2018/02/10 のログ
ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「もう、そんな意地の悪いこと言わないで下さい。
 むしろ恥ずかしがっていつまでも声をかけられないでいるよりもいいです」

彼女が冗談めかして放った言葉に対して、ちょっと困ったように笑って答える。
事実いつ誘おうかと迷っていたのだから。

「ええ、私の銃はその…ちょっと大きいので。
 はい、どうぞ。ミルクはお好みで入れてくださいね。
 いえ、頑張ってトレーニングマシンを動かそうとしているのがなんだか可愛くて」

彼女には銃を見せたことはなかった。
きっと銃と言われて彼女が想像していたのは拳銃とかその類だろう。
ちなみにこれ以上口径が大きくなると定義的には銃ではなく砲の扱いになる。
そして彼女の前にコーヒーとミルクを出せば、笑っていた理由を答えて。

「チョコですか?全然平気ですよ。
 獣の特徴はありますけど、体の構造は基本人間と同じですから」

チョコレートを食べられるか質問されると、不思議そうに答える。
不思議そうといっても、演技だ。察していないようにふるまっているだけ>

鈴ヶ森 綾 > 「ごめんなさい。でも、ラウラのそういう所、好きよ。」

今度は冗談を効かせた風でも、相手の反応を窺って楽しむ風でもなく、
あっさりしていても間違いなく本心を告げた言葉であった。

「じゃあ、いただくわね。」

出されたコーヒーにミルクを注ぎ、黒と白が混ざり合ってほんのり白く濁ったところでカップを口元に運ぶ。
最初に軽く香りを楽しみ、それからカップを傾けてこくりと小さく喉を鳴らして中身を飲み込む。
そうしてカップを一旦テーブルに戻してから一言、美味しいわ、と告げた。

「なら良かったわ。多分大丈夫だろうとは思っていたけれど、念のためにね。
 それで…まぁ、今までこういう事はあまり興味が無かったのだけど、せっかくの機会だから便乗してみたの。
 これ、良ければ二人で食べましょ。」

どこか言い訳じみた前置きをして紙袋から取り出したのは、綺麗にラッピングされた横長なチョコレートの箱。
それなりに高級品なようで、コンビニやスーパーでは売っていそうにない小洒落た外装のものだ。
それを相手に差し出し、さらに言葉を続ける。

「贈り物というつもりじゃなかったから包装は別に要らなかったのだけど…店員が気を利かせてくれたみたい。」

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「あまりからかってばかりいると、いつかおかみ少年みたいになっちゃいますよ?」

本心を伝えたいときに伝わらなくなってしまう。
そうなっては誰も得をしない。

「ありがとうございますって、ん、このチョコ…もしかして。
 あ、あちゃあ……実はですね、私も用意していたんですよ。チョコ。
 それが……どうも被っちゃったみたいで」

彼女に差し出されたチョコを嬉しそうに受け取るが、
そのラッピングに既視感。
あれれれ、、、と思って自分が用意していたチョコレートを取り出すと、
箱の形こそ違うが、同じロゴが印刷されていた。

まさか同じところで買ってしまうとは。
少しばつが悪そうにしながらも、彼女に箱を渡す>

鈴ヶ森 綾 > 「まあ、それならそれで構わないわ。」

その言葉は、まさに今実感するところであった。
まあそれはそれで。本当に伝えるべき時は今ではなかったのだと思っておこう。

「…困ったわね。いえね、まさかラウラから貰えると思っていなかったものだから。
 …私、変な顔をしていないかしら。」

自覚はないが、少し頬が緩んでいる気がする。眦は下がっていないだろうか。
彼女には常々だらしのない所を多く見られているが、今回は少しばかり変化球だ。
渡された箱を手に礼を言うのも忘れて視線を泳がせている。

「…と、とりあえず、開けてみて良いかしら?」

たっぷり狼狽えた後、ようやく切り出せたのがそんな言葉であった。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「そんなこと言って、後々泣いちゃっても、助けられないかもですよ?」

私、変なところで鈍いって言われてるので。
そんな言葉を言っているさなか、その鈍さを現在進行形で発揮しているとは、
当の本人は思っていないようである。

「え、だって渡さない理由がないじゃないですか。
 故郷もそうなんですけど、バレンタインのチョコって男性から女性に渡すのが普通なんです。
 でもこの国は女性から渡すことが多いって知って、私からも渡せる!って。
 でもよくよく考えれば綾さんも女の子だから、
 別にそんなこと気にする必要もありませんでしたね」

