけれど、
なんとなく彼と一緒にいたらしあわせになれるような気がした。
彼は私の話をちゃんと聞いてくれる人だった。
私なんかのために、涙を流すような人だった。
大切に思ったのかは分からないけれど、
なんとなく彼の隣は居心地が良かったから一緒にいた。
結婚した。
子供を一緒に育てる約束だってした。
■和元月香?? > でも。
だけど。
わたしのせいで、
彼はしあわせを無くしてそのまま死んでしまった。
余計なお世話を10数年経った後でも掲げる、ネットの一部の住民。
「被害者が裁かれなかった事件」という意味不明な称号を頂いていたらしいあの事件を、まだ覚えていたらしい。
彼らは妙な正義感を発揮して、私を陥れようとしたのだ。
あの妻子も再婚して、新しい生活を送っている。
言い訳甚だしいかもしれないけど、善意の押し売りはだめだと思うよ。
...善意の押し売りなんかじゃすまなかった。
彼の勤める会社に、馬鹿げた評判をつけた。
「悪女を養う会社」、だったっけ。
私が幸せだったのが、お気に召さなかったらしいね。
■和元月香?? > 何故か事件は再熱した。
一部で終わったことだと宥めた人もいたみたいだけど、焼け石に水。
性犯罪の被害者がうんたらかんたらと、他の被害者の人に失礼極まりない討論がテレビでなされた。
会社は潰れた。
嫌がらせが過剰に起きたらしい。
夜逃げした社長、一家心中した秘書家族。
みんなみんな、わたしのせいで不幸になった。
■和元月香?? > 自分を責めることはしなかった。
無駄だと知っていたからだ。
あの時の私、きっと疫病神でも憑いてだろうなぁ。
彼には、悪いことをした。
あまりにも酷い結末を迎えさせてしまったと、今の私にも分かる。
あの日。夜間の道で、声をかけられた彼。
変な正義を燃えさせた部外者に私を罵られ、
腹を立てて口論になったらしい。
そのまま殴り合いの喧嘩になった。
1対5ほどで、人数では圧倒的に不利。
たちまちタコ殴りにされた。
狂った正義を唱える人は、彼を蹴る足を止めなかった。
打ち所が悪くて、昏睡状態になった彼はそのまま死亡した。
わたしになにも言わずに、死んだ。
...さすがに堪えたよ。
もうただひたすらに混乱して、どうしようもなさすぎる人生を変えたくて。
あの時みたいに思った。
彼に謝りたいって。
■和元月香?? > 葬式は、出れなかった。
彼の実家で粛々と行われたそれを、門前払いされたから。
何も言われなかったけど、多分こういうことなんだろうな。
「全部お前のせいだ」ってやつ。
その帰り、私は大柄な男達に囲まれた。
正義に燃えた彼らは、私に地獄を味わって欲しいらしい。
そしてまた、私は体をけがされた。
ぼこぼこに殴られて、火を髪につけられた。
ざまあみろと嘲笑う彼らを見たのが最期だった。
多分彼のように、私は死んだんだな。
殺されたんだな。
ちょっと、嬉しかったよ。
■和元月香?? > 全部私が悪かった。
何も知らない自分が馬鹿だった。
きっと私はもう救えないぐらい愚かな存在なのだ。
自分のことさえ、分からない阿呆だから。
きっと私はしあわせにはなれない。
誰かと添い遂げるしあわせはきっと狂う。
相手の気持ちを無視することはもう平気だ。
でもそれではダメなんだと思う。
2人でしあわせだから、本当にしあわせになれるんだ。
だから、わたしはしあわせになれない。
【5回目】の私は、目の前に横たわる幼馴染の少年を見下ろしながら、
愚かにもまた繰り返してしまった自分をただただ嘲笑った。
■和元月香?? > ____ひどく懐かしい夢を見ていたような気がする。
月香はゆっくり目を開けて、空を仰いだ。
満天の星。
今日も世界は美しい。
あの時と、すっかり変わってしまった。
傷つくことも、悲しくなることももう無い。
今なら、あの世界では母を殺して、上司も去勢してそれで終わり。
味気ない、くだらない人生として終幕を迎えていたはずだ。
「未来ってほんと予想つかないもんだよね!」
【三回目】のこんな虚ろな感情ももうとっくに消えた。
くらいくらい夢を見たあととは思えないほど、月香は朗らかな笑顔を浮かべていた。
最悪の人生も、もうどうでもいい。
大切な今を、生きていくだけだ。
ご案内:「にかいめのせかい」から和元月香??さんが去りました。