チョコを渡すに至った経緯を説明しているが、
要約すれば一人で舞い上がっていただけだった。

「ん、別に変な顔とかはしてないですけど…?
 はい!せっかくだから開けてください。私も開けますね!
 あれ?もしかして綾さん、私からもらってドキドキしてたりしますか?」

変な顔をしていないか。と聞かれて、なぜそんなことを聞くのだろうと首をかしげる。
しかしうろたえていることに気が付けば、いつもの仕返しをしようと、
ちょっとからかうように、それでいてそれっぽい雰囲気をだしてぐっと顔を近づけてみて>

鈴ヶ森 綾 > 「そうなったら、あなたに気づいて貰うまで泣き続けるわよ。
 この間も、気がついたら傍にいてくれたわね。」

些か子供じみた物言いだが、それを口にするのが妙に心地良い。
彼女に対して寄せる信頼が、以前より確実に強くなっている証左だろうか。

「…あぁ、そうよね。外国ではそういうものらしいわね…。
 ただ、この国では主に女性が意中の相手に渡す行事というのが一般的な認識だったから…。」

義理と本命だとか、そういう事まで説明すると長くなりそうなのでそこは割愛した。
むしろ説明しないほうが良かったのではないかと言い終えてから思ったが、後の祭りだ。

「なら良いのだけど。ええ、なら良いの。
 ど、ドキドキ?…そう、ね…少し、してると思うわ。」

一先ず、自分自身が見るに堪えないような顔はしていなかったようで、内心で胸を撫で下ろす。
しかしそれでかえって彼女に心中を見抜かれてしまうと、相手の雰囲気と近づく顔を思わず上半身が後退する。
いつもなら軽く受け流せるのだが、今はどうにも頭が回らない。
出来ることと言えば、感じた事をそのまま素直に口に出す事だけで。ばつの悪さは先程の比ではなかった。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「ふふ、じゃあ見つけたら泣き止むまでずっとそばにいますね。
 この間はその、偶然でしたから」

普段の彼女とは違って予想外の反論にすこし笑みがこぼれる。
そんな我がままを言ってくれるというのが純粋にうれしい。

「でも国によって意味合いも変わったりしますからね。
 日本では告白とかの意味合いが強いようですけど。
 ん?となるとこのチョコはお互い……あ、いえ、何でもないです」

意中の相手に渡すもの。
はて、その意味合い通りなら今さっきお互い渡しあったチョコはどんな意味になるのだろう。
そんなことを考えて、恥ずかしくなってやめた、が。

「らしくないですね。
 いつもならこういう時、綾さんが私のことをいじりそうな感じですけど。
 意中の相手に渡すもの、ですか……うふふ」

らしくないという言葉を彼女に向けて言うが、
こんな風にいじる側に回っている自分もらしくない。
内心ではそう思っているが、無論そんなことは口にしないし、
何よりも今は目の前の彼女の反応が面白いのだ>

鈴ヶ森 綾 > 「…偶然でも、嬉しかったわ。」

ポツリと漏らした言葉は呟きに近い。
そして話題はチョコの事へと続いていって。

「ま、まぁ…あまり考えないようにしましょ。」

お互いが交換したチョコの意味。
彼女の言ういつもの自分なら、こういう時に必ず何事か彼女の事を困惑させるような事を言うのだろうが、
今はとても言葉が出てこない。無理何か言おうものなら墓穴を掘るのは確実だろう。

「そう思うわ。あなたといると、私はいつもらしくない事をしてしまう…。」

恥ずかしさを誤魔化すためか、手にしたチョコのラッピングを勢いのままに剥がしにかかろうとするが、
せっかくの綺麗な包装に思いとどまったようで、一旦手を止めてシールを一つ一つ丁寧に剥がしていった。

こちらの渡した箱には五種類のチョコレートが二つずつ、計十個入っている。
一応は一緒に食べるつもりだった、という言葉通りの内容と言える。
それぞれ味が異なるもののはずだが、説明書きがなくどれが何味かが今ひとつ判然としない。

そんな中、一つだけ他と明らかに雰囲気の異なる、先程自分が飲んだコーヒーのような色合いのものがあった。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「安心してください。
 ちゃんと気づいてあげますし、そばにいますから」

彼女の小さなつぶやきを聞き取ると、それに応えるようにこちらもつぶやく。

「綾さんて、変なところで純粋というか。
 何て言うんですかね、面白いですね。
 らしくないこと、ですか。
 でもあまり変に繕った対応されるより、そっちのほうが自然でいいですよ」

あまりからかっても可哀そうだし、何よりも今の彼女の反応でおなかいっぱいだ。
一度彼女の前でにっこりとほほ笑むと、顔を離して元居た位置へ。
そうして彼女がチョコの包装を解いていくのに合わせて、
自身ももらったチョコの包装を丁寧にはがしていく。
5種類のチョコが10個。二人で食べるにはちょうど切りのいい数。
その中に雰囲気の違うチョコを見出せば、
これは?と不思議そうな視線をチョコと彼女の間で行ったり来たりさせて>、

鈴ヶ森 綾 > 「…誰だって、慣れない事には上手く対処できなくても不思議じゃないわ。
 こんな風に誰かと物を贈り合ったりするなんて、いつ以来か…。」

思い出そうとしてみたが、そもそもそんな事をした記憶がなかった。
彼女の顔が引っ込んだので仰け反った上体を戻し、ようやく一心地つき、その場の状況を確認する。

彼女が箱を開けてそのまま手を付けずにいるのを見ると、
その中の目立って色の違う物をひょいと摘み上げ、自身の口に放り込んだ。

「これは…うん、ミルクチョコね。
 後はビター、ナッツのペーストを混ぜたジャンドゥーヤ、オレンジ風味、ウイスキーボンボンだったかしら。
 ほら、ラウラも。あーん。」

自分が食べたのと同じミルクチョコを摘み、彼女の顔の前に差し出して口を開けるよう要求する。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「じゃあこれから少しずつ慣れていってくださいね」

贈り物に限った話ではない。今までできなかったこと、やったことのないこと全般。

「あっと……せ、説明書がありましたね。
 えーっと……あ、あーん」

少しの間ぼーっとしていると、わきから手が伸びて一つつままれる。
そしてハッとしたように彼女を見やると、口を開けるように言われて、再びフリーズ。
言われた通り口を開けて食べさせてもらうのだが、これがまたなんとも恥ずかしい。
誰かに見られているわけではないが、だからこそというのだろうか。
とかく恥ずかしさに保保が熱くなるのを感じて>

鈴ヶ森 綾 > 「まあ、そうね。それも良いかも。
 ……でももしかして、その度にあなたにからかわれたりするのかしら。」

正確には忘れたが、そろそろ生を受けて500年程だろうか。
それでもこういった新鮮な喜びというものは、幾らでもあるのだと実感する。
だが、からかわれるのはまた別の話だ。

「はい、どうぞ。お味はどうかしら。」

自分の口の動きを真似するように開かれたそこに、摘んだチョコをそっと送り込む。
そうして自分はコーヒーを一口啜る。
甘くてまろやかなミルクチョコはコーヒーの苦味ともよく合って、こうして二人で過ごす幸せを何倍にもしてくれた。

「良かったら、私にも食べさせてくれないかしら?あーん。」

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「いつも私をからかうお返しですよ。
 でも恥ずかしがる綾さんも可愛くていいと思います」

いいと思う。という言葉にどんな意味がこめられているのか。
正直なところ自身でもそこまで深い意味は考えていないわけなのだが。

「市販のチョコと違って粉っぽさが全然ないですね。おいしいです」

恥ずかしさが閾値を超えてしまったのか、食レポのような受け答えになってしまった。
口の中のバランスをとる様にコーヒーを一口飲むと、今度は彼女が口を開いた。
改めて、こうやって食べさせてもらったり、食べさせてあげたりというのは恥ずかしい。
しかし、どこか疚しさというか、背徳感のなかに、間違いなく幸せを感じるのも確かだ。
オレンジ風味のチョコを一つ彼女の口に放り込んで、続いて自らも同じものを食べる。
そうやってささやかながらも、幸福感に満ちた時間はあっという間に過ぎていった>

鈴ヶ森 綾 > 「私は可愛がられるより可愛がる方が好きなのよ。」

そんな押し問答も、また楽しからずやといったところか。

「…んっ。…うん、これも美味しいわ。
 このお店で買ったのは正解だったわね。あなたが買ってくれた方も、食べるのが楽しみだわ。」

口の中に広がるカカオとオレンジの風味に思わず頬が緩む。今度は特にそれを隠す事もしない。
今はまだ手付かずのもう一箱への興味も募るばかりだ。
おそらく、こちらの贈った一箱がなくなるより先に、我慢できず開けてしまう事になるだろう。

そうして食べたり食べさせたりをする内に、14日の夜は更けていった。

ご案内:「女子寮の一室」からラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが去りました。
ご案内:「女子寮の一室」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。